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7.星空の下で

 仲間たちがゴブリンロードを倒し、その後なぜか『学園もの』っぽい展開に巻き込まれてしまっているころ、


「はぁはぁ……」


 ホタルは地面に寝ころんでいた。


「ほら、早く起き上がる!」

「はぁい」


 地面に寝ていた原因ともいえる存在であるセフィの叱咤を受けたホタルはしぶしぶといった様子を前面に押し出して立ち上がる。


「こら、キミが修行したいって言ったんじゃないか! なんだその態度は! 可愛いなぁ!」


 その様子にセフィが怒る。……怒っていないように聞こえるが、おそらく怒っているだろう。

 ホタルはそんなことなど何のそのとあっさりスルーして、いい笑顔で言い放つ。


「いえ、さっきの角度から見えるセフィさんが可愛かったもので、ちょっと見とれてしまっていたんですよ」

「ふぁあ!」

「それでそんな幸せな時間を邪魔されてしまったのでちょっと拗ねただけです」

「はぅっ!」


 ここ最近はこのようにホタルがセフィをべた褒めすることによってうまくあしらうようになってきていた。

 セフィはこういった褒められ方になれていないので過剰に照れてしまうのだ。


「その照れ方もまた可愛いですがねぇ」

「うううっ」

「可愛いですねぇ」

「もー!」

「ふふふっ」


 ホタルがいつの間にかセフィの評論家のようになっていた。だんだんと変態化しているようなところがある。笑い方もどことなく怪しい雰囲気を漂わせている。というか、発言がホタルに対しての1の8メンバーと同じになってきているのは、やはりホタルもあの学校内で「入るな危険! 頭がおかしくなるので注意!」という謎の呼ばれ方をしているクラスの一員だからだろうか。


「……………………ずるい」

「はい?」


 いつものようにあしらっていたら、キッとこちらを睨んでいきなり「ずるい」などと言われて、ホタルは意味が分からず某警視庁の匿名な刑事さんのような返答をしてしまう。


「だって、普通はそういうのって好きな人に言うものでしょ! そんなむやみに言っちゃだめでしょ!」

「いえ、好きな人に言っているのですが」

「っ! ……もう~~~~~~~~~~! ズルイズルイズルイズルイ!」

「せ、セフィさん?」

「ええい! こうなったら八つ当たりだぁ! 私の攻撃を受けて見ろぉ!」

「ちょ、キャラ変わってますよ! ──って、おわぁ!」


 最初にあったときの凛としていて、でもどこか抜けているといった印象のあるセフィが、今やただ褒められるだけで照れてしまう、花も恥じらう乙女みたいになっていた。

 これを傍目から聞いていたら「何イチャついてんだよ!」と言って砂糖をはきたくなるような光景だっただろう。格好が以前びしょぬれになったときに代わりに着ていた制服であったため、余計に甘酸っぱい少女漫画を見てるような気分にさせるのに拍車をかけているのも原因だ。


 ……やっていることは、互いに魔素で体をコーティングしてびっくりするくらいの身体能力を用いた拳主体の超近接戦闘であるため、その様子を実際に見たらそんな感情も吹き飛んで、「け、喧嘩はほどほどに、ね?」と言いたくなってしまうだろうが、今ここにはホタルとセフィの二人しかいないため止める者はいないのだった。


 ◆


「そ、れにしても!」


 必死の攻防のさなか、セフィがホタルに話しかける。無論拳を添えてだが。


「な、んですか!」


 会話に添えられた拳を紙一重でかわして、同じように拳とともにホタルは返答する。

 これは二人にはよくあることだ。

 セフィが「たとえ相手に話しかけられてもしっかり対応できるようになる必要がある」というところからこういったことが訓練の中でたびたび展開されるようになったのだ。


「だいぶ強くなったね! って思ってね!」

「それはどうも! ……ただ、あんまり話すことないなら無理に話題を振る必要ないですよ?」

「うっ! うっさい!」


 ──ただし、会話に関してはホタルの方が一枚上手だが。


 その後もかなりのスピードと威力、それこそアオイたちが戦ったゴブリンロードに勝るとも劣らない迫力の拳の応戦をしながらセフィは考えていた。


(──ホタルの成長速度はすごいなぁ。一教えたら十理解するどころか十二ぐらいで返ってくる)


 例えば魔素による身体能力向上についても、全身をうっすらと覆うタイプのさらにその先の高等技術として、局所的に魔素を集中させることによって、魔素の消費を抑えながら、且つ魔素による肉体の強化を施すことができるものがあるのだが、それを教える前からホタルは使えるようになっていたりといろいろあったのだ。

 現在も、一つ前のパンチと今のパンチでは威力や速度に狙う場所などに関しての練度が段違いに成長して行っている。

 魔素のコントロールがだいぶできるようになった、あの『湖でびしょぬれ事件』からかなりの時間が経過しているとはいえ、この成長速度は異常だった。


 セフィは思わず笑ってしまった。

 それは今のこの戦闘が楽しいのか、はたまたこれから先ホタルがどれほど強くなるのだろうかという期待からくるものなのか。

 多分両方なのだろうとセフィは考える。


「まあでも、まだまだ甘いよね」


 そう言うとセフィはこれまで回避していたパンチをうまく受け流してホタルの服の襟をつかみ、


「よいしょっと」

「おわぁ!」


 投げ飛ばした。


「ホタルもだいぶ力がついてきたけど、だからこそ相手の力を利用する技を覚えないといけないね。この地下世界は魔素で肉体を強化したとしてもまだ力、あるいは速度で負けてしまうようなことの方が多いんだから」

「……なるほど、つまりは柔道が必要ってことですか」

「うん? 柔道? それはなんだい?」

「柔道というのはボクが住んでいた世界で、相手の力を利用する技術を用いた武術ですよ」

「へえ、そうなんだ。そういえばホタルの故郷の武術とかについての話をしたことがなかったね。そろそろ訓練は終了して、ご飯を食べながらその辺りの話を聞きたいな」

「そうですか。じゃあご飯を準備しますね」


 訓練の終了を告げるのはいつもセフィだ。

 理由は簡単。セフィはホタル自身がわからないような肉体的疲労なども、相手の動きから読み解くことができるので、セフィがやめると言ったタイミングこそが、自身の疲労がその後に来る肉体の強化にとってベストな量となっているのである。


 ちなみに、この時ホタルは「本当にものすごい経験をしてるんですね。でも、だとしたらセフィさんは一体いくつなんでしょうか?」と言おうとして、セフィに思いっきり頰を引っ張られた。

 女性に年齢のことを触れるのはどの世界でもタブーである。


 ともあれ、訓練が終わればすぐにエネルギーを補充するためご飯の準備だ。

 セフィはいつものように洞窟内を探索して、その帰りにホタルの訓練に付き合っているので疲労が溜まっていることから、以前と同じようにご飯などの準備はホタルが担当となっている。


 といっても、ホタルたちのいる場所は決まったものしか手に入らないため、二人が食べるのはあの一見食べちゃいかないだろうと思ってしまうような紫色のスープである。


「それで? 柔道っていうのはなんなんだい?」


 しばらくは紫色のスープに集中して栄養を補給していた二人だったが、先ほど訓練の最後に出て来たホタルの世界の武術についての話題になる。


「ええ、ボクも詳しくは知らないのですが、相手の重心をずらしてあげることによって、相手を地面寝ころばせる技ですね。さっきのセフィさんの技と似たようなものです」

「なるほど。これは私が生きていくうえで必要に駆られて覚えた技術の一つだったんだけど、ホタルの世界ではそう言った技術も既に存在しているのか。すごいね」

「ええ、まあそうですね」


 セフィの心からの称賛にホタルは笑顔で答えると、さらに情報を追加する。


「といってもそれをセフィさんレベルで出来るような人も地球上にめったにいないでしょうし、そもそもボクの住む世界は多くの人間たちが戦争をしない取りやめをして戦いから離れているので、先ほどの柔道などについては一定のルールをもとにしたこの世界でいうと決闘? みたいな形の競技になっていますけどね」

「そうなんだ」

「はい。それにボクの世界では銃という武器が主流で、現状地球の人間ではそれになかなか太刀打ちできないですから。近接格闘術はあまり使えないんですよ」


 時々刑事ドラマなどでナイフを持った殺人犯と戦闘、などという事態がもしかすればこの世のどこかにあるかもしれないが、それはきっとなかなかないことだろうとホタルは考える。

 なぜならあの世界は拳銃という名の誰でも使い方さえわかれば人を殺せる道具があるのだ。数多ある大量殺戮兵器を除けば現状あれに勝てるものなど存在しない。


 ……その数多ある大量殺戮兵器や毒物などの恐ろしい兵器も地球には存在しているので、もっと『肉体を使った超近接戦闘術』などというものは必要がなくなってきているだろうし、とホタルは自身の小説を書くいうイベントが発生したときに「主役がその言葉を使わないと盛り上がらない!」という言葉のもとにいろいろな中二っぽい名前の兵器を叫ばされたことを思い出してげんなりしながら乾いた笑みを浮かべる。


「? どうかした?」

「……いえ、何でもないですよ? ええ、何でもないですとも」

「そ、そうかな?」

「ええ、そうです」

「そ、そうだね。うん、そうだ」


 なんとなく様子がおかしくなったホタルを気にかけてセフィは声をかけたが、虚ろな目で「なんでもない」と言うホタルのことを見て追及をやめた。

 セフィも伊達に長い間生きていないし、その間に多くの人間を占ってきたのだ。相手の触れてほしくないところくらいは分かる。

 ……別にホタルの虚ろな目とうっすらと張り付いたような笑みのコンボに怖気づいたわけではない。そう、怖かったわけではないのである!


「でも、そうか。確かに普通の人間なら銃は恐ろしい武器だよね」


 セフィは露骨な話題変換──ではなく、今後のホタルのためを思って銃の話題を振る。


「銃がこの世界にあるんですか?」

「……うん、あるよ」


 セフィは(内心話題がそれてほっとしながら)ホタルが興味を持ったので銃についての情報を出すことにする。


「もしかしたらホタルの世界にはこれよりももっと進んだ技術があるかもしれないけど、この世界の銃は基本的には拳銃が主流だね」

「そうなんですか?」


 ホタルは自身の脳内で短機関銃などの連射機能のある銃などの方が強力である場合が多いのにと思いながら話を促す。


「うん、理由は魔弾っていう、ホタルのいた魔法がない世界では絶対に存在しないだろう特殊な弾丸があったからなんだよね」

「魔弾、ですか」


 ホタルは「これまたテンプレなネーミングの武器が来たなぁ」と思いながらさらに話を聞く態勢になる。


「そ、魔弾。これはそうだね……簡単に言えば魔法の力が込められた弾丸で、放てばいろいろな力を発揮するものなんだ。例えば爆発とか、相手を拘束したりとかね」

「なるほど。何というか、ボクの世界ではそう言ったものも空想上のものとして出てきたのでそこまで驚きはしませんね。というか、魔弾と言われればそう言ったものが簡単に思い浮かんでしまうくらいありふれています」


 ホタルの言葉にセフィは驚く。


「そうなんだ。何というか、ホタルの世界は想像力がたくましいね。存在しないものをそれほど突き詰めて考えるなんて、私はできないよ」

「そうですね、そう言った創作物を考えれれる想像力を持った人間をボクは尊敬していますよ。まあ、意外と自分がどうしたいのかとかを考えてみると、ほんの少しくらい思い浮かぶ可能性はあるかもしれないですけどね」

「おお! なんか名言っぽいね!」

「そんなことはないと思いますが」


 自分でもクサイ発言だったのでは? と思いホタルはフイッとそっぽを向いた。


「コホンッ! ……話を戻しましょう。魔弾についてなんですが、それがなぜ拳銃が主流となっているのかということとつながらないのですが」

「ああ、そうだね。そのことについて説明していなかった」


 セフィは「いい質問だね!」と言いながら説明を始める。


「魔弾っていうのは特殊な功績で出来た弾丸に魔法陣を込めることで出来るんだけど、その魔法陣が強力なだけあって非常に繊細なものでね、他の弾丸と一緒にしてしまうと壊れてしまったりするんだ」

「へえ、魔弾は高等技術ですか」

「そうだよ。だから、球を一発だけ込めることができるタイプの拳銃が主流になっている」

「なるほど、よくわかりました」

「うん、さらに補足すると連射機能のある銃もあるにはあるけど、武の達人クラスになると普通の弾丸を素手で止めたりする人もいるから効果はないしね」

「そ、そうですか」


 ──どうやらこの世界は銃の弾丸をあっさりと止めてしまうようなバケモノがいるらしい。

 そう思ったホタルは、トラウマのせいもあってものすごく怖く感じてしまったのだった。




 食事を終えたあと、二人はその後も地球の武術などの話について話をして、ホタルは睡眠をとることになった。

 今日はセフィも体を休めるために目を瞑っている。

 というのも、危険生物がめったにやってこない『狭間の洞窟』でも、絶対に来ないという保証はないからだ。


 ただ、基本的にこの時間はお互い必要不可欠な休憩を取るために設けられているので、会話などはなく静かである。


 そんな静かな場所にて、ふわふわ鳥というなんとも安直な名前の生物の綿毛を敷き詰めて上に比較的柔らかいピンクウルフの毛皮をかぶせた簡易布団に寝ころんでホタルは微かに震えていた。


 理由は先ほどの会話で出てきた弾丸をあっさりと受け止めるような人物がいるという話だ。

 普通の人間なら、もしそう言った人間がいるとすれば筋骨隆々としたいかつい男を想定してしまうだろう。そして、ホタルもその普通なことを想像してしまう一人だった。

 となればホタルはそう言った男に関してのトラウマを持っているので、非常に恐ろしいものだ。


 例えるなら夜中に怪談や肝試しなどを行ったあとに、ちっちゃい子怖くて眠れないというのと同じような現象と同じこと。あるいはそれどころか実際にその経験がある分、余計に恐ろしいだろう。


(──肉体的に強くなっても、心は治らない。本当に弱いなボクは……)

「眠れないの?」

「──っ!」


 ふと、これまで一度もこの休憩の時間には破られることがなかった沈黙が、たった六つの安心感を与えてくれる音によって破られた。

 ホタルがこの地下世界ルエアウオルドに来てからというもの、眠れなかったことというのは実は何度かあった。といってもそれは最初のころであり、そのころは気を張りつめすぎてたというのが理由だったが。

 そんな時でさえ、セフィが話しかけてくるということはなかったのである。


「眠れないの?」


 驚きによって固まったホタルに、セフィは再度、優しく話しかけてくる。


「……はい、眠れないです」

「そう……」


 気がつけばホタルはするりと本音をこぼしていた。


「……理由は、聞かないでおくね」

「……」


 ホタルはその言葉に安堵した。

 セフィは、今も自分を守ってくれる存在とはいえ、愛すべき女性で。

 そして、ホタルは、男を恐れてしまうほど弱いけれども男なのだ。

 だから、ホタルは自分の弱みをセフィに見せてしまうことが、嫌だったのだ。


「──でも、寝れないようならちょっと起きようか」

「え?」


 自分の弱さ、卑しい部分を見せることをしなくてすんでほっとしていたホタルは、続くセフィの言葉に疑問符を浮かべる。

 そんなホタルの反応を面白がるようにクスクスと笑ったセフィは、


「ほら立った立った! ちょっと行きたいところができたんだ、ついて来てほしいんだよ!」


 と明るい声で話してホタルをせかし始める。


 ホタルとしても、もう寝れる状態ではないためこの提案は素直に受け取って、二人は『狭間の洞窟』から出て行った。


 ◆


「どこへ行くんですか?」


 もはや完全に意識が覚醒し、今は身体の震えが収まっているホタルはセフィに質問をする。

 セフィが「行きたいところができた」という言葉は、「言った方がいい場所」「これからのために行くべきであろう場所」などの話はあったものの、これまでの会話ではなかったものであるためにホタルとしても気になったのだ。


「ふふっ、秘密だよ?」


 セフィは時折見せるいたずらっ子な顔をして先を進む。


 進んでいく道は途中までは『草原の洞窟』と同じルートだったが、途中で分かれ道になっている場所をいつもは右へ行くところを左へと進んでいき、その後も何度も枝分かれする道をどんどんと進んでいった。

 ホタルとしては今までこれほど入り組んだ場所に入ったことはないため、戸惑いが大きくなっていく。


「あの、ここは……」

「ここは『迷路の洞窟』だよ。一度迷うとなかなか抜け出せない場所で、全く何もないから飢えで死んでしまう可能性が高い場所なんだ」

「こんな場所に一体何が──」

「目的地はこの先だよ」


 ホタルの不安を見透かすように笑顔で先に進んでいくセフィ。


「……その顔、かわいいですね」

「なっ! なんで今その話になるのさ!」

「いえ、なんとなくその顔がむかついたので」

「えっ!? つい先ほどかわいいって言ってなかった!?」

「ええ、かわいいですよ? ただそれとこれとは別です」

「ううっ、最近ホタルが反抗期だよぅ」

「ボクはあなたの子供ですか。嫌ですよ、ボクはあなたの恋人になりたいんですから」

「っ! …………そういうのは反則だと思います」


 このようないつもの会話を続けながら『迷路の洞窟』(相変わらず安直だなぁとホタルは思った)を抜けると、


「……ここは?」


 そこには、たくさんの黒水晶のような鉱石で埋め尽くされた不思議な空間だった。


 ホタルの反応に嬉しそうに笑うセフィは、


「ここはね。洞窟内にある星空が見える場所なんだ」


 とそんなことをのたまう。

 それに対してのホタルの反応は、


「…………」

「ちょっと!? なにその可哀想なものを見る目は!? やめて!? そんな目で見ないで!?」


 ホタルの目が完全に「何言っちゃってんのこの人? 頭大丈夫?」という意味を込めてのものだったため、セフィは必死に抗議する。


 しかしホタルの反応は普通と言えるだろう。

 なぜなら今2人がいる場所は確かに夜空の色のように綺麗な石で出来ているが、「星」となるものはないのだ。これで「星空」となるとは到底思えない。

 ちなみに、ホタルは最近先ほどのように暗所でも色を判別出来たりするようになっていた。

 このことにつていホタル自身理由が分からなかったのだが、悪いことではないのでそのまま受け入れている。


「確かに今は真っ暗なだけだけど! あることをすると星空に見えるんだよ!」

「そうなんですか?」

「そう、魔素を目に集中してみて。今のホタルなら出来るよね」

「え、まあ、はい普通にできますけど」

(──本来それが普通にできるということがおかしいんだけど……)


 ホタルがキョトンとまるでさも当然とばかりに答えたことに対して、セフィは心の中でため息をつく。

 普通の人間は、魔素のコントロールが良くできる人間でもなかなか目に集中することができないのだ。理由はセフィもそこまで知らないが、脳に近ければ近い程魔素の集中が難しくなっているということが分かっているため、その難度を知っている。

 セフィの記憶では千人に一人くらいしかできないものである。それなりの難易度だ。


「じゃあやってみて!」

「は、はい!」


 セフィはそんなホタルの隠れ規格外っぷりに呆れていたが、すぐに気を取り直してホタルに実際にやるように言い、ホタルもそれに従って、


「わああ!」


 感動の声を上げた。


 ホタルの視界に移ったのは、あたり一面に広がる、赤、青、白、黄色、緑などの様々な色の光の数々。

 その光景は、それこそ地球に存在したプラネタリウムや、先ほどセフィが言った通りの「星空だった」

 景観としては、都会で見るものとは違い、田舎の山の上で見る夜空のような、それはもう小さな光まで見ることができるような煌き。


 ホタルが昔、今は他界してしまった祖父と祖母が住んでいた場所も田舎で、昔一度星空を山の中で見せてもらった記憶があるだけに、余計に感動も大きかった。


「ここは魔素を貯めこんだたくさんの鉱石が眠っている場所みたいでね。今私たちがやっている魔素を目に集中すること──『魔察眼』って私は読んでるんだけど、その『魔察眼』によって、鉱石がため込んだ魔素の光が見えるようになるんだ。色が違うのは鉱石の違いだね」

「へえ、そうなんですか」

「うん、ホントはここにある鉱石なんかの成分を解析とかして活用出来たらいいんだけど。私にはそんな力がないからね。ここは私にとってはただの癒しの空間になってるんだ」

「癒しの空間……確かに……」


 実に、実に楽しそうな雰囲気の笑みを浮かべるセフィに、ホタルは無邪気な子供のような笑顔で答える。

 あっさりと童心に帰ってしまうくらい、ホタルにとってその景色は素晴らしいものだった。


「──ホタルが……」

「?」


 いつまでも眺めていたくなるような景色をただボーッと眺めていたホタルに、セフィが優しく響く声で話しかけてくる。

 そのことにホタルは首を傾げると、セフィが突然こちらを真剣な表情で見つめてきた。

 ホタルはその顔に目を奪われてしまう。


「……ホタルが、どんな過去をもって、何を恐れているかは聞かないよ?」

「──」

「……でも、それでも、私は君の力になってあげたいと思うよ」

「──」

「最初はキミのことを助けるとメリットがあるってだけの話だったのにね」

「──」


 そのことについては、ホタルも重々承知している。

 以前なぜ助けたのか聞いたときの答えがそうだったのだ。セフィが善意だけで自分を助けたわけではないと認識している。


 でもそれでもボクはあなたが好きなんですよと、ホタルは言おうと思ったが、しかしその言葉は発せられることはなかった。


「でも、今は違う。私のことを好きだと、感謝しているんだと言ってくれたキミのためにもっと力になってあげたいと思った」


 「ホント、なんでだろうね」と言いながらタハハとセフィは笑い、しかしその顔もすぐに元の凛々しいものへと変わる。


「理由はたぶん、私もいつの間にか、ホタル、キミのことが好きになっていたんじゃないかな?」

「──っ!」


 その言葉を発したセフィの顔は紅潮していて、いつもの凛々しい時や、抜けている阿呆な時とは違う、大人の女性を感じさせる妖艶なものへと変わってた。

 ホタルは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚える。


「ふふふっ♪ キミが私のことを好き好き言うから、私もキミのことが好きになってしまったじゃないか。どうしてくれるんだい?」

「え、えと、それは、その──」

「──責任、取ってくれるよね?」

「──」

「これでも理想が高いタイプでね。長年生きてきたのに生娘なんだよ」

「──」

「そんな私が受け入れた」

「──」

「この意味、ホタルも男の子ならわかるよね?」

「──はい」


 その後のことを、ホタルは一生忘れることはないだろうとホタルは思った。



 星空の下で、二人はお互いに初めて、一つになって愛し合ったのだった。

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