1章:サイドA 盗賊団と騎士その4
村人たちの歓喜は凄まじかった。全く絶望と思われた状態から奇跡の大勝利である。アインフォードとキャロットは村人たちにもみくちゃにされながら村に引き返していった。
「あんたはただもんじゃないと前から思ってたんだ!きっと名のある騎士なんだろう?」
「アインさん!その大剣、きっと名剣なのでしょう?なんという銘が付いているのです?」
「キャロットさんが使ったあの魔法はなんというのですか?」
「アインフォードさんはやはり亡国の王子様なのですか?」
「ねぇねぇ、その可愛いドラゴン、なんていう名前なの?」
「キャロットさん結婚してください!」
村人側の死者はゼロである。軽傷を負ったものはそれなりにいるが、深刻な怪我をしたものもいない。もはや狂乱とも言える村人たちにカタコトの言葉では満足に返事もできず二人は苦笑いを浮かべるのがやっとであった。
村の広場で大騒ぎしているところに戦士団が到着した。戦士団は何が起こっているのか理解できなかったが、次第に村人たちの様子から盗賊団を撃退したという事情が飲み込めてきた。それにしてもあの数の盗賊団を撃退とは騎士フランツはどんな戦略を用いたのだろうか…。
「きしさま、ちょっとよいですか」
アインフォードが騎士フランツを呼び静かなところに移動した。
「とうぞくだんの、きょてん、わかりました。」
「なに?ということは、先の斥候で発見してきたということか?」
クンツの言葉にアインフォードは頷く。
「さくや、だいしんりんのちかくで、とうぞく、みつけました。」
フランツは戦士団の隊長を直ちに呼び出し、その旨を伝えた。盗賊団の生き残りは10人ほど。しかも手負いが半分ほどいる。アジトに残っているのが10人ほどとしても戦士団24人に騎士クンツがいれば十分に打ち取れるはずである。気になっていたのはあの魔術師が途中から姿を消していることである。あれだけの魔法を使えるものが戦闘中まともな魔法を使うこともなく姿を消したのだ。騎士フランツも魔術師の死体がないことを危惧していた。
「すまないがアイン君、アジトまで案内はしてもらえるかな?」
フランツは少し申し訳なさそうに訪ねた。
「はい、わかりました。そのかわり」
アインフォードはフランツにひとつ条件をつけた。
「え?なぜそのような。あなたはこの村を救った英雄であろう。村人と私、そして戦士団で協力して盗賊を討ち果たしたことにして欲しいなどと…。」
騎士フランツとアインフォードはしばらく話し合っていたが、老騎士がようやく折れたことで戦士団と話し合いが行われ、結局はアインフォードの申し出が受け入れられる形で決着がついた、アインフォードが言うには異邦人である自分たちが大手柄などを上げたら逆に疑惑の目が向けられかねない。いずれにせよこの地からは立ち去るつもりではあるが、今後生活がしづらくなることを危惧してのこと、ということだ。
「今回はこのような形にさせていただきますが、私自身のあなたへの感謝は別ですぞ。もし、ヘルツォーゲンに来ることがあるなら必ず私を訪ねてくだされ。持てる全てを持って歓迎させていただきますゆえ。」
盗賊の拠点はすぐに見つかった。大森林に少し入ったところにある洞穴を塒としていたようである。洞穴には5人の留守部隊と逃げ帰った10人が抵抗を試みたがあっという間に鎮圧され命があったものは捕縛された。
しかし件の魔法使いの姿はなかった。また帝国と通じているという確たる証拠も見つけることはできなかった。あの魔法使いが処分したのだろうか。特にその件の調査を命じられていた戦士長は肩を落とした。
そして洞穴の奥から3人の女性が救出された。3人ともひどく衰弱しているが命に別条はないと判断された。おそらくキッシェ村の拐われた人たちであろう。彼女たちは当面ヴァルト村で保護することとなった。すぐに今回の顛末の調査でいくつかの質問を受けるであろうが、今は精神的な衰弱が激しくその辛い記憶を聞き出すことを躊躇われたからである。ここではその中の一人がハーフエルフであったことのみを記しておく。
次の日は村をあげての宴会となった。戦士団はすぐに報告に戻らねばならないため領都に戻っていったが騎士フランツと従士エーゴンは宴会に参加することとなった。とは言っても貧しい村である。アインフォードがその日の朝、近くの森で鹿やうさぎなどを狩ってきて食材の足しにしたことで皆が満足いくまで食べることができた。
日が落ちてはしゃいでいた子供たちも各々の家に帰っていった。トーマス、フランツなどが酒を酌み交わしながら今回の戦いについて上機嫌に話していた。
「それにしてもあの時のフランツ様はまさに英雄というべき態度でございましたな。」
トーマスが盗賊団を前にした時の老騎士の堂々とした態度を褒め称える。
「いやいや、ここまで村の団結があったのはトーマス殿の普段の取りまとめが公正で村の皆がこの村を愛しているからでございますぞ。」
フランツも上機嫌でトーマスを褒めたたえた。
しかしどうしても話題はアインフォードとキャロットの活躍に向かう。
「あの剣技はどこで身につけたものなのかのう。」
「いや全くアイン君には驚かされっぱなしだ。」
アインフォードは苦笑いで場をごまかしていくしかなかった。
キャロットの肩の上では小さなドラゴンがうまそうに鹿の肉を頬張っていた。
「アイン君はこの後この地を離れると聞いたが、どうだろうか。この村の一員として我々と過ごさないか。」
村長トーマスは以前一度誘うと考えて諦めたアイデアをもう一度口にした。彼らがこの村にしてくれたことは盗賊の撃退だけではない。狩りで得た獲物を物々交換で提供してくれ、村の人からも評判が良い。村の娘たちも憎からず思っているものも少なくはなかった。
キャロットにしても同様である。どさくさに紛れて求婚した不埒な男は簀巻きにされ木に吊るされていたが、抜け駆けしたい若者は多くいたのだ。
しかし、そうは言いながら彼らがここに留まることはないだろうと考えていた。
なぜ彼らがこの地で狩人をしていたのかは今でも謎である。あの剣技や魔術を見せられれば普通の人とは違う人生を歩んできたのは一目瞭然である。確かな訓練を積まなければあのようなことはできない。やはりどこかの騎士だったのではないだろうか。
「いや、それよりも今回の件をリーベルト伯爵に報告し、正式に騎士の叙任を受けてもらえぬか!推薦人はもちろん私がする!」
老騎士フランツはかなり酒に酔っているようだが目は真剣だった。従士エーゴンは自分とさほどさほど歳が変わらないであろうキャロットをチラっと見てから、そうですよ!と相槌を打った。そういえば彼らは兄弟といった話だったよな。従士エーゴンは近くにいればチャンスがあるかもと、内心考えていた。
結局誰もアインフォードたちを説得することはできす、宴が朝まで続いたあと彼らは去っていった。これからどこに行くかは未定だということだったが、気の向くまま旅を続けるという話だ。
彼らがどこから来てこれから何をするのか、誰にもわからない。しかし今回の事件でこの二人に関わったものは皆確信していた。
「彼らはきっと大きなことをするだろう。」




