2章:錬金術師の夢 その24 エピローグ
それからはこの事件の後始末だった。
まずはリコリスがこの地下教会から出ていく必要があった。この地下教会は悪いヴァンパイアの本拠地として公開する必要があったためだ。
リコリスは実験器具など必要なものを魔法のバックパックに収納し(当然リコリスも魔法のバックパックを所持していた)、パラケルススの外套と賢者の石を身にまとった。最も大事なリコリスの棺もバックパックに入れることにした。巨大な棺がバックパックに収納されたのを見て魔女の銀時計の連中がひっくり返ったのはお約束である。
その時、リコリスが必要ないといったものをいくつかいただけることになった。大体はヒーリングポーションなどのポーション類だが、リングオブヒーリングなどのリング類、アミュレットなどもあった。その中に一振りのロングソードがあった。
鑑定してみたところ『ロングソード+2』とでた。これはなかなかの業物じゃないか。先の戦闘で武器を痛めたアルベルトが使うこととなり、アルベルトは感謝しきりだった。なんといっても魔法の武器である。これからの冒険に大いに役に立つだろう。
そしてこのリコリスの寝室というか実験室は戦闘があったように偽装し、大きく破壊することにした。
とらわれていた娘たちを連れだして教会に保護してもらったところ、教会は大層驚き感謝をしてくれた。そして約束通り銀貨で500枚の報酬と追加で100枚を即座に渡してくれた。
教会が贖罪符を大量に発行しているという噂があったが、理由はこの報奨金を用意するためだったのかもしれない。
その後ローザについては俺とキャロットでイゾルデのところに連れて行った。イゾルデとローザの感動の親子の対面があり、謝礼として銀貨200枚を渡された。さすがお金持ちだ。そのまま食事を振舞われ、部屋と娼婦を接待されそうになったがキャロットが物凄い目で睨んできたのでそそくさと退散することにした。
依頼自体は魔女の銀時計がヘルツォーゲンで受けたものだったが、一応報告の義務があるとかでシュライブベルグの冒険者ギルドにも報告はしておいた。内容は先に皆で決めたストーリーである。
ようやく後始末を終えて魔女の銀時計の4人にクラーラ、リコリスと俺たち二人とエイブラハムがヘルツォーゲンに戻ることになったのは3日後の事だった。
クラーラの冒険者登録はヘルツォーゲンで行うことにする。でないと治癒術師として名前が知られているクラーラが冒険者登録するのは問題があるからだ。
今後も治癒術を目立って行うと教会が色々ちょっかいをかけてくることが予想されるので、あまり目立った治療行為は行わないという事にした。
リコリスについても一応ヘルツォーゲンで冒険者登録させることにしたが、本人はやはり研究をしたいという事だったので、いっそ魔法屋をやったらどうかという話になった。錬金術師がポーションや魔法の札を売っている店はそれなりに存在している。リコリスは『錬金術師の弟子』だったが、なんとレベルはマックスの79だったのだ。
普通もっと早い段階で錬金術師にクラスチェンジさせるものではないかと思ったが、ラケルス師はきっとそういうロールプレイを楽しむ人だったのではないかと想像して納得した。
そういえば従者NPCのメイドさんをメイドさんのまま戦闘スキルを上げていくという楽しみ方をしている人もたくさんいたなぁとなんとなく思い出した。
とはいってもリコリスの戦闘力は強大である。彼女は真祖ヴァンパイアであるため第七位階魔法が扱え、さらに錬金術師の弟子79レベルならば錬金魔法も第七位階まで扱える。しかも賢者の石を所持しているので限定的ではあるが第九位階の錬金魔法も使用できるのである。その上パラケルススの外套を装備している。真祖ヴァンパイアの固有スキルと合わせると、ぶっちゃけ俺でも一対一だと苦戦するレベルだ。
ヘルツォーゲンに戻る途中で俺は少しだけ彼らに自分の事を話すことにした。ここまで色々見せすぎているので、一度ちゃんと話しておかないと彼らもどこまで人に話していいのか困るだろうと思ったのだ。
「まず、すでにご存じのように私とキャロットはこの国の生まれではありません。この国というか…この大陸というか。」
さすがに異世界とは言えない。
「詳しいことは私達もわからないのですが、何らかの魔力災害に巻き込まれ、その結果この地に転移してしまったと考えています。」
ある意味それこそ正解かもしれない。
「リコリスさんも同じような魔力災害でこちらに移転してきたのではないかと考えています。」
そういうとリコリスは頷き、突然言葉もわからないところに移転してしまい、お父さまと一緒に世界中を旅したが元の国には帰れなかったと話した。
「そして、私自身ですが、もとの国では主君を持たない自由騎士という立場でした。なので称号として『ロード』を持っています。」
ゲームの世界の設定と称号をそれらしく説明する。
「エリーザさんが持っている銀時計ですが、私の国では時間を「時間」「分」「秒」と数えます。そのことから魔女カタリナも私と同郷だと思っています。」
嘘は言っていないが、すべて真実を話しているわけではない。さすがに、「カタリナは元嫁ですー。」などといえるわけがない。
「自分の事はずいぶんと怪しい奴だと自覚していますが…今後も、その、友人として付き合っていただければうれしいかな、と…。」
リコリスにあんな偉そうに言っときながら考えたらこっちで友達っていないよなー。
「いや、話してくれてありがとうございます。正直アインさん達の規格外の実力は神の領域だと思っていたので、同じ人間とわかってほっとしました。しかも私たちを友達とまで言ってくれるとは、本当にうれしいです。」
アルベルトはそういって手を差し出してくれた。改めて握手をする。
「アインさんは私の魔法の師匠だよ!飛行の魔法を教えてくれるって約束したしね。これからもよそしく!」
エリーザに続いてバルドルやドーリスも笑顔で受け入れてくれた。
「それにしても『ロード』ですか。それは貴族という事ですか?」
「いえ、あくまで称号ですので、貴族的な生活をしていたわけではありませんよ。皆さんと同じように冒険をしたり、依頼を受けて危険な魔獣を討伐したりとかそういう生活をしていました。」
ゲームでは城を持ち、街を経営することもできたが、そこまでするほど廃人プレイはしていなかった。
「それに今回の一件で皆さんずいぶんと実力が上がったような気がします。エリーザさんは第三位階の魔法が使えるようになりましたし、ほかの皆さんも確実に強くなっていますよ。私だって最初はひよっこだったものです。きっと、もっと強くなれますよ。」
アルベルト達もなんとなく自分たちの実力が上がったような気がしていたのだろう。ちょっと照れたような笑顔を返してくれた。
「でも、当面は普通の冒険者としてヘルツォーゲンで暮らしたいと思っていますので、皆さんも私たちの事は普通の冒険者仲間として扱っていただけると助かります。その、リコリスさんの事も含めて、です。」
そんな話をして徒歩で5日、ようやくヘルツォーゲンに帰ってきたときには、新たな年を迎えていた。
第2章 錬金術師の夢 完
ここまでお読みくださった皆様に心からの感謝をささげます。
なにぶん、生まれてこの方小説など書いたこともなく、小学生の頃は読書感想文が夏休みの宿題で最も嫌いなよくある子供でした。文章量20万字近くまで書くことができるとは自分でも驚きですが、語彙の少なさと説明力の欠如に軽く絶望したことも多かったです。
このお話はいったんここで終了させていただきますが、シリーズものといった感じで続きを書いていきたいと思っています。未回収の伏線や活躍させきれなかったキャラクターなど、もっともっと書きたいという欲求が抑えられません。(重要キャラクターのくせに人語を話せないためほぼ空気と化してしまったアイツとか。)
具体的には今現在、リコリスを主役としたこの後の話を書いています。まだ3万字程しかかけていませんが、ある程度まとまったらまた投稿させていただこうと思っています。またその時目に留まり、お読みいただければこれに勝る幸せはありません。
繰り返しになりますが、ここまでお読みいただいた方、ブックマークしてくださった方、感想をくれた方、本当にありがとうございました。感謝を!




