F-30 キャピタルイベント5
キャピタルイベント5
世界で唯一飛行船を持つ集団
目が覚めると、外はすでに明るかった。
あれこれ心配して、人と会って、疲れていたのだろうか。
結構、ぐっすり眠っていたらしい。
「きれい……」
雲の切れ間から、大きな街が見えた。
あれは、どこだろう?
景色は動く気配がない。
どうやら、あの大きな街の近くで、舟は停止しているようだ。
「エルナ、起きてるか?」
「あ、はい。おはようございます」
「じゃあ、開けるぞ」
ドア越しに声をかけてきたのは、剣士。
魔法使いでないことに違和感を覚えたが、素知らぬ顔で挨拶した。
「朝食にするぞ。場所は夕食の時と同じだけど、念のため、な」
「ほかの人はもう起きてるんですか?」
「んー、行ってみれば分かる。一人だけお寝坊さんがいるんだぜ」
あいまいに誤魔化された。
しかし、エルナは素直であった。
剣士のあとをついていき、高級感あふれるサブラウンジに辿り着く。
テーブルには既に、舟長とアサシンがいた。
「おはようございます」
「おう、おはよ」
「おはよー。エルナちゃんは礼儀正しくていいね」
「遠回しにディスると斧が飛んでくるぞ」
「いや、事実じゃん!?」
「魔法使いはねぼすけだからなあ」
剣士がのんびりと言うと、図ったようにドアが開き、まっさきに斧が飛び込んで来た。
剣士はそっとエルナの位置をずらすと、大きな盾で斧を跳ね返す。
斧は反対側の壁に突き刺さると思いきや、途中でふっと消えた。
朝からバイオレンスな状況に、エルナは目を白黒させる。
「ご要望にお応えして、登場してみました」
「ねむーい」
「相変わらずあぶねーな。エルナに当たったらどうするんだよ」
「その場合は、エルナの目の前でターンして、舟長に当たる予定だった」
「なら安心か」
「おい、ナチュラルにオレを攻撃しようとするな」
舟長がなにか言っている。
が、当然のごとくそれは無視され、スカイアドベンチャーは五人揃う。
朝食が始まった。
「さっき、きれいな街が見えたんですけど、あれはどこですか?」
「あれが首都エンペラスだぜ」
「えっ! もう着いてたんですか!」
「オレンジ色の屋根がきれいだよね」
「そうか? 奥にある王宮までオレンジだぜ。眩しくないのかね」
魔法使いはもっしゃもっしゃ。
無心で野菜を口に運んでいる。
「どこから下に降りられますか?」
「着陸すれば乗降口から地上に出れるぜ」
「ただ、あんまり近づくと怪しまれるから、いま降りられるところを探してるんだ」
「怪しまれる?」
「あー、エルナ。この飛行船はこの世界にはない技術なんだ」
「えっ? オーパーツってことですか? すごいですね」
そこでまず感心してしまうのがエルナのすごいところだ。
いや、彼女は現代社会のゲームで、飛行船を知っていたからかもしれないが。
野菜を食べ終わった魔法使いが、ようやくしゃべる。
「ちょっと遠くなっちゃうけど、反対側のちょっとした林のとことかどう?」
「いい感じに目隠しになる場所か。けど、林じゃ着陸できないぜ?」
「斧戦士さんがワープで運べばいいじゃん」
あっさりと魔法使いは述べる。
しかし、魔法使いのためならえんやこーらな斧戦士は、逆を言うと魔法使いが関わらない話には働かない。
舟長は疑問を含んだ眼で緑髪の青年を見つめる。
それができれば、楽だ。
問題は、こいつがそれをやってくれるかどうかだ。
舟長の懸念に反して、斧戦士はコクンと頷いた。
「いいだろう。いい感じに周囲の目を誤魔化しておく」
「やっぱり斧戦士さんは頼りになるね。さて、エルナちゃん、食べ終わった?」
「あ、え、ぜ、全然! まだ……」
「じゃ、エルナちゃんの準備ができるまで、我々はキリキリ働きますかね!」
「ゆっくり食べてていいぞー」
三人が部屋をでていく。
……三人?
人数が合わないと疑問に思ったエルナが右を向くと、そこには斧戦士。
「あの、行かないんですか?」
「気になるようなら帰るが。どうせ、おれの仕事はこのあとにたっぷりある」
意訳:あとで誤魔化すために力がいるので、いまは働きません。
要は、体力を温存しておく計画のようだ。
エルナにはよく伝わらなかったらしい。
可愛らしく小首を傾げる少女に対して、斧戦士は思う。
魔法使いさんのほうが可愛いなあ。
「どうかしました?」
「いや、魔法使いさんのことを考えていただけだ。気にせず食事を続けてくれ」
斧「エルナを見ると、魔法使いさんのことを思い出すんだ」
舟「どんな脳みそしてんだよ。マルチタスクかよ」
ア「舟長のそのツッコミも相当に頭おかしいと思うよ」
剣「やれやれ。頭おかしいヤツばっかだな」
魔「頭おかしくなきゃ、冒険者やってないと思うよ。命の危険しかない冒険者なんか」




