D-31 マザーブレス
マザーブレス
ママンでゴッドな感じ
「今日も疲れた……」
「おかえりなさい、メイジちゃん。お風呂も沸いてるし、ご飯もできてるわよ」
モンクがスカイアドベンチャーの正式なメンバーになってから数日。
ここのところ、魔法使いとモンクが新婚さんみたいな空気を出している。
アサシンは細心の注意を払って、背後を盗み見た。
(……大丈夫かな?)
魔法使いを誰よりも大事な人と公言して止まない斧戦士。
彼の様子が知りたかったのだ。
しかし、予想に反し斧戦士はいたって穏やかだった。
むしろ、この光景をほのぼのと見ている。
客観的に見れば、フリルエプロンを着た筋肉マッチョが、か弱い魔術師を威圧しているようにしか見えないのだが。
「まずはご飯かなー」
「分かったわ。じゃあ、リビングで待っててちょうだい」
「びりんぐ」
「あんだって?」
「ふふふー、なんでもない!」
舟長、びりんぐ。
とか言われた訳でもないのに、いきりたつ舟長である。
彼は、魔法使いの奇妙な言動に気を掛けすぎじゃあるまいか。
「行こう、魔法使いさん」
「いえあ」
「なんだよ? その返事」
「剣士、剣士。だぶんこれだと思う」
アサシンが空気中に文字を綴る。
『Yeah』
イエーイとかイエーとかそんな感じな単語だ。
「まあ、なるほどな。読めなくはない」
納得した剣士はアサシンと共にリビングへ。
一人残された舟長、一人でリビングへ向かう。
「おいしい!」
「メイジちゃんに喜んでもらえて嬉しいわ」
「おれも魔法使いさんが楽しそうで嬉しい」
「平和だなー」
和気あいあいとする四人。
アサシンはまだ斧戦士のことを疑っていた。
斧戦士的にはこれはアリなのか。
モンクは実質オトメみたいなもんだから、セーフなのか。
それとも、魔法使いに害がなければ――いや、それならば、まだ恋愛未満の噂ですら潰しにいった斧戦士の行動と合わない。
「……」
「なんだよ、アサシン。さっきから黙って」
「舟長は気にならない訳? だって、あの斧戦士なのに、こんな状況で怒り出さないなんて」
「単に魔法使いがモンクに懐いてるからじゃなくてか?」
「それにしたって、嫉妬もしないなんて、いつもの斧戦士からは考えられないよ」
二人でこそこそと話していると、魔法使いが二人を視界に入れた。
魔法使いはそれほど耳のいい方じゃないから、二人の会話は聞こえていないはずだ。
つまるところ、内容を訂正するためではなく、内容を問いただすためにこちらを見たのだ。
そして、魔法使いの要望に斧戦士が気付かないはずもなく。
「別に気にしないぞ。はっきり言って、魔法使いさんが懐いてるし、そもそもモンクは恋人じゃなくておかん枠だろう」
「やだ、そんな風に見えてたの?」
「え、この場合、わたしは男側になるってことですか?」
三者三様の回答に、舟長とアサシンは恐れ入った。
剣士が腹を抱えて笑っている。
「如何にモンクが男性的であろうと、邪気がない以上、疑いはせん」
「買いかぶりね。あたしも男としての自覚があるから、こんな可愛い子に話しかけられてると、いつか勘違いしそうで怖いわ」
「そうだったのか。自覚があるようでなによりだ」
「その自覚ってーのは、もちろん、勘違いしそうにかかってるんだよな?」
剣士がからかうように言った。
斧戦士は薄く笑って答えなかった。
魔「剣士に次いで、おかん枠爆誕!」
モ「強くもあり儚くもあるおかん枠なんて最強じゃない」
ア「ボクの知ってるおかん枠と違う」
剣「単に女性っぽいって言われるより、ずっといいよな」
舟「おまえは髪が長いだけだろ」
斧「剣士に女性っぽさは感じないよ?」
モ「あんなこと言われてるけど、いいの?」
剣「ああ。とある一件で吹っ切れてな。そうだ、これ履いてみろよ」
モ「ハイヒール? 構わないけど……って、サイズ問題ないのに足が……」
剣「見てろよ? オレだと入るんだぜ」
モ「どういう手品よ」
剣「簡単なことだ。これは女性専用装備でな。ロン毛を実装するために、一時期女キャラにならなきゃいけないときがあったんだよ」
モ「それは……ご愁傷さまね」
剣「いまや、便利なもんもあるからなー。女体化の魔法とか」
モ「……あるの?」
剣「まだ実験段階らしいぜ」




