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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
2章 錬金術師の夢
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2章:錬金術師の夢 その21 魔女の銀時計

「バルドル、大丈夫か?」

 アルベルトは床に座り込んでいるバルドルに向かって優しく声をかけた。ドーリスとクラーラも心配そうに顔を覗き込む。

「お、おお。大丈夫じゃぞい。…骨にも異常はないようじゃ。」

 バルドルはポンポンと腕や足をたたきながら体の状態を確認して言った。

 エリーザは「はー」と大きく息を吐き出し、よかったーと笑顔になった。

「いったい何が起こったのじゃ。わしはてっきり死んだかと思たぞい。」

「ええ、かなり酷い傷だったわ。私の治療魔法じゃ手に負えなかったもの。」

 クラーラはその時の事を思い出し青い顔をした。バルドルはドーリスを庇ってボーンゴーレムの攻撃をまともに受けてしまっていたのだった。

「バルドル!もう!ほんとに無茶しないでよね!あたしを庇って死んだとかなったら寝覚めが悪いからさ!」

 ドーリスはそう憎まれ口を言いながらも瞳は潤んでいた。

「それにしても…」

 アルベルトはアインフォード達を見やって呟いた。

「まさに神代の戦いだったな…。」

「全くだね。あの謎の空間を作ったのはアインさんなんだろ?あれがなけりゃあれほどの魔法が飛び交ってこの地下教会がこの程度の被害で済んでいるはずないもんな。」

 ドーリスもアルベルトの言葉に頷いた。すでにエンゲージは解除されている。

「それに最後にキャロットさんが放った魔法!なにあれ!すごすぎでしょ!バルドルの傷を癒したのもあの魔法なんでしょ?」

「そ、そうね。私も教会勤めが永いですが、あんな魔法聞いたことがないです。天使様を呼び出されてもいましたし…あの方は伝説の聖女様なのですか?」

 クラーラの言葉に全員がアインフォードとキャロットを見る。

 普段のキャロットとアインフォードのやり取りを知っている4人、とくにアルベルト、バルドル、エリーザの3人はあのちょっとおかしなキャロット嬢が聖女というのはどういう冗談だと思ったが、今のキャロットとアインフォードの姿を見て案外そうかもしれないなと思いなおした。

 ステンドグラスの隙間から差し込んだ月明かりに照らされたその下で、アインフォードはキャロットに膝枕をされ、治療魔法を受けていた。その光景はまさに聖女に治療を受ける騎士の姿を映しとった一枚の絵画の様だった。ちょっとうらやましいとアルベルトは思ったが、あの最後の大魔法の直前、アインフォードがどういう状態になっていたのかを思い出して身震いした。あんな魔法まともに受けたら自分なら間違いなく命がなかっただろう。


 エリーザはエイブラハムに干し肉を食べさせていた。

「エイブラハムちゃんもすごかったわー。びっくりした!あんな魔法使えるなんてもー!」

 エイブラハムの頭をなでながらエリーザは上機嫌だ。

 アルベルトもエイブラハムの魔法とその体からは想像できない炎のブレスを目撃した。いったいこの人たちは本当に何者なんだろう。ただのペットとしか思っていなかったこの小さなドラゴンさえも自分たちでは太刀打ちできないであろう戦力だったのだ。

「ねぇ!アインさんに頼んだらエイブラハムちゃん貰えないかな?」

 エリーザがとんでもないことを言い出した。

「何を馬鹿なことを言っているのじゃ。犬や猫でもあるまいに。」

「そ、そうだよねぇ…。それよりも私がアインさんのお嫁さんに、ぷぎゃ!」

 最後まで言う前にドーリスはエリーザの頭をはたいた。

「いったーい。なにすんのよもー。」

 5人の笑い声が響いたところへアインオードとキャロットはようやくやってきたのだった。




「皆さん大丈夫ですか?」

 全員の様子を見るに動けないものはいないようだと思いながら一応そう声をかけてみた。

「ええ、キャロットさんの大魔法のおかげで最も重症だったバルドルもすっかり良くなりました。」

「あのエルダーリッチ?かい?奴は完全に消滅したのかい?」

 ドーリスがそう聞いてきた。

「間違いないでしょう。しかし、最後は助かりました。あの時エリーザさんが奴の気を引いてくれなかったらキャロットの魔法も間に合わなかったかもしれません。」

 これは本心だ。エルダーリッチ1体ぐらい俺とキャロットがいればたやすく倒せると思っていたのが恥ずかしい。ゲームとは違うと思い知らされた。

「えっへっへー!」

「こらエリーザ!調子に乗るんじゃない。」

 胸を張ってガッツポーズをするエリーザをアルベルトはたしなめた。


「それでは現状の認識のすり合わせをしましょう。まずは…リコリスさんについてですが…。」

 俺がリコリスについて話し出すとクラーラは沈痛な面持ちになった。

「その、確信は持てませんが、リコリスさんの計画は失敗したと思われます。ですので…クラーラさん、リコリスさんはこの教会のどこかに自分用の棺を隠しているのではないかと思うのですが、その場所をご存じないですか?」

「棺…ですか…。いえ、見た事はないですが、入ったことがない部屋はリコリスの寝室だけなのでひょっとしたらそこにあるかもしれません。」

「それでは後でその場所を確認に行きましょう。たぶん…明日棺で復活していることと思います。」

 そういうとクラーラは非常に微妙な顔をした。リコリスが願いを達成できなかったということを残念に思いながらもどこかほっとしたような、そんな表情だった。

 それにしてもアンデッドとはいえ女性の寝室である。俺が一人で確認に行くのは問題があるだろう。

「あ、忘れそうになっていたけど、さらわれた女の子たちはどこにいるのかな?」

 エリーザがそう言ったことで全員が「あー」と言った。みんなすっかり忘れていたようだ。

「女の子たちは控室にいます。ちゃんと食事もとってもらっていますし、全員元気ですよ。ちょっと時々血をもらっていただけですから。」

 ま、まあそれはいいだろう。全員助け出して教会に連れて行けばもともとの依頼は達成といえるだろう。問題はそこからだ。

「女の子たちを連れて行くとリコリスさんの事も話さなくてはいけませんし、正直に全部話すといろいろ困ることがあります。その、私たちの事はあまり大ぴらにしてほしくないというか…。」

「そうじゃの。全部話したらクラーラやドーリスは罪に問われるやもしれんしな。」

 そのあたりの倫理観は何とも言えないところではあるが…。

「はい。私は罪に問われるべきです。きちんと贖罪したいと思います。」

 クラーラはさすがシスターといったところか。

「この話は長くなりそうなのでいったん置いておこう。それより私もすっかり忘れていたけれど、たぶん今地上は大変なことになっていると思うのです。」

「え、それはどういうことだい?」

 ドーリスの質問は5人の代表のようなものだった。

「強力なアンデッドが出現するとそれに引きずられるように低レベルアンデッドが湧きだすことがあるのです。特に今回のようにアンデッドの王ともいえるエルダーリッチがここのような墓地に出現したとなると、間違いなく大量のスケルトンやゾンビが湧きだしたはずです。幸いなことにエルダーリッチそのものは倒しましたので中心となるアンデッドがいなければ夜明けとともに大半はいなくなるでしょうが。」

「ヴァンパイアは中心になるのですか?」

 クラーラはなぜか青い顔をしている。

「なりえます。ヴァンパイアならアンデッドの軍勢を率いて街に侵攻することも考えられます。ですが、ここに来る途中私たちはヴァンパイアを倒しましたので大丈夫なのでは?」

「ドーリスさん…ここにヴァンパイアは何匹いたの…かな?」

 エリーゼの言葉にドーリスも青ざめる。

「3匹いたはずだ。しかしここに辿り着くルートに配置していたのは2匹だった…よな?」

 クラーラはがくがくと震え出した。

 なんてこった!こんなのんびりしている場合じゃないぞ。レッサー・ヴァンパイアとはいえ生命力を吸い取ることで眷属を作り出す能力は持っている。街にあふれだしたらシャレにならんぞ。

「相談事は後回しにしよう!とりあえず外に救援に向かおう。せめて夜明けまでの正確な時間が分かればいいのですが。」

 俺がそう言うと即座にエリーザが答えた。

「夜明けまで正確には128分だよ!」

「なるほど2時間ちょっとです…か?」

 え?なんだって?

 なんでそんな正確な時間が分かるんだ?というか「分」ってなんだ?この世界に来てからそういう時間の単位は聞いたことがないぞ。

 びっくりしてエリーザを見るとエリーザは懐から取り出した懐中時計を差し出した。

「アルベルト、アインさんになら見せていいよね?」

「ああ、むしろ見てもらえ。俺達にはわからないこの時計の魔法について何か教えてもらえるかもしれない。」

 エリーザから懐中時計を受け取ってよく見てみる。…これは…銀でできていると思われる時計には12時間の見慣れた文字盤があり、いくつかの情報が円周の表示板で分かるようになっていた。

 今現在の日時 12月25日 5:11

 今日の日の出 7:18

 今日の日の入り 16:59

 そっかー、今日はクリスマスだったのかー。そりゃアメージンググレイスも歌いたくなるよね。…ちゃうから!突っ込むところそこじゃないから!心の中で自分に突っ込んでエリーザに聞いてみた。

「エ、エリーザさん、この時計はいったいどこで手に入れたのでしょうか。」

「この時計はね、家にあったんだよ。私はこの時計の謎を解きたくて冒険者になったんだ。家に伝わる伝承だと魔女カタリナ様が使っていたってことになってるんだけど、本当のところはわからないんだ。」

 カタリナが懐中時計を持っていたかどうかはわからないがこれは間違いなく「ソウル・ワールド」に存在したアイテムだろう。

「ひょっとしてチーム名の『魔女の銀時計』といのはここから?」

「ええ、その通りです。最初は私とエリーザ二人のチームだったのですが、その頃から名乗っていました。」

 アルベルトはそういって懐かしそうな顔をした。

「それにしてもアインさん。即座に『2時間と少し』って言いなおしましたよね?」

 そういってアルベルトはニヤリとした。あーしまった。つい。

「そ、そうですね、これについても後で詳しく話しましょう。今は地上に向かいましょう。」

 なんてこったい。これはもうすべてを白状するしかないのか?


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