F-37 キャピタルイベント12
キャピタルイベント12
スカイアドベンチャーはいつも通り
ギルドの奥へ案内された二人は、二人掛けのソファを勧められる。
おどおどして、座れないエルナ。
エルナには、こういう経験が少ないため、本当に座っていいのか謎なのだ。
斧戦士が座ったのを見て、ようやく縮こまりながら座る。
緊張のためだ。
「お茶を用意したほうがいいかな?」
「そんなに緊張しないで、エルナ。責めるつもりはないのよ」
「えと、あの、大丈夫です」
両手を横に振るエルナ。
だが、もともと白いその肌がさらに白く見えるのは気のせいか。
無理もない。
目の前の二人の異世界人は、食い入るように見てくるし、隣の男とはそう親しい訳でもない。
エルナが無理をして笑っているのは明白だった。
そんな少女に対して、斧戦士はまずドリンクを用意し、ミルキーアイスを取り出す。
今日のおやつである。
「マジカルドリンクとミルキーアイスです。どうぞ」
「え、あ、ありがとうございます」
「ちょっと食べてて」
そう言うと斧戦士は虚空を指差し、四角を描く。
内部が黒いエリアができた。
時空を切り裂く、斧戦士の特殊能力だ。
黒く見えるのは、そこになにもないから。
時空の狭間は、揺れる闇。
異世界人二人がこの異常事態に、エルナから視線を外す。
それを確認した斧戦士は、すかさずエルナにディスペルを唱え、黒いモニターに向かって呼びかけた。
「舟長、聞こえるか?」
『ああ。けどちょっと待て。モニターの前に全員座る』
「じゃあ、つなぐぞ」
『人の話聞けよ』
エルナがはっと上を向いた。
ポチっとな。
斧戦士の古臭いセリフが聞こえたか否か。
ともかく、王都ギルドと飛行船内部の映像がつながる。
モニターに四人の冒険者が映った。
『エルナちゃん、心配しないで。私がエルナちゃんを守るよ』
『生身じゃないのにどう助けるんだ?』
『斧戦士さんを経由して助ける』
『そりゃ強力だね』
いつも通り、急に発言する魔法使いである。
だか、エルナの表情は確かにほころんだ。
彼女もまた、ナビゲーションシステム改によって、そんな魔法使いの姿を何度も見たからだ。
『あー、初めまして。オレたちがエルナの視線の先にいた人物だ』
『厳密には、ボクたち四人とそこの斧使いで、エルナちゃんをサポートしてたんだよ』
『ナビゲーションシステム改という独自魔法を使ってな』
『ミルキーアイス、美味しい?』
「うん、バニラアイス好き」
魔法使いとエルナは別の話をしている。
「ナビゲーションシステム改?」
「独自魔法?」
「ナビゲーションシステム改は、魔法使いさんがエルナのために作った魔法だ」
「スペルメイカーが、たった一人のために……?」
「にわかには信じがたいが、問題はそれで終わりではないよね」
ハワードがモニターをにらみつける。
そうだ、彼らにはまだ明らかになっていない謎がある。
エルナはどこから来たのか。
どうやって王都エンペラスに着いたのか。
そして、この五人はこの大陸にとって有害か否か。
『ねえ、斧戦士さん』
「なに?」
『私をエルナちゃんの隣にワープさせてよ』
「んー、分かった。ちょっと待ってて」
『今のままだと、私たち邪魔になっちゃうから。わしらは隅っこで話してよう』
「うん。けど、いいのかな」
『大丈夫だよ。どうせ、よく分からない難しい話が始まるから』
相変わらず頭の知力感は低い魔法使いである。
別にいいもん。
ステータスの知力は、魔法攻撃の威力にのみ寄与されるのだから。
「ちょっと待っててなー」
「? はい」
「よっこいしょ。ここに彼女が来るからね」
斧トキワが席を立つと、数秒後、部屋に魔法使いと斧戦士が現れる。
魔法使いは黒トキワを抱えて、エルナの隣に座り、斧トキワを労う。
「お疲れ様、斧トキワさん」
「おつー。黒いのも来てるから、おれは退散するね」
「はーい。エルナちゃん、この黒スライムはね、黒トキワさん」
「え、さっき斧戦士さんもトキワさんって……」
「そう。斧戦士さんは人格をいくつか持ってるの。その一つが実体化してるんだよ」
「え? 二重人格!?」
「さっきの斧トキワさんもそうだから、多重人格かな」
適当な説明をする魔法使い。
エルナは楽しそうだ。
ぱあっと表情が明るくなる。
一方、大人なメンツは難しい話をしていた。
「エルナが、異世界人? そんな嘘……でしょう」
「空飛ぶ舟でやってきたとはね。なるほど、山を楽々越えられる訳だ」
『飛行船はオレたちの大陸でさえオーパーツだ。見られる訳にはいかなかった』
『いい着陸地点がなくてな。斧戦士のワープで北門から入ったんだ』
よく考えたら、どうせワープするんだから南門から入れば良かったね。
しかし、斧戦士のワープは人物由来である。
訪れたことのある場所だとか、見たことのある場所だとかではなく、人物を起点にしてワープする。
サロメとハワードは既に見たことのある人物であるから、彼らの前にワープすることもできた。
実際にしなかったのは、どう考えても怪しいうえに、説明を追及される可能性があったからだ。
「ワープといい、この技術といい……彼はいったい何者なんだ?」
「相当な危険人物に聞こえるけれど、よくパーティを組んでるわね」
『うちの優秀なアタッカーなんでね。外す訳にはいないのさ』
『ストッパーの魔法使いともども、オレたちには必要な人材だからな』
わーい、褒められたー。
斧戦士が舟長のうしろで騒ぐ。
煽ってんのか、と振り向いた舟長は気付く。
『おまえ、いつの間にこっちに戻ってきたんだよ!?』
『さっき。魔法使いさんをワープさせたあと』
『向こうのブラックモニターの管理はいいのか? しなくて』
『なにもしなけりゃ開きっぱだから、心配しなくていいよ』
むしろ、閉めるのがたいへん。
そう続けた斧戦士に、舟長が怒鳴る。
『シェアビジョンでも使えば良かっただろ!』
魔「その手があったか」
斧「慣れない人は、他人の視界って酔うからね」
剣「VR酔いとか、3D酔いとかかな」
舟「ここ、ファンタジー世界!」
ア「舟長、カッカしないの。ハゲるよ」




