M-009 ツリーシード
ツリーシード
木を生やす魔法
魔法使いさんは、魔法学園の生徒である。
彼女の通う魔法学園は、バトルメイジの育成に力を入れていて、多くの生徒が将来戦う魔術師になろうとしている。
しかし、スカイアドベンチャーという名の冒険者として既にバリバリ活躍している魔法使いさんは、バトルメイジの資格なしにバトルメイジである。
だから学園内では好き勝手し放題。
例えば、魔法の開発を宿題に出された時のこと……。
「なに作って来た?」
「影魔法の攻撃魔法ー」
「うわ、レアなヤツ。いいなぁ、おれは炎属性にしちゃったからかぶってないか心配」
と、多くの生徒が新たな攻撃魔法を生み出したのに対し、魔法使いが何をしたかというと、木を生やす魔法である。
木を生やしてどうするのか本人も考えてなかった、というのだからもうダメである。深夜のテンションがなせる技だと魔法使いはうそぶくが、それ以前の問題だと仲間たちは思った。
「という訳で、どう活用するかも考えなくちゃいけないらしい」
「そうか。頑張れ」
魔法学園の隣にある職業学園に通う仲間たちは、この問題に関わる気はないらしい。魔法使いも、まずは自分で考えてからにしたかった。
一つ思い付くのが、壁としての利用である。戦う魔術師として働くのであれば、壁は必須の条件だ。
しかし、魔法使いは、剣士に庇ってもらう、すなわち剣士に壁になってもらうことで、既にバトルメイジの地位を確立させている。
作り手すら使わない壁魔法に意味を見出だせるだろうか。魔法使いにはできなかった。
「これ、生やすとどうなるの?」
「生やすとって?」
「しばらく残るのか、すぐ消えちゃうのかなって」
「攻撃魔法6回分は耐えるよ」
「それって地味にすごくない?」
アサシンが驚く。
魔法の撃ち合いになりがちなメイジ同士の戦いを想定した魔法使いだが、戦いはメイジだけで行うものではない。
「今度のパーティー戦、使ってみようよ!」
「いいけど……邪魔にならない?」
「そんなにたくさん生えてくるの!?」
「ううん、一本だけ」
「ならいいじゃない。魔法使いちゃん、なんだかすごく弱気だけど何かあった?」
「アサシン、魔法使いさんは誉められるのになれてないんだ」
「ああ、なるほど。でも大丈夫。この魔法の活用法、ボクが保障するからね」
斧戦士のフォローで、アサシンの疑問がようやく治まる。そんで週末の金曜日の模擬バトルで早速お披露目ということになったのだ。
模擬バトルの日まで、本当にこれでいいのか、と悶々した魔法使いだったが、当日になってやっと腹をくくったらしい。
いつもの強気な表情で、朝食を食べていた。
アサシンにも、ちょっと元気でた? と確認される始末。心配かけてたんだね、ありがとう。
「さあ行こう、わたしの勇気が挫けぬうちに!」
「魔法使いさん、ヨーグルトが残ってますよ」
「ふんがー」
勇気、挫けたり。
さて、気合いを取り戻してバトルフィールド。相手は今日のために急遽組んだパーティーらしい。ギクシャクとした……いや初々しい感じで非常に羨ましい。
バトルメイジたるもの、初対面の相手とも打ち解けて、即座に実力を発揮するべしと決まっているのだ。
魔法使いさんはまだそこが出来ていない。
「ツリーシード!」
試合が始まった。
まず、SKの魔法使いが初手で魔法を唱える。
気合い十分。その気合いに合わせて、大きな木が生えた。木の高さは2メートルぐらいか。人一人ならゆうに隠れられるサイズだ。
「なんだあれ!?」
「見たこともない魔法……!」
「取りあえずぶっ壊しちまえばいいんだろ!」
敵の斧戦士が、武器を振り回した。ガツンガツン、木に降り下ろされる斧。
適性ツールだ。木こりには斧と相場が決まっている。
魔法樹は傾いでいく。そしてついには倒れて消えた。
「なにするつもりだったかしらねーけど、これでちゃらだぜ!」
「そうかな?」
障害物への破壊に喜びのおたけびを上げる敵。だが、すぐ近くにアサシンが迫っていた。アサシンのスキル、アサシンラインが発動する。戦士は気絶。
残るは魔術師な彼女と騎士な彼。そんな彼らは、ツリーシードに気をとられた隙を、SKの斧戦士に突かれていた。
「おれはそっちの戦士ほど、甘くない。しっかり守ってやれよ、新米騎士さん」
「ボクはこっちだ!」
「……! 挑発の一種か。ならばおまえから倒すまで!」
「ツリーシード!」
「わたしだって……ファイアス!」
「なんでみんな木をなんとかしようとするの!?」
「なんか仕掛けがあると思ってんだろうな。種も仕掛けもないんだが」
「まあ、この木、たしかに子孫残せないから種はないけどね!」
「あー、面白い面白い」
適当にあしらう舟長。敵のチームが三人だったので、舟長と剣士はお留守番しているのだ。
剣士が何故お留守番枠なのかというと、いつも騎士的な仕事を今日は木が代行してくれるというので、快く譲ったとのことらしい。つまり、ツリーシードを使う条件として、剣士を出さずに戦うという、魔法使いの無茶ぶりに答えた形になる
「燃えない!?」
「ふはは、山火事対策はしてあるのだよ!」
「相変わらず地味に便利な機能を考えおって……」
「地味っていうな、地味って!」
挑発に誘われている斧戦士がわざわざ戻ってきて言った。言い終わったら、また騎士をボコりに言ったので、本当にそのためだけに戻ってきたらしい。
というか騎士がマジで固い。物理防御はしっかり振ってあるようだ。
「チェンジ」
「わかった、ボクが魔法で倒しちゃうって寸法ね」
「あのわたしは……?」
「あんたはツリーシードの後ろにでも隠れとけ」
今日はツリーシードしか使わない縛りなんですか? 魔法使いさん。
「マジックアーク!」
「無属性!? わたしがいうのもなんだけど、レアなの持ってるね!」
「流石に当たると不味いか、魔法使いちゃん、ちょっと間借りさせて!」
「どうぞごゆっくり」
ツリーシードを正しく壁として使った回避方法である。
無属性魔法が木に当り、霧散する。
「ん、いまなにか落ちた?」
「拾っときます」
雑務係に徹する魔法使い。メイジとはなんだったのか。
と、そうこうしているうちに相手の騎士がアサシンの気絶攻撃で倒れていた。魔法防御も高かったのだろうか。でも騎士職なら即死耐性ぐらい付けておくべきだったね。
うちの剣士さんなんか、スタン以外の状態異常、即死も含む全ての耐性を網羅してるぞ。すごいだろー。
「こうなったらやけくそです! マジックアーク! マジックアーク! マジックアーク!」
「魔法使いさん、友達になれそうな人見つけましたよ」
「まるでわたしみたいだ……」
「いや、そこまでうちの魔法使いちゃんに似てないでしょ」
最後に残った魔術師の抵抗も虚しく、斧戦士の武器によって魔術師は倒れる。
スカイアドベンチャーの勝利だった。
魔法使いは喜びより何よりも先にツリーシードで生えた魔法樹に向かう。後片付けだ。このあとも試合は続く。余計な障害物は早急に排除する必要があった。
魔法使いの無属性魔法が炸裂する。魔法樹は消え去った。代わりに……。
「木材と、何故か炭?を手に入れたよ!」
「は?」
「なにか素材に使えるかなぁ」
まきと炭が手に入りましたとさ、ちゃんちゃん。
魔「攻撃が当たるたびに素材がドロップするのだ」
舟「炭が落ちてたのは炎魔法のせいか」
ア「まきが落ちるのに、本体の大きさは変わらないの?」
斧「ヒント、ソシャゲ仕様」
剣「おま……何からパクってんだよ!せめてRPGとかアクションにしろって!」
魔「パクリじゃないもん、発想を借りただけだもん!」
舟「借りてるじゃねーか」
気になる活用法は、燃えにくい魔法樹の特性を利用して、街路樹としてでも植えればいいんじゃないか、と魔法使いは思った。




