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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
2章 錬金術師の夢
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2章:錬金術師の夢 その19 エルダーリッチ

 …まずくないか?これひょっとして最強のアンデッドが賢者の石付きで爆誕してしまったのではないか?しかもここは墓地の地下だった。おそらく地上はそれこそ無数のアンデッドが湧き出ていることだろう。なお悪いことにこいつは魔術師が自らの意思でアンデッド化した本来の意味でのエルダーリッチではない。

 通常エルダーリッチとは魔術師が不老不死を求めて自らをアンデッド化することでその目的を果たすために誕生するのだ。

 だがこいつの場合は強制的に賢者の石により作り上げられたアンデッドなので、目的もなく死をまき散らすだけの最悪の化け物だといえるのではないだろうか。

 クラーラやドーリスは何が起こっているのかよくわかっていないようだ。それはそうだろう。ある程度知識を持っている俺ですら正確に現状を把握できていないのだ。ただ一つ言えることは、リコリスの計画は確実に失敗している。リコリス自体はどうなったかわからないが、少なくともエルダーリッチは消滅しない。


「アインフォード様…これは非常によろしくない事態ではないでしょうか。」

「ああ。おそらく最悪だ。最強のアンデッドが暴走していると言っていい。」

 ここで奴を葬らないとこの街は間違いなく死の街と化してしまうだろう。しかし問題はここが地下教会であるということだ。それなりの広さを持った空間ではあるがエルダーリッチが大規模破壊魔法などを使用したら天井が崩落する可能性がある。そうなったらこの最悪のアンデッドが地上にどんな災厄を撒き散らすか分かったものではない。しかもその時には俺達も瓦礫で生き埋めになってしまうだろう。

 一応真祖と戦闘になる可能性があったのでそういったことも考慮していた。そのために対策として「とある呪文」を特に用意してある。


「ソウル・ワールド」においては、第九位階までの魔法は特に何かを準備する必要はない。しかし第十位階の呪文は若干事情が異なる。「ウィッシュ・願い」も特殊ではあるが第十位階に含まれる。

 第十位階魔法は90レベル以上でないと習得ができない。そのため79レベルが上限の従者NPCには使用できないようになっている。しかも第九位階までのように魔法屋でお金を払って購入できるといったものではなく、自らの力でクエストを達成して収集していかなければならない。そのため99レベルの魔術師といえどもすべての第十位階魔法を取得している者は稀であった。

 しかも第十位階魔法はその魔法一つにつき、日に一度しか使用できないという制約がある上、発動には第九位階までは必要なかった「触媒」が必要になるのだ。

 触媒そのものはそれほど特殊なものが必要になるわけではないが、多くのアイテムを持ち込まなければならない冒険には大体邪魔になるものである。今回アインフォードが用意したのもガラス玉とオリーブオイルである。

 そして何より厄介なのは詠唱が省略できないという点である。そのため、「ソウル・ワールド」におけるギルド戦争などでは、第十位階の魔法と思しき詠唱を始めた魔術師は真っ先に狙われる。第十位階などといった強力な魔法を発動させるわけにかないので当然である。

 もちろん詠唱する魔術師も狙われるのは百も承知である。ギルドとしても作戦の成否にかかわる重要なことであるので必死に魔術師を守りに入る。

 こういった魔法合戦が「ソウル・ワールド」におけるギルド・ウォーではよく見られたのである。


「キャロット!エンゲージする!時間を作ってくれ!エイブラハム!彼らのガードを頼む!大規模魔法の応酬になるかも知れない!」

 二人に指示を飛ばす。詠唱中はさすがに俺も無防備になってしまう。特に魔女の銀時計の4人やクラーラは大規模魔法が展開されたら巻き込まれて命を落とすことになるだろう。

「了解いたしました。大天使を召喚いたします。」

 キャロットは両手を組み祈るようなポーズをとる。

「サモン!アークエンジェル!」

 キャロットはアークエンジェルを召喚する魔法陣を展開した。即座に空中に魔法陣が現れ2体のアークエンジェルが姿を現す。エルダーリッチの攻撃に天使を向かわせ、自身は俺の前で防御魔法を展開する予定だろう。

 エイブラハムは「クエ!」と一言鳴いて魔女の銀時計のメンバーのところに飛んで行った。エイブラハムは人語を話せないのでどのような魔法を使うのか効果が表れるまではわからないが、79レベルの魔術師でもあるのだ。効果的な魔法はいくらでも使えることだろう。

「皆さんにはエイブラハムがサポートに入ります!大規模魔術に巻き込まれないよう、防御専念でお願いいたします!」

 そう言って彼らを見ると召喚された大天使に驚愕していた。光り輝く6枚の翼をはためかせて空中に現れたアークエンジェルはまさに神話の顕現である。黄金のエンジェルリングを頂いた美しい金髪に中性的で端正な顔立ち、純白の衣装を纏い、美しい聖剣と聖盾を構えた大天使はまさに宗教画に描かれた一幕の様に見えたことだろう。こんな状況でなければ膝をつき祈りを始めてもおかしくはなかっただろう。

 それでもアルベルトはさすがだった。俺達がエルダーリッチと戦わなくてはならなくなったとすぐに理解したのだろう。そしてそれが自分たちの知っているレベルの戦いではないということも。

「わ、わかりました!自分の身は自分で守ります!アインさん!私たちの事は気にせずにお願いします!」

 アルベルトの言葉にほかのメンバーも状況が理解できたのだろう。思わず祈りをささげ始めたクラーラを引きずって俺達から距離をとった。


 その間エルダーリッチが何もしなかったわけではなかった。同じように召還の魔法を行っていた。エルダーリッチの足元に魔法陣が現れ、大柄なスケルトンがこちらの大天使と同じく2体現れた。ただのスケルトンであるはずがなかった。全身を黒い鎧で覆われた大柄なスケルトンは巨大な盾と通常は両手で扱う巨大なブロードソードを片手で構えていた。見るからに禍々しいその姿はまさに地獄の獄卒である。

 その名はデッドリーウォーリア。「ソウル・ワールド」においても通常のアンデッドとは比べ物にならない怪力を有する恐ろしい敵である。エルダーリッチのお供としては定番であり、かつ厄介な護衛だった。

 デッドリーウォーリアと大天使の激突が戦闘開始の合図となった。俺はすでに詠唱に入っている。キャロットは俺の前に陣取り防御の魔法を唱える。エルダーリッチは人には聞き取れない不気味な声で魔法を唱え始めた。後ろにいるので見えないが、エイブラハムも防御の魔法を展開していることだろう。

 まずはキャロットの魔法が発動した。

「グレーターアンチマジックシールド!」

 巨大で半透明の盾が俺たちの前に出現する。俺はまだ詠唱中である。ゲームであるなら3ターンは身動きができない。あと2ターン耐えねばならない。

 そこにエルダーリッチの魔法が激突する。エルダーリッチは両方の手のひらに赤い炎の塊を出現させ、その炎の塊を俺達と俺たちの後方、アルベルト達に向けて射出した。

 ダブルトリガーか!おそらくはファイアボールを二重発動させている。当然威力は大きくなり範囲も広がることになる。

 爆発は予想通り広範囲に広がった。教会の調度品は粉砕され、炸裂地点は床がめくれ上がっていた。このままでは教会が崩落してしまう。キャロットのアンチマジックシールドのおかげでシールドの形に添って爆炎は燃え広がったが、こちらに深刻なダメージを及ぼすようなことはなかった。

 エイブラハムを見ると彼も魔法障壁を展開しており、後ろの五人に被害が出ているような気配はなかった。彼らも必死の形相で迫りくる炎を消そうとしていた。その中でエリーザだけは展開されている魔法のすさまじさに感動しているように見えた。魔法使いらしい知的好奇心かもしれない。

 後1ターン詠唱は必要だ。次の攻撃をしのげばとりあえず生き埋めの心配はなくなるといえる。


「アインフォードの名において以下の術式を展開する。マテリアルワールドに綻びをここに召喚する。透明な世界を穿つ裂け目を出現させよ!」

 そう詠唱しガラス球をたたき割る。


「イセリアルの流体をこのマテリアルワールドに展開せよ。眼に見ぬイセリアルの霧を裂け目に誘導せよ。イセリアルワールドをここに!」

 続いてオリーブオイルをまき散らす。あと少し!


 まだ詠唱には少しかかると見たキャロットはエルダーリッチの魔法を阻止するべく飛び出した。

 アークエンジェルとデッドリーウォーリアは1対1で激闘を繰り返している。すでに片方の大天使は盾を粉砕され、もう片方は羽を1枚切り落とされていた。一方死の戦士のブロードソードも半ばから折れている者と片腕を切り落とされ盾を失っている者がいた。その戦いぶりはまさに神話に語られる世紀末の神と悪魔の戦いの様であった。

 キャロットの飛び出しを見たエルダーリッチは片手を賢者の石にあてた。その瞬間教会内に在った燭台が10脚キャロットに向けて一直線に飛び出した。そしてその途中ですべての燭台は雷をまとった小剣に変化したのだ。

 これは錬金魔法!しかも発動が異常に早い!これが賢者の石の効果か。

 紫電を帯びた小剣はキャロットに殺到した。キャロットは3本を盾で防ぎ、3本をかわし2本を聖剣で叩き落としたが残りの2本がその銀白の鎧に突き刺さった。

「あああああああああ!」

 感電したようなキャロットの絶叫が教会に響く。紫電を帯びた小剣はキャロットの行動を阻害し、一瞬の麻痺効果をもたらした。

 くそ!もう少し!あと少しで詠唱が終わる!

 よろよろと立ち上がろうとしたキャロットにまたすさまじく速い展開速度で巨大なハンマーがキャロットの頭上に現れる。

 まずい!間に合わない!詠唱が終了してもキャロットは大ダメージを負うことになってしまう。


「イセリアルとマテリアルの世界の隙間にありし未完成の世界をここに顕現せよ。マテリアルの理を脱しイセリアルの理を享受させよ。今ここに世界の迎合を果たせ!『グレイターマジック・エンゲージ・イセリアルワールド!』」


 詠唱が終了し術式が展開される。しかし、キャロットに振り下ろされた錬金術のハンマーが今まさに激突しそうになっていた。

 その時である。

「ファイアボール!」

 エルダーリッチが爆炎に包まれたのだ。巨大なハンマーはそのせいで軌道がずれ、キャロットの右肩をかすめ地面に巨大な穴をあけた。キャロットの右腕の鎧は剥がれ落ち、白い肌は真っ赤に染まっていた。

 ほっとして火球の飛んできたほうを見るとエリーザが右手を突き出して魔法を放ったままのポーズで固まっていた。両足はがくがくと今にも倒れてしまいそうなほど震えている。周りにバルドルとアルベルト、そしてドーリスもエリーザを守るように武器を構えて立っていた。

 せっかくの魔法を邪魔されたエルダーリッチは苛立たし気にエリーザを睨み、先ほどキャロットがかわした紫電を帯びた小剣を3本エリーザに向けて射出した。

「ひっ!」

 エリーザは小さく悲鳴を上げ硬直する。しかし、その小剣がエリーザに届くことはなかった。

 エイブラハムは大きく息を吸込み小剣に向かってブレスを吐き出した。エイブラハムの小さな体から吐き出されたとは思えないほどの炎のブレスは3本の小剣を巻き込み、うち1本はその場で炭と化した。

 炎を抜け出した2本の小剣はバルドルとアルベルトが見事に1本ずつ叩き落した。小剣が帯びていた電撃のせいで二人は多少体がしびれたようだが、大きなダメージを負ったようではなかった。


 そしてエンゲージの術式が完成した。


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