M-160 フールオブマスク
フールオブマスク
前が見えねえ
「なんと。もうこんな時間か」
現代日本で生きる乙女は、時間に急いでいた。
今日からアルバイトの初日だというのに、遅れそうだったのだ。
急いで布団を蹴散らし、パンをくわえながら着替えを済ませ、ちゃんとパンを食べ終わってからバス停に急いだものだから、時間が忙しくなっていた。
理想は、8:15のバスに乗ること。
そのためには、5分前にはバス停にいなければならない。
田舎のバスは、時に早く、時に遅いのだ。
「ふおおおおお!」
女らしさとか、建前とか、すべてをかなぐり捨てて乙女は走る。
交差点に差し掛かった。
目指すバス停はあと少し。
良かった――まだバスは来ていないみたい。
点滅し始めた信号を渡り、ふと気づいた。
目の前に桃色の自動車がいる。
最初に思ったのは疑問だった。
なんで?
曲がって……。いや、そうじゃない。見えてなかった?
信号は黄色、普通なら止まるべきだ。
そう、交通法にも書いてある。
なのに、この車は曲がってきた。歩行者のいる横断歩道を!
色々考えている暇はなかった。
乙女は謎が渦巻く脳を放置して、回避を試みる。
しかし、残念。乙女は典型的な運動不足ガール。
回避は失敗し――。
「こうして生まれたのが、このわたしです」
「嘘つけ!」
グラスアローの魔法使いは、堂々と嘘をついた。
今日は嘘をついてもいい日だからといって、話が壮大過ぎである。
舟長は三行ぐらいでまとめて欲しかった。
「ほんとうは桃色のトラックにしたかったんだけど、そんなのないからさー」
「仮にも異世界を名乗るファンタジー小説に、トラックとかいう単語を持ち込むな!」
「色付きトラックでもよかったか」
テンプレの転生物語
ただし、轢いたのは普通の自動車
いつもの魔導研究所です
「トラックにする必要性ないだろ!」
「だってトラックはテンプレ上、重要なファクターだからさ」
「ファクターっておまえ、意味知ってんの?」
「ううん」
舟長は盛大なため息をついた。
ファクターという言葉はそこまで難しい言葉ではない。
それを調べもせず使っている魔法使いにがっくりきたのだ。
「じゃあ、今日はこれだけー」
「待て、魔導研究所なのに魔法を紹介しないのはどうなんだ?」
「だいじょぶ、今回で三回目だからさ」
「何を根拠に大丈夫って言ってるんだよ!?」
やけに突っかかってくる舟長。
魔法使いは眉を寄せ、しばし考える。
「うるさい舟長だな。いいよ、だったら、こうしよう。エイプリルフールのフールを取って、フールオブマスク!」
「実は用意してたな、こいつ……ってなんだ!?」
「愚者には見えないマスクだよ」
「ネタバレ防止の黒い目隠しじゃねーか!」
魔「エイプリルフールのウソは午前中までなんだっけ?」
舟「ああ、なんかそういうよな」
魔「じゃあ、エイプリルフールのネタはいつまで?」
舟「普通に考えて、二日になったらアウトだろ」
魔「じゃあ、二日の0時に予約投稿しとこ」
舟「……現実と小説世界をごったにした発言をしないでくれませんか?」
※2018.4.1 無事、忘れずに投稿できたので、舟長の心配は空振りとなります。




