M-191 アイシャッターズ
アイシャッターズ
目で見たそのままを
「デジタルカメラなんて存在しないけれどー」
鼻歌を歌いながら階段を駆け下りる魔法使い。
意味は……問うては駄目な気がする。
「それでもいつでも、写真が撮れるー」
その歌声は、音痴である。
その一言に尽きた。
魔法使い自身も自覚していることだが、彼女は決して歌はうまくない。
しかし、歌を歌うのは好きときた。
「このしかと開いた両目さえあれば、いつでもー」
一階にたどり着いた魔法使いは、三人がだべっているだろうリビングに向かう。
足取りは軽い。
「ぱちんと目をつぶれば、その風景を心にしまえるのさー」
「なに? その歌」
「新しい魔法の宣伝歌」
「人前で歌うのは賛同できないなあ」
「デジカメとか通じないぜ、たぶん」
「後半ポエムかよ」
散々な言われように、魔法使いは舟長の頭を叩いた。
杖で、ポコポコ叩いた。
「痛くないけど、やめろ」
「痛くないならいいじゃん」
「ああ、もうリズムずれてくるの気になるからやめろ!」
「どんな理由!?」
とりあえず、魔法使いは舟長の頭を叩くのをやめる。
杖の先をハンカチで拭いてきれいにする。
欠けてないか、とチェックも忘れない。
「アイシャッターズ!」
「うお、なんだ!?」
「まっ眩しい!」
「ライトきつめにし過ぎたかなあ」
魔法使いにだけ見える仮想ビューを見ながら、彼女はさっき撮った雑談の様子を印刷した。
舟「盗撮し放題かよ……」
魔「シャッター音付けときます」
ア「取り終わったあとも、びっくりするほど眩しいままなんだけど」
魔「ありゃりゃー?」
剣「この世界、まだ写真の概念ないからなあ」




