M-307 ウォーターハンド
ウォーターハンド
水中呼吸があればなんのその
「なんか、こう、息が苦しいね」
そう言ったのは魔術師の女の子、魔法使い。
冒険者である彼女は、仲間とともにとあるダンジョンに来ていた。
そのダンジョンの名は。
ウォータープール。
れっきとしたダンジョンである。
夏のレジャー施設ではない。
「これ、戦闘背景の画像、完全に水のなかだよな」
「エンカウントがあったのはタイルの上なのにね。不思議だね」
「まあ、オレたち何故か息ができるし。別にいいんじゃね?」
仲間たちはあまり気にしていないようだ。
なんとなく呼吸がしずらい魔法使いは、モンスターを杖で殴りつける。
水の抵抗や、水のなかの移動に手間取って、なかなか思い通りにいかない。
彼女が親愛する恋人も、苦戦中だ。
「いつもより斧が軽い気がする……?」
「くう、また逃げられた! 命中力の高い斧戦士だけが頼りだよ!」
「いきおいよく振り下ろしたつもりなのに、くそ、ちょこまかと動くな!」
水のなかで苦戦する人間をあざ笑うかのように、人魚や魚人のモンスターが舞う。
魔法使いは、杖を振り上げるのをやめて、魔紙を取り出した。
魔紙は、魔法陣を書くときに使われる紙だ。
それ以外はただの紙なので、水が浸透してしわくちゃになる――かと思いきや、普通である。
魔法使いは、なにか魔法陣を書いている。
戦闘中に取り出したということは、新しい魔法を思いついたということ。
彼女はできあがった魔法陣の紙を、モンスターに突き付け宣言をした。
「行け、ウォーターハンド!」
はるか上の天井付近から空気の塊が入ってくる。
それは手の形をしていて。
ぐわし。
モンスターたちをまとめて捕まえて、逃げられないようにした。
「いまだー! 狙えー!」
魔術師の彼女は、杖を野蛮に掲げ、叫んだ。
舟「けど結局、攻撃は当たりにくいのだった」
ア「死ね! モンスター!」
剣「この人は、即死がでるのを待ってるだけだからね?」
斧「水の手ごと斬り裂けば良いんじゃないかな」
魔「このあとボス戦が控えてるから、魔法が使えなくて悲しい」




