F-26 キャピタルイベント
キャピタルイベント
難易度:ベリーハード
グランドレイドのために、二日、レイナンの街に滞在したエルナは、久しぶりにココの村に帰って来ていた。
ココの村は相変わらず人が少なくて、静かでいい。
特に、上から下まで真っ黒な、怪しい恰好をした女がうろつくには。
ちょうどいい。
「ふう、買い出しはこれだけで大丈夫かな」
『オッケーだよ!』
『リストにあったものは、すべてチェック済みだ』
『エルナちゃん、アルバイトお疲れ様』
アサシンに労働をねぎらわれ、エルナはくすぐったそうに笑う。
エルナが学校に通う現代社会では、まだアルバイトなんて一度もしたことがないのに。
身体が弱くて、仕事を続けられそうにもない。
そんな理由からずっと避けていた。
けれど、ここなら。
好きなように生きられる。
やりたいことは好きなだけできる。
エルナの頬は期待に上気していた。
『そういえば、キャピタルイベントがもうすぐだね』
「うん。明日だったかな。王都でやるんだよね」
『ケビンさんには報告したの?』
『あ、昨日手紙書いてたよ。ボク見たもん』
「もしかしたら、帰ったときに返事が届いてるかも!」
足取り軽く、少女は住処とする宿屋に向かう。
おつかいを頼んだ宿の女将が、険しい表情で立っていた。
「女将さん、どうしましたか?」
「あ、エルナ! 探してたんだよ! どこにいってたんだい」
『ああん? オメーが買い出し頼んだんだろーが』
『魔法使いちゃん、落ち着いて』
「えーと、買い出しに……」
「ああ、そうだった! あたしが頼んだんだった! うっかり!」
自らの額を力強く打ち付ける女将さん。
過ちを認める人はいいぞー。
分かったらほら、そこの魔法使いは睨むのを止めなさい。
ガン付けるのは止めなさいったら。
「それで、その手紙はもしかしてケビンさんからですか?」
「そう、そのことなんだけど、この手紙、速達で届いてさ」
「え!」
「手紙自体にも『緊急』って張り紙がしてあるし、エルナ、あんた、いったい何をしたんだい?」
「と、とにかく、中身を確認して来ます!」
半ば奪い取る形で、手紙を手に入れたエルナ。
階段を駆け上がって、滞在する部屋、3号室に入る。
確かに、『緊急』と書かれている手紙の封を切って、慌ただしく床に座り込む。
『エルナちゃん、椅子あるよ?』
『いまのエルナに何を言っても無駄だ』
『なに、ちょっと格好いい感じで言ってんだよ』
スカイアドベンチャーの茶々にも耳を貸さず、エルナは文字を読み進める。
「なんでもいいから……地図を出してくれ?」
『斧戦士さん、ヴィジョン!』
『ほいさっと』
「あ、ありがと! それで今いる位置を確認……」
『ポインター表示。ラベル張っとくね』
エルナの視界いっぱいに広がる地図のうえに、ココの村と書かれた赤いピンが立つ。
「次に王都の位置を確認?」
『王都ってどこ? どの位置?』
『このアホ魔法使いめ……。ここだ』
『一言余計な男だな、エナジーフォース!』
『舟長が死んだー!』
『こら、誰か魔法使おうよ』
『そういうアサシンも使ってないじゃん、ポインター』
ココの村周辺を拡大表示していた地図が少し小さくなる。
エルナの持っていた地図では、王都の位置を表示することができなかったのだ。
仕方ないので、スカイアドベンチャーが事前に入手しておいた大陸全土マップで代用する。
そんな裏事情はさておき、ココの村から離れた位置に、お城のマークが出現した。
王都エンペラスだ。
「それから、レイナンの街を確認って書いてある」
『レイナンの街ってこのへん?』
『んー? おい、嫌な予感がひしひしと……』
『あちゃー。これ、かなりやばくない?』
「みなさん、どうしたんですか?」
『エルナちゃん、心して聞いてね。王都は、ココの村からレイナンの街までの距離の、三倍は遠くにあるらしい』
「三倍……!?」
『つまり、こういうことだね』
ココの村と王都の三分の一のところに、レイナンの街が出現した。
レイナンの街まで、馬車でゆっくり半日かけて行ったのは記憶に新しい。
距離が三倍ということは、単純計算しても一日と半分はかかるということ。
エルナがサロメと約束を交わしたのは、キャピタルイベント初日の朝。
つまり。
お昼を回った今の時間では。
到底、間に合わないということが確定した。
「ど、どうしよう!」
『なるほど、ケビンの緊急はそういう意味か……』
『言ってる場合!? どうする? 連絡手段がないから、すぐに伝えられない!』
『特急バス的なのないかな?』
『代わりに馬が死ぬけど、できなくはない』
『却下だ! エルナ、すぐにサロメに手紙を!』
「え、でも、連絡先が分からなくて……」
ぬかったスカイアドベンチャーである。
エルナの表情がみるみるうちに暗くなる。
さっきの上機嫌が嘘のようだ。
とうとう涙がこぼれる。
エルナの気持ちは、サロメに対する裏切りと、装備に対する諦めきれない欲望。
二つがない交ぜになって、もう訳が分からない。
どうしよう、どうしようとつぶやくエルナに魔法使いは。
ただ一言つぶやいた。
『舟長、いいよね?』
『いいぜ、超特急だ』
「……?」
『ちょっと留守にするけど、エルナちゃんはそこにいて』
『少し休んでろ。なに、すべてはうまくいく』
『物事が都合よく行くように捻じ曲げるのがおれの仕事だ』
斧戦士の台詞を最後に、五人の姿は視界から消え、ナビゲーションシステム改も効果が切れた。
エルナは明瞭になった視界をかまうこともせず、寝台によりかかる。
まぶたが重くなっていくのを感じながら、心のうちを吐き出す。
サロメさん、約束やぶっちゃうみたいです。ごめんなさい。
E「はあ、ほんと、どうすれば……」
E「……どうしようもない、か。サロメさんになんて謝ろう」
E「ケビンさんと女将さんにはあとでお礼を言わなくちゃ……」
E「……静か」
E「ほんとに一人、なんだね」




