M-008 バインドシール
バインドシール
その場にとどまらせる
スカイアドベンチャーは五人が動けて初めて全力を出せるパーティーだ。
誰か一人の足が止まってもさほど問題ないが、全員の足が止まってしまったらどうなるか。
こうなる。
「エナジーフォース!」
「アイスブレード!」
「斧を飛ばすよ」
「えっちょ、ありなのかそれ!?」
「あ、斧が回収できない。魔神の斧を装備しよう」
「……あとであっちの斧も絶対回収しろよ、絶対!」
「また舟長の守銭奴が発動してるな」
舟長、斧戦士、剣士が使い物にならなくなり、アサシンと魔法使いの魔法攻撃でしのいでいる状態だ。
先の三人は遠距離攻撃手段を持っていないので、足止めされてしまうと攻撃がほとんど届かないのだ。
例外として、斧戦士の斧を投げる攻撃などがあるが、セリフの通り取りに行くことができないので、回数制限付きである。
「へえ、これお値打ちものなんですね」
「奪ってやったぜ。どうだ、悔しいか?」
「あとで奪い返すから全く問題ない。すげームカつくけど」
「舟長、押さえきれてねーって」
説明していたら、斧を盗られていた。まあ、下手に攻撃にさらされて壊れるより、誰かの手の内にあった方が安心なのでいいだろう。
そもそもこんなことになっている理由は、スカイアドベンチャーの存在にある。珍しく個々人が原因ではない。
スカイアドベンチャーは様々な成功を収めてきた冒険者である。しかし、成功の裏には失敗があり、依頼に失敗した冒険者がこうして私的な理由から喧嘩を売ってくることがあるのだ。
「負け惜しみか? へへっ、このまま畳み掛けてやる!」
「これがスカイアドベンチャー最初の敗北だっていう訳ですね!」
「やることがゲスイ山賊みたいだぞ。人のこと言えねーけど」
「はいはい敗北ね。よくしてるからそれほど辛くないわ」
今回のパーティーは、剣士なリーダーと、魔法使いな守銭奴、寡黙な僧侶の三人だけだが、対するSKは三人が行動不能、残る二人もかなり苦戦中とあって、厳しい戦いを強いられている。
どうも、この足元だけを固定化する魔法は僧侶が永続的に唱えているらしく、一向に解ける気配はない。
しかし、ワルを目指したい舟長はいいことを思い付いた。
「ジョブチェンジするか」
「オケィ」
「じゃあ、オレ僧侶で」
「オレはレンジャーだ」
「ガンナー行きまーす」
それぞれ物理遠距離攻撃や魔法攻撃ができるジョブに切り替えたのだ。上から順に、聖属性魔法攻撃、ボウガン、ハンドガンである。光と共に衣装が変わっていく。
僧侶は重たい緑色のローブを纏って。
レンジャーは青いシルクハットをかぶって。
ガンナーは藤色のコートを翻し、それぞれ攻撃を加えていく。
「ちっ、これでもダメなのかよ!?」
「はーい、まともに稼ぎましょうね冒険者なら、エナジーフォース!」
「それどんなエナジーフォース?」
「どれだけ規格外なんですの、戦闘中にジョブチェンジなんて……普段だってそう職は変えないものですのに!」
「うちの、スカイアドベンチャーの規格では、ジョブチェンジは禁止でもなんでもないんだよ」
「セイントエッジ! まあ、この生き方悪くないぜ。強要はせんがな」
「…………」
「黙ってちゃ分からない。ので、三連射」
攻撃方法さえ取り戻せばいつものSKである。相変わらず敵の攻撃はよく当たるが、回復魔法は別に禁じられていないため、いくらでも回復できる。
「ヒーリングエリア!」
「ナイス舟長!」
「でも回復量が……」
「それはいつも通りです」
「うるせぇ、戦いに集中しろ!」
「いつか血管を切るぞこいつ」
「切らぬなら自前で切ろうホトトギス」
「ホトトギス可哀想」
「くそっ、こいつらふざけてんのかよ!? 撤退だ、撤退しろ!」
「こんなところで引くんですの!? あと少しだったはずでしょう!」
「……勝ち目、なし」
「喋ったぁ! 寡黙な僧侶の人が喋ったよ!」
「お、おう。でもそっとしといてやれよ。せっかく寡黙なんだし」
舟長のよく分からないフォローが最後だった。戦うことをやめた敵のパーティーが、逃げ出して行こうとしている。
しかし、それを許さない人物がいた。斧戦士だ。今はガンナーな斧戦士は、コートをはためかせ、敵の僧侶に近づこうとする。
戦闘終了したから足の拘束も解けたと思ったのだろう。だが、予想に反して足は動かず、敵は遠ざかっていくばかり。
「……」
「オールクリア!」
魔法使いが万能な状態異常回復魔法を唱えるが効果なし。となればもうやることは一つしかないな、と斧戦士は思った。
確かめるように振り返った僧侶の額に吸い込まれていく銃弾。言うまでもない、斧戦士の攻撃だ。
どさりと倒れ込む音に反応して他の二人も振り替える。ライフルに持ち変えた斧戦士の攻撃が光る。
即死効果が発動した。
足は動くようになっている。術者が死んだからだろう。
「さあて、斧はどこかな」
どこか浮き浮きとした様子まで感じ取れる声。
さしもののスカイアドベンチャーもこれには思考停止してしまった。
斧「斧ありました」
舟「ありましたじゃない、何してんだおまえ!」
魔「か、回復〜」
剣「それより蘇生が先だ!」
魔「リバイブオール!」
斧「だってあの足止めいつまでもあったら不便じゃん」
舟「不便だけど、もっと穏便な方法があったろうよ!」
斧「穏便な……例えば?」
ア「思い付かないの!?」




