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11.教科書は偉大なり

「ふーむ、このアプリたちは全て有能そうだな。あとでダウンロードしたいな。いやしかしこっちのアップデートもしたいからなぁ」


 自身の《恩寵》である《かわいいは正義》の真の力に気がついたホタルは、その後も自分のスマホとにらめっこをしながら、あーでもないこーでもないと悩んでいた。


 ホタルのスマホには、特殊な効果を得ることができる様々なアプリケーションが存在し、それにはそれなりの量の魔素が必要であることが、その後分かった。


 であるからして、この危険な地下世界ルエアウオルドで、無理のない範囲で魔素を消費しながら、自分にとって有益であるアプリを手に入れる必要があったのだ。

 さらにびっくりすべきことは、それぞれのアプリを魔素を消費することでアップデートすることまで可能なのである。

 ホタルが最初にダウンロードした『スペシャルアナライザー』もその対象であり、この鑑定能力と言っていいそれをアップデートにより強化するというのはなかなか魅力的な案なのだから、この悩みは当然と言えるだろう。


 そんな贅沢な悩みをここに来て抱えることになったホタルだが、しばらくするとそこから意識を離して次なる得物を探すかのように視線を送る。


「ここまで、リュックにスマホとなかなか強力な魔改造が施されていたわけだが次はどれにするかな……」


 残るアイテムとしては教科書とヘッドホン。

 この二つで期待したいのはどちらかと言えばヘッドホンだろう。スマートフォンほどではないが、人類の英知が詰まった現代の科学アイテムだ。スマホ同様にどんな魔改造がされているか気になるものである。


「となると、楽しみは最後にとっておくとして……」


 ホタルは教科書を手に取った。


 正直に言えば教科書と魔改造という言葉がホタルには全くつながらなかった。

 リュックに関しては「カバンと魔法と言えば……」と考えていけばおのずと連想したりできるが、魔法と教科書の掛け合わせというのは予想できないだろう。ホタルの脳内でも、異世界学園もので教科書というものが出てきたりするものがあったとしても、それは普通に国の歴史が書かれてあったり、魔法を論理的に書かれたものだったりと様々だ。


「……可能性としてはこれを読むことで魔法を扱うことができるって感じか? ──でもなぁ」


 なんとなく候補を挙げてみたが、ホタル的にはそれが答え奈ようにも思えなかった。

 なぜなら──


「……ホント、なんでカスミ先輩はこいつらをリュックの中に入れてたんだろうか?」


 ホタルが手に取っている教科書の科目は『家庭科』。他に関しても技術に音楽、体育となぜかすべてが副教科、それも中学生の教科書だったのだ。

 一応魔素の反応は感知できるものの、いったいこれがどう魔改造されるのかなどわかるはずもなかった。


「──ま、これに関しては手にとってみればわかることだろ」


 そうしてホタルは教科書を手に取って中を確認する。


「……うん、普通だ」


 ホタルは戸惑った。

 何せ、特に何も変化が見られなかったからだ。

 家庭科の教科書は普通に栄養素とかそう言ったことを懇切丁寧に書いているだけである。


「いったいこれは何なんだ?」


 ホタルはなんとなく意地で教科書を読み進めた。ここでめげるのは何かに負ける気が死したからだ。

 幸いというか、ホタルが読んでいる教科書はホタルが中学生の時に読んでいた教科書だったので、割かしすらすらと読んでいくことができた。


 そして、


「読み終わったわけだが……」


 すべてを読み終えても何も起きなかった。

 ホタルはじーっと教科書を再度見つめるも特に何も起きず、ため息をついて教科書を閉じる。


 ──と、教科書そのものがボロボロと崩れてなくなった。


「な、なんだ? ──うっ!?」


 もちろん普通の教科書が読み終わった瞬間に崩れてなくなるという経験をしたことなんてないホタルは戸惑うが、直後に脳内に入ってきた膨大な情報に意識を持っていかれた。


「……これは、魔法の、使い方か?」


 ホタルの脳内に流れ込んできた情報は、魔素をどのように扱うことによって、どういった現象を起こすことができるのかという、まさしく魔法と呼ばれるものだった。


 この世界の魔法は、アオイたちが魔法を習得するときにも話題になっていたが、基本的には魔素を使った数学的な理を理解することによって発動することができるものだ。基本的な魔導書はこれに当たる。

 しかし、世の中にはえてして例外というものが存在するように、この世界の魔導書にも例外というものが存在する。


 それが、その本を読むだけで一瞬で、それこそ魔法のように特殊な力を扱うことができるようになり、読まれたものは跡形もなく消えていく特殊な魔導書。

 この世界ではそれに名前を付けることはない。なぜなら、そもそもそう言った魔導書があるということ自体が眉唾物であり、ほとんどの人間がどうせおとぎ話の類だろうと思っているからだ。

 もしそんなものが発見されれば、おそらくこの世界の魔術師たちはこぞって奪い合いを起こし、軽く戦争さえ起こしかねないほどに貴重なものだった。

 それほどに、その教科書は魔改造されていたのだが、


「な、何がどうなってるんだ?」


 もちろん、この世界の常識など全く知らないホタルからしてみれば、ただ目の前の現象に驚くくらいのことにしかならなかった。

 のだが──


「えーと、これはどうしたらいいのかな? ──ってよく考えたら『スペシャルアナライザー』を使えばいいんじゃん! ……何やってんだオレ、アホか」


 冷静に考えれば自分には万能な鑑定機能が存在したのである。

 しかも先ほどまでそのことについて触れていたのにもかかわらず忘れてしまっていたという事態にホタルは自分で自分を殴りたくなった。


 強くなるといった以上、そういったところまで細心の注意を払って行動できるような人間になるべきだ。

 それこそ、この世界には様々なものを武器として行動している賢い人間がたくさんいるのだ。こんなところで、つまずいてはいられない。


「さて、とりあえずは『スペシャルアナライザー』で鑑定してみるか」


 ホタルは次に音楽の教科書を手に取って解析を行う。

 そうすると、それを読むことによってそれに類推する技能や魔法を扱うことができるようになるという文言が出ていた。


「うーん、つまりこれは魔導書とか禁書みたいな感じかな?」


 ホタルにはこの世界の『魔導書』がどういうものか分かっていないのでこういった発言が出てくるが、もちろんここには間違いを訂正してくれる人間など存在しないのでホタルは気がつかない。

 さらに言えば、この世界に存在する『禁書』と呼ばれるものは、ホタルが考えている以上に恐ろしいもので、この世界の人間が聞けば軽く卒倒して倒れこんでしまうような扱いを受けていることも、この時のホタルが知る由もないことだった。


 ◆


「で、とりあえず魔法を試してみたいわけだが……」


 ホタルはすべての教科書を読み終えて、それについての効果だったりをしっかりと認識したので、新たに得た力というものを試してみたくなったのだがホタルの表情はすぐれない。

 なぜなら──


「……オレが読んだ魔導書の魔法、なんか使いどころが限られてるんだよなぁ」


 ホタルはため息をつきながら自分が覚えた魔法の欠点をいきなり感じていた。


 ホタルが覚えた魔法は、異世界もので主人公たちが使うような、目の前でちょこっとと言った実験ができるようなものではないのだ。

 特殊な道具が必要であったり、場所が限定されたものであったり、膨大な魔素を消費したりと言った感じのものばかりであり、使いずらいことこの上ない。

 さらに言えば、物語の登場人物は大きな魔法を放つときなどに安全な場所で行うことができるというのがあるわけだが、ホタルがいる場所はどこに行っても安全とは程遠いのである。


 一応戦闘で使えそうなものも存在しているわけだが、トラウマ克服のためにたくさんの戦闘を施していたホタルはこれからしばらくの時間を休息に充てる予定であり、魔素の消費もできるだけ抑えておきたいためにそれも出来ない。


(──うーん、これは本気で困ってしまったぞ)


 そこでふと、ホタルは自分がいる場所を思い出した。

 そしてすぐさま自分のスマホを手に取り行動に移す。


 使うのはもちろん『スペシャルアナライザー』。

 しかしそれを向けるのはアイテムなどではなく、今自分が座っていた地面だ。


 そして、その結果を見たホタルは、自分の思惑がはまったかのように笑うと、すぐさま地面に手を付けて、


「『精錬』」


 たった二文字の熟語を唱える。

 そうすると、地面がだんだんと柔らかくなっていき、気がつけば液体のようになってしまった地面は、いくつかの色違いの、ビー玉くらいの球体へと変化していった。


「ふう……」


 ホタルは結果がうまくいったことに対して満足しながらビー玉上になったいくつかの球体を手に取り、それらを『スペシャルアナライザー』にかける。


 出てきた主要なものに関しての情報はこのような感じだ。


 まず一番大きい茶色い粘土のような球体は、


 ────解析結果────

 ・魔素を多分に含んだ土。

 ・粘性に富み、加熱されると硬く、しかし脆くなる。


 そして、次に大きい真っ黒な球体は、


 ────解析結果────

 ・魔素を遮断する鉱物。

 ・圧倒的な強度を誇り、熱にも強いことから加工には適さない。


 他にもいくつか球体は合ったものの、それらは小さいビー玉くらいのものや、果てはビーズくらいの小さなものまであったので、いくつか気になるものも存在していたものの、今とりわけ注目すべきものではないとホタルは判断した。


 何より今注目すべきことは他にある。


「うん、実験は成功した」


 ホタルが使ったのは中学でしか出てこない『技術』という科目の教科書が魔改造されたことによってできた特殊な書物。

 その中にある一つの魔法が『精錬』という、地中に存在するたくさんの鉱物たちを、一つひとつすべて不純物を取り除いてそれぞれ塊にしてしまうという、この世界の人間からしてみれば非常に恐ろしいものだ。


 この世界は、王道なファンタジー世界というだけあって『錬金術』というものが存在する。

 その中にはもちろん、金属の純度を高めていくものだってあるのだが、それでもそれぞれを百パーセント完璧に取り出すということができるのは、最高位の錬金術だけだ。

 断じてホタルがやったように、ちょっとした実験に使えるようなものではないのである。


 なぜそれほどまでに強力であるのかと言ったことについて実はそれ相応の理由があるのだが……


「ふむふむ、これなら技術の魔法をもっと使っていくことで武器を作れるよな」


 ホタルは常識を知らないので、そこに気に留めることはしばらくないのであった。


 そんな、無意識に、無自覚に規格外な道を歩み始めたホタルは、その規格外っぷりをどんどんと発揮していった。


 まずホタルは、適当になずけた『技術の魔法』の有用性を理解したので、自身が今持っているありったけの魔素を使って、周りの地面を液体状にして動かし、延ばし、広げて三百六十度すべてを百パーセント天然物で構成された半球状の簡易シェルターを拠点として作り出し、そのついでに椅子や机、横になれる場所などを完備して休憩をとることにした。


 そして目覚めたあとは、他の魔法を使うために必要な道具を地面から金属を『精錬』して、『加工』の魔法で構造を変化させ、あらゆるものをどんどん準備していった。


 ちなみにこれだけでも世の錬金術師たちは卒倒するような行為である。


 そうしてそのシェルター内のものがある程度完備されたら、ホタルはふと、この技術の魔法であることができないかと思考を切り替えた。


「っとその前にアナライザーを使って……」


 ホタルはその思い付きを実行する前にスマートフォンを手に取った。

 そして、ホタルはシェルター内に大切においておいたくすんだ白いかけらと濃い青色のかけらを魔法によって作り出したテーブル上に上げて、それを解析する。

 解析結果は、どちらも壊れていて特にこれと言った効果はないが、しかし膨大な魔素を含んでいる鉱石であるということが判明した。


 ホタルはそれを確認した後、はやる気持ちを抑えながら白と青の鉱石それぞれに手を付けて、


「『精錬』」


 まず爆発によって不純物がついているのではないかということからこの世界に来て初めて使った魔法を使い、それぞれをより綺麗な鉱石へと加工していく。


 次に、


「『混合』」


 それぞれ綺麗になった鉱石をうまく混ぜ合わせていく、これにより、二つの白と青の鉱石が混ざり合ってだんだんと薄青く光る銀色へと変化していく。

 それはさながら、異世界ファンタジーの中で必ずと言っていいほど出てくる特殊な鉱石、ミスリルのごとし。

 その美しさに、一点の濁りもないことを魔法越しに確認したホタルは、次の工程へと移る。


「『鋳造』」


 この魔法はホタルが自らの魔素によって外枠を作り出し、その枠の中に魔素によって液体のように構造を改変させられたミスリルカラーの鉱石を流し込む。

 外枠の形は、ホタルの愛すべき人が扱っていた細身の長剣、刺突をメインとしながらも、しかししっかりと斬撃を行えるだけの鋭さを出せるような構造を作り出していく。


 ホタルはこの工程に三時間近くを要し、やっと満足敵るところまで来たところで、最後の工程へと入る。


「『研磨』」


 左手に魔素を乗せて、ミスリルカラーの細剣を撫でる。

 剣というものは、刃がなければ切りつけることなどできない。

 この作業はその刃を作るための作業だ。


 これに関しても一ミリも誤差を出さない非常に高難度なもので、ホタルはさらに八時間ほどの時間をかけることになった。


 そして、それだけの時間をかけてやっと──


「出来た!」


 ホタルは一本の、セフィの持っていた剣と水晶を元にして出来た細剣を作り出すことに成功した。


 ホタルはすぐさま『スペシャルアナライザー』で解析を行う。


 ────解析結果────

 ・高位の精霊によって作られた二種類の鉱石を合わせて作り出した特殊な合金によって作られた剣。

 ・剣自体に圧倒的な魔素を含んでおり、斬れ味は一級品である。また、斬れ味は使用者が流し込んだ魔素の量に合わせて強くなる。

 ・この剣の使用者は、一瞬先の未来を見ることが出来るようになる。

 ・一定の魔素が溜まることによって、特殊な効果が生まれることがある。


「へえ、最後の一文に関してはよくわからないけどかなりすごい剣になったな」


 ホタルは試しにと、自らの魔素を流し込む。


 すると、実に気持ちいいくらい魔素が綺麗に流れ込んで行き、ホタルの魔素の色である蒼銀がミスリルカラーの剣を覆って、夜空に浮かぶ青白く輝く星のような光を放ち始めた。


 軽く水平に振ってみると──


 スパッ


 なんと剣を振るったその余波だけで、あの『炎の花』と『氷の花』による大爆発にも多少内部に傷ができて瓦礫がたくさん落ちてくる程度で済んだ洞窟の壁で出来たシェルターを斬り裂いてしまった。


「おう、これはかなり危ないな」


 魔素を軽く込めるだけで圧倒的な切れ味となってしまったホタルは慌てたように魔素を流すのをやめて、シェルターを魔法で修復しながら、魔素を流すときは顔つけることにしようと誓ったのだった。


 ◆


 ホタルはセフィの形見となる鉱石二つで作り出した剣、名前を『セフィランサス』としたそれを持って試しに狩りを行って、あの豚や牛や熊などあらゆる動物たちを合わせたような生き物を手に入れた。


 本来であれば戦闘用の魔法を試したりもしたかったのだが、試しにと相手を魔素を流していないセフィランサスで斬ってみたところ、スパッと綺麗に斬り裂いてしまい、一撃で終わってしまったのだ。


 もう少し戦闘をしたかったホタルだが、ここ何日間か何も食べていないことに気がつき、とりあえず食事を取ることにしたのである。


「さて、一応ここでも実験が出来るわけだからやってみるか」


 ホタルは目の前にあらゆる動物が混ざったバケモノを置くと、それに手を触れて──


「『解体』」


 それだけでなんと綺麗にバケモノがあらゆる部位に分かれていった。


 今回使ったのは、これまでのものとは違って、今度は『家庭科』の科目の魔法である。


 家庭科の魔法は基本的には生活するのに役立つ能力が多かった。

 料理然り、洗濯然り、他にも様々な生活に関する魔法が取り揃えてあった。


 中には技術の魔法のように武器や装備などに役立ちそうなものもあったが、それを使う機会があるのは少し先のことだろうとホタルは考えた。


 そして、技術の魔法で実験として作ったフライパンなどを使いながら、ホタルは『魔法のコンロ』などの家庭科の魔法を使って調理を進めて行く。

 それは普通にやる料理よりも明らかに早く、さらにはには『魔法の粉』といった万能調味料のようなものまで存在し、今まで味気なかった紫色のスープが食事だったにもかかわらず、ついには美味しそうなステーキが出来上がってしまった。


 それを食べると──


「うまっ!」


 自画自賛であるが、それでもここ最近は全く美味しいご飯を食べていなかったのだ。ホタルが久しぶりに味付けがしっかりされた美味しいものをお腹に食べ物を入れた感覚は、言うまでもなく最高なものだったろう。


 ホタルはそれからすぐに食べては狩をしに飛び出し、食べては狩をしに飛び出しと言ったことを無心で十回ほど繰り返してしまうのだったが、ここでは割愛する。


 その後は家庭科の魔法の『裁縫』を使って、魔法の針と糸を用いてふわふわ鳥のふわふわした羽毛と、『洗浄』の魔法で綺麗にしたピンクウルフの毛皮を用いて作った寝袋にしてホタルはぐっすりと眠ることができた。


 こうして、ホタルは子供達が知識を得るために一番の、偉大なアイテムである教科書によって、さらなる強化を果たして行くのだった。

もしかすると二日おきになるかも……

でも明日も出せるように頑張ります。

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