M-011 トルネード
トルネード
再現魔法そのいち
「トルネード!」
トルネードは無敵の魔法だ。トルネードで飛べばどんな敵もイチコロ。トルネードをまとったままなら溶岩の上だって歩けちゃう。
そう、トルネードはロマンあふれる魔法なのだ!
「なんか、思ってたのと違う」
髪はボサボサ、服は揉みくちゃ、あちこちに木の葉を張り付けた魔法使いさんが言った。
なんとなく不機嫌そうだ。ぶすっとしている。
「どったの魔法使いさん、そんなに髪ボサボサで」
「トルネード使った」
「へえ……取りあえずお風呂入ってきたら?」
「アサシンちゃん」
「魔法使いなんかいつも頭ボサボサじゃねーか……ってうわ!」
「舟長……」
「おいおい不穏な雰囲気だな。どうした?」
「剣士……」
「ホントにどうしたんだ?」
「斧戦士さん。まとめてみんな吹っ飛べ、トルネード!」
魔法使いさんが風の衣をまとい、仲間を誰一人巻き込まず、どこかへ飛んでった。
あっという間の出来事だった。
30分後、さらにぶすくれた魔法使いが、さらにボロボロになった身体を引きずって帰ってきた。
今度は舟長さえも優しく接してくれた。
「ちくしょうめ〜」
風呂上がりの魔法使いがそう呟く。短パン半袖でとても涼しそう。きれいになった黒髪が、タオルからさらさら流れる。
「なんなの、あれ?」
「操作が少ししか効かないトルネード」
「その口ぶり、しっかり効くトルネードもあるのか?」
「ある」
「そっち使えばいいだろ」
「そっちは無敵になれないから」
「無敵にって、敵に当たっても平気ってことか」
「そう。トルネードの中心部に入って、わたしも攻撃に参加する、そのつもりで術式を組んだんだけど」
「これ、魔法使いちゃんが作った魔法なの!?」
すごいじゃん、とアサシンが騒ぐ。魔法使いの表情が少し和らいだ。
しかし、すぐにもとの険しい顔に戻る。
「できたのはいいんだけど、中心部が風の回転と合わせて回っちゃって、とてもじゃないけどコントロールできないんだ」
「それは……大変だね」
「道理で訳の分からん方向へ飛んでった訳だ」
「あれはわたしの方向音痴さが出ていた訳ではないのだ」
わざわざこんな発言をするということは、半分はそう思っているのだろう。突っ込み待ちな彼女は目をキョロキョロさせている。
「わたし自身がトルネードになることだ!っていう、このトルネードは失敗作ってことでFA?」
「なにがファイナルアンサーだ。直して使えよ」
「だって……直すところが分からないんだもん」
「ちょっと術式見せてみて」
「斧戦士さん? いいけど」
一番魔法から遠そうな斧戦士が口を挟む。怪訝な顔をしつつも魔法使いは術式、トルネードの魔法陣を見せた。
これが美しく見えるようなら魔法使いとしての適性があり、美しい魔法陣であればあるほど使いやすく簡単な魔法であると言われている。
トルネードははっきり言って美しくなかった。左右対称でも点対称でもなく、こう見て分かるほどぐちゃぐちゃに入り乱れていた。
これなら以前宿題でやっていたツリーシードの方がましである。
「なにがなんだか分かるもんじゃないな……」
「うむ、わたしもだ」
「いや、作った本人は分からないとダメでしょ」
「むー」
むくれる魔法使いの隣で術式をじっと見つめていた斧戦士が、手をにゅっと出す。指しているのは、術式の右下の方だ。
「ここは魔法の何の要素が書き込まれているんだ?」
「分かるのか!?」
「分からんが、重そうだ。ここの記述が少なくなれば少しバランスが保てるだろ」
「そこはちょうど中の人をどう固定するか、の部分で減らせないの」
「なんだ、ちゃんと分かってるじゃねーか」
「それどころか増やそうとしてるとこなんだよね……」
「まずいじゃん」
「文字を小さくすれば行けるかな……って」
「そういう問題じゃねーよ」
問題ははっきりしたが、その問題は解決しそうにないことが分かり、話は振り出しに戻る。
膠着してしまった事態を動かしたのは、またにしても斧戦士だった。
「どうしてもそこが重くなるって言うなら、配置を変えるのはどうだろう」
「配置?」
「そう、四つに分けている中に組み込もうとするからうまくいかないのかもしれない。重い部分を真ん中にして、他の記述を真ん中を取り巻くように置いていったらどうだろう」
「……! やってみる!」
魔法使いはどたどたと階段を駆け上がり、自室に飛び込んでいく。
それを斧戦士は優しい顔で眺めていた。
「なんだろう、おまえすごいな」
「舟長、語彙が泣いてるよ!」
「専門的なことは全然わかんねーな」
「そうか? 今回のはパズルの話だぞ。魔法使いさんはパズル系苦手だからな。分からんかったんだろう」
「ホントにか? おまえも魔法使い目指せばいいんじゃね?」
「何を言う舟長。おれたちSKの最終ジョブは全員魔法使いだろ?」
「チッ、はぐらかしやがって……」
再びどたどたという足音が聞こえてきて、うわあぶねとか声も聞こえた。
魔法使いが術式の書き換えを終えたらしい。階段急いで下りると危ないよ、とアサシンが声をかける。
「書けた!」
「ほー、随分スッキリしたじゃねーか」
「真ん中の記述もすこし変えてみたんだ、早速試してくる!」
止める暇もなく、魔法使いは暮れ始めた外に向かって駆け出していく。声をかける隙も与えない俊敏な動きだった。
「はやっ」
「見に行くか、心配だし」
「あれ、魔法使いちゃんの声が聞こえる」
「前方にいるな」
「コントロールできてるみたいだ」
「ジャンプした?」
「バウンドブラストかな。魔法も使えるってことは操縦席固定されたのか」
「操縦席言うな」
「けど、あれ飛んでなくない?」
「……魔法使いが良ければいいんだよ、その辺りは」
魔「再現率50%くらい」
舟「すげぇビミョーなパクリ具合」
魔「パクリじゃない。再現だって言っとるだろーが」
斧「キシャー!」
ア「なにこの連携技」
剣「炎や敵に無敵な効果は再現できてるからパクリだよ」
ア「それフォローなの?」
剣「おうよ」




