M-331 ワームホール
ワームホール
触手にょろにょろ
「また肉壁スタートか」
舟長が諦めたように言った。
視界を覆うように、肉壁のダンジョンが広がっていた。
ローラーファイアといい、クリアフロアといい、舟長はあまりいい思い出がない。
舟長が後ろを振り返ると、にこにこ笑顔の魔法使いがいた。
「ふっふっふ」
「はいはい、今日は何のご用ですか」
「むー。今日は、わたしが肉壁ダンジョン作ってみたよ!」
「なんの需要があるんだ、肉壁ダンジョン」
「斧戦士さんがサンドバックを突っ込みたいって言ってた」
「やめてあげて!」
一人の男として、あの恐怖を知っている身としては、制止したい。
舟長には、魔法使いを傷付けたというサンドバックを庇うつもりはない。
むしろ、死ねばいいとすら思っていたが、それとこれは別である。
「実は、今までの肉壁ダンジョンも、この魔法で作られていたのだ」
「さらっと嘘を吐くな。さっき『今日は』っつってただろ」
「うわ、速攻でバレた」
「ローラーファイアの地の文にも、斧戦士が作ったって書かれてるし」
「仮にもキャラクターが、地の文とか言わないでくださる!?」
魔法使いがぜいぜいと息を吐く。
舟長は、辺りを見回した。
いつもの感じなら、そろそろ帰れるはずなのだが。
もっと具体的にいうと、オチがつくはずなのだが。
「斧戦士さんの肉壁ダンジョンは、飲み込む系なんだけど」
「なにそれ。肉壁ダンジョンにも種類があるのか」
「そうだよ。わたしの肉壁ダンジョンは、触手が飛び出るタイプだから」
魔「舟長も体験してみる?」
舟「まことに光栄なお誘いですが、お断りさせていただきます」
魔「なーんだ」
舟「って、『も』? もうすでに誰か生贄になったのか!?」
魔「斧戦士さんが、サンドバックをぶち込んだらしいよ?」
舟「あの人、もう被害に遭ってた!」




