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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
1章 盗賊と騎士またはアインフォードとキャロット
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1章:サイドA 盗賊団と騎士その2

落穂ひろいをしていた子供たちもそろそろ引き上げようかという時間、薄闇の向こうから一頭の馬が駆けてきた。

 アインフォードとキャロットはタンデムで馬を駆けながら叫んでいた。

 「とうぞくがくるぞ!すぐにむらにかえれ!」

 「とうぞくがきます!すぐにむらのきしさまに、つたえてください!」

 子供たちは普段優しくしてくれる二人の剣幕に慌てふためいて村に帰り大人たちに報告した。

 「アインさんが、盗賊が来るって言ってる!」

 少年が近くにいた大人に叫ぶ。

 「騎士様助けてください!」

 少女が祈るように老騎士に懇願した。

 子供たちが大人に必死の形相で訴える。老騎士フランツの動きは早かった。従士エーゴンはこの薄闇でどれほどの効果があるかわからなかったが、直ちに狼煙を上げるため設置していた狼煙台に向かった。騎士フランツは村長の家に向かう。女子供、年寄りを逃がすためだ。あらかじめ避難場所は打合せされている。気休めにしかならない事はわかっているが出来るだけの手は打っておきたかった。

 ほどなくアインフォード達が戻ってきた時には村の若いものは手に武器を持って広場に集まっていた。この一週間ほど村人はアーベンとカミルの二人から盗賊が来た時の対策として防衛の手順を教え込まれていた。手にしている武器は農作業用の鍬や鋤だが、人数分の剣や槍など揃うはずがない。甚だ心もとないが、あるもので対処するしかない。村の外にはなんとか柵が作られていたが、それほど頼りになるものとも思えなかった。

 狼煙が見えたとして戦士団が駆けつけるまでおそらく早くて半日、おそらく明け方になると思われる。それまでなんとかここで持ちこたえねばならない。むしろここまでの間に盗賊団の拠点を発見できていなかった戦士団の方が完全に後手に回っている。こうなってしまったら村を守りぬくのは困難と言わざるを得ない。盗賊の規模が10人ほどならなんとかなるかもしれないが、今回の盗賊団は最低でも30人を超えると報告されている。しかも村人たちには知らされていない事実だが、キッシェ村の検証結果で第三位階魔法「火球」が使われた形跡があるということがわかっている。老騎士は表面上村人を安心させるため穏やかな表情をしているが、心中は悲壮であった。この状況で逃げ出さずに職務を全うしようとする彼の騎士道精神は賞賛に値する。

 

 アインフォードが村に到着し村長と老騎士に報告する。

 「とうぞくだん、およそ50にん!とうちゃくまで、およそ、はんとき!」

 「報告ご苦労!アイン君とキャロットさんは弓隊に加わってくだされ。」

 トーマスはこれからのことを思うと暗澹としてくるが逃げたところで逃げ切れるとも思えない。またたとえ逃げ切ったとしてこのあとどうやって暮らしていけば良いといのか。村を失っては村人には生きていく手段がないのだ。都市のスラムに住み着いている者たちは様々ないきさつで農村を離れ生活の手段を失ったものが大半である。

 

 アインフォードとキャロットは一度自宅としている大森林に帰ってから3日後に村に合流していた。村人はその時に村に現れた2人を見て驚いた。アインフォードは背中に大剣を背負い、キャロットも腰に剣を吊るしていたのだ。ペットのドラゴンはあいかわらずキャロットの肩の上である。

 「ごしんようの、ぶきです。」

 「わたしも、けんぐらい、つかえます。」

 そんなでっかい大剣が護身用の訳ねーだろ!と、誰もが突っ込みたい気分だった。

 ただの狩人だと思っていたが、実は冒険者だったのだろうか?確かに大森林を調査するという任務も冒険者にはあると聞くので、そう思うと納得もできる。しかし彼らがこの地に現れておよそ3ヶ月、調査にしては村に頻繁に訪れるし、そもそも彼らは言葉が話せなかった。ますます謎の存在になっていく二人だが、今はそんなことを気にしている余裕もなかったため、馬に乗れるということもあり、斥候の任務が彼らに与えられた。彼らの馬術もまた堂に入っており何らかの訓練を受けた人間のものであると思われた。この二人は今回の戦力になる。その時老騎士は思った。

 

 「きしさま、ちょっと。」

 アインフォードは騎士のそばに行き声を潜める。

 「…おーが、います。」

 一瞬、騎士フランツには何を言っているのかわからなかった。

 「…オーガ、だと?」

 馬鹿な。人間がオーガを使役するとか聞いたことがない。オーガはヒューマノイド型モンスターの中でもかなり強い。人間など棍棒のひと振りでひき肉にされてしまう怪力を持ち、さらに恐ろしいことに人を喰らう。またそのタフさも際立っており、戦士三人がかりでようやく倒せるほどの相手である。

 魔法使いがいるだけでなく、オーガまでいるだと…。老騎士は目の前が真っ暗になってしまうような気分だった。しかし、分かっているのなら対策を立てねばならない。絶望的な思いを胸にエーゴンに相談するためその場を足早に立ち去っていった。

 

 

 盗賊団の頭ホルトは苛立っていた。

 

 ホルトは傭兵団「鉄の鎖」の団長だった。顔面中に髭を生やし動きやすい革鎧を好む大男だ。性格は豪放にして残忍、仲間だろうが敵だろうが邪魔になれば叩き殺してきた。

 「鉄の鎖」は団員30名ほどの中堅傭兵団であり、先の戦争では帝国側につき第23次エッカルト台地の戦いに参加していた。しかし、会戦の開始直後に放たれた王国側の大魔術師ハルトムートの「アース・ムーブ」により、帝国歩兵隊第三大隊が壊滅的被害を受け、戦闘の継続が困難になってしまった。彼自身の傭兵団はその場から離れていたため被害はなかったが、なし崩し的に帝国側は撤退しそのまま講和が結ばれ停戦に至った。

 つまり、彼ら傭兵団には活躍の機会もなく、当然報酬も思ったほど得られることはなかった。不満は募る。傭兵団というものは基本荒くれ者の集団である。参加契約金として支払われた俸給でしばらくは飲んだくれた日々を送っていたが、配下のものたちは街で狼藉を働き、時に流血沙汰も珍しいものではなかった。ホルト自身も喧嘩をふっかけては金品を強奪するようなことをしていた。

 そんなある日のことだった。根城としていた酒場で、フードを目深にかぶり正体のよくわからない小男が声をかけてきたのは。小男はクサーヴァーと名乗った。魔法使いだった。

 『王国で盗賊家業をしてみないか。』

 

 配下のものたちは帝都で燻っている間にどこかに行ってしまったり喧嘩の挙句死亡したりと、王国に移動したときは20人ほどだった。しかし王国で隊商を襲ったり村から略奪を繰り返しているうちに、食い詰めた元傭兵や脱走農民、農奴などが勝手に増えていき最大60人ほどまで膨れ上がり、立派な盗賊団になっていた。

 ここまで人数が増えてくると食料の調達だけでも結構な量が必要になってくる。それと性処理用の女が必要だった。女がいないとくだらない理由が元で喧嘩が殺し合いにまで発展してしまうことがある。いや頻繁に起こっている。今までは隊商を襲った時に捕まえた女で間に合っていたが60人を超える大所帯となるともう少し大規模に調達する必要があった。

 そんな時あの小男がまた接触してきた。そして大森林の中に拠点を用意したのでそこを塒にし、派手に村を襲ってくれるよう依頼してきたのだ。依頼料に金貨10枚と銀貨100枚そしてその後のホルトの待遇を約束した。さらにこの小男、クサーヴァーも同行するという。

 

 そうしてキッシェ村の襲撃に至る。久しぶりの大規模な略奪に荒くれ共は大いに盛り上がった。クサーヴァーが景気づけに放った「火球」の魔法が村の門を破壊した時には大歓声が上がった。

 子供であろうと男は皆殺しにした。年寄りは火をつけて転げまわるさまをいつまで生きているか賭けて遊んだ。女は当然犯した。まだ子供と言える少女から妊婦まで全員で楽しんだ。ホルトはまさしく生きている実感を得たのだった。

 村の倉庫から刈り入れたばかりの麦を奪い、生き残った女10人を拐い、拠点に戻ってからも散々に犯した。おかげで女たちは自ら命を絶つもの、心を壊してなんの反応も示さなくなるものなど5人しか現在は生きていない。別にかまわない。次の村から調達すればよいだけの話だ。

 

 村に蓄えられている麦が税として収められてしまう前にもう一度略奪する計画であった。これはクサーヴァーが最初に提案した襲撃案に含まれている。その標的も最初からキッシェ村とヴァルト村と決まっていた。そしてその決行もキッシェ村襲撃後10日後と決まっていたのだ。

 「クサーヴァー、次の村の襲撃だがよ。戦士団がウロチョロしてるんだが、大丈夫なのか?」

 ホルトは戦士団がこちらの拠点を探していることを把握していた。今のところここが見つかる気配がないことも確信していた。昨日領都に下男として忍び込ませている手下から連絡があったのだ。

 「ホルト殿…臆病風にでも吹かれましたかな?」

 その物言いにホルトは気色ばむ。

 「慌てなさるな。次はもっと面白くなりますゆえ。」

 いずれにせよ、明日にはヴァルト村を襲撃することが決まっている。

 「今晩、面白いものが到着しますゆえ、それを見れば貴殿も安心するでしょう。そもそも、これだけの兵力があれば領主が派遣してくる戦士団なぞ恐れるに足りませぬわ。」

 クサーヴァーの言うことになるほど確かにそうだとホルトもニヤリとした。傭兵崩れが60人である。衛士の10人や20人恐れる必要などない。しかもなにやら隠し玉が今晩届くらしい。血が騒ぐ感覚に酒をあおるスピードを上げるのだった。

 そしてその夜、オーガが届いた。

 

 次の朝、というよりは昼前だが、ホルトは配下の怒声で目を覚ました。昨日の夜伽をさせた女は白目をむいて横たわっている。ふん、やりすぎたか。どうでも良い。

 「朝からやかましい!何事だ!」

 ホルトも怒鳴り返す。

 「お頭!森のはずれで哨戒させていた奴らが何者かに殺られていやがる!」

 なんだと。ここがバレた可能性があるのか…。チッ、今回の襲撃を片付けたら予定を早めて帝国領まで逃げる必要があるかもな。なに、俺はこのあと帝国の士官に取り立ててもらえる予定だ。

 「気にすんな!それより予定通り仕事をするぞ!さっさと準備して集合かけやがれ!」

 一応死体を検分すると、どうやら弓でやられたようだ。死体は3つ。これは衛士の使う弓とは違うような気がする。もっと質が良い特殊なものだと思われた。しかし見事な腕前と言わざるを得ない。一発で眉間を打ち抜かれている。これから襲う村にこの弓の使い手がいるのか?

 「ふん、出発前にゲンが悪い!おうお前ら!この無能どもの死体を森に捨てて来い!」

 どうにもいらだちを隠せずホルトは荒くれ共を進ませるのだった。

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