2章:錬金術師の夢 その12 イゾルデの覚悟
キャロットとエイブラハムはどこにいるのだろうか…。今通ってきた廊下に面している部屋から女性のものと思える嬌声が聞こえてきたところから、ここは娼館なのだろうと想像できた。しかし、地下牢のある娼館ねぇ。まともなところじゃないだろうな。
しかし急がないと脱出がばれるのは時間の問題だ。
2階の廊下を突き当りまで行くと奥の扉の前に2人の用心棒と思しき人が立っていた。こんな奥で用心棒を立たすというのはその中が重要な部屋だって証拠だよな。どうするか…。攻撃するにしても魔法で眠らすにしてもインヴィジブル切れてしまうからなぁ。とりあえず眠らすか。
用心棒をスリープで眠らすととりあえず彼らの持っていたロングソードをもらっておいた。ホントいうと服がほしいんだけど、今はこいつらの服脱がして着る時間がもったいないと思ったので再びインヴィジブルで透明化して部屋に入ることにした。
扉を開けるとそこは部屋ではなく、上に上がる階段だった。いよいよ本命っぽいな?
階段を上がっていくと扉が二つ見えた。手前の扉の前にはこれまた用心棒が立っている。女の用心棒か。何かこの3階は特別な部屋のような気がする。とりあえず眠らすか。
用心棒を眠らすとこの部屋に入るかどうか少し迷った。見張りが立っているということは中に人がいるということだろう。隣の部屋を見てみるか。中でお盛んなところだと踏み込んだはいいが困ったことになるかもしれないし。
隣の部屋に鍵はかかっていないようだったのでそっと扉を開け中を覗いてみる。
そこにはあのポーラと思われる女性が荒い息をしながら自らの胸を揉みし抱いていた。片手は股間に延びゆっくりと動いている。何か…やばいところに遭遇しちゃったぞ?
俺がドアのところで呆気に取られているとポーラもこちらに気が付いたようだった。あ、しまった。透明化するの忘れてた。向こうも全裸の俺が侵入してきたことで思考が一瞬停止したのだろう。そりゃ考えてみれば一人エッチしていたところに全裸の男が刃物持って侵入してくれば思考も止まるわな。
「バインドパーソン」
とりあえず悲鳴とか上げられたら困るので魔法で無力化させてもらった。いったいこの女はこんなところで壁に向かって何をしてるんだ?そう思って固まっているポーラの近くに行くとポーラの前の壁から向こうの部屋の中が見えた。ん?ガラス張りか?
何が中で行われているのかと思いガラスの向こうをよく見てみる。大きな天蓋付きのベッドに女性が二人…二人とも全裸だが…まぁ男の俺を襲いに来た奴らがいるくらいだしレズビアンくらいいるだろう。…ん?んんん???
「キャロット!?」
おいおい中で襲われているのはキャロットじゃないか。何がどうしてどうなったんだ?うわ。しかしエロいなこれ。こんなん見てたらそりゃポーラさんみたいになっちゃうよな。ちょっと恥ずかしいポーズで固まっているポーラをちらりと見ると、固まりながらも自分の格好がかなり恥ずかしいことになっているのが自覚できているのだろうか、涙目で真っ赤になっている。あ、俺がマッパなのも原因なのか?
てか、こんなことしてる場合じゃないだろ。助けなきゃ。
俺が叫んだ声が聞こえたのか組み敷かれていたキャロットがビクッと震えた。声は聞こえなかったが、上に乗っていた女性が固まったのでおそらく俺が使ったの同じ効果の信仰系魔法、ホールドパーソンを使ったのだろう。それを見て急いで部屋を出て隣の部屋に向かった。
部屋にはカギがかかってあったが、アンチロックであっさり解除して部屋に飛び込んだ。
キャロットは仰向けに寝かされたまま革の拘束具でベッドに固定されていた。急いでロングソードで拘束具を切断する。固まっている女性はとりあえず無視してベッドの端に寄せることにした。
「キャロット!無事か?怪我はしてないか?」それより貞操は大丈夫かと聞きたかったが、いくらなんでもその質問はデリカシーにかけるだろう。
「あいんふぉーどさまぁ…。」
キャロットはとろんとした目で俺を見つめそのまま抱きついてきた。あ、いやキャロットさん?キャロットは抱きついてきただけではなくそのまま足を絡めてくる。これは?アカン。大体キャロットは俺の理想を具現化したようなキャラメイクをしている。俺の理性もぶっ飛んでしまうぞ。媚薬か何かを飲まされたのか?
「ちょ、ちょっと落ち着け!」
軽く頬をはたいてみる。パチンと音がしてキャロットは驚いたように目を見開いた。ようやく自分がどういう状況なのかを理解したようで次第に顔が真っ赤になってきた。
「しししし、失礼いたしました!ここ、このようなはしたない真似を、ももも申し訳ございません!」
キャロットはベッドの上でまさに土下座という勢いで頭を下げる。
「薬を飲まされたのだろう。キャロット、謝ることは何もない。どこも怪我はないな?」
「は、はい。身体的な欠損は確認されません。…ありがとう…ございます。」
そういって真っ赤な顔で上目使いでこちらを見てくるキャロットは反則的にかわいかった。
やれやれ…。次はエイブラハムの居場所と装備品のありかを探さないとな…。おそらくそのあたりは隣の部屋で恥ずかしい格好で固まっているポーラに聞けばわかるだろう。ところでこの女性は誰なんだろうな。
「キャロット、この女性は誰だか知っているのか?」
先ほどまでキャロットに圧し掛かっていた女性を指して聞いてみる。見ると年は30代だろうか、なかなかの美人さんである。
「イゾルデ、と名乗っておりました。それ以上詳しいことは…。」
なぜかイゾルデを見るキャロットの目が熱っぽい。キャロットさん?目覚めちゃいましたか?
とりあえず3階にいる人間を全員となりのマジックミラーの部屋に集めることにした。
それと、いつまでもマッパでは困るので、キャロットたちがいた部屋のクローゼットからバスローブのようなガウンを発見したので羽織っておくことにした。なによりキャロットとイゾルデが裸のままでは目のやり場に困ってしまう。
ポーラさんもあのままのポーズでは不憫すぎるのでソファに座らせてあげることにした。
「まだ体の自由は利かないと思うがまぁ聞いてくれ。」
部屋に集めたのはイゾルデ、ポーラ、女用心棒の3人である。女用心棒は眠っているだけであるので、一応上掛けでバインドパーソンをかけておいた。
「今から君たちの束縛の魔法を解くが、暴れられても困るので両腕は拘束具で縛らせてもらう。さらに部屋には防音の魔法をかけたので、大声を出しても外には聞こえない。」
そう前置きして魔法を解除した。
どっと疲れたようにイゾルデとポーラは力が抜け、その場にへたり込んだ。
「あ、あんたたちはいったい何者なんだい…。」
イゾルデが放心したように尋ねてきた。
「何者かといわれても…ただの冒険者だが?」
「魔術師なのかい?」
ああ、そういう意味か。
「そうだな。キャロットも私もそれなりに魔術の心得はある。」
たぶんこの世界の常識レベルではそれなりどころではないのだろうとは思うが。
「俺たちの荷物と使い魔のドラゴンはどこにある?」
「1階の私の私室に置いていますわ…。」
ポーラさんまだ顔赤いぞ。
「こういう非合法な手段で娼婦を集めているのか?」
危うく掘られそうになったのである。ちょっと語気を強めて問い詰めてみた。
「…まぁ、否定はしないよ。」
イゾルデは胸を張ってそういった。
「正直言って私たちはここで君たちを殺してしまうこともできる。また君たちはそうされても仕方ないだけの罪を犯していると思う。もし私たちに抗う力がなかったら、性奴隷として残りの人生を過ごすことになっていただろう。ひょっとしたらそれはそれで幸せな人生かもしれない。だがしかし、悪いが私たちにも目的や望む人生がある。」
「ふん。御説ごもっともだよ。だがね、望む人生ってのはなんなんだい?そんなもの誰だって願っても叶えやしないよ。人生なんて理不尽と矛盾だらけさ。だったらあたしは自分のできることを自分のできる方法で生き抜いてやるだけさ。それが人様から見て犯罪だったとしてもね。」
結構覚悟決まっているようだな。
「ならばここで殺されてもそれはそういう人生だったと諦められると?」
そういって剣を突きつける。
「…。」
イゾルデは剣から顔を背けて黙り込んだ。口惜しさがその表情から滲み出ている。ポーラはそんなイゾルデを見ながらどうしたらいいのかといった感じで狼狽えている。勝手に命乞いを始めないだけ好感が持てた。
「どっちにしろあたしたちの命はあんたが握ってんだ。どう言い訳しようとあんたたちはあたしらに勝った。殺されても文句は言えないよ。」
「イゾルデ様!そんな!ローザ様はどうなさるのですか!」
ローザという名を聞いたとき一瞬イゾルデの顔が歪んだ。
「今、ローザは関係ない…。」
「イゾルデ様!」
ポーラは必死でイゾルデに翻意を促していた。
「あんたらをさらったのはあたしの指示だ!イゾルデ様は関係ない!殺すならあたしだけにしてっ!」
ポーラは半狂乱になってイゾルデを庇いだした。悪役にも悪役なりの道理があるのだろう。
「まぁ落ち着け。私も無力化された女性を無慈悲に撫で斬りにできるほど非情な人間ではないつもりだ。」
きっとこの世界では甘い考えなんだろうな。
「さて…それじゃ落としどころはどこだろうな。私たちは一応仕事でこの街にやってきた。先立つものもないし…お金で解決というところか?」
そう言うとポーラがほっとしたような表情で金で解決できるなら…と乗ってきた。
「いっそあたし達の体で払うってのはどうだい?これでもかつては国一番の娼婦といわれたんだ。そこのポーラもそれなりに売れている娼婦だよ?最高にいい夢見させてあげるよ。」
確かにこれだけの美人だ。ちょっと揺らいだぞ。って、痛てててて?
振り返るとキャロットが物凄い形相でこちらを睨んでいた。やめて。キャロット!君結構怪力なんだから抓るのはやめて。
「非常に魅力的な提案なんだが、それではうちの相棒が納得しそうにないので他の案で。」
「アインフォード様!」
イゾルデがキャロットを見ていたずらっぽく笑った。
「そっちの嬢ちゃんにも続きをしてあげようかい?」
とたんにキャロットは真っ赤になって俺の後ろに隠れてしまった。
「あーもうあたしの負けだ。命を助けてくれるというならこの街にいる間の生活と仕事に対する援助もさせてもらう。これでもあたしはこの街の顔役だ。何でも言ってくれ。もちろん要望があればいつだって夜の相手もさせてもらう。あんたマジでいい男だからね、こっちにとってもご褒美さ。」
なんかヤクザに伝手ができたような?でもこいつらどう考えても犯罪者集団なんだよなぁ。
「まぁ、そのあたりでいいか。とりあえず私たちの装備と荷物を返していただこう。それと小さなドラゴンがいたと思うんだが、あいつはどこにいるのだろうか?そろそろ回収しとかないとあいつが暴れるといろいろ面倒だからな。」
「ああ、あのドラゴンなら私の部屋で魔法封じのかかった籠に入れてあるよ。ドラゴンだし魔法使うかもしれないと思ったもんでね。」
意外としっかりしているな。その割には俺たちが魔法を使うかもという警戒を全くしてなかったようだが。
「ちなみに、地下牢は全体に魔法封じの魔法がかかっているんだが…あんたどうやって脱出したんだい?」
あ、そうなん?全く気が付かなかったけど。




