F-28 キャピタルイベント3
キャピタルイベント3
お店もやれる系冒険者
エルナを乗せたスカイアドベンチャーの舟は、雲よりはるか高い空を飛ぶ。
客室の一角に案内されたエルナは、窓から外の様子を眺める。
真っ暗だった。
何も見えないが、飛行船に乗っている――それだけの楽しさから、エルナは窓を覗き込むのをやめない。
「エルナちゃーん、ご飯だよー」
「あ、うん。今行きます」
扉の向こうから魔法使いの声がした。
舟長も近くにいるらしい。
漏れ聞こえる会話からは、二人の気を許した関係がうかがえる。
「サブラウンジでいい?」
「ああ、そうだな。エルナの案内は頼むぞ」
「えー迷っちゃうかもー」
「すぐそこだろ! どこで迷うんだよ!」
舟長のツッコミに笑いながら、魔法使いが客室に入ってくる。
こんなふうに話しながらも、舟は動いている。
彼らが所有する舟ではあるが、スカイアドベンチャーはあくまでも冒険者。
舟を操縦する技術はない。
え? 十字キーで動かせるだろ、って?
いやーなんのことだかさっぱり分かりませんねアハハ!
「だいたいのゲームは、船も飛行船も十字キーで動かせるもんよ」
「え? 急にどうしたの?」
「なんでもない。サブラウンジに案内するから、ついてきて!」
「うん!」
客室のドアをスライドさせ、廊下を十数歩、歩く。
また扉をスライドさせて部屋に入ると、そこにはなんとも大人な空間が広がっていた。
黒く輝くタイルは、ガラスをイメージして作られたもの。
透き通るようなブラックが、バーのような雰囲気を醸し出しているのだ。
反対に、壁は白い。
材料は大理石だ。
高級感たっぷりの部屋を見渡していると、見たことのない人がいた。
扉を挟んで左右に、そっくりな顔をした女の人が立っている。
「あの、女の人はなにをしてるの?」
「ああ、ここはね。武器とか素材とか売ってるんだよ。その売り子さん」
「いらっしゃいませ、エルナさま」
「ど、どうもご丁寧に……」
揃った声で歓迎されて、どもるエルナである。
舟の主人の一人である魔法使いは、彼女たちに軽く手を振った。
すっかり慣れたもんである。
初回はエルナと同じく、挙動不審だったなんて嘘のようだ。
「さ、そこの銀色のテーブルに座って!」
「う、うん」
「メニューはどうする? って言っても、いつもと同じものしかないけど」
そう言って魔法使いとエルナは楽しくおしゃべりする。
親しい仲のおしゃべりは時間を忘れるものだ。
エルナが人の気配を感じてふっと視線を上げると、ほかの四人が集まっていた。
「それでねー」
魔法使いは気付いていない。
エルナは慌てて魔法使いに話しかけようとするが、それは舟長によって止められた。
茶目っ気たっぷりに口に人差し指を当てた彼は、エルナを自身の横に立たせる。
まだ、魔法使いは話している。
「ってことがあってね! 大変だったんだよ!」
「魔法使いさん」
「へげっ!」
おおよそ女子の発するべきでない声を出した魔法使い。
要因は、彼女の後ろに忍び寄って声をかけた斧戦士だった。
文字通り椅子の上で飛び上がった魔法使いは、怒って立ち上がる。
「急に声をかけないでって言ってるじゃん!」
「うん。だから、名前を呼んだよ」
「いや、そうじゃなくて! だいたい気配を消す必要あった!?」
「消してないよ。いつもみたいに呼んでくれないから、歩いて来ちゃったんだ」
「あのね。急にワープして来たら、エルナちゃんがびっくりこくでしょ!」
「でも、それがおれの流儀だから」
我を曲げない斧戦士と、怒り心頭の魔法使いは平行線だ。
心配そうにエルナが見つめている。
「流儀って何さ! 学園にいるときみたいに、普通ぶればいいじゃない」
「こいつ、学園にいるときも自由だよな」
「舟長、茶々入れないの」
「普通……か。ところで魔法使いさん、さっきプリン作ったんだけど食べる?」
「食べます。エルナちゃんも要る? プリン」
斧戦士がデザート片手に話しかけると、険悪なムードはどこへやら。
上機嫌な魔法使いは、プリンを受け取って席に着く。
なにもないところからもう一つプリンを取り出した斧戦士は、無言でエルナを見た。
「えと、もらってもいいんですか?」
「どうぞ」
「斧戦士、ボクの分もある?」
「ああ、余分に作ったから。剣士も食べるか?」
「おう! いただくぜ」
「いつまでプリンの話をしてるんだよ。飯食うぞ、飯」
「そんなことを言う舟長には、プリンはあげません」
「欲しいなんて一言も言ってねーよ!?」
スカイアドベンチャーのいつも通りの夕食が始まろうとしていた。
斧「え? いらないの? ショック……」
舟「そんな棒読みで言われてもな。感情が伝わらんのだが」
斧「まあいいや。おれの分にしよ」
舟「絶対、気に病んでないな、こいつ」
斧「魔法使いさんが笑顔で食べてる……うーん、至福だなあ」




