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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
本編(Mシリーズ+Aシリーズ)
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M-002 トラップボム


トラップボム

名前の通り地雷魔法




 魔法使いは迷っていた。

 知力が900近くあっても完全無欠とは言いがたいこの人はよく迷う。そして、よく間違う。

 今日はその辺にいた魔術師にケンカを売られたので買ったのだが、早速窮地に追い込まれていた。


「物理攻撃だと、邪道な!」

「ははーん、そっちの弱点も物理攻撃だってことね!」

「メイスなんて戦士か僧侶しか持てないはずの武器を何故!?」

「そっちの規則がどうかしらないけど、バトルメイジのあたしは、メイスが普通に使えんのよ」

「わたしも取っておけば良かった、バトルメイジの資格!」

「今さら後悔しても遅いっての!」


 激しくなる攻撃。口撃もそれなりに激しい。

 あまりの激しさに、魔法使いが三回目の回復魔法を唱える。いつもは短期決戦を仕掛ける彼女には珍しい消極的な戦闘選択だ。

 このままでは負けはしなくても勝てない、と察した魔法使いは、大きな隙をさらして術を唱え始めた。


「……! させるもんか!」


 敵の魔術師も防御をかなぐり捨て、襲いかかってくる。しかし、魔法使いは魔法を唱えることをやめはしない。

 否、やめられないのだ。システムに縛られるスカイアドベンチャーは、魔法や特技をとっさにキャンセルするような芸当はできない。

 それに、ここで詠唱をやめたところで、未来に何が待つだろう。SKの看板を背負って戦いを受けた以上、ボコボコに殴られて負けるなんて惨めな結果は、受け付けていないのだ。


「トラップボム!」


 魔法使いが叫ぶ。近くまで迫っていた、敵が吹っ飛んで行く。

 その隙に回復魔法を唱え直す魔法使い。HPはギリギリだった。あと一撃当たっていたら死んでいたかもしれない。

 味方全員が蘇生魔法を覚えているので、もしもの時は大丈夫なのだが、それでもそうして負けていいという言い訳にはならない。


「なっ、ダメージはそれほどでもないけど……なにあの威力、すっごい飛ぶんだけど」

「トラップボムの効果は永続! あなたはもうわたしに近づけないのだ!」

「どっかのカードゲームっぽい言い方しやがって! バトルメイジの戦い方は接近戦だけじゃないってとこ、見せてあげる!」

「ふっ、それは私の真骨頂でもあるのさ! エナジーフォース!」


 魔法使いはトラップボムという壁を得て強気になっているようだ。あと真骨頂の使い方間違ってませんか?

 敵の魔術師も負けてはいない。バトルメイジの名に相応しく、バトルで最大の力を発揮する彼女はいま、輝いていた。


「ファイアス!」

「エナジーフォース!」

「それしか唱えられないの!? 愚者の突攻ね!」

「賢者の堅牢さは、魔法の威力で競うものではない! あと、これが一番威力が高いだけですトランス!」

「魔法の技量は私の方が上みたいね、スターシール!」

「月陰魔法!? なんてレアな魔法を、こんな真っ昼間に披露するんですかトランス!」

「さっきからなんで微妙に敬語なのよ、ワケわかんない! あなたを驚かせて詠唱を遅らせるためよ!」

「それは申し訳ないが要らぬ世話というもの、あれ、なんか意味が……まあいいや、わたしには詠唱の遅い早いは関係ないのさ、さあ食らうがいい、えなじ……の前に回復しとこヒール」

「危うく転けるとこだったじゃない! だいたい回復魔法を唱えられる魔術師も異端なんだからね!? グラヴィトン!」

「うおっ、あぶね。ターン制って良いものだなエナジーフォース!」


 強くなるためには邪道も正道! スカイアドベンチャーは理想の強さを追求し続ける冒険者パーティーなのだ。

 魔法使いの渾身のエナジーフォースが放たれた。知力三倍の魔法攻撃がどれほどのものか、魔術師はとくと味わったものだろう。魔術師は起き上がらない。魔法使いの勝ちが決まった。


「おめでとー」

「途中危なかったな」

「魔法使いはこの世で一番強いジョブだって知らしめられたかね?」

「知らしめられた、知らしめられた。とっくの昔に知ってるから回復しような」


 味方全員から祝福される魔法使い。一方魔術師の方はピクリとも動かず、泡も吹き出している。明らかに異常であった。もしくは危篤状態か。

 魔法使いが向こうの異様な雰囲気に気付いて、魔術師に近付く。向こうのパーティーは彼女を魔法使いから庇おうとするが、気絶した人間の身体は重く、うまくいかない。

 なんか誤解されている魔法使いは涙に暮れつつ蘇生魔法を唱えた。


「泣いてなんかないですリバイブ」

「うぅ……」

「メグが息を吹き返した!」

「助けてくれたのか……?」

「何故……」

「そんなことはいい、ありがとう! とにかくありがとう!」


 握手をぶん回される魔法使い。腕が取れそうだと思った。

 やがて拘束はとけ、魔法使いは人助けの喜びに満ちて帰る。今ならスキップもできそうなぐらい。向こう側に魔法使いの仲間、スカイアドベンチャーが見えた。

 彼女は意気揚々と走っていって、思いもよらぬ攻撃を受けた。

 吹っ飛ばされたのだ。


「!?」

「と、トラップボムは永続……」


元気になった魔術師の横を通り抜けてどこまでもどこまでも、魔法使いはすっ飛んでいく。

わずかに聞き取れた言葉は、事の真相を教えてくれるものであった。






魔「永続って怖い」

斧「いつ壊れるのよ、あれは」

魔「近くに行くと見える核を破壊すれば、とかにしかないとやばいよね」

剣「てことは、なにも考えてなかったのか」

舟「罠なのに魔法なのか?」

魔「魔法罠という言葉があってな」

ア「そういうのはよくないよね」

舟「つーか地雷とはちがくね?もっと、触ると電流が走る有刺鉄線みたいな……」

魔「なにも聞こえぬ」


都合の悪いことには耳をふさいで聞こえないふりをする魔法使いであった。

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