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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
2章 錬金術師の夢
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2章:錬金術師の夢 その14 情報交換

 ベネディクトにはお供を引き連れてそのままお引き取りしてもらった。チャームはそのうち切れるだろう。それとベネディクトの話ではイゾルデと話に出てきたルードガー、ヴァルターってのは何らかの仲間つながりがあるようだ。この組織は情報収集では使えるのではないか。

「イゾルデさん、あなたたちは何らかの組織に属していますね?ギルドか、クランか。」

 まずそれを確認しておこう。

「ああ、ヴァルター、ベネディクト、ルードガーとあたしでギルド闇ガラスだ。といっても利害が対立しないように調整するのが主な役割だがね。」

 なるほど。つながりは弱いのかもしれない。しかし情報の共有はそれなりにされているだろう。この街の事は彼らが裏事情まで詳しいと考えたほうが良い。今後利用させてもらうこともあるかもしれない。


「イゾルデさん。今のベネディクトの話を聞いて何か思うところは?」

 これひょっとして魔女の銀時計の話と大きく関わっているのではないだろうか。そう思いながら聞いてみた。

「その…実はあたしの娘が行方不明なんだ。5人を解放できる、というところがすごく気になるんだ…。」

 ビンゴか。というか、賢者の石だと?それと生命力を吸い取る小男?…それってひょっとして。

「キャロット、どう思う?その、生命力を吸い取る小男について。」

「ヴァンパイアでは…?」

 やはりそう思うか。

 キャロットがそう言うとイゾルデとポーラは息をのんだ。これはイゾルデと共同戦線を張ったほうが良いかもしれない。ヴァンパイアを使役するならそれ以上に厄介な敵がいることになる。

「パターン的にだが、ここまでの話を総合すると。」

 そう前置きして推論を述べることにした。

「その賢者の石もどきを使用して生命力を集めている何者かがいる。その何者かはヴァンパイアを使役する。生命力を集めて行うことといえば…おそらく死者の復活かホムンクルスの作成、もしくは上位アンデッドの召還か。」

「ちょ、ちょっとまっておくれよ。なんだいその絵空事みたいな話は。死者の復活や人造生命体の作成とか伝説の中の話だろう?そんなことを行える者がいるとは思えないよ。」

「しかし、実際賢者の石もどきは存在するのだろう?しかも墓地で大量のアンデッドが出たらしいじゃないか。ヴァンパイアもおそらく確実だろう。」

 これってひょっとして放置しといたら街がアンデッドに占拠される事態まで視野に入れておかねばならない事案ではないだろうか。ミイラ化した連中がアンデッドとなって復活した様子はないが、親玉が真祖級のヴァンパイアならこんな街あっという間だぞ。

「実は私たちはこの街で活動している魔女の銀時計という冒険者グループを支援するためにここに来たのだが、彼らのことを知らないですか?」

 こうなった以上イゾルデからもできる限り情報をもらおう。

「魔女の銀時計ね、知っているよ。あたしの娘を含めた行方不明者の捜索に来た冒険者だろう?いろいろ嗅ぎまわっていてうっとうしいんだが、娘の事もあるし放置していたんだ。」

「彼らの居場所は知っていますか?」

「ああ、知ってるよ。住宅区にある無人宅を借り受けている。ただ、あの連中も一人行方不明になっているはずだ。おそらく賢者の石もどきをルードガーのところに持ち込んだのはそのチームの者だと思うわ。」

 一人行方不明だと…。

「私たちは一度彼らと合流する。ひょっとして墓地でアンデッドを食い止めていた冒険者とは彼らかもしれない。」

 しかし、ヴァンパイアが相手になるかもしれないとなると、ちゃんとした装備をしておいたほうがいい。

「キャロット、一応フル装備をしておこう。まさかとは思うが、真祖がいる可能性もある。」

「かしこまりました。」

 俺達が置かれていたバックパックからフル装備を取り出し、本来のアーマーを着用していく。バックパックの中からありえないサイズの鎧や武器が出てきたところで二人の目は驚きに見開かれたが、さらっと無視した。

 そしてさっきまで全裸をさらしていたのだし、特に俺もキャロットも周りの目を気にすることなくガウンを脱ぎ着替えだしたところ、イゾルデとポーラが赤くなって目をそらした。

「いや、なんというか。美男美女の生着替えとか眼福だねぇ。」

 キャロットの美女はわかるが、美男というのは俺の事か?

「キャロットが美女というのはわかるが、私が美男ということはないでしょう?」

 ちょっと困ったように笑うとイゾルデは呆れたようにため息をつき言った。

「あんた、自覚ないのかい?」

 首をかしげた俺を見てイゾルデはさらにため息をつき、言葉をつづけた。

「なるほど…。嬢ちゃん、あんたも苦労するね…。」

 キャロットを振り返ると彼女はまさにブンブンと音が聞こえそうな勢いで首を縦に振っていた。どういう意味だ…。

 プレイヤーキャラクターに美醜に対する設定はなかったはず。それなりに一所懸命作ったキャラクターだ、不細工といわれるよりはいいか。


 全身の装備が終わって久しぶりに漆黒の魔法戦士と白銀の聖戦士が出来上がった。背中に嵐の大剣を背負い、状態を確認する。よし、問題はないな。

「あ、あんたら魔術師じゃなかったのかい?」

「魔法も使える、といったところだ。」

 そういうとイゾルデはポーラに向き直り言った。

「おまえ…とんでもない奴らをさらってきたんだねぇ…。」

 ポーラはポーラで目を見開いたまま

「あ、はい。」

 と言うのが精一杯だった。


 俺達は一度魔女の銀時計と合流するため、街に向かうことにした。

 …だが、その前に…

「起きんかい、コラ!」

 話している途中でエイブラハムが入った籠は発見していた。中でぐーすか寝こけている駄竜も。俺は籠を蹴っ飛ばした。

 派手な音を立て籠は転がり、ようやく目を覚ましたエイブラハムが

「ク、クエエエエエエエッ」

 と悲鳴とも何ともわからない声を上げた。そしてキョロキョロとあたりを見渡し、なぜか俺のほうを恨みがましく見てきた。

「さっさと出てこい。行くぞ。」

「クエェ。」

 エイブラハムが籠のドアを睨むとカギがかちゃりと外れ、そしてのっそりと出てきた。

 エイブラハムはバサバサと2,3度羽ばたき、キャロットの肩に向かって飛んできた。やはりキャロットの肩が定位置の様でそのまま何事もなかったかのように「クエ」と鳴いた。

「これで私たちは失礼するが、あなた方とは今後もお会いする機会が多くなりそうな気がする。特にローザさんが行方不明事件の被害者だというなら、彼女の救出も私達の任務ということになる。私としても美しい女性と食事をしながらおしゃべりを楽しむのは嫌いではないので、今度は穏やかに迎えてくれると嬉しいかな。」

「ああ、今度は本当にちゃんとおもてなしさせてもらうよ。なぁ、ポーラ。」

 ポーラも大きくうなずき

「お二人であれば、当娼館を上げておもてなしさせて戴きます!」

 いや、それはキャロットが怖いのでやめてあげて。

「それでは失礼する。」




 時間は朝3つといったところか。魔女の銀時計の連中が拠点にいるといいのだが。

 街の気温は日に日に下がってくる。あまり季節感を体感できるイベントがないせいで忘れがちだが、もとの世界ならそろそろクリスマスの時期ではないだろうか。ゲームの中ならクリスマスイベントが行われて、どの街にも趣向を凝らしたツリーが出現していたのだが、この世界にはそんなものは存在していなかった。


 教えてもらった路地を進み、一軒の古い民家にたどり着いた。

「ここのはずなんだが。」

 とりあえずノックしてみる。古いノッカーを3度叩いてみる。カンカンカンと意外に高い音が響き、しばらくするとばたばたばたと元気の良い足音がこちらに走ってきた。

 ここまで派手な音を立ててやってきたのだが、ドアはそうっと開けられ、隙間から外をうかがうような様子で若い女の子が覗いてきた。この子は確かエリーザといったな。

 エリーザは俺たちを確認して口元を抑えた。そしてその場に俺たちを置き去りにしたまま奥に走って行ってしまった。

「アルベルト、大変!アインさんとキャロットさんが来た!」

 彼女の大声は外にまで聞こえてきた。いや先に中に入れてほしいのだが…。

 すぐにアルベルトがエリーザを伴って玄関に現れた。

「お久しぶりです、アインさん、キャロットさん。外はだいぶ冷えますのでまずは中に入ってください。」

 アルベルトは俺たちを中に案内してくれた。

「エリーザ、俺を呼びに来る前に中に案内してくれよ。」

「あはは、びっくりしちゃって…。」

 相変わらずエリーザは天然ぶりを発揮しているようだ。すぐにエリーザはキャロットに挨拶してエイブラハムを撫でさせてもらっていた。エイブラハムもエリーザの事は気に入っているようで、抵抗することなく撫でられるがままになっていた。

 そういえばドワーフのバルドルとレンジャーのドーリスがいないな。一人行方不明になっていると聞いたが…。

「今バルドルは街の様子を見に出ています。お話したいこともたくさんあるのですが、アインさんたちはどういった理由でこの街に来られたのですか?」

「私達はアルベルトさんが出した応援依頼を受けてヘルツォーゲンから昨日来ました。あ、私達も冒険者登録したんですよ。」

 そういってFランクタグを見せた。

「おお!冒険者になられたのですね。それで私たちの依頼を受けて戴いたと。いやぁアインさんに受けて戴けるとは夢にも思っていませんでした。」

「そろそろお昼かと思いまして露店で昼食になるようなものを買ってきました。バルドルさんが戻られるようなら、戻ってきてから一緒に食べませんか?」

 そういってここに来るまでに露店で買った串焼き肉の束を10本ほど差し出した。ほら、キャロット、涎を拭きなさい。

「バルドルならそろそろ戻るころだと思います。彼も何か買って帰ると思いますので一緒に食事としましょう。」


 そうこうしているうちにバルドルがパンを抱えて戻ってきた。腰には酒と思しき革袋を吊るしている。

「おお、アイン君にキャロット嬢ではないか。息災にしておったか?」

 バルドルと再会のあいさつを交わした後、買ってきたものを開き昼食となった。この世界では基本1日2食である。だからお互いに軽めの食事をとるためにそれほど多くの食べ物は買ってこなかったので、全部の食材を食べてもそれほど多くの量にはならなかった。キャロット、あきらめろ。

 それにしてもやはりドワーフは酒好きなようだと妙に感心した。


「ここに来るまでにちょっといろいろありまして私達もいくつか情報があります。」

 ドーリスの事が気になったので、こちらから問題に切り込んだ。

「まず、魔女の銀時計のメンバーの一人が行方不明になっていると聞きました。…ドーリスさんで間違いないですね?」

 そう言うと3人は沈痛な面持ちになって頷いた。

「おはずかしながら…今回の依頼は非常に困難を極めています。ヘルツォーゲンに応援を依頼したのもそうですが、ドーリスがいなくなってしまったことでますます困ったことになっているのです。」

 アルベルトは今まであったことを順を追って話し始めた。やはりアンデッドの大軍と戦っていたのはこの3人で間違いないようだ。

「それにしてもアンデッド30体以上と渡り合うとは、オイゲンさんやウドさんが見込んだ冒険者というのも頷けます。」

 そう言って彼らの活躍をほめたたえたところ、3人はオイゲンさんの事を知っているのかと驚き、そして恐縮した。

「オイゲンさんはヘルツォーゲンの冒険者ギルドでも尊敬を集めている方で、一度だけ一緒に依頼を受けたことがあります。彼のリーダーシップは私としてもぜひ見習いたいところなんです。」

 なるほど。あのひげもじゃそんな有名人だったのか。

「それでは今度はこちらが得た情報なのですが…」

 俺達がこの街に入ってからの事をかいつまんで説明した。

「危うく奴隷として売り飛ばされてしまうところでした。」

 そう言って笑ったがアルベルト達は引きつった笑みを浮かべるだけだった。

「よく無事で済みましたね…。」

「いやでも、そのおかげでイゾルデさんというこの街の有力者に伝手ができたので、色々役に立つと思いますよ。」

「イゾルデってこの街の娼館関係の元締めみたいな人ですよぉ。やっぱりアインさんはすごい人だなぁ。」

 エリーザがイゾルデの名が出したところでキャロットが何かを思い出したのか顔を赤くしてうつむいてしまった。

「キャロットさんどうしたの?体調悪いの?」

「い、いえ、そんなことはないです。大丈夫です。」

 キャロット、マジで目覚めたんじゃないだろうな。


「それで、ここからが本題なんだけれど。」

 そう前置きして俺の考えを話した。

「賢者の石もどきを利用して生命力を集めている連中がいる。彼らはおそらくヴァンパイアを使役している。そしてその本拠地はおそらく墓地にあるだろう。最悪真祖級ヴァンパイアがいるかもしれない。」

「真祖級ヴァンパイア…?」

 アルベルトはそう言ってエリーザを見た。エリーザはふるふると首を振り知らないという素振りをする。

「真祖、とは何なのでしょうか。ヴァンパイアは知っています。もちろん戦ったことなどないですし、勝てるような気はしませんが…。」

「アルベルトさん達が知っているヴァンパイアとはどのようなモンスターですか?」

 この辺の認識も統一しておきたい。彼らはヴァンパイアをどう捉えているのだろう。

 エリーザが俺の質問に対して答え始めた。

「ヴァンパイアは上位アンデッドで、生命力を奪い取る接触攻撃を行います。また、銀か魔法を帯びた武器でしか殺すことができず、知能は低く生者を憎み襲うことしか考えていない…。と魔法学校で習ったことがあります。」

 エリーザは魔法学校の出身者か。が、今はそれはいいとして。

「それはいわゆる『レッサー・ヴァンパイア』の事です。」

 レッサー・ヴァンパイアでもアルベルトたちの力では全滅は必至だろう。だが、真祖はそれどころではない能力を持っている。

「真祖とはそのレッサー・ヴァンパイアを生み出している者の事です。目を合わせるだけで魅了の魔法と同じ効果があり、生命力の吸収はレッサー・ヴァンパイアの比ではないほど強力です。銀の武器は効果がありません。真に魔法を帯びた武器のみ彼らに傷を与えることができますが、彼らを殺すには特別に用意されたものが必要になります。また、狼や蝙蝠など眷属を召喚し変身もできます。そして第七位階の魔法を使用します。」

 アルベルト、バルドル、エリーザの三人はあんぐりと口を開け、硬直したように動かなくなった。やがて絞り出すようにアルベルトが声を出した。

「なんですか、その化け物は。そんなの伝説のモンスターじゃないですか。そんな奴がこの事件の首謀者であると…?」

「可能性があるだけですが、レッサー・ヴァンパイアが確認されているのですから、おそらく。」

「じゃ、じゃあドーリスさんはそいつに魅了されて操られているのか、な?」

 俺はそう思っている。

「しかし、ドーリスさんは『これで5人は解放される。』と呟いたらしいので、魅了以外の何か取引をしている可能性もあると思います。」

 キャロットがそう言った。確かにそうだ。何かもっと裏があるのだろうか。

「しかし…そんな化け物、人の手で倒すことなどできるのか?」

 バルドルが絶望的な面持ちで周りを見渡しながら言った。

「真祖は人間以上に高い知能を持っています。あるいは交渉も可能です。戦う以外で解決策を探すのが賢明でしょう。」

 実際戦うとなった場合、俺とキャロット以外では手が出ないと思う。と、いうより、もし真相級のモンスターが本気で襲いかかった場合、国単位で滅亡するのではないだろうか。…それはつまり、俺達も同じことができるということだ。本気でやろうと思えば世界征服すら可能なのではないだろうか。500年前カタリナがどう思ったのかぜひ知りたいところだ。

「たしかに、そんな化け物ならこんな回りくどいことをせずともこの街を制圧してアンデッドの闊歩する死の街を作り出すことも簡単だと思えます。それをせずに賢者の石もどきを作ったり、女性たちを誘拐したりと何か釈然としないものがありますね。」

 アルベルトの意見はもっともである。なにか事情があるのだろうか。

「まだ情報が足りませんね。単純に自らの住処を作るべく街を支配しにかかっているわけではなさそうです。交渉の余地はあるかもしれません。」



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