1章:サイドB アインフォードとキャロット その1
名前 ______________
性別 男
髪の色 金type1
目の色 青type3
肌の色 白type5
髪型 type27
身長 185cm
体重 82kg
ボーナスポイント __
さて、ここまではオッケーだ。名前はまた後で考えよう、問題は次のボーナスポイントだな。
ボーナスポイントのルーレットが乱数を表示していく。
9
13
10
6
25
7
うお!25出たのにうっかりボタン押しちゃったよ…。
8
9
11
・
・
・
・
30分ほどボーナスポイントの決定に時間をかける。
・・・・・・キタ!ボーナスポイント29!これは今まで見た中じゃ最大値だろ。
…いや。まだ上があるに違いない!
佐藤 太一郎 22歳
職業 大学生
趣味 ネットゲーム
彼女 いない
2030年ついにビデオゲームに革命がもたらされた。フルダイブシステムの家庭用実用化である。ヘッドコアと特殊スクリーン付きゴーグルでバーチャルリアリティの世界に体ごと投影できるシステムがお茶の間にやってきたのである。
このシステムはすぐに家庭用ゲームに適用された。瞬く間にいくつものフルダイブゲームが開発された。
格闘ゲームではカラテの達人になることができた。シューティングゲームでは超未来的戦闘機に搭乗しエイリアンと戦うことができた。そしてRPGにおいてはあこがれの魔法使いや剣士になることができた。それどころかドラゴンやマーメイドとなって仮想空間を冒険することができた。
いくつかの社会問題を引き起こしもしたが、同時にルールやモラルも構築され、主にアダルトに関するものは一切禁止された。特に家庭用に関しては厳しい罰則が法整備されることになった。もちろん、どんな世の中にも抜け穴を探す輩は存在し、某国ではそういったゲームがアングラで大人気を博したりもしたのだが…。
フルダイブ型オンラインRPG「ソウル・ワールド」はそういったフルダイブ型RPG黎明期にリリースされたオンラインゲームである。あまたの同様ゲームが発売される中、硬派な世界設定でファンタジー好きを魅了し、一定のファンを獲得した。
「ソウル・ワールド」は3回の大規模アップデートを行い、その都度新しいワールド、職業、システムを増設していった。そして3回目のアップデートから6年、サービス開始から12年ついにサービスの終了が発表されたのである。
佐藤太一郎はこのゲームをサービス開始から楽しんでいた。キャラメイクに時間をかけ、特にボーナスポイントの獲得には3時間を費やして通常よりはるかに多くのポイントを得ることに成功した。そのポイント数49。そのため最初から上級職の魔法戦士を選ぶことができたのだった。実際ポイントの上限値は公式には公開されていない。ネット上に飛び交う噂では49の獲得報告は結構目にする。眉唾ではあるが99が報告されている。
ところがここに落とし穴があった。最初から魔法戦士。上級職だけに成長が遅い。しかも同じレベルで比べると戦士としてはHPが低く壁役をこなすには頼りない。また魔術師としても同レベルの魔術師と比べるとMPが少ない上に使用できる魔法レベルも低く設定されているのである。要するに器用貧乏というやつである。
おかげで仲の良い友人とプレイするなら良いが、一般募集のパーティに参加すると一様に微妙な目で見られるのであった。
それでも佐藤はこのゲームが好きであった。もともとガツガツとレベル上げや素材集めをするタイプでもなかったので、いわゆる「まったり部屋」と言われるような趣味に走った装備やスキルで楽しむようなプレイヤーと遊んでいた。
そんな佐藤ではあったが一つ彼には特技があった。佐藤は魔法と剣技の切り替えのタイミングが異様にうまかった。長年魔法戦士をしてきたからというのもあるが、一つの才能と言えた。同じ動作をしても佐藤の方が早く終わるのである。
フルダイブRPGの場合キャラの操作が個人のセンスにある程度左右される。もちろん万人が遊べるよう調整されたゲームなのだが、中にはそういった普通の人よりゲームが上手い人しか入団を許さないギルドなども存在した。
3回目のアップデートで従者システムが導入された。自分専属のNPCの登録ができるようになったのである。従者の姿かたちはある程度自由に設定できた。そして選択した種族によって特色が出せるようになっていた。
ある女戦士は可愛らしい子犬の姿をした従者を作った。
ある魔法使いはゾンビの召使を作った。
ある錬金術士はメカメカしいロボットの執事を作った。
そして最も人気があったのは…言うまでもない。メイドさんである。見た目の設定がプレイヤーと同じ方法で作ることができたためワールド内には美人のメイドさんを連れたプレイヤーが大勢いたものである。
この従者NPC、プレイヤーと同じように成長させることができた。最初の登録がメイドでもレベルを上げると戦士や魔法使いといった一般職につかせることができたのである。当然子犬の大魔法使いなどというファンタジー感あふれる訳のわからない存在も現れることになるのだが…。
サービス開始から12年。佐藤も同じように年をとり34歳になっていた。その間に彼は結婚と離婚を経験していた。現在は一人暮らしである。子供はいなかった。職場と自宅を往復する毎日を繰り返しながら趣味は「ソウル・ワールド」といった生活を送っていた。
しかし、流石に12年経つと仲のよかったプレイヤーは軒並み引退していった。ちなみに彼の結婚した女性も「ソウル・ワールド」のプレイヤーであった。ゲームで知り合い、クエストを繰り返すうちに意気投合し、ついにリアルで会う関係にまで発展したのだった。そういった話はまぁ珍しいものではなかったが。
サービス終了前日、佐藤はちょっと困ったことになっていた。パソコンが壊れたのだ。今から新しいパソコンを買いに行くにしては時間がもったいなかった。
「最終日だし、音響効果の良いネットカフェでやるのもいいんじゃね?」
佐藤は近所で音響効果に定評のあるネットカフェに朝から入り込んだ。幸いなことに日曜日だったのである。
明日からはなんのゲームしようかなぁ。ぼんやりとそんなことを考えながらやり残したクエストをやりあげるつもりだった。
何気なくフレンドリストを見ると非ログイン状態の黒い名前が並ぶ中唯一白い名前を発見した。
「あ、元嫁じゃん、あいつも最終日だからログインしてんだな。」
といっても今更会いにいく気にもなれなかった。気まずいし。
「会いたい気持ちはあるんだけどねー。」
そうして佐藤はアインフォードとして「ソウル・ワールド」の世界にダイブしていった。
アインフォードの従者NPCはキャロットという。ご多分にもれずメイドさんであった。しかし現在はプリーステスである。仲間が引退していきソロで遊ぶことが多くなった彼はNPCに回復役がいると助かるよなーということでキャロットをプリーステスにクラスチェンジさせていた。
アインフォードが最後にやり残したこと。それはキャロットを聖戦士にクラスチェンジさせることであった。
レベル的にはアインフォードはもちろんレベル99、カンストである。キャロットはNPCであるためレベル上限が低い。キャロットはレベル79でカンストしている。
レベルを落とさずクラスチェンジさせる特殊アイテムはそれ専用のクエストをクリアすることで得られる。アインフォードは最終日の今日そのクエストを完了することでキャロットの育成を完了とし、「ソウル・ワールド」を卒業するつもりだった。
巨大な天使が閃光とともに光の粒子となって消えていく。1本の剣がその場に残された。聖剣デュランダーナである。これこそが聖戦士への転職アイテムだった。スペシャルパワーを解放することでプリーストを聖戦士にクラスチェンジさせる。そしてのままその剣は聖剣として所有者の手に残るのである。
通常であれば神器級の武器を手に入れた喜びでしばらくはそれで色々冒険に行くところであるが、あいにくそのような時間はない。
スペシャルパワーを解放し無事に目的を達成してふと時計を見ると23時53分だった。
「うわー。マジぎりぎりだったわ。」
フィールドマップに出てキャロットのステータスを確認する。
「もっとゆっくり確認したかったなー。」
コマンドメニューを開いているとメッセージが一通届いていることに気がついた。
『最後だから今から行く。そこで待ってろ。』
げ、元嫁。
顔を上げるとそこには黒髪を肩で切りそろえたハーフエルフの魔女が仁王立ちしていた。
「よ、よう。カタリナ、久しぶりだにゃ、な。」
「噛んでんじゃねーよ。」
久しぶりの再会だがリアルじゃなくてネトゲの中っていうのがいかにも俺たちって感じだよな。アインフォードはそういって手を出した。
その手を取りながら、そうね。とカタリナは微笑んだ。
「キャロットちゃん聖戦士になったんだねー。頑張ったじゃん。」
「まぁこれが俺のこの世界での卒業試験みたいなもんだ。」
「あたしのエイブラハムも魔術師として79レベルよ。空飛べる分あなたより優秀ね。」
カタリナの肩に止まっている小さなドラゴンがクルルと鳴いた。エイブラハムはもともとドラゴンの適性で近接戦闘能力を持っている。魔法を覚えていくだけで魔法戦士といえるが、サイズが小さいのでそれほど近接は強くはない。
俺たちは元夫婦だ。事情が有って別れたが、嫌いで別れたわけじゃない。
お互いに気を使い微妙な空気が流れた。ゲームの話しかしない。いやできない。踏み込むのがお互い怖いのだ。
時間は23時58分。もう時間がない。
その時何か違和感を感じた。背中が…熱い?
「その…こんなとこで言うのも何なんだけどさ。」
カタリナが何か言おうとしたが遮って言う。
「ちょっと待って!なんかおかしい!」
バイザーを上げリアルの世界の状況を見る。
周りが燃えていた。火事か?
「ネカフェが火事だ!やべぇ!逃げなきゃ!」
「え?な、なに?火事?」
カタリナが慌てる。いや、君がいる所は火事じゃないからね?ってかよくネット繋がってるな。
その時背中で爆発を感じた。炎に包まれる感覚ってのはこんな感じか?馬鹿なことを考えたとき目に入った時計は23時59分59秒を示していた。
「●●●●●●●●●●●●●●●●!」
―――――――カタリナは何を言おうと…―――――――
そして意識が途絶えた。




