2章:錬金術師の夢 その22 地上では
最初に地下教会に侵入した場所から地上を覗くとそこは予想通りアンデッドの大軍団に占拠されていた。これはまずいな。この中からヴァンパイアを見つけ出さなければならないのか。
「ここのほかに出口はないのか?」
アルベルトがドーリスに聞いた。
「あるよ。教会の近くの茂みに隠し扉がある。そっちから出ようか?」
そのほうがいだろう。もし街にアンデッドが流れ込んでいたなら、そちらの対処も必要になる。
「そのほうがいいですね。ちなみにクラーラさんはキャロットの外套をお渡ししますので顔を見られないようにお願いいたします。行方不明のクラーラさんが街で見付けられるといろいろ面倒なことになります。」
クラーラは頷き素直に従った。というか、クラーラさんのキャロットに向ける視線がちょっと普通じゃないぞ。うつろな目で顔を赤くしながら、受け取った外套に顔をうずめてスンスンと匂いを嗅いでいる?あ、あの、ひょっとしてそういう趣味をお持ちの方だったのでしょうか?
教会のそばの茂みから出た瞬間街中がパニックになっているのが分かった。墓地の方では人の怒声と剣戟の音が聞こえてくる。その隙間を縫ってかスケルトンやゾンビが街中に侵入を始めていたのだ。
街の人たちは墓地から離れるように逃げ出そうと大混雑を起こしている。まだ幸いなことに街区の際で治安維持団が最終防衛ラインを敷き踏ん張っていた。
俺達の目標はあくまでヴァンパイアである。おそらく墓地の最もアンデッドの集中している中央にいると思われる。そのため俺たちは一団となってアンデッドの密集する墓地に侵入していった。
教会の近くでは神官たちも必死にアンデッドと戦っていた。神官の周りには冒険者も多く集まっており、まさに総力戦といった感じになっていた。見たところ治安維持団より圧倒的に戦力としては冒険者のほうが有能だった。そういえば治安維持団長が闇ガラスのメンバーだったな。そんな腐敗した組織じゃまともな訓練もしていないのだろう。
治安維持団と冒険者が必死にアンデッドの大軍を抑えているそのそばを俺たちは涼しい顔で中に侵入していく。もちろん迫りくるスケルトンやゾンビを葬りながらである。
地下教会での戦闘のおかげかアルベルト達もスケルトンやゾンビ程度にいちいち足止めをされることが無くなっていた。ちなみに使い物にならなくなっていたアルベルトの剣はあきらめて俺の普段使いの剣をアルベルトに渡していた。盗賊からいただいたなまくら剣だが、考えてみるとずいぶん長い間使っているな。
まわりの冒険者や戦士達に比べて俺たちは突出した戦力だったが、なかでもキャロットのターンアンデッドはすさまじい効果を発揮していた。一度ターンアンデッドを唱えると20匹以上のスケルトン、ゾンビが土に還るのである。あまりこの光景は他人に見せないほうが良いのではないだろうか。
いつの間にか周りには人間の姿はなく、アンデッドだけが蠢いていた。どうやらほかの人たちは俺たちについてくることができなくなったのだろう。
墓地の中央付近に辿り着いた頃だろうか、いた。ヴァンパイアだ。ヴァンパイアの周りにいるのはスケルトン、ゾンビあとグールの姿も見られた。
「アルベルトさん、グールの姿も見えますね。マヒ攻撃には注意してください。」
「はい、了解しました。」
アルベルトもバルドルも俺達と一緒に行動することにすっかり慣れてきたようだった。俺達に依存するようではこの先困ったことになるだろうが、彼らにつてはその心配もないだろう。
キャロットがターニングアンデッドを唱える。あっという間にゾンビとスケルトンは土に還りグール4匹にヴァンパイアのみがそこに残った。
「エリーザさん、日の出まであと何分くらいでしょう?」
「えっとね、あと34分だよ!」
「わかりました。では私はヴァンパイアをやりますので皆さんはグールをお願いします。」
もうあまり時間をかける意味もないので一気に勝負をかけることにする。こちらにとびかかってくるヴァンパイアを迎え撃つように嵐の黒剣を叩きつける。ヴァンパイアの左腕が吹き飛びべチャッと音を立ててヴァンパイアは地面に投げ出された。
起き上がる前に背中に大剣を叩きつけた。ヴァンパイアは背中から半分に裂け、ぴくぴくと痙攣した後動かなくなった。そして崩れるように灰になっていった。
まわりを見てみると皆危なげなくグールを仕留めていた。あの戦いで全員レベルあがったんじゃないか?そう思えるほどに危なげない戦いぶりだった。
「なぁ、なんか俺たち強くなった気がしないか?」
アルベルトはそう言ってバルドルに同意を求めた。
「アルベルト、おぬしもそう思っておったのか。わしだけがうぬぼれておったのかと思っていたが、そういうわけでもなさそうじゃな。」
実際彼らは強くなっていると思う。もともと将来有望という評判のあるパーティである。魔術師のエリーザは第三位階の魔法まで使えるようになった。きっと彼らならカタリナの遺産とやらを見つけることができるだろう。なんとなくそう思った。
「それではここから墓地の最奥までアンデッドを倒しながら進んでまたあの地下教会に向かいましょう。色々かたづけなくてはならないこともありますから。」
実際のところMPはすでにかつかつであり、疲労もピークに達している。それは俺だけではなく全員そんな感じだろう。ちょっと休憩してから次の事を考えよう。
結局地下教会で皆思い思いに雑魚寝することで仮眠をとり昼過ぎに話し合いを持つことにした。
とりあえず大きな山を越えたことに全員ほっとしていたのだった。




