M-026 チェンジウェザー
チェンジウェザー
天気を変える魔法
「ああ、今日も雨かぁ」
「明日の天気は晴れだってさ」
「当たるかどうか分からないじゃん」
「確かめてみればいい」
「!」
「どうやって……って魔法使い!?」
行ってくるー、と要領の得ない返事が遠ざかっていく。
外はざあざあと降りしきる雨。魔法使いは部屋にこもった。
「できたぞ!」
翌日。太陽がさんさんと輝く朝、魔法使いはのたまった。
天候を確かめる魔法、それはもはや天気予報のはしがけだと言えた。
「チェンジウェザーという名にしました」
「ありゃ、いつも通り叫んで放たないんだな」
「わたしには資格がないもの」
「資格……?」
「そう、今日の天気と明日の天気を入れ換えるなんて、偉い人ぐらいしかできないと思ってね」
「検証もできねーのか」
「そうだね、でもしかるべき人が撃てば発動するのはもう確実だよ」
魔法使いは機嫌よくそう言う。
舟長はその機嫌のよさが不気味だった。ので、もう少し突っ込んで聞いてみる。
「お前なら資格なしでも撃てるようになるんじゃねーの?」
「それが、この文面、一つ以上資格を持つ者、を抜くと発動しないのよ」
「またバランスが悪いのか」
「斧戦士さんのターン?」
「自分で斧戦士って言うな」
以前も活躍した斧戦士が話題に食いつく。魔法使いの提示した術式を見ながら適切なアドバイスを伝えた。
「これ、天気を変える範囲が書いてないよ」
「えっ、だってその記述はいっそ難しくなるだけだと思って」
「書いてないの? でも全世界の天気が、明日の天気と交換されるのなら、それこそ偉い……もっと偉い人が術を唱える必要が出てくるだろう」
斧戦士は、おいそれと全世界の天気が変わるのはよくないと言っているのだ。
魔法使いにもそれは伝わる。でもこれからどうしたら……?
「一緒に考えよう。魔法使いさんならいつか答えにたどり着けるはずだ」
「むー。斧戦士さん、実は答え知ってたりしない?」
「さてはて。アサシンも混ざるか?」
「そんな仲のよさそうなとこに混ざるのは遠慮したいとこだけど、せっかくのお誘いだもんね。ボクも入れて!」
「いいよー、みんなで考えるんだね」
「みんなでって、みんなの勘定にオレたち入ってんの?」
「さあ?」
舟長と剣士が疎外感からかそんな会話をする。アサシンと斧戦士は既に乗り気で、術式の紙を取り出して魔法使いを急かす。
「ここら一帯の天気だけ変えるんだよね?」
「そうそう。一キロぐらいでいいんじゃね」
「一キロ以内の……ああ違う、半径一キロ以内の」
「円状に天気が変わるのかな」
「そこも大変だから変えちゃう?」
「えー」
「ちょっと変えるだけだから。参照して反映っと」
「おお、短くなった」
意味変わっちゃってるような……とアサシンは思うが口には出さない。喜ぶ魔法使いの気分が害されてしまうのはあまりにもったいなかった。
「やっぱり魔法使いちゃんは笑ってなくちゃ」
にっこり笑った笑顔こそが女の子には一番似合うのだから。
今は真剣な表情で卓上にむかう魔法使いを見て、アサシンはそう思うのだった。
舟「で、何ができたんだ?」
魔「完全なる天気予報」
剣「んー?どういう意味だ?」
魔「明日の天気を参照し、10分だけ今日の天気を変える魔法、その名もウェザーチェンジャー」
舟「逆になっただけじゃねーか!」
魔「明日の天気は変わりません。今の天気を上書きします。地味に高度な魔法になっちゃったよ」
剣「これ、いつ使うんだ?」
魔「わたしが魔法使いたいのに雨が降ってるときとか」
舟「つまり昨日か……」
魔「ちなみにこの世界の天気予報は、各属性の魔素がどう増減しているかで判断する占い方式だよ」
舟「風の魔素が多いと、『明日は風が強くなるでしょう』って言うのか」
ア「水の魔素は雨、氷の魔素はあられや雪。日陽の魔素が多いと晴れになるらしいね」
斧「月陰が少ないと夜は曇りになるよ」
魔「天候は環境だからね。環境魔法の使い手であるこの世界の魔術師さんたちは、天気予報をよく確認しているんだよ」
剣「雨のときの水魔法ときたら、暴走してコントロールできないぜ」




