1.物語の始まり
──空を蓋でおおわれた、太陽のない地下の世界。
──そこで一人の少年は絶望した。
理由はいたって単純だった。
少年が、自身のちっぽけな苦手意識のせいで、自分を支えてくれたとても優しい存在を失ってしまったのだ。
──少年は呪った。
──自身の体の弱さを。
──自身の心の弱さを。
──だから少年は決意した。
「──ボクは……いや、オレは、絶対に生き延びて見せる」
──これは一人の少年の絶望からの逆襲と成り上がりの物語。
──すべては少年のごくごく平和な世界の崩壊から始まった。
◆
とある年の夏。ある1つの商業高校では、今日も今日とて文化祭の準備のため遅くまで残る生徒で溢れていた。
1年8組の生徒たちもその一例である。
彼らが行うのは男女逆転喫茶というもの。簡単に言えば男子が女子の制服を着て、女子が男子の制服を着るといった感じのものだ。
そしてそのクラスでは目玉となる存在がいる。
「おお~やっぱりかわいい~」
そう言われるのは、半袖のワイシャツにカーディガン、下にはジャージのズボンをはいて首にはヘッドホンをかけて、二本のヘアピンで前髪を止めた肩をくすぐるくらいのさらさらした黒髪とくりくりっとした大きな黒い瞳が目を引く少年。
少年の名前は伏露 螢。
ホタルはこの学校で一番かわいい生徒と言われている。
否、正確にはこの地域で最も可愛いと言われいている生徒だ。
それこそ、一部男子が作ったと言われる裏サイトで付き合いたい人ナンバーワンになっちゃうくらい魅力的なのである。
それも、男なのにである。
それほど、ホタルという少年はかわいらしい顔立ちをしているのだ。
本人はそのせいで多大なトラウマを抱えてしまっているのだが、現在のこの環境はそれとはだいぶ遠い場所であるから、ホタルは普通に学校に通っている。
「ボクは可愛いというのはあんまりうれしくないんだけど……」
「「「「「いや、その発言がすでに可愛いから」」」」」
「うう~うれしくないよぅ」
「「「「「可愛すぎる!!!」」」」」
「も~!」
「「「「「可愛さ革命!!!!」」」」」
ホタルがモジモジしたり、プンプンしたり姿は確かに、あざとすぎるくらいに可愛い。……最後の発言が意味不明なのはその言葉を発した多くの生徒たちも分かっているが、止められないのだ! それくらい可愛いのだ!
「何はともあれホタルがいればうちのクラスの売り上げが学内トップになること間違いなしね」
「うーむ。私のクラスも負けるつもりはないのだが、これは厳しいかもしれないな」
「うーん。確かにこの子はやっぱりいいねぇ……あ、ちょっとこのリュック背負ってるとこ撮らせてぇ」
「……なんでいるんですか生徒会長と写真部部長」
いつの間にやら話に割り込んでいたのはスラッとした体に腰くらいまである長い黒髪とキリッとした目、そして笑顔の時に見せる八重歯が特徴的な美人生徒会長とサラリと教室の中に入って写真を撮りまくる栗毛の豊満な体をしたセクハラ部として有名な写真部の部長だった。
生徒会長が名前を野口 風鈴(3年生)、写真部部長を美原 香澄(2年生)と、この学校の三大美女の2人として有名な2人なのだが、気がつけば2人もホタルの虜になっている。
事実フウリンはまた別の生徒がジト目でツッコムと「だってホタルは可愛くてほっとけないし」とか、未だシャッターを切り続けるカスミは「このナチュラルな恥じらいがたまらないからねぇ」とハァハァしながら返答して来るのだ、完全にホタルの可愛さにやられている。
ちなみに写真部部長は変態として有名なのでハァハァしてても呆れた目しか向けられない。実は最近「誰も私の変態性にツッコミを入れてくれない……」と嘆いているのはカスミだけの秘密だ。
「ちょっとあなたたち! もう下校時間過ぎてるでしょ! 早く帰りなさい!」
ホタルを中心にして出来るワイワイガヤガヤとした空間に、これまたいつものように1人の人物がやって来る。
「「「「「あ、ハレンチ先生こんにちは!」」」」」
生徒たちがもはや「こんばんは」の方が正しいのでは? という時間にもかかわらずスバラシイあだ名とともに「こんにちは」と元気に挨拶したのは、150センチほどの身長しかないにもかかわらずびっくりするくらい柔らかそうな水蜜桃を二つ持った女性で、この学校の先生である水樹 杏。
あだ名はその体やちょっとお堅い感じの性格から最近よくありがちな風紀委員の生徒を彷彿とさせるのでハレンチ先生となっている。アンズも校内三大美女の1人である。
「誰がハレンチ先生ですか!! 喧嘩売ってるんですか!? なら買ってやろうじゃないです──ってだから早く帰りなさい!」
「「「「「チッ、あと少しだったのに」」」」」
「あなたたちは本当になんと言うか……」
アンズはもはや完全に定着してしまっている「ハレンチ先生」というあだ名を言われると過剰反応するため、これに意識を誘導してうまい具合に都合のいい方向に持っていくというのが学校にいる生徒全員の共通認識なのだが、今回は通用しなかったので生徒たちは仕方なく帰ることにする。
その時の生徒たちの反応が完全に先生に向けるものではないのでアンズがこめかみをグリグリしている。
この学校の先生になったからと言うものアンズはいつもどこかのタイミングでこれをやっているので時々「考えるハレンチ先生」と呼ばれたりすることがあり、それもまたこめかみグリグリの原因になって、それがまたあだ名に……といった無限ループはある意味で学校の特徴の1つになっている。
……元ネタとなる某芸術は顎に手をやっているのだが、生徒たちにとってみれば面白ければそれでいいのだ。
こんなことをやってはいるが、彼らは今、真剣に文化祭でどう儲けるか、頭の中でソロバン弾いたり、電卓叩いたりしているのだ。
彼らは商売に全力でもある。いや、本来こっちが必要なことなのだが、このクラスのクラス目標が「まず楽しめ、そして儲かることをしろ。あとは自由にやれ……あ、犯罪には手を出すなよ?」といった感じなので、こんなふざけた空間になっている。……担任は泣きそうになりながら毎度彼らを率いている。最近の悩みは彼らが冬にある宿泊学習で何かやらかさないだろうかというものだ。
そんな、面白さと商売を真剣にやる場所。
これがホタルを取り巻く環境であり、日常だ。
──先ほどまでは。
ピカアァァァ!
「な、何!」
突如として天井が輝き始めた。
否、正確には天井が輝いているのではない。
「ま、魔法陣……」
クラスで3人しかいない男子生徒の1人が思わずそう言葉を発する。
そう、天井にはまるでファンタジーの物語で出て来るような魔法陣。それがまばゆい光を放っているのだ。
そして、それが出現したと言うことは──
「まさかこの後の展開は──」
また別の男子生徒がその結論を言う前にその場にいる全ての生徒たちを先ほどよりも明らかに強い光が包み込んだ。
……
…………
………………
まばゆい光の後、生徒たちが目を開くとそこは、静かな、それはもう静かな場所だった。
すでに夜だということもあるのだろう、その静けさにはどこか不思議な雰囲気を感じる。
「神、殿?」
1人の生徒が呟く。
そこは確かに神殿と呼ぶにふさわしい場所だった。
よくわからない石材で作られているようだが、周囲にある柱はまさしくパルテノン神殿にあるような構造をしており、生徒たちは「どこもこんな感じなのか? なんかこう、物理法則無視した神殿とかないわけ? 転移魔法なんてあるんだから出来るでしょ? 面白くないなぁ……でもなんで夜なのにこんなにはっきりと見えるんだ? ──お! 月が3つもあるじゃん! すげーファンタジーだー」などと戸惑いながら思考していた。
……なんだか、予想外の事態であるはずなのに随分と余裕な生徒達である。
「ようこそいらっしゃいました」
「「「「「テンプレキタァ! ──と思ったらイケメンだと! ……まあ、これはこれでいい……でも、そこは金髪碧眼が良かった!」」」」」
「……えっと?」
「あなたたち……」
生徒たちは目の前の状況に驚き(驚いているのは本当)思考停止している(ただし、ボケとツッコミは忘れない)と、その神殿にどこぞの貴族か王族だろうと分かるような格好をした黒髪黒目のメガネをかけたイケメンさんが、異世界召喚のテンプレよろしく挨拶をしたのだが、それに対する反応は沈黙でも戸惑いでもなく、まるで物語を読んでいる神の視点のような、リアルな感想だった。
ちなみに予め言っておくがコレがホタルのいる商業高校の普通では断じてない。
ハレンチ先生もといアンズが呆れている様子からもわかると思うが、このクラスが異常なのだ。
異世界召喚について詳しい理由もこのノリで、「みんなで意見出し合って小説出してみよう!出来ればホタルを題材に!」見たいなことがあって色々実際に読んで見たからである。ちなみにその小説執筆は全員が「ホタルの可愛いところ」を考えた時に意見が分かれまくって大混乱になってしまったため中止となってしまった。
こんなふざけたクラスになった理由は、まあ、もろもろあったのだが、メインはホタルだ。
基本商業高校ということもあり、メンバーは「かわいい」が口癖の女子ばかりで、ホタルの反応があまりにも可愛いので、いつからかノリで先ほどの「可愛さ革命」のようなことをクラスみんなで連呼していたら、どんなものにもとりあえず鋭いツッコミやとんでもないボケをかますことが出来るようになったのである。……いや、ホタルのせいでは治らないレベルでテンジャンが高かったのが一番の原因かもしれない。
そんなちょっとテンションの高い(1年8組視点)クラスメイトたちの反応に、おそらく「戸惑いもあると思いますが、まずこちらの話を聞いてくださいますか?」といった言葉を用意していたであろう黒髪黒目の王子っぽい人は戸惑いで固まってしまった。別に大勢の女性にダメ出しされてちょっと傷ついているわけではない。断じてない! 大事なことなのでもう一度言うが、別に傷ついてないんだからね?
「で? あなたは何者なんですか?」
うちのクラスの三人のうちの一人の男子生徒が黒髪の王子っぽい人物に話しかける。
すると、ようやくまともに話ができそうであると黒髪王子(仮)は安堵した表情になり、実にさわやかな笑顔をもう一度作って説明を開始した。
「まず、あなた方はこの世界に飛ばされてきてしまった『転移者』と呼ばれる方々です。この『転移者』ですが、実は珍しくはありません。理由は後程説明します。今あなた方に説明させていただくのは3つ」
そう行って黒髪王子(仮)は指を3つ立てる。
1.ここは『トウェル』という世界であり、この世界では『転移者』がありふれている。
2.『転移者』が普通に存在するこの世界は『転移者』が住んでいくための環境が整っている。
3.そういった理由から『転移者』の方々をその環境へと連れていきたい。
「──というわけです。私は今回の案内役をさせていただく。権田 権蔵といいます。よろしくお願いします」
「「「「「名前が渋い!」」」」」
「あなたたちいい加減にしなさい!」
1―8クラスの反応にアンズがツッコミを入れる。
その時、黒髪王子(仮)改めゴンゾウさんはちらりと、物凄く冷たい目でアンズを見ていたが、その視線に気がついたものは居なかった。
ゴンゾウの案内の元やってきたのは大きな要塞のような建物だった。
その雰囲気に生徒たちは「すげー要塞だー」などと言いながら若干萎縮(?)していたが、中はまるで西洋のお城の中ではないか? と思うようなきらびやかな雰囲気があり、もともと順応性が高くノリのいい生徒たちはすぐに楽しみ始めた。
ゴンゾウの話によれば、ここは『転移者』が来た時に一時的に泊まり、且つこの世界についての詳しい説明を受ける場所であるとのことだった。
一通り場所の紹介が終わったあと一度、一人一人に部屋があてがわれているのでそこにいってもらうことにった1―8クラスのメンバーは自由に自身が選んだ部屋へと入っていく。
しばらくして、1-8クラスのほとんどがあらかじめゴンゾウから伝えられていた部屋にいる。
全員の顔は実にいい。なぜならビックリするくらい布団が柔らかかったり部屋が広かったりしたのだ、こんな部屋に泊まる機会など滅多にない生徒たちはウキウキだ。
しかも目の前に非常においしそうな料理まであるのだ、これで楽しく感じないわけがない。
部屋に全員いることを確認したゴンゾウが、料理を食べることを許可した後、この世界についての概要を説明を開始した。
「さて、ここ《トウェル》と言う世界ですが、あなた方の世界の言葉で言うのなら、『もろファンタジーじゃん』といった感じです」
ゴンゾウはさらに説明を続けた。概要はこんな感じ。
・《トウェル》は剣と魔法の世界である。ただし、『転移者』が多く存在するため、銃などの兵器も存在する。
・エルフやドワーフ、獣人などなど様々な種族が存在していて、大抵はそれぞれの種族で国を作り、各国は特に争うこともなく貿易や外交を行なっている。
・この世界では戦争がほとんどない。
・戦争がない理由は、この世界の中心にある《塔》と呼ばれる摩訶不思議な場所が存在するから。
・《塔》と呼ばれる場所は、地球で言うところのダンジョンや迷宮のようなものとなっており、地球の魔物やモンスターと同じ扱いである魔獣が存在して、さらに宝も存在する。
・多くの人間が今は《塔》の中で生活しているため、『転移者』である自分たちもそこに行くのが良い。
・戦いを恐れずに《塔》を最前線で登り続ける人たちは生きる英雄という扱いで人気が高いので、興味があるものは目指して欲しい。しかも《塔》の最上階をクリア攻略すれば願いがかなうという噂があるとか。
・最後に、『転移者』は必ず《異能》を持っている。
「──といった感じでしょうか」
ゴンゾウが説明を終えると、1人の男子生徒、名前を西園寺 修斗が手を挙げて質問する。
「なあ、その《異能》ってもしかしてチートのことか?」
名前はなんだか乙女ゲーにでもでて来そうだが、特にこれといった特徴のない普通の男子生徒であるシュウトの質問に、リアルで乙女ゲーに出て来そうな、名前だけちょっとアレなゴンゾウが柔らかい笑顔で答える。
「いえ、チートかどうかはわかりません」
「え?」
「簡単にいえば、《異能》には強いものもあれば弱いものもあると言うことです」
おそらくゴンゾウはこの質問を予想していたのだろう。すぐに《異能》についての詳細も教えてくれた。
・《異能》とはその人だけが使うことのできる特別な力のことで、その能力は千差万別。強さや弱さがもちろんある。
・同じ《異能》を持つものは世界中探しても誰もいない。ただし、ある《異能》例えば《炎使い》というのがあったとして、その《炎使い》を使う人物が死んだ場合は、その《異能》を引き継ぐこともある。さらに、これには血筋は関係ない。
・《異能》は自覚していなければ普通発動できない。例えば先ほどの《炎使い》という《異能》も自分が《炎使い》なのだと自覚しなければ扱うことは出来ない。生まれながらになんとなく扱うことが出来るなどの例外ももちろんある。
・《異能》は戦闘系の能力だけではないので注意が必要。
・最後に、生徒たちの《異能》を測定することが出来るので、それぞれの《異能》を測定してから詳しい説明をしたい。
「というわけで、皆さんには大広間で《異能》の測定をしていただきます。これはこの世界において必須事項なので早急に行いましょう」
ゴンゾウの案内で大広間に移動した生徒たちは自身の異能を測定していった。測定と言っても、ただ特殊な水晶に触れるだけの簡単な作業だったため、その場にいた全員がすぐに終わった。「ねえどんな《異能》だった?」「わたしはねぇ」などとそれぞれが会話している。
「なあゴンゾウさん。受け継いでいる《異能》もあるってことはどれが当たりかみたいなのも知ってたりしないのか?」
そう質問したのは身長178センチとそれなりに大柄の澤村 聡だ。
サトルは成績もそこそこよく、運動神経もそこそこいいといった感じの男子生徒で、結構なオタクである。実はそれなりにアウトな性癖を持っているのだが、それはまた別の話。
「ええ、そうですね。伝え聞いた話ですが、強いものの例は例えば《赤使い》や《青使い》などの色に関するものそれから《アブソリュート~~》のようなアブソリュート系、さらに《~神》のようなものなどでしょうか。これは正直伝説級ですのでまずないとは思いますが、それでも《~使い》やあとは概念に関するものなどは当たりはずれはあれど強いものが多いですね」
「なるほど……」
ゴンゾウの話を聞いて少しうれしそうにうなずくサトルに周りの生徒たちはどうやらアタリを引いたらしいと察した。
と、ここに来て誰かが、この楽し気な雰囲気をぶち壊す致命的な発言をした。
「そういえばホタルはどんな《異能》なんだろ?」
「あ、確かにホタルの《異能》は気になる」
さすがはホタル、学校の人気者と言ったところかすぐに話題の中心になり、全員が彼を探す。
──しかし、
「……あれ? ホタルは?」
「……どこに行ったの?」
大広間のどこを見てもホタルはいなかった。
さらによくよく考えてみるとフウリンやカスミ、アンズなどもいない。
「ちょっと、どういうことよ! あんたたちでしょ! ホタルたちをどこかにやったのは!」
ホタルと仲が良かったクラスメイトの一人であるちょっとギャルっぽい印象を受ける銭藤 愛生がゴンゾウを睨みつける。
それに対してゴンゾウはやれやれと肩をすくめて答えた。
「ええ、そうですよ。ですがこれがこの世界の掟なのです。それも、破ることを許されない、絶対の掟」
「……どういうことよ」
「この世界では、美しい女性は存在してはいけないのです」
「?」
ゴンゾウのよくわからない回答に、全員が首を傾げる。
──が、次の瞬間に全員が固まった。
「──『美しき女性には死を』……これが絶対に変わることのない神の意志なのです」
シィンとあたりが静けさに包まれる。
「う、嘘よね? ただ可愛いってだけで死刑になるの?」
「はい、それがこの世界の常識です。このメガネは、その神に死刑宣告を受けた人間を判別するためのものでして、それにあの四人が選ばれたということなのです」
生徒の誰かが乾いた笑みを浮かべながら呆然と呟き、それに冷静にこの世界に住む人間が答える。
「……じゃ、じゃあもうホタルたちは──」
「そうですね。死んでいるも同然といった感じでしょう」
「? 死んでいないの?」
「ええ、まあ、私たちは殺していません。私たちはただ神に指示されたとおりに、彼女らを死刑の執行場所に連れて行っただけですから」
「そ、そんなのっ! ほとんど変わらないじゃない!」
アオイがゴンゾウに食って掛かる。
「……そう言われましても、流石に私たちも命が惜しい。この世界の人々は美女に手を出した瞬間に大きな呪いを受けるのです。助けたりした場合も同様にそのような現象が起きるのですから、我々にはどうしようもありません」
「くっ!」
クラスメイト達は思った。
──「異世界召喚物は邪神が出るのが定番ではあるが、流石にこんな理不尽が序盤で出てくるのは知らない」と。
「──わかったわ」
アオイがゴンゾウから離れる。
「分かっていただけましたか」
「ええ、ですが、もう少し時間をおかせてください。あなた方にとってはただ神の意思に反する歩と立ちなんでしょうけど、私たちにとってみれば非常に大事な存在なんです」
「……そうですね。今日はお休みください」
「みんなも戻りましょう」
最初はアオイの言葉に他のクラスメイトが戸惑うが、アオイの表情を見た瞬間に納得したようにうなずいて各自の部屋へと移動していく。
それから少しして、幾人かの生徒たちが一つの部屋に集まり始める。
そこはアオイの部屋。そして集まったのは、普段ホタルと遊んでいた生徒たちだ。
アオイは集まった生徒たちを一通り見ると、おもむろにスマートフォンを取り出した。
そして文章を打ち出していく。
一瞬、他の生徒たちは何を? と思ったが、一度小説を書くために得たたくさんの知識から、アオイは他社から盗み聞きされるというのを防ぐために文字を打つことで意志の伝達をはかろうとしているのだと気がつき、自分たちもスマートフォンを取り出して文字を打ち始める。
『助けよう』
『うん』
『でもどうやって? どこにいるのかもわからないのに』
『正直厳しいのは分かってる。最低限必要なのは私たちが強くなるということ』
『そうだね。この世界もだいぶテンプレがあるし、私たち自身が強くならないと始まらないってのはよくあることだよね』
『うん。それも、とてつもなく強くなる必要がある。将来的にはこのふざけた制度を作った神と戦うかのせいも大だろうから』
『確かに、がんばらないといけないわね』
『うん』
『じゃあ具体的にどうするかだけど……』
その日の夜、本来は姦しい女子たちが静かに、意思の疎通をしていった。
それも他の場所でも似たようなことをしている生徒たちがいた。
彼らの願いはただ一つ。
理不尽な神から、大切な友人を救うために。
◆
アオイたちがホタルを救おうと誓っている時、その本人たるホタルはどうしているかといえば、
「いやああああぁーーーー────!!!?!?」
発狂しながら全力で逃げていた。
後ろから来るのは、筋骨隆々とした人型の怪物。
それを背にしながら必死になって逃げるホタルの目にはすでに光がない。
ホタルは必死に逃げながら、しかしその目は逃げる道を探しているのではなく、ある悪夢を見ていた。
それはホタルの愛らしさに惑わされた男たちが、集団でホタルを犯そうとした時の光景。
あの時、間一髪で警察官がやって来たため大事には至らなかったが、それは外、肉体だけの話。
その光景は、ホタルを未だに苦しめている。
つまり何が言いたいかといえば……
──ホタルは男性恐怖症で、正直この状態は最悪だった。
これが彼、ホタルの日常が崩壊した日のことである。
ここからホタルと他の人たちは絶望を味わうことになるのだが、それはもう少し先の話……
最近、マンガとかラノベとかで、女の子みたいな顔の主人公って多いですよね。
個人的にはそういうの好きなので書いてみました。
面白かったらブックマーク、評価、レビューなどお願いします。
次の話は明日にでも出します。