M-292 カモンボール
カモンボール
すっごい吸引力
「なんかどこかで見た説明だな」
舟長がつぶやくと、背中側から嘲笑が返って来た。
「どこかで見た魔法を紹介するんだから、説明も見たことをあるヤツに決まってるでしょ?」
「それはまずくないか?」
背中側にいる魔法使いにそう言うと、彼女はけらけら笑った。
「大丈夫、わたし流にアレンジしてあるから」
「それは別物というのでは。ところで、おまえ何してんの?」
舟長はたびたび背中に走る衝撃に、疑問を持っている。
そんなに固くないものなのだが、投げつけられているような感覚だ。
魔法使いは素直に答えた。
「キャッチボール」
「ほう。キャッチボールね……誰かそっちにいるのか?」
「わたしがいるよ!」
「……おまえ以外で」
「いないよ!」
舟長は後ろを向いた。
そのとき飛んできたボールは右手でキャッチする。
ナイスキャッチ!
「一人で壁に当てて楽しむのは、キャッチボールじゃないぞ」
「舟長がいるじゃない」
「なるほど、オレの背中を壁代わりにしているから、二人で遊んでるのか」
「……? 舟長、怒らないの?」
「怒る気力がないんです」
不思議そうに見つめる少女に、力なく答える舟長。
だが、まあ、キャッチボールくらいならオレにもできる。
舟長はそう考えて、魔法使いから離れた。
魔法使いがついてくる。
いつまで経っても距離が離れないので、仕方なく舟長は怒鳴った。
「ある程度、離れないとキャッチボールできないだろ!」
「わたしの投球距離はこのぐらいなの!」
「30センチもないのかよ!?」
舟「ところでなんで、急にキャッチボールをしようと思った訳?」
魔「投げるほうはいいとして、うまくキャッチできるよう、魔法を作ったのだ」
舟「投げるほう、別に全然良くないけど、まあ、なるほどね」
ア「あれ? どうしたの。舟長、背中、土だらけだよ」
舟「土? ……あんの、魔法使いめ! もういねえし!」




