F-38 キャピタルイベント13
キャピタルイベント13
お別れ
大人同士の難しい話が終わり、エルナは王都エンペラスを出立した。
北門の先、木がこんもりと茂る林で、エルナは二人に挨拶をする。
「サロメさん、ハワードさん、ここまでありがとうございました」
「気を付けるのよ、悪いやつらに狙われないように」
「君が過ごすあと二か月……楽しい日々になるよう、祈っているよ」
二人に見送られ、エルナは斧戦士とともにワープ。
飛行船の窓から地上を見下ろすと、手を振るサロメたちが見えた。
エルナは最後の別れに、涙する。
昼間、ギルドの客室で告げられた言葉を思い出す。
「帰還できる手段があるなら、君はもとの世界に戻ったほうがいい」
「意地悪で言っているんじゃないわ。国の規定で決まっているの」
「優秀な異世界人は、王都にて保護されることになっているんだ」
実際は監禁まがいの生活を送るらしい、という言葉は飲み込んだハワード。
こんな無垢な少女にそんなことは言いたくなかったからだ。
「今すぐに、ここ、エンペラスを出るんだ」
「国には内緒にしておくから。早く家族のもとに帰るのよ」
サロメたちから自分の存在がバレないよう、エルナは決断した。
バレたら自分もひどい目に遭うが、国へ隠し事をしたサロメとハワードはもっとひどい目に遭う。
二人を見るのはこれが最後。
二人からエルナに接触するのもこれが最後。
魔法使いは、窓辺で目を潤ませる親友を見つめる。
「……」
やがて、そっと涙をぬぐったエルナを連れて、飛行船は飛び立つ。
地上から見上げる二人からは、舟は上空にあがって見えなくなった。
手を振るのをやめ、サロメは、ハワードに言った。
「私の事情に付き合わせちゃってごめんね」
「いいんだ。僕もエルナには幸せになって欲しい」
「あの子の親みたいなセリフね。どうするの、今の職を失うかもしれないのよ」
「構わないよ。副市長って柄じゃないし、また冒険者として生きていけばいい」
そんないい雰囲気の二人に、黒い影が割って入った。
黒いスライムみたいな見た目、黒トキワだ。
黒トキワは、二人に封筒をぺっと吐き出す。
サロメが封筒を開くと、そこには白紙の便箋が一枚入っていた。
お分かりだと思われるが、メッセージレターをかけられた魔法具、便箋である。
サロメの怪訝な表情をよそに、便箋に文字が浮かぶ。
――国の関係者に記憶改ざんをしておいた。
のっけから恐ろしいことを言ってくれる斧戦士である。
都合のいい斧戦士の能力であるが、決して二人への親切心からではない。
――必要なら、おまえたちの記憶にも手を入れるが、どうする?
「馬鹿言わないでちょうだい。口が軽くちゃ冒険者は務まらないわ」
「それって自白剤を使われても大丈夫なのかい」
「ハワード!」
「冗談さ。僕もエルナのことは忘れたくない。それは要らぬ心配だよ」
――了解した。その便箋はこちらからの贈り物だ。ぜひ、使ってほしい。
――私からの贈り物だよ! エルナちゃんに親切にしてくれて、ありがとね!
黒トキワがまた二人の間に割り込む。
二度目のぺっで飛び出てきたのは、もう一枚の便箋。
「どう使うのかしら」
「もしかして、手紙を通して会話ができるとか」
「そんな、冗談でしょ? 国お抱えのスペルメイカーだってできないわよ、そんなこと」
「じゃあ、伝言機能ぐらいかな。確か、そういう魔法があったよね」
ハワードが試しに白紙の便箋に向かって話しかける。
すると、すぐにサロメの持つ手紙に文字が浮いた。
――確か、そういう魔法があったよね。
サロメは浮かぶ文字に答える。
「メッセージのこと?」
ハワードの便箋にも文字が浮いた。
サロメとハワードはしばし、黙り込む。
これ、とんでもないものをもらっちゃったんじゃ……。
二人の心配をよそに、黒トキワはワープして帰っていた。
魔「マニュアル作っとこ」
舟「これ、確か向こうに人がいなくてもいいんだよな」
ア「本人じゃなくてもいいんだよね……なりすまし、怖い」
斧「あとで本人認証するよう、バージョンアップしときます」
剣「虹彩か指紋認証かね」




