M-327 ウォーターマジック5
ウォーターマジック5
これで終わり!
「おーい、これあげる」
牢屋の主が、その珍妙なセリフを聞いたのは、たぶん午前。
牢屋には時計がないし、窓もないので時間を知りようがないのだ。
男が億劫そうにそちらに視線をやると、鎮座していたのは壺だった。
壺……男にとってそれは縁遠いものであった。
ただの骨董品を、何故?
そんな風にすら思った。
「ちょっとこれ覗いてみて」
「おい、なんか企んでるだろ。絶対やらない」
「ちっ、まあ、暇だったらでいいから」
珍しく引いた様子の青年に、男は仕方なく壺を覗き込む。
すると、男の姿は牢屋から消え失せ、壺のなかに。
しめしめと思う青年。
サンドバックは負けず嫌いで、自信家だ。
これで少しは静かになるか……。
青年が安堵したとき。
ずぶぬれの男が牢屋に現れた。
「メルティナをまた生贄にしたのか」
「オレの駒をどう扱おうが、オレの勝手だろ」
「魔法使いさんがまた気にする……。おれとの接触時間が減る……。つまりおまえは死刑です」
「いや、その論理はおかしい」
真面目に突っ込んだ男であったが、目の前の青年が狂人である。
もちろん、敵方の言うことなど聞くわけがなかった。
さすがの男でも、水浸しのままでは風邪を引くので、服を脱いで、しぼる。
時空を裂いて、新しい服を出し、濡れた服はしまう。
「仕方ない。女の子を冷たい水に浸しておくのはよくないから」
魔法使いさんに叱られちゃうからね。
そう言った青年は、意外な行動に出た。
斧を取り出し、壺に向かって振り下ろしたのだ。
男が止める暇もなく、斧は壺をいともたやすく壊し……。
バラバラになった壺の欠片の上に出現する少女。
そのまま着地すると危ないので、青年は少女を抱えて、安全な廊下に移動させた。
「いま一瞬見えたのは、魔法陣……?」
「そうだよ。ウォーターマジックって言うんだ」
「スペルなんか教えていいのかよ」
「これはリメイクだからね。いわば二次創作?」
「なんじゃそりゃ」
青年はそれだけ言うと、散らばった破片や、注いでいた水を片付け始める。
少女は、勝手知ったる足取りで、廊下の奥へと消える。
男は、ため息をついて、再び微睡もうとした。
「あ、そうだ。隣の牢屋に、おまえの友だちを入れておくから、仲良くするように」
「は? 友だち?」
「そ。若い子だから、あんまりいじめないように。分かった?」
「いや、そこまでオレ子どもじゃないし。大人げないことはしません」
男が誓ったのを見て、青年は微笑んだ。
腕を振るうと、音もなく隣の牢屋との壁がなくなる。
そこにいたのは、学生と思われる少年。
……と、なんか黒い影みたいな奴。
「ご、ごめんなさい!」
「なに怯えてるんだよ。その男を捕まえれば、解放してやるぜ?」
「う、うう……」
なんかやばいのを託されてしまった感がある。
男は自分のことを棚に上げて思った。
?「あのー、どちらさま?」
?「僕は……」
?「こいつは俺の契約者だぜ! 一回の願いの代わりに俺のものになったんだ」
?「もう無理だよ。幻を見せる力もないし、この人は……」
?「ああもう! 誰がしゃべってるか分からん! 名を名乗れ!」




