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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
1章 盗賊と騎士またはアインフォードとキャロット
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1章:サイドB アインフォードとキャロット その4

森から出てフライで上空から周りを見渡してみる。少しいったところに道らしきものがあり、その道は小高い丘の狭間の別の森に続いている。今までいた大森林ほどでなさそうだ。そもそも道が付いているんだからあんな人外魔境ではないだろう。人間が近くにいるかも知れないということだ。言葉が通じるといいなぁ。だいたい定番展開だと、謎の自動翻訳システムが働いて「字は読めないけど会話はできる」ってことになるはずなんだが。

 「アインフォード様、ここからは歩いていくのですか?」

 「そうだね。道が近くに見えたからここからは歩いて行って、道沿いに歩いていけばそのうち村か何かにたどり着くだろう。」

 キャロットはちょっと残念そうに地面に降り、遠くを見渡すように目の上に手を当てぐるりと周りを見渡した。

 「良い人に会えるといいですね。」

 こういう微笑みをしているキャロットはマジで可愛い。良い人に出会える気がしてきたぞ。


 俺たちは街道に出て前方に見えた森に向かって歩きだした。今までまさにジャングというべき森にいたので道と言えるものがあるだけで随分と文明圏に出て気がした。まさに森を出た猿か。

 しかもこの道、轍の跡がある。どうやら馬車っぽいものが定期的に通っているのだろう。これなら近くに村がある事も期待出るかもしれない。

 2時間ほど歩いただろうか、見えていた森に近づいてきた。時間はまだ正午になったくらいだろうか。急げば日が落ちる前に森を抜けることができるだろう。今は気温からするに初夏といったところだから日が長いのかもしれない。

 あの大森林を抜けるために上空に上がったところで気がついたのだが、地平線が微かに湾曲している。つまりこの世界は球体である可能性が高い。少なくとも巨大な亀の上に象が乗りお盆のような世界を支えているわけではなさそうだ。それと月が2つある。大きい月がゆっくりと、小さい月がそれより早く動いている。この月を見ていると本当に異世界なんだなと実感する。個人的にはその幻想的な月を見ているだけで夜番が全く苦痛じゃなかった。いつまででも眺めていられそうだった。

 

 森に入ってしばらくしてそれに気がついた。あーやっぱりこういう世界なんだ。

 森の中の道を外れて馬車が1台横転し、もう一台が木に激突していた。いわゆる幌馬車だ。馬車を引いていた馬は見当たらない。

 「けが人がいるかもしれない。見ていこう。」

 なかば諦めながら馬車付近まで来て予想が当たったことがわかった。まだ獣に襲われたのなら運が悪かったなと片付けられたかもしれない。しかしこれはどう見ても人の仕業だ。まず目に入ったのはロバの死体だ。馬ではなくロバが馬車を引いていたようだ。次に目に入ったのは冒険者風の軽鎧を身につけた男性が二人。馬車の前で斬り伏せられている。おそらく護衛として雇われた冒険者かなにかだろう。馬車の下敷きになっている男性はこの馬車の持ち主だろうか。鎧も着ていないから一般人、おそらく商人だろう。もうこのあとの展開が最悪なものでないことを祈りながら幌馬車の影に入っていく。しかし、その祈りは届かなかった。

 そこには女性が二人あられもない格好で死んでいた。おそらく母娘か。どれだけ変態的行為をしたというのか。おそらく抵抗できないようにだろうか、二人共両手首を切り落とされた上、散々に犯されたようだ。下腹部が血まみれだ。もともと命を助ける気もないこの所業に吐き気を覚える。それと同時にこの世界のモラルと常識が少しわかった気がした。人を殺すことになんの躊躇もない連中が闊歩しているのだ。後ろでキャロットが息を飲んだのが気配で分かった。女子に見せるものではないな。しかし、キャロットは俺が思うより気丈だった。

 「アインフォード様、せめて弔ってあげましょう。」

 「そうだな。このクソッタレな世界に吐き気がするわ。」

 とりあえず二人の遺体を抱き上げ外に出る。穴を掘って埋めてあげよう。何か身元の分かるものがあれば街にでも行ったとき、渡せる人もいるかも知れない。

 

 外に出て二人を破れた布の上に並べて立ち上がると、どう考えてもまっとうではない人種の男が10人ほどうすら笑いを浮かべて立っていた。すでに剣は抜かれている。

 「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」

 一斉に下品な笑いが巻き起こる。

 聞いたこともない言葉だ。残念ながら自動翻訳はなさそうだ。しかし、そんなことはどうでもいいほど俺は激怒していた。何なんだこいつらは。この馬車を襲ったのはこいつらに間違いないだろう。おそらく、俺たちが近づいてくるのに気がついて木の上にでも身を隠していたのだろう。身ぐるみおいていけば命は助けてやる、的な事を言っているのか?それともキャロットを差し出せ的な事を言っているのか。キャロットを下品な目で見るんじゃねぇよ。

 狼どもは食料を求めて俺たちを襲ってきた。それは理解できる。生きるためだ。ならこいつらは何のためにこの馬車や俺たちを襲っている?こいつらも食物はいる。生きるためか?オッケー理解した。こんな世界だ。生きるためなら多少の無法は見逃されるかもしれないな。なら、だったらその代償として命をかけているんだろう?その代償を今払わせてやってもいいだろう?いいだろう?自分の中の理性がまるで水に墨が広がっていくかのように黒く染まっていくのが分かる。静かに、しかし徐々に黒く広く。

 俺が何も言わないのを見た男の中のひとり、おそらくリーダーだろうか、がヘラヘラ笑いながら剣をちらつかせこちらに歩いてきた。こっちがビビって声も出ないとでも思ったのだろうか。

 何か言っているが何を言っているのかわからない。わからないが、理解する必要もない。こいつらはここで始末せねばこんなことを一生繰り返すのだろう。

 俺が終わらせてやるよ。

 苛立った表情を一瞬見せ、男が剣を振り下ろしてきた。…遅い…なんて遅い剣筋だ。

 体をひねるだけでその攻撃をかわし、大剣を背中から引き抜きざまに男の剣を払いのける。簡単に男の剣は折れた。

 驚いた表情をした男は急いで腰からナイフを取り出した。だからどうした。俺が横薙ぎに大剣を振るうと男の上半身と下半身はあっさりと切り離された。

 一瞬あっけにとられた男たちだが、次の瞬間怒声を上げて斬りかかってきた。フォーメーションも何もないな。

 「うおおおおおおおお!」

 俺も雄叫びをあげて大剣を振り回した。キャロットは何も言わなくてもフォローの立ち位置につく。

 袈裟懸けに切り下ろした大剣で男がひとり分断される。返す刀で回転するように横薙ぎに振り回すとさらに二人が内蔵を撒き散らせて吹っ飛んだ。なんだこいつら、まだ狼の方が強いぞ。さすがにこの時点で男達に恐怖の表情が浮かんだ。

 キャロットに向かった男たちも同じような末路だった。女と侮ったのだろう。あっさりと首を跳ね飛ばされ屍を量産している。7人が死んだところで男たちは逃げ出した。一人ずつを俺とキャロットで切り捨てる。

 「エイブラハム!逃がすな!」

 エイブラハムがすかさず追いかけブレスを浴びせかけた。斬り捨てられたほうが苦しまずに済んだかもしれないな。最後の男は全身を火に包まれ悶えながら炭になった。形も残さなかった。

 

 明らかに男たちは盗賊のたぐいだろう。持っているのは貧相な武器と鎧。わずかばかりの銅貨と銀貨。

 ゲームの世界では見たことがない硬貨だった。「ソウル・ワールド」の世界には金貨しかなかったのでこの銅貨と銀貨の価値がイマイチわからない。ま、盗賊の持っていたものだし、もらっておこう。

 

 惚けたように馬車のそばに座り込んでしまった。さっきまでは頭に血が昇っていたのが徐々にクールダウンしてくる。

 

 カッとしてやってしまった。反省はしている。

 

 そんな有名なフレーズが思い浮かんだ。

 

 そうだよなぁ。これも定番展開だよなぁ。だが不思議なことに罪悪感は全く感じなかった。あんな外道どもに話し合いだとか交渉だとかそんな余地はなかった。

 それよりも俺が恐れたのは自分がこのままではいつかこいつらと同じようになってしまうような気がしたことだ。初めて人と殺し合ったが、極めて弱かった。こいつらも盗賊で人を何人も殺めてきた奴らだ。戦闘経験だってそこそこあるだろう。そんな奴らが俺たちに全く歯が立たなかった。レベル99の俺に対し、こいつらレベル一桁か?と思うほどの弱さだった。

 このままでは俺は神にでもなったような気になり横暴なふるまいと残虐な心を持ってしまうのではないだろうか。人として大切なものを失ってしまいそうだと、なんとなくそう思った。

 「キャロット。俺は人でいられているか?」

 キャロットはどう考えているのだろうか。人の命を簡単に奪う俺を軽蔑するだろうか。

 「アインフォード様は『人種』です。」

 そりゃそうか。キャロットに聞くのが間違いか。

 「でも、アインフォード様が私を作り、育ててくれました。これからもアインフォード様のおそばに使えさせて頂ければこれに勝る喜びはございません。」

 「ソウル・ワールド」では基本的にPKは禁止されていた。モンスターとしての盗賊、山賊、海賊は登場するが、ゴブリンやスライムと同じで倒すと光の粒子となって経験値とお金、そしてたまにドロップアイテムを残す。死体は残らない。今まさにそこで肉塊となっている死体が現実であることを突きつける。

 「キャロットはこの世界をどう思う?」

 なんだかおかしな質問をしているような気がしながら聞いてみる。そもそもNPCは異世界転移を理解しているのか?

 「ここは以前の世界より無法が過ぎるような気がします。」

 理解していたのか!

 「でもこの世界に来てからわたしはアインフォード様をより身近に感じられるようになりました。それはとても幸せなことです。」

 そうか…キャロットは俺と一緒にいて幸せなのか。

 

 だったら、この娘を裏切らないアインフォードで居続けよう。

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