6.仲間たちの冒険
「思ったよりも早く1階層を突破できたな」
1階層を突破し、2階層にやってきた1の8一行が1階層と2階層を結ぶポータルの石がある部屋で小休憩を取っていたところでシュウトがほんの少しだけ気の緩んだ顔でそんなことをつぶやいた。
「そうだな。俺の魔法も通用したし、とりあえずここまでは順調に来ているな」
これに同意したのはサトルだ。
この場にいるたった二人の男子は、その場で適当に談笑していると、そこにやってくる人物が一人、
「ちょっといいかしら?」
「ん? どうしたんだセンドウ? 何かあったか?」
話しかけてきたセンドウ アオイに、シュウトは首を傾げて質問する。なぜなら今は時間を区切っての休憩時間で、出発時間にまだ余裕があったにもかかわらず話しかけてきたことに違和感があったからである。
「ちょっとお願いというか、提案があってね」
「提案?」
「そう、この階層では、いくつかのパーティーに分けて行動しないかしら?」
「……理由は?」
「今のうちに、ある程度少ない人数しかいない状況下で闘うことをやっておいた方が言いと思ってね。ここまでは後ろに大勢の味方がいたから安心して戦えた人もいるような気がするから」
「……」
アオイの発言にシュウト考え込むように腕を組む。
(……なるほど、いい案だとは思う。この《塔》はどういうわけか知らないが、5階層ごとに実力が大きく動くことはなく、1階層を余裕で突破できるなら確実にボスを除いた階層は突破できるとゴンゾウが言っていた。それに、これから訪れるであろう場所では分断するトラップなんてものもあるだろうし、何より今いる階層は完全攻略階層であることからかなり詳細な情報が入っている)
完全攻略階層とは、《塔》の階層のすべての場所に訪れて、マッピングが百パーセント、完璧に行われていて、なおかつ出てくるモンスターの情報も把握されている階層のことだ。
この場所はほぼすべての情報が出ているため、分不相応な実力でない限りは、その場所での探索は圧倒的に安全である場所で、この世界の住人達も、基本的にはこの完全攻略階層を狩場にして財宝やモンスターの素材などを収集している。
そういったことから、この場所でならあらゆる想定をした戦闘ができるだろうし、尚且つそう言ったことは必要だろうとシュウトは判断した。
「よし、それでいこう。サトルはどう思う?」
「うん? 多分それは必要な事だろ。今のうちに経験できることは経験しておいた方が、俺たちのためになるだろうからな。あれだ、かわいい子には旅をさせよ、獅子の子落としってやつだな」
昔は旅をするといえば現代と違って非常に難しく、困難であったことから、若いうちに苦労をさせることでより成長を促そうという意味を込めたといわれる諺や、獅子の育児をもとにした諺を言って話を振られたサトルは同意したので、2階層はいくつかのパーティーに分かれての行動となった。
◆
「うん、2階層もだいぶ余裕があるねアオイちゃん」
「そうねローズ」
パーティー別に行動することが決まったあと、それぞれ分かれて出発した中には、もちろんのごとくアオイとローズを含めたホタルと仲が良かったメンバーが勢ぞろいしていた。
「それに、ここにいるパーティーは運よくびっくりするくらいバランスがいいからね」
アオイがここまでの戦闘で余裕があることに対して、普段の不真面目な印象が一切ないくらい真剣な表情で答えた。
「……アオイ大丈夫? なんか思い詰めてる感じがするんだけど」
声をかけたのは、《ビッグ・オア・スモール》の《異能》を持つこのパーティーで盾役を務める紀州 亜衣奈が尋ねる。
「え? 大丈夫だけど?」
「そんなことないでしょ。あなたは基本がおちゃらけているんだから、そんな真面目な表情してたら頭おかしくなったと疑われるのも当然だよ?」
「な、ったくミユウは酷いわよね」
アイナの質問になぜそんなことを聞くのという顔で大丈夫だと答えると、今度は《ライブラリ》の《異能》を持つ魔法を用いた遠距離攻撃担当の赤羽 美夕がからかうように発言してアオイを怒らせた。
「ほら、二人とも落ち着きなさいよ。茶番なんてこの場所でしていていいことは一個もないんだから。馬鹿なの?」
「「あんたの発言が一番むかつくんだけどね!」」
最後に二人をなだめようとしてなかなか辛辣な発言をしたのが《サーチ・アンド・デストロイ》の《異能》をもつ斥候兼短弓による中長距離遊撃担当の編戸 里香で、これにアオイとローズを含めた五人が普段ホタルと遊んでいたりしたメンバーである。
この五人は現在2階層の中盤あたりまで来ており、そこまでの戦闘では実に危なげなく相手を倒していた。
「? なんで私が怒られる──みんな、前方に敵四体、あと五十秒ほどでエンカウントするよ!」
「「「「了解!」」」」
辛辣な発言をした自覚がないリカは「なぜ?」と不思議そうな顔になったあと、すぐに自身の《異能》がもつ索敵能力の範囲に入ったため、すぐに仲間に情報を伝達する。
リカの持つ《異能》である《サーチ・アンド・デストロイ》は文字通り「サーチ」とついているだけあって、索敵能力がついている。
さらに、
「さきに弓で行かせてもらうね!」
敵を発見した瞬間に背中にある筒の中から矢を取り出したリカは、そのまま即座に矢をつがえると同時にこの世界の独自の詠唱を施して放つ。
詠唱の効果によってスピードが補正された矢は、アオイたちの視界にちょうど入ってきたところまできたこの階層で主だって出てくるコボルトの急所に見事の命中して敵一体を倒すことに成功する。
「こっちも行くよ!」
リカの注意喚起によってミユウは虚空から本、今回で言えば詠唱や魔法の威力を向上させるなどの補助効果のあるグリモワールと呼ばれる道具を本や資料などを無限に収納する能力である《ライブラリ》の力で取り出して、リカと同じようにこの世界独自の言葉による詠唱を行い、氷のつぶてをコボルトの一体に打ち出して倒してしまう。
これでコボルトの数は残り二体。
「私たちも行くわよ」
「そうだね」
数を減らされても全く気にせず向かってくるコボルトに、今度はアオイとアイナが走る。
最初に攻撃に入るのはアイナだ。
「《ビッグ》!」
アイナが自身の持つ短槍前に突き出しながら叫ぶと、持っていた槍がどんどん大きくなっていき、その勢いのままにコボルトの体を貫く。
「《スモール》!」
コボルトが絶命したのを確認するとすぐさま槍が小さくなっていき、
「《ビッグ》!」
最後の一体となってしまったコボルトに対して、アイナのもう一つの装備であるバックラーを今度は大盾ほどの大きさに変化させて攻撃を防ぐ。
「ナイスアイナ!」
最後に《ワンフィッツオール》の《異能》もちであるアオイが止めを刺して戦闘に勝利した。
「お疲れみんな」
ローズが労いの言葉をパーティーメンバーにかけ、他のみんなも互いに「やったね」と言いあいながら、《塔》の探索を続けていった。
その後しばらくしてから《塔》の内部にいくつか存在する安全地帯に入ると、メンバーは互いの《異能》についての話で盛り上がっていた。
「それにしてもアイナの《ビッグ・オア・スモール》は便利だよね」
「そうかな?」
リカの言葉にアイナは首を傾げるも、他のメンバーが全員頷く。
アイナの《異能》である《ビッグ・オア・スモール》は任意のタイミングで任意の物体を大きくしたり小さくしたりできるという能力だ。
一見「それだけ?」と首を傾げるようなものではあるが、先の戦闘のように本来は大きくて持ち運びしにくい大きな武器などの取り扱いの時には非常に便利であったりする。
欠点としてはこの大きさの変化はどこかに触れている必要があるため、他人の装備などには適用できないといったところだ。
「そうだね~。最初はドリンクのサイズを聞いてるのかと思ったからね~」
「それは『ラージ・オア・スモール』だよね、ミユウ。でもそうかな?」
「そうだよ! おかげで私はここまで全く活躍できてないんだから!」
「ああ、ローズは確かにここまでは何もしてないよね」
「相変わらずリカは辛辣ね。でも、《ガレンドクラルテ》を持ってるローズがいるから私たちは安心して行動できているから」
「ううっ、ありがとうアオイちゃん」
ローズの《ガレンドクラルテ》は一定の範囲に、回復・自然治癒能力上昇エリアを作るという回復特化の《異能》である。
先ほどの会話の通り、ここまでの戦闘は余裕があって今まで誰も一つのダメージも負っていないために未だ活躍の機会はないが、回復担当がいるというのはパーティーに安心感をもたらすことから、アオイの発言は間違っていない。
「取り敢えず、今のうちにきっちりと戦闘に慣れておきましょう」
「そうだね」
「そろそろ行こうか」
こうしてこの後も順調に進んだパーティーメンバーたちは、2階層も突破したのだった。
2階層をアオイたちが余裕を持って突破したのと同じように、他の1の8メンバーもちゃんと3階層まで到着した。
そして、その後は安全性の向上のために全員で行動をして、その後も順調に進んでいき、ついには今回の冒険の一番の山場となる5階層、大きなモンスター、いわゆるボスがいる階層の前までやって来ていた。
「いよいよか……」
「確か5の倍数の階層はその前に出て来ていたモンスターたちのボス的な存在だけが出てくるって話だったよな」
シュウトが、5階層へ続くポータルを見つめながら緊張した表情で呟くと、サトルもやや不安そうな顔で情報の確認をして来た。
「ああそうだな。今回の場合はゴブリンロードだ。だが、確かボスには取り巻きみたいなものもいるとも言っていた」
「そっか、これはきっちり役割分担をした方がいいな」
「そうだな、幸いにもちゃんとボスの情報があるんだ、きっちり活かしていこう」
「ああ、この世界はゲームじゃないが、ゲームでもレイドボスはきっちり情報集めて、対策を練って挑めば、無謀なレベルじゃあない限り勝てるからな。しっかりやろうぜ」
「おう……みんなも聞いてくれ!」
2人はどことなく心の中にはびこる不安を軽い調子の言葉と、勝てるというやや楽観的ながらも、この状況では絶対必要な思考を持って追い払いながら、勝つために作戦を立て始めた。
そして作戦を立てた後、
「よし! みんな、取り敢えず今日はここを突破したら終わりだ!」
「「「「「おー!」」」」」
「ただ油断はしないで欲しい! 勝負は水物、不測の事態が起こりうる。臨機応変に対応していこう!」
「「「「「おー!」」」」」
「最後に──「長いぞー」──これで最後だから! …………最後に、俺たちにとってここは通過点に過ぎない」
「「「「「…………」」」」」
「だから、俺たちは負けられないし、負けない! 締まっていくぞ!」
「「「「「野球かーい!」」」」」
こうしてシュウトたちは次の階層へ転移した。
──ら、
「あ、あれ?」
そこにはデカデカとした扉があった。
「ああ、この扉の先がボスの部屋みたいね」
「──ッ!」
シュウトが羞恥で真っ赤になった。
「そういうのいいから、とっとと行くわよ」
「お、おぅ……」
アオイからの辛辣な一言でシャウトはガックリとしつつ、一応全員を見渡して、ニヤニヤしているのを確認して扉を開いた。
「いい意味で緊張感が和らいだわね」
「うっせぇ!」
そんな言葉を最後に、戦闘が始まった。
◆
扉を開くと、そこに高さ3メートルはあろうかという錆びた人間では持たないような大きさの剣を持った大きなゴブリンがいた。
そしてその取り巻きとして剣や槍、斧などを武装したゴブリンが五体さらにいる。
「取り敢えず、情報通りか」
目の前の状況が想定していたものとほとんど相違なかったためシュウトは安堵した。
「よし! 作戦通りいくぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
さらに声をかけることでクラスメイト達が動き始める。
まず大声をあげながら向かってきたのは取り巻きのゴブリンナイトと呼ばれるモンスター。それぞれに武装をしており、それなりの技術があるため、普通のゴブリンよりも明らかに強い。
しかし、ここにはそれを上回る技量を持った人間が幾人もいる。
「行くわよ!」
その一人であるアオイが、まずは先頭の剣を持ったゴブリンナイトに突っ込んでいく。
そして、ゴブリンナイトが剣を振り下ろしたところをごくわずかなサイドステップでかわして自身が持つ大剣で斬り裂き、さらに背中に装備していたもう一本の大剣を抜いて残り四体になってしまったゴブリンナイト二体と戦闘を開始した。
「負けてられない!」
「そうだね!」
さらにアオイに続いてやってきたのはまさに瓜二つを体現するかのようなそっくりさんの女子二人。
名前は飯島 来美と吉川來海という、何と双子ではない二人だ。中学の頃に出会ってから二人は非常に仲が良くなって、この二人が喧嘩をしたところを誰も見たことがないという噂までたっている。
そんな二人の《異能》はイイジマの方が《シンクロ・オイケア》でヨシカワの方が《シンクロ・ヴァセン》というもので、
「「行くよ!」」
”ダブルクルミ”がイイジマが右に、ヨシカワが左の位置で手をつなぐことによってゴブリンナイトの一人と、まるで二人で一人であるかのように体を自在に操りながら、それぞれがもつダガーナイフで闘っていく。
二人の能力は、二人が一緒になることによってまさに二人で一人、あるいは比翼連理のごとく完璧に連携を取ることができるというものだ。しかも、手をつないでいる間の二人の身体能力は通常の二倍なので、普通に強い。クラス内でもこの二人のシンクロ状態を止められるものはなかなかいない。
そしてもう一体と戦っているのはみなさんご存知である《緑使い》のサトルくんだ。
サトルは基本的には後衛職だが、近接戦の訓練もしっかり行っていた。理由は「異世界に来たんだからやっぱ無双してみたいんだよなぁ」というなんとも俗物的で、絶対女子たちから白い目で見られるようなものだが、動機はどうあれその強さはクラス内でもトップクラスである。
「風刃」
サトルは自らが持つ杖に風の刃を纏わせて残り一体のゴブリンナイトと戦う。ちなみに「風刃」に関しては何の意味もない。すでにサトルは無詠唱という非常に高難度の技術を風や土などの初級魔法を扱えて、今回の風刃(笑)に関しても詠唱無しで作り出すことができる。
ではなぜわざわざ風刃(笑)と言ったかだが……まあ、そこは触れないであげるのが優しさというものだろう。事実クラスメイト達はサトルのことを生暖かい目で見ている。
さて、そんな技量の高いメンバーが取り巻きたちと戦っている間に他のメンバはどうしているかというと──
「防御態勢!」
シュウトが指示を飛ばして壁役に適した《異能》持ちのメンバーが全員盾を構えて、ゴブリンロードの剣を受け止める。
本来であれば吹き飛ばされてもおかしくないような膂力で放たれた剣を受け止めることができているのは、ひとえに1の8のメンバーの連携能力の高さだ。
シュウトを中心にして、アイナともう一人、物の重さを変化させる《ヘヴィー・オア・ライト》の《異能》もちであるクラスメイトが左右に入ってシュウトの盾に触れることによって、大きく重たい盾を生み出すことができ、それによって受け止めることが可能になっている。
「今だ!」
「了解! 魔法隊、ファイア!」
「「「「「ファイア!」」」」」
前衛の盾組が受け止めている間を見計らって、後方にいる魔法を使うことができるメンバーが一斉に魔法を放つ。もちろん詠唱はこの世界の独自言語であるため「ファイア!」という言葉に意味はないが、なんとなく遠距離攻撃部隊がやりたかっただけである。
魔法部隊が放った色とりどりの魔法が、ゴブリンロードに当たることによって一定のダメージを与えると、すぐに盾役のメンバーがその間に後ろに下がって、
「《カレンドグラルテ》!」
ローズの回復の空間に入って体力や受けたダメージを回復し、ゴブリンロードの攻撃を決めるためにまた走り出す。
今回の作戦は、ボスを盾役と後方魔法部隊で引きつけ時間を稼ぎながら、取り巻きをクラス内でもトップクラスのアタッカーに速攻で倒してもらい、その後にアタッカー全員の攻撃を絡めながら本格的にボスへダメージを与えるというものだ。
シンプルでそこまでひねりがないという見方もできるが、シンプルな作戦は相手の実力と自分の実力がちゃんとつり合いが取れている状態であれば、穴が少ないため非常に有効である。
複雑な作戦は一つ崩れるとすべてが崩壊する危険性もあるため、今回の作戦は臨機応変さもある程度確保できるため安全度が高いのだ。
そして、
「取り巻き終わったわよ!」
「こっちもな!」
「「こっちもだよ!」」
「センドウ! サトル! ダブルクルミ!」
アオイやサトルなどアタッカーがやってきて、ここまでは非常に順調に展開することができていると言えるだろう。
「俺は後方に入ってでかい魔法の準備に入るわ」
「頼む! センドウは──」
「盾役が受け止めたら攻撃、その後は即離脱でしょ!」
「ああ、頼む!」
「了解! 二人もよろしくね!」
さらにボスとの戦闘に入るために互いに意思疎通をしたあとすぐに行動を開始した。
「防御態勢!」
ゴブリンが魔法部隊に攻撃を入れようと視線を向けたタイミングで盾役のメンバーが攻撃を与えてヘイトを稼ぎ、攻撃を防ぐ。
すると、
「ちょっと一撃もらうわよ!」
「「こっちも!」」
アタッカー筆頭であるアオイやダブルクルミが攻撃を入れる。狙うのは足だ。
ここまでゴブリンロード相手にはアタッカーによる攻撃を加えてこなかったが、ここに来て筆頭であるメンバーの攻撃を叩き込むことによって、ゴブリンロードに混乱が生じる。
その混乱のまま足元にいるアオイたちに攻撃を加えようとするが。
「風刃乱舞・大鎌鼬」
生暖かい目を向けられながら、クラス内で屈指の魔法使いであるサトル含めた魔法部隊が、相手の目のあたりめがけて魔法を放つ。
それは先ほどのようにゴブリンロードに放っていた足止め用の弱い魔法ではなく、それぞれが最も得意としている魔法であり、それが完璧な軌道をもってゴブリンロードの顔面に着弾した。
ゴブリンロードはここまでとは攻撃の流れが変わり、さらに大した威力ではないがわずらわしいと案じていた魔法が脅威の威力になって、さらに目まで潰されてしまったことよって、混乱に混乱が重なった状態になり訳も分からず大剣を振り回す。
それはただ無差別に振り回されるだけのものであるが、普通の人であればあっさりと吹き飛ばされて絶命してしまうような攻撃であったのだが、
「うるさいわね、少し黙りなさい」
そんな声とともに右に風を、左に炎を纏わせ二メートルほどの長さになったように見える二振りの大剣を持った少女が冷たい声音とともにゴブリンロードの両腕、両足を斬り飛ばしていた。
「タンクもアタッカー全員行けぇ!」
「「「「「おー!」」」」」
そしてそこから畳みかけるようなタンク、アタッカー含めた前衛組の波状攻撃。
さらにはゴブリンロードが四肢を失い倒れているにもかかわらず暴れようとしたタイミングで危険地帯から回避して魔法攻撃へ切り替える。
本来戦闘などやったこともないただの高校生である1の8メンバーが、この場で非常に冷静に、まるで百戦錬磨の戦士のように落ち着いて戦闘をこなしていく。
それは異常なことなのか、はたまた仲間を助けたいという思いが全てを可能にしてしまうほどの力を持っているかはわからない。
だがことここにおいては厳然たる事実としてわかることが一つある。
それは──
「この戦いは、私たちの勝ちよ!」
最後に首を斬り飛ばしたアオイの言葉によって、クラスメイト達が声を大にして喜びあう。
──ここに、1の8の初のボス攻略が達成されたのだった。
◆
「とりあえず、終わったな」
「ああ、そうだな」
戦闘終了後、女子たちが姦しく喜びを分かち合っている中でシュウトとサトルの男二人は安堵の表情を浮かべていた。
何せ、自分たちは男であり、女性は守るものだという認識は少なからず持っているのだ。これで、もし一人でもクラスメイトを失ってしなったら、二人そろってびっくりするくらいへこむ自身があるとこの《塔》への挑戦の前に話をしていたのだ。
「ほんと、みんな無事でよかったよ」
「そうだな……でもプレッシャー半端ないわ。誰か俺にご褒美をください、でないとやってられません」
「確かに、ちょっとこれが続くのは厳しいよなぁ」
「あんたたち何話してるの?」
「「おわっ!」」
この後も続くであろう男としてのプライドをかけた戦いを想像してげんなりしているところに、今日二振りの大剣で「勇者ですか?」というような無双に近い活躍っぷりを見せたアオイが話しかけてきて男二人は驚く。
「? どうしたの?」
「お、おう、大活躍をしたセンドウか。いや、なんでもないぞ」
「そうそう! 疲れたなっていう話をしていただけだから」
「そう、ならいいけど。じゃあ、とっとと人が住んでいる6階層に行きましょう。さっきポータルが現れたから」
「そうか……そうだな、早くこの場所から出るとするか。もしかしたらあいつがリポップするかもしれないしな」
「やめろよ、そういうのフラグっぽいだろ」
「そうだな、じゃあ行くとしますか」
「何かご褒美があればいいなぁ」
最後にサトルがそんなことをつぶやいたあと、シュウトが全員に声をかけて、みんなで6階層へと飛んだ。
「あなた方には学園に通っていただきます」
「「「「「ええぇっ!」」」」」
まだまだ1の8の冒険は続いていくのだった。