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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
隣の大陸編(Fシリーズ)
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F-55 ライフチェック


ライフチェック

生存確認




 エルナ……厳密には彼女の名前はエルナではないのだが。

 便宜上そう呼ぶことにする。

 エルナは、わずかな振動のあと、おそるおそる目を開けた。

 そこは自分の部屋で、エルナはふかふかの布団の上にいた。

 そうだった、あの日――。

 『異世界に行きたい!』と叫んだのは、自分の部屋だったと。


 人通りのある通りで叫ぶことは、羞恥心が邪魔をし、できなかった。

 そもそも、叫ぶこと自体が恥ずかしい。

 だから、あの日も……心のなかで言っただけのはずだった。


「そうだ、スマホ」


 ポケットに入っている薄型の機械を取り出す。

 携帯端末が示す日付は、あの日、学校帰りの金曜日のままだ。

 時間は正確に覚えていないが、お風呂前だから、だいたいこの時間だ。

 エルナは、素早く誰もいないのを確認した。


「ナビゲーションシステム改……何も起こるはず――」


 何も起こるはずないか。

 その言葉を呑み込んだのは、視界に見慣れたサイバーチックな枠が出現したからだ。

 だが、その視界のなかには誰もいない。

 誰の声も聞こえない。


「……いないんだ、ね」


 寂しく呟いたエルナ。

 ポロンと鳴った通知音に、ハッとする。

 プレゼントボックスに何か届いている。

 さっそくタップした。

 上から、手紙と小さな箱が降りてきた。

 天井があるのに、だ。


「これは……もしかして、アリサさんたちがくれた……?」


 箱をそっと開けると、あのとき見たままのブリザードフラワーがそこにはあった。

 青い、陶器のような器に入っていて、この部屋でもそのままインテリアとして使えそうだ。

 エルナは手紙を慌ただしく開いた。

 なかの便箋は、白紙ではなかった。

 それを少し寂しく思いながら、読み進める。


――拝啓、××様 無事に自宅に着きましたか?

――あいさつはここまで ××ちゃん、冒険お疲れさまでした!

――サロメさんとハワードさんにも、××ちゃんの帰還を伝えといたよ

――ケビンさんの最後の発言は、気にしないでね

――たぶん、××ちゃんのゲームキャラのことだと思うから

――それじゃ、そっちの私によろしく! 敬具

――魔法使いことチェリル・グラスアローより

――追伸 いつでもこちらの世界に来れるよう

――リ・リ・リターンの魔法を贈ります

――満月の綺麗な夜に唱えてね 迎えに行きます


 便箋を最後まで読むと、便箋は消え、代わりに万華鏡のような魔法陣が現れた。

 これがおそらく、リ・リ・リターンの魔法陣なのだろう。

 企業見学でもらってきた、カッコいいクリアファイルに入れて保存した。

 誰かに見られたら困るので、透明なクリアファイルには入れられない。

 でも、大切な思い出だ。

 なくさないように、机の引き出しにしまっておく。


 ブリザードフラワーも棚の一番上の段に飾っておこう。

 これで、よし。

 そうだ、写真を撮っておこう。

 あの人に、××さんに見せてあげよう。


「なんて言うかな……」


 エルナは月曜日、課題に追われながら授業に出席した。

 授業を必死にこなし、新しい課題をもらい……。

 比較的忙しくない昼休みに、××さんに話しかけられた。


「××ちゃん、バーのアイコン変えた?」


 メッセージアプリケーション、バーの登場だ。

 バーは棒。棒は一直線。棒を一次元に直すと線。線を英語にすると?

 まあ、あれだ。

 既読システムのせいでいいとか悪いとか言われている、あの便利アプリだ。


「うん。きれいだよね」

「そうだね、きれい! ネットからダウンロードしたの?」

「ううん。写真だよ」

「ふーん。誰からもらったのー?」


 あれ、と思う。

 魔法使いからの手紙に、『そっちの私』とあったから、てっきり知っているものかと。


「友だちから」

「……ああ、そっか。エルナちゃん、冒険者になれたんだね」

「え?」

「なんでもないよー。××ちゃん、次の授業行こー」


 教科書を取りに行ったあの人の言葉に、エルナはほっとした。

 ああ、やっぱり。

 異世界もいいけれど、この世界だって悪くない。

 だって、こんなにも不思議があふれてる。






舟「リターンで元の世界に戻って?」

ア「リ・リターンでこっちの世界に来て」

剣「リ・リ・リターンでまた地球に帰るのか。いい魔法じゃねーか」

魔「ライフチェック! よし、ちゃんと地球にいるね」

斧「こんどはこっちの大陸に来るよう、ワープ地点をセットしとかなきゃ」

隣の大陸編(Fシリーズ)完結です。

次話からは日記編(Dシリーズ)になります。

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