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4.赤面ものな展開

「ホタル~今帰ったよ~」

「はい、お帰りなさいです。ごはんはもうできてますよ」

「お~やった~!」


 ホタルとセフィが出会ってからそれなりの時間がたち、今ではホタルもだいぶこの地下世界になじんできている。

 今も、セフィが今日の採集に出かけている間にもともとセフィが蓄えていた食材を調理していたところだ。

 ……ただ、先ほどの会話を聞くと何というか夫婦ですか? と聞きたくなるゆうな感じがあるので、何とも言えないのだが。しかも、最近はホタルの髪もだいぶ伸びていて、見た目は完全に女の子だったりするのでなおさらそのように見えてしまう。


「ホタルのご飯はおいしいからね~楽しみだよ~」

「ふふっ、ありがとうございます」

「……」

「? どうかしましたかセフィさん?」

「……いや、なんでもないよ」


 ホタルの反応にセフィが若干頰を染めるも、すぐに気を取り直していつものように『火の木』によってできた緑の炎の近くまで行く。


「今日はどんな感じでしたか?」

「ああ、うん、今回はそれなりかな『命茸』が十個もあったのは収穫だね」

「そうですか」


 二人は食事をしながらセフィが採ったものの話をしていく。


 ここ最近、ホタルはセフィと行動をしていない。

 しばらくの間はこの洞窟内で、ルクスが行動している範囲内を案内するという形で冒険をしていたが、それも終わりを迎えて今では役割分担をしているのだ。


 ホタルやセフィが拠点にしているのは『狭間の洞窟』とセフィが読んでいる場所で、このポイントは周りにあるいくつかのそれぞれ特色のある洞窟の中間地点のような場所である。


 そういったことがあるからなのか、『狭間の洞窟』にはバケモノどもが寄り付かず、ある種の安全地帯のようになっているのである。


 ちなみにこの『狭間の洞窟』の周りには、セフィが主に採集をしている『植物の洞窟』(ルクス命名、ホタルはマ◯オの洞窟と呼んでいる)や『生きた亡者の住処』(ホタルのトラウマを具現化したようなバケモノどものいるエリア)、『草原の洞窟』(あの豚なのか牛なのか熊なのかわからないバケモノがいるエリア)などなどがある。他にも水場のようなところがあるのも特徴だ。

 もちろんその周りにもいろいろなエリアがあるとセフィが言っていたが、その周りのエリアは非常に危険だとも言っていたため、ホタルもそのあたりのことについては知らない。


 そういうわけで、現在は戦闘能力のあるセフィが生活のために必要な食料や水、道具の確保を担当して、ホタルが帰って来たルクスに温かいご飯を提供したり、道具を整理したりする担当になっている。……なんだか、本当に夫婦のようだ。


 しかし、ホタルもホタルでただ安全圏に居座っているわけではない。


「こちらも訓練の方は割と早く終わりましたよ」


 セフィの探索および採集の話を終えたあと、ホタルはここ最近行っている訓練の話に入る。


「そうなんだ」

「はい、よくわかりませんが。訓練をすればするほど自分の力が伸び居ているような感覚があるんです。これは異世界にいるからなんでしょうか?」

「さあ? そこらへんはよくわからないけど。──そうか、じゃあもう少し訓練メニューを増やさないといけないな」

「はい、よろしくお願いします。……それにしてもまさかこんなにあっさりと魔素の使い方が分かるようになるなんて思いませんでしたよ」


 ホタルの体の周りに突然うっすらと白い層が現れる。

 そして、ホタルは白い光を左腕に集中させたり、そこから右足へと移動させたりしていく。

 まさに自由自在と言ったところがあり、セフィはそれを見て「ほぅ」と感心の声を上げる。


「本当に魔素のコントロールが大分できるようになってきたんだね」

「はい」


 ホタルはうれしそうにうなずく。


 ホタルの訓練とは、この世界で生きていくための戦闘訓練だ。

 現在やっているのは、しっかりとした体づくりと、魔素と呼ばれるいかにもファンタジーな感じを受ける特殊な力の操作である。


 この魔素と呼ばれるものは、セフィの話からホタルが要約してみると、ネット小説などでよく出てくる魔力やマナ、あるいはゲーム的観点から言えばMPといった形で表記されるものとのことで、魔法を扱ったり、特殊な技や必殺技のようなものを発動するときに使うものだそうだ。

 そして、これはどんな生物、たとえそれが異世界人でも持っているものだそうで、この魔素がうまく扱える扱えないで、そのまま力をうまく扱えるかどうかということが決まってしまうほど、この世界では重要なファクターであるとはセフィの話だ。


 そういうことからセフィは体づくりと並行して、この魔素の操作を全力で進めてきた。

 そしてその成果がホタルが自身の周りを白い光で覆ったことに繋がってくる。


「まあでも、それじゃあ魔素操作としては半人前だけどね」

「あ、そうなんですか」


 ──『魔素操作』。

 これがホタルがセフィに教えたことで、ホタルが今やっている白い光の移動のことを指している言葉だ。

 魔素と呼ばれる力はそれぞれの生き物で違う色をしているのだが、ホタルの場合はその色が銀に近い白色で、その白い魔素をホタルは今ある程度自在に操っていたのだ。


 が、セフィからしてみればまだまだ甘いらしい。


「そうだよ、本来そんな風に魔素を体の外に出しちゃいけないんだ。その状態は魔素の消費が激しくて非効率だからね。今度はそれを体の内側、イメージとしては皮膚の裏側に薄く濃度の高い層を作るように意識することだよ」

「なるほど、セフィさんも体の外に魔素を出していないですもんね。わかりました、頑張ります」

「……まあ、キミの成長速度はなかなかに異様なんだけどね」


 最後のセフィの言葉はホタルには聞こえていなかった。


 それから食事を終えて後片付けをしたあと、


「あの、セフィさん少しいいですか?」

「ん? どうかしたのかい?」


 ホタルはセフィに話しかけていた。

 食事のあとは基本的にすぐに睡眠についていたホタルが、このタイミングで話しかけてくるというのは珍しい事態であるだけに、少し驚きの感情が顔に出ている。


 そのことに申し訳ないなと思いながらホタルはセフィにこの世界に来て初めてお願いをすることにした。


「あの、実はですね。ボクの故郷には自分の体を水場で洗うというのが習慣としてありまして、正直しばらくやっていないこの状況がボクにとってちょっと精神的にきついなぁと思っているんですよ」


 ホタルの話を聞いていくうちに、セフィの表情が真剣なものになり、すっとセフィは先ほどまで座っていたが立ち上がって、話をしっかりと聞く姿勢を示す。

 セフィは立ち上がると背が高いので、もともと身長の低いホタルは見上げる形になってしまうために、ホタルとしてはちょっとしんどい体勢なのだが、セフィは話を真面目に聞くとき(食事中は例外)は必ず立ち上がるので、そこについてホタルが言うことはない。

 そんな真面目に話を聞く態勢に入ったルクスは質問を入れる。


「精神的にって例えば?」

「最近はあまり寝れなくなったりもしていまして」

「うん、それは問題だね。この場所では集中力の低下がそのまま命に危機になりかねないから、睡眠不足は危ない現象だ」

「……それを言うならセフィさんも危ないと思うんですけど」

「…………私はまあ、慣れてしまったからな、大丈夫なのだ」

「……それ顔をそらして言うことじゃないですよね」


 ふいっとセフィは視線をホタルから外して答えるので、ホタルはジト目でセフィを見つめる。

 じー。ビクッ! じーー。あせあせっ!じーーーー。うううっ……


「……はあ、セフィさんが大丈夫ならそれでいいんですけど」


 ホタルの言葉にほっとしたセフィは「で、本題は何だい?」と即座に話題を変えた。

 そのことにホタルはまたジト目をセフィへ向けるも、すぐにもう一度ため息をついて、


「なので、どこか安全な水場がないかなと思ってまして。──どうですか?」

「くっ! その上目使いと『どうですか?』のコンボはやば「コホンッ」…………たぶん大丈夫だと思います、はい」

「なら最初からそう言ってくださいよ」


 どこかホタルのクラスメイトと同じノリがあるセフィに再度ため息をついたホタルは「ではどこかのタイミングで連れて行っていただけませんか?」というと「じゃあ最近はそれなりに余裕があるから、この後睡眠を取ったら早速行こうか」とルクスが言ったので、次は二人での探索となった。


 ◆


 二人は一時の休息を取ったあと、『狭間の洞窟』から移動して水場のある場所──セフィ曰く『水源の洞窟』へとやって来ていた。

 その影響からか何なのか、洞窟内ではポタッ、ポタッと水滴が落ちるような音がしている。


「……なんというか、ちょっと不気味な雰囲気ですね」


 ホタルはキョロキョロと辺りを見回しながらセフィに話しかける。


 ホタルの言う通り、この『水源の洞窟』は他の洞窟に比べてどこか暗いイメージもあるため、ホラーな雰囲気が漂っている。ホタルの中ではトラウマがウヨウヨいる『生きた亡者の住処』の次に行きたくない場所と認定されそうな場所である。


「うん? そうかな? まあ確かにこの辺りは薄暗いけど、ここを抜けると面白いものが見れるよ」

「?」


 セフィの楽しそうな様子にホタルは頭にはてなマークを浮かべながらも、黙って着いていく。


 そして、しばらくして──


「ほら、着いたよ」

「おおっ!」


 セフィの案内でホタルがやって来たのは、洞窟内にある湖のような場所だった。


「……すごく透明度の高い水ですね。しかも周りもきれいだし」


 ホタルは目の前に広がるびっくりするほど透明な水面や、この湖を囲うようにして存在しているクリスタルのような鉱物をみて興奮している。

 まるで灼熱の砂漠の中にあるオアシスのように、そこには幻想的な癒しの空間が広がっていた。


「そうだね。別の場所なんかでは濁ったりしている場所もあるわけだけど、ここは透明度の高い場所だね」

「もしかして飲み水はここから?」

「いや、飲み水についてはここではないよ。……そうだね、そっちも後で説明しておこうか。──それで、このあとはどうするんだい?」

「へ? あー……」


 セフィの質問に、先ほどまでテンションがうなぎ上りだったホタルは困ったような表情を浮かべる。


「どうかした?」

「はい、ボクの故郷では全裸で温かいお湯に入るのですが」

「じぇっ! じぇんら!?」


 セフィがびっくりするくらい慌てて、某有名なパーティー用ゲームの名前みたいな発言をしたが、それをホタルはスルーして話を進める。


「まあ、流石にそれは出来ないと思いますので、タオル──何か柔らかい布で体を拭きたいなと思っていたんですが、そう言ったものはありますか?」

「な、なんだ……それくらいなら大丈夫だけど……」


 セフィはものすごくホッとした様子で、いつも携帯している四次◯ポケットからふわふわした毛玉ものを取り出した。


「これは?」

「『草原の洞窟』にいるふわふわ鳥の毛皮だよ。柔らかくて気持ちいい。ホタルがいつも寝ている場所にもこれが下に敷き詰められてる」

「……そうですか」


 鳥なのに毛皮とはなんぞや? それにどう見ても毛玉にしか見えないのだが? とホタルは思ったがそこには触れずに毛玉を受け取る。


 手触りはふわふわしていてほわほわしているため、なんだか触っているだけでホタルは幸せになってしまった。


「……」

「ホタル?」

「……」

「おーい」

「……」

「おーいホタル!しっかりして!」

「ハッ!」


 あまりにも幸福な感触でホタルは一瞬我を失っていた。


「す、すみません! あまりにも良い感触でちょっと夢中になってしまいました!」

「あ、うん、その辺りは私も同意するから特に謝る必要はないよ! 私もそれに夢中になりすぎてバケモノの接近に気がつかずに一度死にかけたしね」

「……それは、なんか違うのでは?」

「うん? そうかな?」


 セフィの相変わらずの抜けた所にホタルはいつものようにため息をついて、すぐに思考を切り替えた。


「では、あまりこういった場所にいるのは危険なので、とっとと体を拭きますね」


 いろいろあったがここに来た目的は身体をすっきりさせることである。

 ホタルはすぐさま服を脱ぎ始めた。


(──そういえば、みんなに着させられたこの服、こんな悪環境なのにあんまり汚れてないよう……「ちょ、ちょっと何やってるの!」…………な?)

「うわっ!」


 ホタルは自分が来ているカーディガンを脱いでワイシャツのボタンをはずしながら、ふとこれまで特に意識することがなかったところに目を付けたタイミングで、横槍を入れられてしまった。もちろん横槍を入れられる人間なんて、この場ではセフィ一人しかいない。


「ど、どうしたんですかセフィさん」

「ほ、ホタル! き、キミは男の子(・・・)なんだろ? ならこんな場所でみだりに肌をさらしてはいけない!」

「……いや、その言葉は普通女の子に言うべきことでしょう?」

「うっ! そ、そうだけどそう言うことじゃなくてだね……」

「もう、どうしたっていうんですか! ここは普通にバケモノがいる場所なんですよ! 早く済ませないといけないんですから話してください!」


 自分が脱ごうとしたら突然男であるのに麗しき純粋な乙女に言うような言葉で止めてきて、それについて言及してもしどろもどろな態度でありながらもなんとか脱ぐのを阻止ししようとしてくるセフィにホタルは困惑しながら引きはがそうとする。ホタルの内心は「な、何だってんだ一体!」と言った感じだ。


「いや、待つんだ! ここはいったん落ち着こう!」

「何言ってんですか! 落ち着くべきはあなたでしょ!」

「大丈夫だ私は落ち着いている!」


 どう見ても落ち着いていなかった。

 セフィはホタルが脱ごうとしているのを阻止しながら「落ち着け!」を尚をも連呼している。その目は混乱しているのかマンガなどであればグルグルとした渦巻き模様が描かれているかのような様子だ。


 さて、そんな「わちゃわちゃ」という擬音語が似合いそうな行動をしている二人だが、あまりにも混乱した状態だったためか、自分たちがどこで暴れているのか忘れてしまっていたのだろう。


 あまりのセフィの剣幕に後ずさりながら引きはがそうとしていたホタルは、すぐそばの湖に足を取られて──


「「あっ」」


 ドバシャーン!


 二人で仲良く湖の中へとダイブした。


 それから少しして──


「はぁはぁ……この辺りが浅くてよかったですね」

「そ、そうだね、奥の方はだいぶ深いみたいだから、ホントに今回は危なかった……」

「それにしても……」

「びしょびしょだね……」


 ホタルとセフィが落ちた場所は幸いにして浅かったため、すぐに上がってくることができたのだが、完全に濡れてしまっていた。


「……どうしましょうか?」

「そ、そうだね……」


 このままでは二人とも体調を崩してしまう可能性もあるため、早急に対処しなければならないが、ここまでの生活の中でセフィもホタルも他の服など着てこなかったために、乾かすまでの間どうするかなどの問題が発生してしまったのだ。


「とりあえず服を何とかしないと……」

「そんなのあったかな………………あ」

「ん? どうかしたの?」

「……あ、い、いえ、別になんでもないです!」

「……ほほう」


 セフィはホタルが珍しく慌てている様子を見て、いたずら小僧のような表情を浮かべる。


「ホタルが慌てるなんて珍しいじゃないか。どうしたんだい?」

「だ、だから、何も無いと言ってるじゃないですか!」

「とか言って何かあるんだろ?」

「なんでもないです!」

「ほらほら、何も気まずいことはないから言って見なよ」


 ホタルは否定するが、セフィはイヤラシイ笑みを辞めずにホタルをからかいにかかる。


「だっ、だから──」

「いいから、早く言わないと風邪ひいちゃうよ~~」

「………………フッ」


 しかし、セフィはやり過ぎた。


「あ、あれ?」

「いいでしょう……なら言ってあげますよ! 実はボクのリュックの中には服がちょうど二着入っていましてね! あなたも着れるわけですよ!」

「あ、あの……」

「なーに、遠慮することはありません、どうせ替えの服なんて持ってないんでしょう? 安心してイッてください」

「いや、待って、ちょ、ま──」

「問答無用!」


 あまりにもうざったい感じでからかわれたホタルは実にかわいらしい笑顔を浮かべながら、しかし目には隠しからないいらだちを込めてセフィを襲う。


 ──のだが……


 ここでのホタルの行動は、あまりのセフィのアホっぷりと出会い方のせいで、致命的な見落としがあったことと、ホタルが珍しく本気で怒っていたことによりにより、ちょっとした事件となってしまったのだった。


「くくくっ! セフィさんにはこれを来て貰いましょうか」


 ホタルが取り出したのは白を基調としたブレザータイプの女子用制服だ。

 ……ただし、フリルやら大きいリボンやらがついたいわゆる改造制服と呼ばれる類の制服だが。


「ほ、ホタル? せ、性格が変わってしまっているよ? というかどこからそんな服を取り出したんだい?」


 セフィはその見たこともない、しかしどう考えても着たら恥ずかしいだろうとわかるようなフリッフリの改造制服を見て頰を引きつらせながら後ずさる。


「はて? そんなことはないと思いますが?」

「ヒィイ! そんな怖い笑顔はホタルには似合わないよ!」

「それは照れますね」

「褒めてないから!」


 セフィは全力で止めようとするも、ホタルは実にいい笑顔でやってくる。もちろん目は笑っていない。


 そして、ホタルはセフィの衣服を剥いでいく。

 セフィがコートの中に来ていたのは普通のシャツで、なんとなく勿体無いなぁとホタルは思ったが、ここでは本気で怒っていたのでなぜなんとなく勿体無いと感じたのかという、本来ちょっと考えればわかるようなことも怒りの中にあるホタルは気がつかずに服をあっさり剥いでしまい──


「きゃっ……」

「…………え?」


 ──固まった。


 そこには、さらしでだいぶ抑えられているものの、偉大な双丘が存在していた。


 その事実から考えられることは、


「──セフィさんて、女の子だったんだ」


 ホタルは呆然と呟いた。




 このあと二人の間に気まずい空気が流れたのは、言うまでもないことだった。


 ◆


「……」

「……」


 二人の間には、ホタルがセフィの目的を聞いた時とは別種の気まずい雰囲気が出来ていた。


 あの後別々に着替えた(ホタルは同じ白を基調とした男性用制服ただしセットとして夜色の糸で魔法陣ぽい刺繍が入っている指ぬきグローブ付きを、セフィはフリフリ改造制服を着た)のち、すぐに『狭間の洞窟』に帰ってから、時間的には三十分ほど沈黙が続いている。気まずさで言えば、いつぞやの実はセフィがここにいる理由は特にないんでした~というふざけた話をしたとき以上のものがある。


 そしてそんな気まずい空気がどれほど経過しただろうか、


「「あの! なっ! …………」」


 二人同時に互いへ話しかけてしまい、そのことに驚いてそのまま二人とも沈黙してしまった。

 反応が完璧にシンクロしていた。どこの少女漫画だよと言いたくなるような感じである。


 その後、またしても沈黙が続くかに思えたが、


「ほ、ホタル、あのさ……」


 セフィがなんとか話し始めた。


「は、はい」

「あの、私のこと、女だと思ってなかったの?」

「……」


 チラチラとセフィはホタルを見ながら尋ねると、ホタルは気まずそうに視線をそらした。

 その反応にセフィはショックを受ける!


「ううっ……まさか女じゃないと思われてたなんて……結構傷つくよ」

「あ、いえ! そう言う事ではなくてですね! なんというか、セフィさんに関しては性別について一切気にしていなかったといいますか!」


 ホタルはルクスが珍しく可愛らしい感じにシュンとしてしまったため、慌てて弁明し始めた。


「ねえ、それって女としての魅力を感じないってことじゃないの? 性別を気にしてもらえないなんてそれしかないよね?」


 確かにそう取れなくもない言葉である。


「いや! そういうことでもなくて! セフィさんはセフィさんだから! ボクはそのことについては考えようとも思わなかったといいますか──ってこれじゃあ、さっきと同じですね……」


 普段のアホだけど快活なセフィが落ち込んでいるため、ホタルもどう対応していいのかわからなかった。

さらに、今はハッキリと女性だとわかる服を着ているため、今までただの命の恩人にして親友といったところしか見ていなかったため、余計に混乱していた。


 さらにさらに──


(──しかも、セフィさん何気に胸大きいから、かなり意識するんですけどっ!)


 そう、普段女子生徒と行動を共にすることが多いホタルなので、そう言ったぶしつけな視線というのは普通の男子に比べればだいぶ抑えられているとはいえ、それでもセフィのソレ(・・)は目を引き寄せる魔の力を秘めていた。

 なにせ、『押し上げる』という言葉を正しく体現しているような大きさなのだ。


 もともと戦闘には邪魔になるからというわかりやすい理由で胸を押しつぶしていたらしいので、今その拘束を解いた状態のソレはもう、男(一部のモノは除く)にとっては猛毒と一緒である。


 そう、これは男友達だと思ってだ奴が実は女で、しかもびっくりするくらい色っぽくなっていたというのと同じ状況なのだ。


 もちろんホタルはルクスのことを男だと認識していたわけではないが、特に性別について意識したことがなかったということ関しては、男友達との関係と表現しても構わないだろう。

 男に性別に関してのそう言った感情を向けている場合は別だが……そのケースはごく稀だろう……


 何はともあれ、


「セフィさんは、とっても魅力的です! その……正直今ものすごくドキドキしてます!」

「ふ、ふぇ!?」


 ホタルの本音にセフィは赤くなる。

 その反応が、今はとてもかわいいなと思いながらホタルは続ける。むしろここからが本番だ。


「でも、セフィさんは、魅力的な女性であるという以前に、ボクにとっては命の恩人で──」


 死を覚悟した所から、救い出してくれたセフィにどれだけ感謝したかホタルはわからない。


「この地獄みたいな場所で生きる力を与えてくれた、性別なんて関係ないくらい大事な人だったから」


 助けてくれただけでなく、この世界で生きていくための知識、経験、そして魔素の操作などの戦う力を与えてくれたセフィにどれくらいか分からないほど大きなあたたかさを与えられたか、ホタル自身もわからない。


「ボクにとってセフィさんは、家族とか、友達とか、今までいた試しがないですけど恋人なんかよりも、大切な人なんです」


 だからこそ、これがホタルの本音だった。


「そうですね、こういった場面でなければ言わないでしょうから今言っておきます。これまでボクに返せないくらい大きな優しさを与えてくれて、ありがとうございました」


 今ある本音を全部ぶちまけたホタルはそのままの勢いで感謝の言葉を述べながら頭を下げた。


「…………」


 しかし一方で、その本音を聞いたセフィは頰を朱に染めながら固まっていた。

 その様子にホタルは首をかしげる。


「どうかしましたか?」

「………………ハッ!? い、いや、なんでもないよ? つまりは私は女性の魅力はあるってことと、ホタルは私にすごい感謝しているってことだね!」


 セフィはしばらく惚けていたが、なんとか再起動して話をまとめた。しっかり話は聞いていたようだ。

ホタルは「そうですね、その通りです」と頷いて、


「──さらにぶっちゃけると、今のセフィさんの格好がかわいすぎてヤバイです。彼女にしたいくらいです」

「ふぁっ!?」


 ……さらなる爆弾を投下した。


「特に今までそういった目で見てこなかっぶんボクにとっては破壊力がヤバイですね、なんてことしてくれたんですか」

「それは私にはどうしようもないが!?」


 本音をぶちまけてしまったホタルは愛情表現とかそういった面のメーターが振り切れてしまったのか、とんでもなく横暴な言葉を発する。

 セフィも反論するが、顔は真っ赤でなおかつちょっともじもじとしているので、満更でもないようだ。


 その様子がまたかわいいな思って優しく微笑んだあと、ホタルは一転自身の顔を引き締めて考える。


(──ボクを守ってくれていた人は、実はびっくりするくらいかわいい女の子だった。今までそのことについて意識することはなかったわけだけど、今はもうそのことを無視することはできない……)


 何より、セフィはホタルにとってもはや離れたくない、ずっと一緒に居たいと思える存在だ。


(……なら、ボクは男として、セフィさんを守れるようになりたい。今はまだ、守られる側だけど、いずれはセフィさんよりも強くなって、彼女を守りたい。──そして、もしその時が来たのなら……)


 ホタルはその時に、改めて告白しようと決意した。


(──まあ、まだまだセフィさんとは実力差が尋常じゃないんだろうけどね)

「はぁ……」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないです。かわいいですね」

「文脈おかしくないかな!?」

「そうですか?」

「そうだよ! 絶対そうだよ!」

「ふふっ、そうですか。かわいいですね」

「ねえ? ふざけているのかな? かな?」

「さて? どうでしょう?」


 ホタルは新たな決意を抱きながら、とりあえずはこの愛すべき人との会話を楽しもうと思考を切り替えていったのだった。


 ──すぐそこに絶望が迫ってきているということに気がつかずに。


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