F-53 ジョブフォール
ジョブフォール
強くなるためには
地球帰還まであと一週間。
ケビンたちに最後の別れを告げ、エルナはやってきていた。
トレジャーフォールへ。
もう時間がないというのに、どうしてここに来たのか。
それはエルナにも分からない。
それでも、何か起こりそうな気がして、今日はここに来たのだ。
「新しいガチャが来たんですか?」
簡単に言うと、予言士斧戦士が曖昧なお告げをしたのだ。
トレジャーフォールに新しい滝が生えた、と。
この二週間で、すっかりガチャマニアになってしまったエルナには、行かないという選択肢はなかった。
十連分のブルーコインを携えて、エルナは進軍する。
目指すはトレジャーフォール、近くの新ガチャ。
いざ、鎌倉。
「あれかな。剣、弓、杖……まさか」
「すっかり常連だね、ヒーラーさん」
「あれってもしかして、ジョブごとのガチャですか!?」
「ガチャ?」
「あ、えと、フォールです。ジョブごとの武器だけが、出るようになったんですか!?」
「そうだよ、と言っても、メジャーなジョブだけだけどね」
メジャーなジョブというのは、戦士・弓使い・魔術師・回復師の四つことだろう。
武器として言うならば、剣・斧・槍・弓・杖・メイス・鎌・魔法具の八種類だ。
「あれがヒーラーフォールだよ。星のようなマークが目印だね」
「なんでメイスじゃないんでしょう」
「たぶん、杖と見分け辛いからじゃないかな。ヒーラーフォールには、メイス・鎌、魔法具の一部がでるよ。詳しいことは近くに行けば分かるから、じっくり見るといい」
そういうと彼は行ってしまった。
忙しいのだろう。
どこから聞きつけたのか、野次馬と冒険者が入り口に詰め寄っていた。
『ヒーラーフォールに行ってみよう』
『お、なんか机があるな』
『机の上に武器が置いてあるな。盗られそうな位置にあるが、大丈夫か?』
『さすが舟長、シーフ的な考えかたはばっちりだね』
『ディスってんのか。ディスってんだな?』
エルナは机の上の品々をよく見る。
属性はバラバラ、効能もバラバラ。
だが、ヒーラーとして必要な武器がここには揃っていた。
「これがピックアップ?」
『虹枠でも、ほかのが出る可能性もあるのかな』
『それはどこにも書かれてねーな』
とにかく、冒険もあと少しで終わり。
アドベンチャーモードは、もう行きたくないくらい繰り返した。
そのせいか、本来レアとされる限定装飾品が揃ってしまった。
もうガチャはしない。
これが最後、そう決めている。
だいたい、異世界にまできてガチャに溺れているのもどうかと思う。
そんな訳で、これが泣いても笑っても最後なのだ。
しんみりした気持ちで、自動投擲機にコインをセットする。
青い硬貨が滝に消えていく……。
「あ、光った」
「虹確定っすね! ……うらやま」
「姉ちゃん、早く取りに行きな。ほかの誰かに盗られちゃわないうちにな」
「兄貴……思考が盗人っすよ」
「先輩と呼べって言ってるだろ! 俺サマは今日から心を入れ替えてヒーラーになるんだい」
なにやらバッグが騒がしいが、彼の言う通りだ。
シーフというジョブの者は、稀に悪事を働くという。
そう、例えば、滝つぼに身を潜めておいて、落ちてきた装備を根こそぎ懐に入れるとか。
『おい、なんでこっちを見るし』
『不正だ、不正してるよ、この人!』
『さすがシーフは考えること違うねー。悪名度、上がっちゃうかも』
『盗賊団のアルバイトで、滝つぼに身を隠すとかありそう』
『下っ端はよく捕まるからな。舟長、気を付けろよ』
黙っていた舟長が、わなわなと震える。
斧戦士が魔法使いの耳を塞いだ。
『どいつもこいつも! 善名度のほうが高いからいいんだよ! 別に!』
『けどさ、さっきのアルバイトみたいに、悪名度上がるクエストは積極的に受けてたじゃん?』
『昔の話だ。悪名度が一定以上じゃないと、進まないクエストがあったからな』
『え、そのクエストが終わったあとも続けてなかった? それ』
『……しゅ、習慣になっちゃったんだよ! ほっとけ!』
『それ、犯罪者の良い訳レベルだぞ。ところで斧戦士、耳大丈夫か?』
剣士に問われた斧戦士は、舟長の様子を見ながら手を取る。
魔法使いは状況が分からず、視線を漂わせている。
斧戦士は黙ったまま、耳に手をやり、耳栓を引っこ抜いた。
『へーき』
『声が聞こえる耳栓って意味なくね?』
『通常レベルに下げるだけで効果があるだろ?』
『なるほどねー』
舟「で、どうだったんだ?」
ア「見れば分かるでしょ。あの幸せそうな表情」
魔「ピックアップは出なかったけど、前々から欲しかったのが出たんだって」
斧「帰還前にいい思い出ができたな」
剣「武器は使ってナンボじゃねーの?」




