M-327 ウォーターマジック
ウォーターマジック
まるで未来でも見えそうな……
「よいっしょ、っと」
三角帽子が揺れている。
帽子の持ち主は、魔術師の女の子。
冒険者やってる系少女、魔法使いである。
彼女は、いま、重たい壺を机のうえに乗せようとしていた。
「中身ないよね? なんか、すっごく重いんだけど……」
魔法使いが机に鎮座した壺を覗き込む。
一日ひっくり返しておいたので、何も入っていないはずなのだが。
しかし、魔法使いの視界には真っ黒の影が映る。
光に照らされた自分の影ではない。
もっと真夜中の路地のような、真の黒。
「魔に魅入られし者よ……」
「え?」
暗闇のなかから声が聞こえてくる。
魔法使いは、肯定も返事もしなかった。
それなのに、ただ覗いただけなのに。
魔法使いは壺のなかへと落ちていた。
「ええー!?」
時は変わって、昼時。
リビングでくつろぐ舟長のまえに、誰かが現れる。
斧戦士だ。
なんだか、とても険しい顔をしている。
ワープで舟長のもとに現れたことも、彼が何か案じていることを指し示していた。
「魔法使いさんを知らないか?」
「魔法使い? そういえば、まだ今日は会ってないな。部屋にいないのか?」
「それはないと思う。廊下を通ってきたときに、魔法使いさんの気配は感じられなかったから」
「なるほど……ちょっと探してみるか」
舟長も、事の異常さに気付き、重い腰を上げる。
魔法使いは、舟長のパーティーの大事なアタッカーだ。
失う訳にはいかない。
玄関から外に出ていった舟長とは裏腹に、斧戦士は家のなかを探すようだ。
すると、魔法使いの部屋のまえでアサシンと会った。
「魔法使いちゃん、どこに行っちゃったのかな」
「それはこれから確かめる」
「確かめる? 見つける、じゃなくて?」
「さっきは気付かなかったが、部屋のなかに人の気配を感じる」
斧戦士は驚くアサシンには目もくれず、部屋の扉を開けた。
ノック無しである。
アサシンは、このカップル似た者同士だなあ、と思っていた。
そんなことはともかく、アサシンの予想に反して部屋のなかは誰もいなかった。
代わりにあったのは、鎮座する壺。
「これ、今朝、玄関に置いてあった壺だよ」
「いくら、魔法使いさんが小さくて可愛いからと言って」
「壺のなかには入ってないと思うよ!?」
アサシンの言葉が真実を述べているなんて、誰が信じるだろうか。
しかし、斧戦士は構わず壺を覗き込み、すばやく離れた。
「え、え? なに、どうしたの」
「アサシン。魔法使いさんはこの壺のなかにいる」
「う、嘘でしょ? って、なにこのヒモ」
「壺のなかに入って、魔法使いさんを助けてくれ」
アサシンは目をぱちくりさせた。
魔法使いを助けるのは別にいい。
壺のなかだって、何だって、行こうじゃないか。
ところで、なにこのヒモ?
「無事、魔法使いさんが見つかったら、このヒモを引っ張ってくれ」
「引っ張るとどうなるの?」
「おれが、二人を壺のなかから出す」
「ワープとかじゃ駄目なの?」
「たぶん、無理だ。この壺には魔法がかかってる。外までワープして来られないと思う」
アサシンはヒモを見つめた。
ピンク色の毛糸だ。
とっても頼りなさそう。
「スクエアゲート」
ヒモが一旦引っ込み、右手の近くで四角い穴が開く。
どこに繋がっているのか分からない穴から、ピンク色の毛糸が出てくる。
斧戦士の近くにも一つ四角い穴が開いているので、そこから入れたのだろう。
というか、刺さってるのが見えるし。
「これで、ヒモの節約ができるな」
「際限なく遠くまで行けそうだね」
ア「っていうか、この壺魔法がかかってるなら、ディスペルで良くない?」
斧「この壺に閉じ込められた人が全部出てきたら、魔法使いさんが潰れちゃうだろ」
ア「そういうこと!? ま、まあ、うん。そういうこともあるかもね……」
斧「その四角い穴は、アサシンに付きまとうので、遠くに行っても安心ダヨ」
ア「そ、そりゃどうも」




