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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
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D-11 スペルメイカー

 

スペルメイカー

魔法を創造するものたち




「やあ、チェリルさん」

「サラ!? どうしたの? お仕事は?」


 魔法使いたちが通っていた学園の一番偉いひとが家に来た。

 学園長こと、サリー・カーボンだ。

 魔法使いは諸事情あって、彼女と友だちになり、サラと呼んでいる。


「学園は休暇中だからね。それより、良い魔法具が作れたそうじゃないか」

「ヒールボトルのこと? でも、まだ検証ができてなくて……」


 珍しく自信なさげな魔法使いに、サラは言った。

 わたしにその魔法具を見せてくれないかな。

 魔法使いは、すぐに魔法具を持ってきた。

 両手で捧げ持つとちょうどいいくらいの大きさ。

 魔法具として持ち歩くには、少し不便なくらい大きい。


「どこかにあつらえ向きの死体とかないかな」

「舟長なら喜んで死体になってくれるよ」

「バート君が? けど、以前生徒だったバート君を……うむむ」


 ヒールボトルの効果を確かめるのには、僧侶の死体が必要だ。

 正確には、戦闘不能となっている僧侶の肉体が。

 そんな都合のいいものはそうそう転がっていない。

 そこらへんの僧侶をとっ捕まえて、必ず蘇生するから死んでよ、というのも失礼だろう。

 死という存在にほぼ何も抱いていないうえ、それに慣れている人物。

 腕のいい蘇生師と、それを信用できる人物を各々確保しなければならない。

 そうなると、老衰以外に耐性を持つスカイアドベンチャーは持ってこいだった。


「舟長ー! いるー?」

「いません」

「なんだ、いるじゃん。斧戦士さんは?」

「すぐそこにいるよ」


 うむむ……と唸るサラを置いて、準備は淡々と仕上がっていく。

 アサシンや剣士もやって来て、抵抗する舟長を押さえつける。

 最後に斧戦士が斧をどすんと振れば、死体の出来上がりだ。

 気の利く斧戦士は、あらかじめ舟長のジョブチェンジも行っていた。

 今の舟長は、死んだシーフではなく、死んだ僧侶である。

 相変わらず霊体の舟長がなにかうるさいが、それは無視する。


 サラは、状況が出来上がってしまうと早かった。

 覚悟を決めて、舟長にヒールボトルを掲げる。

 彼女はスペルメイカーではあるが、生粋の魔術師だ。

 回復魔法も、蘇生魔法も使えない。

 それに、魔術師以外のジョブも経験したことがない。

 まさに、最高の検証現場であった。


「ヒールボトル」


 水晶玉から光が放たれた。

 まばゆい光が舟長を包み込み、見えなくなる。

 やがて光が治まると、そこには――。


「とりあえず、剣士とアサシンはぶっ殺す」


 血濡れた顔で、ダガーを持つ舟長が!

 斧戦士と魔法使いが除外されたのは、単に勝てないからだろう。

 サラが申し訳なさそうにしていたが、舟長は何も言わなかった。


「とりあえず、発動はしたね」

「回復量は、知力依存か?」

「ううん。固定だよ。舟長なら半分くらいは回復するはず」

「……850ぐらいか。まあまあじゃないか?」

「うん、これなら委託販売できるね」

「そのことなんだが……」


 サラが言いにくそうに、二人の間に入った。

 四つの瞳に見つめられて、少し居心地が悪い。


「チェリルさん、この魔法具は何個目の公開魔法具かな?」

「えーとね、10個目!」

「それなら、魔法具を外部で売らずに、ここで売ったらどうだろう」

「ここって、魔導研究所で?」

「そうだ。噂では、魔導研究所で装備を売ってるんだろう? わたしの耳にも届いたよ。それと一緒に魔法具も売ってみてはどうかな、という話なんだ」

「け、けど、それって厳しい検査が必要なんじゃ……」


 魔法使いは驚いている。斧戦士は興味深そうだ。

 スペルメイカー協議会の決められた検査を通り抜けなければ、販売する許可も与えられない。

 それは魔法使いにとって既知の事実であった。


「ふふ。ここでわたしの出番だよ。実は、わたしは、スペルメイカー協議会の10幹部に名を連ねていてね。ちょっと顔が利くんだよ。わたしの紹介状があれば、いや、チェリルさんの実力があれば、あんなもの、たいしたことはないよ」


 サラが斧戦士にウィンクをする。

 当然、斧戦士としても協力を惜しむ理由はない。

 そのナントカ協議会にだって、必要なら揺さぶりをかけてやる気でいた。


「あと、魔法具を10個以上公開しているってのも条件だけど、これは問題ないね」

「それ以外にクリアすべきことは?」

「そうだね。協議会から視察があるから、そのときのもてなしかな」


 それについては、協議会から知らせが届くだろうし、私からも情報を教えるよ。

 そこまで言って、サラは魔法使いを覗き込んだ。

 斧戦士とサラはこの件に関してやる気満々だが、彼女は……。


「ねえ、斧戦士さん」

「どうしたの」

「もしかしてさ、力の杖とか売れるようになったりする?」

「サリー・カーボン。武器に付与するタイプの魔法具も売れるか?」

「実績があれば。チェリルさんなら直だろうね」


 サラの言葉に、魔法使いは強く頷いた。

 力の杖こと、魔法名:レッドファイアとブルーファイア。

 これらは公開されているものの、武器型魔法具は特別な許可がないと本当に販売できない。

 魔法剣の類だって、ダンジョンで拾うか、自分で作る以外の入手法だった場合、牢屋に入れられる。

 それほど強く規制されているものなのだ。

 魔法使いはにかっと笑った。


「サラ、わたし、やる! 魔法具の販売、したい!」


 サラはほんのり微笑むと、意気揚々と帰って行った。

 何故か斧戦士を連れて。






舟「」

魔「舟長が死んでる……」

ア「中途半端な状態で動き回るからだよ。バーカ」

剣「おい、斧戦士はどこ行ったんだ?」

斧「斧トキワです。ヤツは外出中です」

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