M-020 ハートマジック
ハートマジック
自重しない回復魔法
「む、これは……」
魔術書をめくっていた魔法使いの手が止まる。そこにあったのはハートマジックという文字。攻撃魔法かもしれないそれを、魔法使いは回復魔法だろうと断定した。
術式は美しかったが複雑で、SP消費は書いてない。それでも魔法使いはこの魔法を絶対習得してみせる、と心に誓った。
「魔法使いちゃん、ご飯だよー」
「はーい、すぐ行きまーす」
夕食後、お風呂に入ってぐっすり眠る魔法使い。あの魔法のことを忘れてしまった訳ではない。夜中に頑張っても成果は上がらないことを考慮した結果だ。
「おやすみー」
「おはよーわたし」
ご飯を食べて、歯みがきも済ませて、よし。早速魔術書の解明に取りかかる。
まずは術式、魔法陣を写し取って、そのままだと左右反転してしまうので、さらに写し取る。
次に、魔法の内容について確認。つい最近、エロエロビームの対象範囲を間違えて、舟長にマジギレされる失敗を犯したばかりだったから、ここはかなり慎重に。
「この構造……。確かヒーリングエリアに。……うん。やはりHPが回復することは間違いないみたいだ」
ヒーリングエリアの術式と比べれば、類似する点が上がってくる。だが異なる点もあった。ヒーリングエリアはたいへん単純な構造をしている。それに対し、ハートマジックの構造はまだまだ記述が続いていた。
魔法使いがうなる。
「or条件か、and条件か」
or条件は次の効果がデメリットの可能性がある。うかつにスペルだけ唱えて実証する訳にはいかなくなる。
and条件にデメリットが発生することもないわけではないが、それ以上の恩恵を受けられるのであれば、不利な記述は無視できる。
「わからないな……効果は……これも見たことがあるような。リバイブ、オールクリア、あとは……?」
持っている回復魔法をすべて上げて、術式をハートマジックのものと比べてみる。魔法使いが確信した通り、似たような記述が見られた。
これで、HP回復、蘇生、状態異常回復、の三つが揃った訳だが、他に回復するものなどあっただろうか。
「SPを回復? いや違うな……増幅、何を? マジカルバリアか? 違う。よし、……この際だ、全部調べてみよう」
魔法使いは覚えている魔法をすべて書き出し、ひとつひとつ確かめていく。
途中で、攻撃魔法ではなかったことに気が付いて大部分のスキルに線が引かれたが、それでもパッと数えられないぐらいの量が残った。
「ライズ……ちょっと見辛いけどある。プロテクト……ある。ということは……」
ライズは攻撃力上昇の魔法、プロテクトは防御上昇の魔法である。あと二つ似たような記述があるということは……?
魔法使いはにやりとした。攻防上がると来て四つ記述があるなんて、一つしかないじゃないか。魔法使いは後半の効果を確めもせず、階段を駆け下りた。
「誰かいるー?」
「オレしかいないけど、なんだよ、魔法の解析は終わったのか」
「なんだ舟長か、いや舟長でいいや!」
「おい」
「新しい回復魔法見つけたの、ちょっと試させて!」
「それホントに回復魔法なんだよな?」
舟長が心配そうに尋ねるが、答えは返ってこない。
魔法使いの心の中には生け贄……ゲフンゲフン、仲間を見つけた喜びで一杯だったからだ。
「ハートマジック……の前にこれ飲んで」
「なにこれ……うわあまっ」
「体力が減るポーション」
「減る!?」
「これで名実とともに回復魔法が使えるね」
「あのなあ……そういうのは先に言うべきだと思うんですが?」
「知らなーい。さ、くらえっ! ハートマジック!」
「くらえ!?」
至近距離で突きつけられた杖にビビる舟長。そのまま、魔法使いは魔法を発動させた。キラキラした謎の粉が、ハートを形どる。それが舟長に吸い込まれていった。
「調子はどう?」
「なんか1,000ぐらい回復したぞ」
「ステ見せて」
「ステータス? まあいいけど」
「やっぱり! すごいや。攻撃・防御・魔法……魔法防御はあれ? 素早さ上がってるし」
「何がなんだか分からんが、もういい?」
「ダメ! 死んだときの検証にも付き合って!」
ということで、今日の舟長の受難はまだまだ続くのじゃ。
魔「HP全回復、蘇生、状態異常全回復、ステータス四種ぐーんとアップ、のはずだったんだけどなぁ」
舟「どこの無双ゲーからパクって来たんだ、言え。それとも俺TUEEE系か」
魔「どっちでもねーよ。どっちかって言うと、しんどい系の運ゲーだよ」
舟「パクったことは認めるのか」
魔「はっしまった」
舟「しかし、HPが999で最大のゲーム? オレの知らないゲームか」
魔「おい馬鹿やめろください」
魔「SP消費は最大SPの1/10にしたよ」
舟「原作では0だもんな。まさに自重してない」




