M-012 ソウルシールド
ソウルシールド
精神の力でバリアを張る
今日も今日とて再現魔法に拘る魔法使いは、術式――魔法陣を組んで魔法を唱えていた。
今日のお題はバリアの魔法。精神の力でシールドを張る、大変高度な魔法である。
「これは精神の力が強くないと張り続けられないんだ」
「へえ……つまり?」
「敵の技を無効化する効果があるのに、いざ敵の技を食らうとなると目をつぶっちゃうような人はダメです」
「それおまえじゃん」
「うん。だからこれは他のみんなに使ってもらおうと思って。常に勝ち続ける予定のある人〜」
「いねーよそんなん!」
「呼んだ?」
顔を出したのは斧戦士だ。先日のトルネードで術式を改善して以来、こうして魔法陣を組むときは近くにいるようにしているらしい。
「勝ち続ける気概のある人じゃなくて予定のある人だよ。間違えてる」
「いや、だからどっちもいねーって。えっ?」
「うちのパーティーではそんのぐらいメンタル強い人、斧戦士ぐらいしかいないよね」
「アサシンちゃん! アサシンちゃんはどう?」
「うーん、なんか一度失敗したことがある気がするんだよねー、その手のやつは」
「おーっと、危ない危ない」
「じゃあ斧戦士ぐらいしか居ないかぁ」
剣士はよくみんなを庇って死ぬし、舟長や魔法使いのメンタルは決して強くない。
パーティー戦でも生き残りやすいアサシンがダメだとすれば、もう斧戦士しか残っていないのである。
斧戦士だって決して後悔しないという訳ではないし、魔法には滅法弱いので、その部分では負け続けている面もある。
しかし今回は一切の面倒事に目をつむって、バリアの魔法を伝授することにしたらしい。
「この術式は覚えなくていいからスペルとSPにだけ気を付けて」
「やっぱりげんさ……げふん、SPはバリア張ってる間消費し続けるのか?」
「そうだよ。そうじゃないと再現じゃないし。なにより原理からしても精神とシナジーがありそうなSPが減らないとまずいじゃない」
「なんつう理由だ」
「現在SPは727、概算で70秒は持つな」
「一分強か……げんさ、うんずいぶん短いな」
「みんな、隠す気ないよね?」
そりゃ再現魔法ですし。元があるのは当然ですよね?
この異世界で再現するといえば、ファンタジー小説や映画に出てくる魔法のことなんですが。ゲーム?現実の方がよほど冒険に溢れてますしおすし。
「うるせー。再現したっていいだろ!」
「落ち着け、地の文に対してキレるのはいくらメタ視点でもヤバイ」
「舟長こそやばいこと言ってるってば」
「あー、魔法発動しまーす。ソウルシールド」
「お、きれいな半球状に……!?」
原作と同じ、きれいな半球状だと!?
魔法使いさんがわたしに対してキレてるらしいので、代わりに解説すると、普通の人のソウルシールドは四角、もしくはイビツな形状で形成されます。
これは精神に欠陥があるせいだと魔法使いさんは見ているようですね。
こうして美しい半球状が保てるイコール、この魔法を使う資格があるということなのかもしれません。
「ちなみにわたしは歪みが出たクチ」
「おい70秒すぐにたつぞ」
「あっ、じゃあ魔法を撃つので、効果を見てみる?」
「消し炭になりそうなヨカーン」
「蘇生魔法の用意を頼む」
「あいよ」
「みんな、わたしの組んだ術式とわたしの編んだ魔法どっちが強いと思ってんの?」
「魔法」
「魔法でしょ?」
「魔法だろ」
「魔法だぜ」
「なにぃ!? もう怒った、くらえ、斧戦士さん!」
「八つ当たりの材料に使われるおれ、可哀想」
「自分で言うな!」
どかーん。爆発音のあと残っていたのは、なんと斧戦士!ギリギリ2だけHPが残っていたらしい。マジで死にそう。
「リバ……あれ、生きてる」
「ヒールください、ヒール」
「むむ、残りSPが吹き飛んでる。ダメージを肩代わりしたのか?」
「検証はいいのでヒールをください」
「仕方ないヒール!」
「あざっす。ただいま」
「おか」
「おかえりー」
取りあえず、一回目のソウルシールドは成功した。
安定させるためには何度か実験を重ねなければならない。二度目はきっと協力してくれる。だけどそれ以降は?
一人で実証できないだけに不安は募る。
「これからも実験に付き合ってくれる?」
「ド直球だな」
「もっと色気のある方法で誘えよな」
「構わないけど、怒ったりするのはやめた方がいい。魔法使いさんの身体にも悪いし」
「おまえまさか、ドMなの?」
「おれがドMに見えるなら眼科行った方がいいぞ」
良かった。みんな純粋な厚意で協力してくれるみたい。魔法使いはとても嬉しく思うのであった。
魔「再現率75%かな」
舟「ずいぶん厳しいんだな」
魔「みんなが使ってくれる魔法じゃなきゃね。それに完全無効じゃないのがどうにも……」
舟「納得できないのか。難儀な性格だぜ」




