M-015 テレポーテーション
テレポーテーション
集団を運ぶちから
「テレポーテーション発動!」
魔法使いが叫んだ。ワープの魔法の失敗を踏まえて、まず人数を数えてから転移するつもりらしい。
控えめなエフェクトが、スカイアドベンチャーの面々を包み込んでいく。
実験現場はお馴染みの草原。トルネードやワープの魔法でひどい目にあった草原である。
「さん、に、いち……転移!」
スカイアドベンチャー五人の姿がかき消えた。そして五メートル先で出現。
魔法使いが草原に寝っころがる。その表情はとても成功したとは言い難くて。
「どうした?」
唸る魔法使いに異変を感じた舟長が尋ねるが、返事はない。代わりにアサシンがなにかに気がついて声を上げた。
「たいへん、SPが足りないみたい!」
「SP切れ!? 魔法使いがか!?」
「回復薬を、早く!」
本気の魔法使いのSPはなんと1,000超え。
それが一瞬でなくなって、さらに足りないというのだから、この魔法のすごさがわかるだろうか。
五人を一気に運ぶという、規模の大きさも難しさに拍車をかけている。
「うう、頭が痛い」
「大丈夫……じゃないよな。一旦家に戻って休憩をとろう」
「ああ、それがいい」
斧戦士がなおを唸る魔法使いを軽々持ち上げ、家のなかに消えていく。もちろん他の四人もすぐにそのあとを追った。
腕力と運動能力の高さは比例する。
重たい装備を抱えた剣士が一番遅かった。
「あれはどういうことなのか聞いてもいいか?」
「なんとか大丈夫」
テーブルについた魔法使い。ようやく喋れるようになったらしく、重い頭を手で支えつつ答えた。
四人も次々に席につきテーブルを囲む。
「たぶん、重かったのは最初に何人いるか、って数えるところだね。あそこで900ぐらいSPを持ってかれて、移動する分のSPが足りなかった。それでわたしの方の制御ができなくなって、中途半端な場所に出てしまったと」
一気に話して、ふー、と息をつく魔法使い。
「じゃあ、移動分のSPは一気に消費されるんだね。移動に伴って徐々に減るのかと思ってた」
「残り100ぐらいのSPで五メートルしか移動できなかった訳じゃねーんだな」
「うん、うん。そう。必要なのは150ぐらいかな、たぶん。私の頭がもっと耐えれば距離は長くなっただろうし、早くに限界が来ていたら一メートルも飛ばなかったかもしれない」
魔法使いは再びふー、と息をつくと、頭の支えにしていた手を外した。だいぶ頭が冴えてきたようだ。
「最初の頭数を数えるのは必須なのか?」
舟長が問う。
「必須だよ。うちは五人パーティーだけど、冒険者の中には六人だったり三人だったりするところがあるじゃない」
「五人だけに限定することはできるのか」
「可能。でもそれじゃ汎用魔法じゃなくなっちゃうよ」
「汎用じゃなくていいんだよ。いわば、SK専用魔法だな。で、使ってるうちに他のやつが欲しがるかもしれない。そんときになってから作ればいいんだよ」
「むー」
「それより負担を軽くして、まず完成させようぜ。五人だけの運用なら負担は減るか?」
「やってみないと分からない」
始めから成功することだけを考えてはならないのだ。失敗して、失敗を重ねた先に、極まった魔法があり、すべてがある。
魔法使いはそれを学ぼうとしている。舟長はそれを教えようとしている。
「分かった。取りあえず五人で使えるようにしてみる」
「オーケー。こっちで手伝えることは?」
「……移動するときのポイントに、なにか目印が欲しいんだけど。なにかできる?」
「そりゃまたアバウトな注文で」
「ワープポイントのことか、もしかして」
「よくゲームであるよね。さわるとワープポイントが設定されました、とか言うやつ」
「それなら作れる気がするな」
そして、5日後。
打って変わって元気になった魔法使いは、廊下を歩いていた。陽気に鼻歌を歌いながら、四人が作業している部屋に踏み込む。
するとそこでは驚くべき光景が広がっていた。
魔法使いは一度扉を閉じ、部屋の位置と名前を確認する。作業室、うん間違ってない。
「なにこれ、まさかこんなきれいなのがワープポイントなの!?」
「そうだよ。やっぱり魔法使いさんが気に入らないと意味ないもんね。観賞用にミニサイズのも作ってたから、それ、あとであげる」
「多芸だなコイツ」
斧戦士のやたらめったらなスキルに感嘆する舟長。
彼らが作ったワープポイントは、まず小さかった。初回から小型化に成功していた。
それから美しかった。最悪、岩のようなものを想定していた魔法使いにとって、香水の瓶のような華奢なワープポイントは信じがたいものであった。
「魔法使いさん、この触媒を持って。あの赤いワープポイントに近付くんだ」
「おっ?おおっ、引っ張られる……?」
「よし、成功だな」
「待って、このワープポイントめっちゃ高度な技術使われてる! わたしのテレポーテーションよりはるかに!」
またもや驚く魔法使い。
三つ目の驚きポイントはその精工で緻密な技術にあった。同じ触媒が惹かれ合う性質を使うことで、魔法使いの要望と負担軽減に応えている。
別の場所に転移したいときは、また別の触媒と対応するワープポイントを設置すればよいのだ。
「そんなことないだろ。赤いボタンを押したら、赤いランプがつくようなものだぞ。簡単、簡単」
「本当にそうなんだろうか」
「まあ、量産は出来そうもないな。使った素材がレアだから」
「なに使ったの?」
「スターディヤモンド」
「なにその妙な発音。っていうかスターダイアモンドなの!? これ!」
「たくさんあるしいいじゃねーか」
「いくらダイアモンドよりたくさん手にはいるとはいえ、格付け的には上から三番目のレア素材を使うとはなにごとだ! とても舟長が監督していたこととは思えんぞ!」
「説明乙」
「魔法使いさん、一応言っとくが、素材を選んだのは舟長だからな?」
「うん」
素直に頷く魔法使い。
茶番はそこまでにして、実際に運用してみる。
ワープポイントの大きさは1メートル50センチ。魔法使いより少し低い程度だ。それを件の草原に設置する。魔法使いたち五人は、少し離れた位置でテレポーテーションの準備をする。
「いくよ。テレポーテーションver.5!」
「何で五?」
「五人用だから」
発動したテレポーテーションは、以前よりずっと控えめなエフェクトで、五人を視界から隠していく。
完全に消えたあと、ワンクッション置いて、ワープポイント地点に五人の姿が現れた。
「成功した!?」
「なんで驚いてんの、おまえ」
「喜ぼうぜ、この快挙を!」
「やったね、魔法使いちゃん!」
「仲間が(ry」
「やめい」
「わーい、やったぁあ!」
舟長のツッコミを、魔法使いの歓声がかき消す。
喜びに沸くスカイアドベンチャー。明るい空気に満ちていた。
魔「成功したよ。みんなありがとね」
舟「おう。負担はどうだった?」
魔「全然違うよ!発動までに80、移動に20で合計100ってとこかな」
斧「それなら誰でも使えそうだな。汎用魔法の第一歩は既に踏み出された!」
魔「みんなの作ってくれたワープポイントのおかげだよ。こう、空飛んでて目印があるっていい感じ?」
舟「日本語で頼む」
剣「同じような家が並ぶ中、ひとつだけ洗濯物が干しっぱなし。あっあれが自分の家だ! みたいな感じ」
ア「家庭環境すごそう」
舟「ワープポイントに関しては、ほとんど斧戦士がやったからな。オレたちは雑談しつつ、たまに口を出しつつ素材を選んだだけだ」
ア「なんでこんなに魔術環境に明るいんだろ。悔しいな。ボクも魔法を扱う身なのに」
斧「魔術ね……黒魔術やってるサンドバッグぐらいしか身近に居ねーな」
剣「それだろ!……って、サンドバッグ?」
舟「喋るサンドバッグか。人間か人間でないか、どっちかだな」




