M-033 コースアロー
コースアロー
歩行者のウィンカー
「ブルームコメットで散歩中にさあ、危うく歩いてる人とぶつかるとこだったよ」
説明しよう。ブルームコメットとは、空飛ぶ箒である。推進力は謎。
説明みじかっ!
「危うくってことはなんとかなったんでしょ?良かったじゃない」
「咄嗟に向きを変えたからぶつからずにすんだけど、これって車だったら事故るよね?」
「魔法使いおまえなぁ……世界観を考えろよ」
「馬車ってことにすればいいねん!」
「馬車って急に曲がるの?」
「さあ……」
急ハンドルは事故のもと。
力強く言いきった魔法使いに対し、アサシンと剣士はなんとなく不安気である。
馬車なんて乗らないから。うちは飛行船だからってことですね、分かります。
「そこで思い付いたんですが、歩行者にも合図があればいいんじゃないかって。どっち方向に行くのか分かれば、歩行者同士でも避け合いが捗るよ!」
「で、どんな魔法を作ったんだ?」
舟長の先読み攻撃だ!
魔法使いに痛恨のダメージ!! いてぇ!
「そーゆー出鼻を挫くようなことは避けていただきたいんですが……」
「そーゆーとかキモいから止めろ」
「魔法を撃たれたくなくば謝るんだな」
魔法使いが口調を変えて、舟長に杖を突き付ける。舟長はわずかに迷ったあと、自分の発言を大事にした。すなわち。
「なんで正しいことを撤回せねばならんのだ」
「エナジーフォース」
「舟長ー!!」
舟長は死んだ。
「ふー、すっきりした。じゃあ魔法のお披露目しようか」
「独裁政治じゃん」
「舟長の言い方がムカついたのでつい」
「うっかり屋な魔法使いさんかわいーい」
「斧戦士、キモいよそれ」
死者が増えた。
「リバイブ、リバイブ。ほい、お帰り」
「はぁ、解せぬ」
「うかつなことは言うもんじゃないね」
生き返った二人は真逆の反応を見せた。再び杖を突き付けられる舟長。今度は彼も逆らわなかった。両手を振って誤魔化すと、魔法使いはふっと笑って構えを解いた。余裕の笑みである。
「なんで笑ったんだ? アイツ」
「それはたぶん……強者の微笑み?」
「何か思い出したんじゃね。ほら、思い出し笑いでさ」
「納得いかん……」
納得いかない舟長はおいといて、さあ魔法のお披露目をしよう。
「コースアロー!」
魔法使いが術を唱えると、彼女の正面に矢印が三つ浮き上がった。
右、左、まっすぐの三つで、後ろを差す矢印はない。
「右に行くよ」
魔法使いが右に曲がろうと体を傾けると、右の矢印がポップアップして大きくなった。
左に身を翻すと左が大きくなる。
「どーだね。我が魔法は」
「これじゃぶつからねーか?」
「傾けてからじゃ遅い気がするの」
「ふふん。一応手動でも押せるのじゃ」
威張る魔法使い。
アサシンと舟長は顔を見合わせた。確かにこれはウィンカーだ。まっすぐも分かる。だが、使い勝手はいまいちかもしれないと。
「あと、事前に別の魔法でデータを作っておけば、矢印で案内してくれる」
「そっちが本命だろ!」
「そっちが本命でしょ!」
「違うよ、これはおまけ。だいたい他の魔法の力を借りるなんて外道だよ」
「外道!?」
「事前に用意しなきゃいけないのも面倒だし」
魔法使いの美学にも色々あるらしい。
魔「最終的には、目的地を入れるだけで案内してくれるようにしたい」
舟「それなんてGマップ?」
魔「あれ……わたしウィンカー作ろうとしてたのに、何故マップの方に?」
ア「キャラ崩壊の危機だったんだけど」
舟「不思議なこともあるもんだな」




