M-032 イノセンスカード
イノセンスカード
無実を証明する
「ここは古びた洋館……偶発的に起こった大雨! 出来上がったのは密室殺人事件の現場!」
「現場言うな。まだなにも起こってないだろ」
「さあ、あなたはどうする?」
「無視かよ。自分の部屋に帰って寝る?」
「死亡フラグお疲れ様です」
「うん。で?」
一通りの茶番が終わったのを確認して、舟長は魔法使いに聞く。
茶番中の魔法使いは人の話を聞かないから困る。分かりやすくていいけど。
「魔法で無実を証明すればいいんじゃないかって」
「なんで何か起こる前提なんだよ……」
「だって、何か起こってからじゃ遅いじゃない」
「ここ、もう遅くね?」
「なんでそういうこと言うの? ここは出ないって聞いたよ?」
二人がいるのは本物の洋館。それも古びて寂れた、もう所有者も誰だか分からないような館だ。管理する人がいなくなったここは、窓ガラスが割れ、さまざまな調度品も壊れている。
何か起こってこうなったのは明白だった。とりあえず盗難とか。
「別にユーレ」
「あー、何にも聞こえなーい」
「お化けが出るような出来事とは限らないだろ」
「言わないでったら! ……え? ああ、うん、そうだね」
「ったく、よく聞けよ」
悪態を吐く舟長。
その瞬間、調度品の上にあった花瓶が突如割れる。文字通り飛び上がる魔法使い。何かいるんじゃないか、そう疑いたくなる。
「で、出てきたら聖属性魔法で倒す、出てきたら聖属性魔法で倒す」
「成仏させたれよ、元神官ならさ」
「浄化?」
「一撃死じゃねーか」
説明しよう。浄化は神官系の中盤で覚える、消滅系スキル――魔法である。アンデット族だけを即死させる、経験値狩りのお供だ。失敗すると何も起こらない。
「と、とにかくイノセンスカードの効果は無実を証明するんだ」
「へえ。それが今回の魔法の名前か」
「魔法は嘘が吐けないからね。これはいい証拠になると思うんだ」
「それで、どう使うんだ?」
「イノセンスカードと唱えれば、無実なら、『わたしは無実です』ってプラカードが出ます。透明の」
「カードってそういう……」
どこか呆れた声で応じる舟長。魔法使いはさっきとは打って変わって自信に満ちた表情で言う。たぶん、今は、恐ろしげな内装も見えていないに違いない。
「まあ、ちょうどいい。オレが使ってみてもいいか?」
「いいけど。ちょうどいいってなんだ?」
「イノセンスカード」
「無実みたいだね、舟長」
「ま、いまんとこ物取りも冒険者行為もしてないからな」
「やっぱそういうの罪の意識感じるの?」
「感じる訳ねーだろ。人の目の前で猫ババした回数数知れず。鋼鉄の心臓がなくちゃできないぜ」
「ふーん」
魔「少しでも罪悪感を感じていることがあると、直接関係なくても、『わたしは無実です』って出ないみたい」
舟「犯人じゃなくても共犯者だったら捕まるって訳か。悪くないんじゃね」
魔「それが、間違って妹のプリン食べちゃったって場合でもダメなんだよ」
舟「……魔法は嘘吐けないもんな、仕方ないよな」
ア「魔法使いちゃんと一緒でなくてよかったの? あの子こういうとこ嫌いでしょ?」
斧「心配は心配だが……おれがいるとよく寄るらしいから」
ア「寄る? ああ、霊的存在がね。見えてるの?」
斧「今、目の前を横切ったな」
ア「えっどこどこ?」
斧「……冗談だよ」
ア「冗談って口調じゃなかったでしょ! ねえ!」




