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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
457/527

D-09 スライミーウォーター4

 

スライミーウォーター4

完成!




 朝も暗いうちに、小さな影が動き出す。

 目的はちょっと古そうな木造アパート。

 そこの三号室に、依頼者がいるはずだった。


「……」


 影は何も言わずに、窓を覗き込む。

 依頼者の姿は、この目で見た訳ではない。

 だが、共有された情報が正しければ、確かに部屋の主と一致した。

 扉の外に、郵便受けなどという洒落たものはない。

 影は姿を消し、再び現れた。

 口にくわえていた手紙のようなものは、もう持っていない。

 無事に仕事を終えた黒トキワは、ワープで彼女の住む家に帰った。


 依頼者こと、スライム大好き冒険者ロットが、魔導研究所に顔を見せたのはその昼だった。

 色々と解せない顔をしているが、わざわざ聞いてやることはしない。

 ロットも冒険者としての性か、詳しく聞き出すようなことはしなかった。


「そ、それでスライム装備は……」

「とりあえず、鎧だけできたよ。気に入るといいんだけど」


 魔法使いが取り出したのは、青く透き通った色合いの鎧だった。

 錬金釜に、シルバーチェインとジェム10個とアクアマリン5個、露草20個をぶちこんで作られたそれは、もっちりした感触でありながら、薄く、適度にデザインもよかった。

 素材のチョイスは、舟長と魔法使いが、量はアサシンと剣士で調整した。

 なお、デザイン面で真価を発揮したのは、帰宅した斧戦士である。


「す、すごい……」


 ロットは、スライム大好き狂人だったので、最悪どんな鎧が来ても受け取るつもりだった。

 いかにもスライム的な、どろどろとしたよく分からないものとか、デザイン面が完全に終わってるけど最強装備的な扱いだって、喜んで受け入れただろう。

 それがどうしたことか。

 この鎧は、すごかった。

 スライム感を保ちながら、ちゃんと鎧として成立している。

 デザインだって、模様のない鎧だけれど、すぐれている。

 こんな洗練された鎧、この辺りの鍛冶屋じゃ、有り金積んでもできるはずがない。

 ふと、怖くなるぐらいだ。いったい、どれだけ金額を払えばいいのか。

 冷や汗が背中をしたたり落ちる。


「ふふ、気に入ってくれたみたいだね。お代は、25,500Gだよ」

「あ、ああ。買う……買います!」


 幸い、払えない金額ではなかった。

 むしろ、想定していたよりもずっと安い。

 安く手に入るのはありがたいが、いったいぜんたいどうして……?


「まあ、こういう仕事は初めてのことだったし、相場がよく分からないんだよね」

「君には、我が魔導研究所を宣伝する権利をあげよう」

「そういうことだ。主に素材分の値段だから、素材を持ち込めばもっと安くなるぞ」

「オーダーメイドはもちろん、修復や改善にも対応してるぞ」

「そうだ、お近づきの印にこれを」


 斧戦士が手渡したのは、少し濃い青のスカーフ。

 斧戦士が装備して、宣伝しているものと同じ形状だ。

 留め具は、ぷにぷにスライムのブローチになっている。

 広げると大きめのハンカチぐらいの大きさになり、その中央には、でかでかと文字が。


『魔導研究所』


 ロットは感激を通り越して呆然としている。

 しかし、すぐに気を取り直して、大げさすぎるほどに礼を言った。

 所定の金額を払い、出ていく直前、ちらりと振り返った。


「ところで、今朝4時ぐらいに黒いスライムみたいなものを見たんだけど……それは、手紙と関係あったりする、のかな?」

「……」


 四人の視線が斧戦士に突き刺さった。

 ロットもつられて斧戦士を見る。

 斧戦士は、怒りたいのを必死にこらえて、黒トキワを召喚した。

 ロットが飛びつく。

 彼は筋金入りのスライム好きのようだ。

 黒トキワが厳密にスライムかどうかは置いておくとして。

 黒トキワにぺちぺち叩かれながら、ロットは幸せそうだ。

 はっきり言って変態である。


「すごい、こんな強そうなスライム初めて見たよ」

「殴りかかってもいいぞ。ボコボコになるだろうがな」

「……」


 ロットは冒険者である。なおかつ、スライムを愛するが故に傷付けてしまう狂人だ。

 じゃあ、ちょっとお邪魔して……。

 黒トキワに丁寧にお辞儀をしたロットは、得物片手に襲い掛かった。

 スライムと呼ばれてご立腹な黒トキワは、言われるまでもなくロットをボコボコにした。






魔「スライム素材だから、物理耐性も付いてるんだよ」

ア「露草はすぐに色褪せる? ファンタジーだからいいんです」

剣「アクアマリンは粉々にして、ジェムのなかに混ぜてあるんだぜ」

舟「だから、ジェムに色が付いてるんだが……見て分かるものではないな」

斧「ところで、ボコボコにしちゃったけど、彼、宣伝してくれるかな」

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