D-02 リバイブ
ヤンデレ・残酷描写にご注意ください。
リバイブ
愛が二人を分かつなら
男は夜中、寒気を感じて目が覚めた。
しっかりとまなこを開いて最初に見たものは、よく知った女の顔。
女は刃物を持ち、陶酔した表情で男を見ていた。
「リズ、きみは――」
「ごきげんよう、ブレッド様。今日はあなたの命をいただきにまいりましたの」
女は美しい所作で一つお辞儀をした。
男は、ここで彼女を抱きしめるか、刃物を取り上げるかしていれば良かったのだ。
しかし、欲にまみれた男は動けなかった。
「その理由、分かりますか?」
「なにを……」
「あなたの周りにいる女の子に、負けたくないんです」
男は意味が分からなかった。
男はお人よしと呼ばれる分類に所属しており、よく異性に囲まれている。
男に群がる女たちはいつも必死だ。
誰が男の一番なのか、争いたがる。
けれど、婚約者のリズだけはいつも微笑んでいるだけだった。
だから彼女だけは絶対に大丈夫だと思ったのに。
それに加えて、何故、その刃を自分に向けるのか、分からない。
嫉妬に狂った女たちは、いつも同性を狙って腕を振り下ろしていた。
「愛は、生きている間なら、いくらでも与えられます」
「……リズ、俺は他の誰かを愛したことなんて――」
「いいえ。愛を与えるのは私たちのほう。だから、あなたはいつも通り、人助けをすればいいわ」
「どういう、ことだ」
「でもね。ブレッド様、よく聞いてください。死は、唯一のものなんですよ」
唯一、一人だけが与えられるものなんです。
他の誰かは、二度と、与えられない。
それで、ようやく私は……あなたの唯一の人になれる。
「リ、待て、待ってくれ!」
男の見苦しい様すらも、女は愛しているようだった。
ヒールの音を高く鳴らし、死への鐘をつく。
ああ、これで私とあなたは結ばれるのだ、女が安堵したとき。
物語に相応しくない、耳障りな音が飛び込んで来た。
男と女の絡み合う寝室の窓が、何者かによって破壊されたのだ。
隙間から小柄な人影が部屋に滑り込む。
その人物は、二人を指差しこう言った。
「話はすべて聞かせてもらった!」
決めポーズをかました彼女の名は、三角帽子をかぶった彼女の名は――。
「君は、死を永遠のものだと思っているようだが、それは違う!」
「な、なんですって!」
「この蘇生魔法、リバイブを使えば、死んだそこの男も生き返るのだ」
「そんな……! じゃあ、私の計画はすべて、無駄だったの……?」
「待って、まだ、俺、生きてるから」
男が何か言ったようだが、女二人は無視した。
「さらに、今なら蘇生術師の力を借りて、死後何日も経った人を回復させることも可能さ」
「何度も生き返ってしまうなら、私の唯一は……もう」
「いいや。まだ、君の唯一は取り戻せる。この状況、最初に殺せる特権を持ったのは誰だい?」
「わた……し?」
「そうとも。二回三回と重ねれば重なるほど、死の記憶は薄れていく。しかし、どうだろう。最初に刻む死の記憶は、君だけができる。否! 君だけしかいないのだ!」
雲行きが怪しくなってきた。
男は女二人で盛り上がっているうちに逃げ出そうとしたが、うまくいかない。
ここは自分の部屋のはずなのに、廊下へ出る扉が分からないのだ。
視界がもやのようなもので覆われている。
なんだこれは、なにが起こっている?
男が無駄な抵抗を続けている間に、女の決心は定まったようだ。
「ブレッド様。愛しています」
刃物を捨て、ゆらゆらと近付いてくる女に男は油断した。
ああ、よく分からない怪しい女などには惑わされなかったのだ。
男は心底安心した。
「永遠に、お慕い申し上げます。どうか、私のことをゆめゆめ忘れませんように」
女は祈るしぐさをして、男の髪の毛を掴むと、床にたたきつけた。
何度も。何度も。女の腕が痛くなっても、血が出て男の鼻が折れても。
ご自慢の顔がへしゃげて意味をなさなくなっても。
死ぬまで。ずっと。
魔「いつでも思い出せるように、ね? 私がいない夜も私のことで眠れないなんて、素敵じゃない」
剣「魔法使い、カムバック!」
斧「魔法使いさんはヤンデレがお好き」
ア「このあと滅茶苦茶リバイブした」
舟「悪用、ダメ絶対!」




