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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
2章 錬金術師の夢
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2章:錬金術師の夢 その9 アンデッド

 2回目の巡回に出てすぐ、エリーザはバルドルに聞いてみた。

「ねぇ。クラーラさんの幽霊って墓地のどのへんででたんだろ?」

「おお、言ってなかったかの。見かけられたのは2回程度じゃが、最奥の領主の墓の近くと入口の教会のあたりという話じゃ。」

「じゃ、今回は入口の教会付近を重点的に見て回ろうか。」

 アルベルトの意見に二人は頷いて入り口付近を中心に見て回ることにした。

 教会の門はとうに固く閉ざされ、魔道具の常夜灯が仄かに扉の前で輝いていた。

「なんていうか、よく言えば幻想的、悪く言えば気味が悪い光景だな。」

 アルベルトは揺らめくように輝く常夜灯に対しそういった感想を述べた。


 教会付近にはスケルトンの姿もなく、またクラーラの幽霊も発見することはできなかった。

「さすがに教会付近にはスケルトンも見かけないな。怪しいのは最奥のほうか。」

 アルベルトは墓地の中央付近まで進んだところで、2回目の探索を打ち切り、いったん墓守小屋に戻ることにした。

「やっぱりクラーラさんは無念の死を遂げてそれを誰かに伝えるために彷徨っているのかな?」

 エリーザは会ったこともないドーリスの妹に何か思うところがあるようだった。

「まだ、亡くなったと決まったわけでもあるまい。」

 バルドルはそういうが、アルベルトにしてもこの墓地の雰囲気で希望的な予想をするのは難しかった。

「ね、どうしてアンデッドって勝手に生まれのかしら?」

「なんでだろうな。そういったことは俺よりエリーザのほうが詳しいのじゃないのか?」

「私はネクロマンサーじゃないし!知識としてクリエイトアンデッドの呪文があるのは知っているけど…。」

 ネクロマンサーがアンデッドを作り出して使役するのなら理解できるが、墓地や古戦場でアンデッドが自然に発生するのはなぜだろう。エリーザにはそこが疑問だったのだ。

「古戦場で無念の死を遂げた戦士の死体が弔われずに放置されるとアンデッド化すると言われるのう。」

「じゃ、ちゃんと弔われた墓地では何でスケルトンやゾンビが出るんだろうね?」

 バルドルにしてもその答えは持ち合わせていなかった。


 3回目の巡回に出発してすぐにゾンビ3体に出くわした。スケルトンからゾンビに強化されているのが気にかかるが、ゾンビ3体程度ならアルベルトとバルドルだけで対処できる。エリーザの魔術は温存しておくことにした。何やらこのまま済みそうにない予感がしたからである。

「ねぇ。なんか嫌な予感がするんだけど…。」

「そういうことは言うもんじゃないぞい。大体そういった予感は当たるもんじゃ。」

 人それをフラグという。


 やはり予感は現実となった。墓地の最奥に進んだ時、スケルトン10体以上が墓石の影から現れたのである。

「おいおい、こりゃやばいんじゃないか?」

 アルベルトはそうは言いながらまだ余裕があった。上位アンデッドに出てこられることを思うと所詮スケルトンである。武器も持っていないスケルトン10体くらいならバルドルと二人で対処できるだろうと思っていた。

「アルベルト、ちょっとまずいぞい。」

 バルドルがそう言って注意を促してきた。スケルトン10体程度にバルドルがそんな警戒するとは思えない。何かやばいのが紛れているのか?

「あれを見ろ。おそらくワイトじゃ。」

 そこには見た目は普通のゾンビだがゾンビとは思えない動きをするアンデッドがいた。

 ワイトはスケルトンやゾンビのようにただ殴りつけてきたり噛みついてくるようなモンスターとは異なり、生命力を奪ってくる。また恐ろしいことにワイトに生命力を吸い取られた者は同じようなワイトとなって彷徨いだすのだ。

「エリーザ!エンチャントを!」

「わかった!『その刃に魔法の力を宿したまえエンチャントマジック』」

 ワイトに魔力を持たない攻撃は通らない。魔女の銀時計の面々はかつて地下墳墓探索でワイトに遭遇したことがあった。その時はたまたま同行していたメンバーが魔法の武器を持つ熟練の冒険者だったため、難を逃れたが今回は魔法の武器などはない。エリーザの魔力を温存してきたのはこういった事態に備えてであったのだ。

「エリーザは魔法であのワイトを集中的に狙ってくれ。スケルトンどもは俺とバルドルでブロックする。」

「魔力の矢よ、かの敵を撃ち抜け!マジックミサイル!」

 エリーザは魔法の矢を放ちワイトを攻撃する。しかし、その一撃で倒せるほどワイトはたやすい敵ではない。スケルトンとゾンビが群がってくる中、間違ってもワイトの攻撃だけは受けるわけにはいかない。アルベルトは盾をもつバランス型ファイターであるのに対しバルドルは両手持ちのハンマーを武器としているため、攻撃を受ける可能性も高い。普通の敵であるならプレートメイルとドワーフ特有の頑丈な肉体で防ぎきるのだが、ワイトは生命力自身を奪っていくため触られること自体が危険なのだ。

「マジックミサイル!」

 エリーザが2発目の魔法の矢を放ったところでワイトがスケルトンを押しのけ前面に出てきた。バルドルにつかみかかろうとしたワイトの手を何とか割り込んだアルベルトの盾が受け止める。すかさずワイトに斬りつけるがまだ倒すことができない。

「マジックミサイル!」

 3発目の魔法の矢が突き刺さったところでようやくワイトは崩れ去った。冷や汗をかきながらアルベルトとバルドルは残ったスケルトンとゾンビを殲滅していく。

 最後のスケルトンを叩き潰したバルドルは大きく息を吐きだした。

「ふうぅ。危ないところじゃったのぉ。」

「ワイトなんかが出てくるとなるといよいよこの墓地やばいんじゃないのか?」

「もう魔力が残り少ないよ?もう一回今のが出てきたら魔力が持たないかも。」

 その時エリーザが白い影が横切るのに気が付いた。

「あ、あれ!」

 とっさにエリーザが指をさしたほうを二人が見ると白っぽいおそらくシスターの衣装を着た人物が墓石の影に飛び込むところだった。

「クラーラさん?」

 アルベルトが呼びかけるが返事はない。

「クラーラさん迷わず成仏してください!」

 エリーザそれはちょっと待てとアルベルトは心の中で突っ込みながら今姿が見えたところに向かう。いや、向かおうとした瞬間一斉にスケルトンとゾンビが湧いて出た。地面からボコボコとまさに湧き上がるという表現がぴったりな状態だった。その数少なくとも20以上。

「撤退!!」

 アルベルトの判断は早かった。いかにスケルトンやゾンビとはいえ数が多すぎる。しかも確認できないがまたワイトが紛れ込んでいる可能性もある。

「エリーザ!正確に夜明けまでの時間は?」

「ちょっと待って。えっと、あと78分!」

 エリーザは懐から銀色の懐中時計を取り出し、夜明けまでの正確な時間を告げた。

「撤退しながら夜明けまで街にこいつらが流れ込まないように78分耐えるぞ!」

 3人は撤退戦を行いながらスケルトンの攻撃を耐えていた。しかし、恐ろしいことにまだまだスケルトンはぞの数を増やしているように思えた。ここまで数が増えるとひょっとしたら夜明けが来ても消えることがないかもしれない。そういった恐れが3人の心を支配しはじめた。

 それでも3人は必至で耐えた。幸いなことにワイトの姿はなかった。

「もうすぐ夜明けだ!もう少し頑張れ!」

 アルベルトは仲間を鼓舞しながら必死で剣をふるった。すでにバルドルも満身創痍である。エリーザはマジックミサイルをはじめ、マジックウェブなど持てる攻撃呪文を総動員してアンデッドの侵攻を食い止めようとしていた。パーティにプリーストや、神官系の者がいれば状況は大きく変わったであろうが、冒険者に神官はほとんどいないのは前述のとおりである。

 3人は時に背中を見せて走り、また立ち止まっては足止めを行いながら教会の門があるところまで撤退してきた。

「エリーザ!神官を呼んできてくれ!」

「わかった!すぐ呼んでくる!!」

 もうすぐ夜明けである。それでスケルトンが消えなければ街になだれ込んでしまう。それだけは何としても避けたかった。もし自分たちが突破されてもすぐに神官が来てくれたのならきっと浄化の魔法を使ってくれるだろうという思いから、またエリーザを教会に向かわせたのは最悪でもエリーザだけは死なせたくなかったからであった。

「だれか!神官様!アンデッドが!たくさん現れています!神官様!だれか!!」

 エリーザは必死に教会の扉をたたいた。もうすぐ夜明けである。敬虔な信徒なら夜明け前から祈りを捧げているはずであった。

 果たしてエリーザの思いは神に通じたようだった。

「このような朝早くから…おおお!!!」

 二人組で現れた神官は目の前で繰り広げられる恐ろしい光景に言葉を失った。そこには何十体というアンデッドを必死で食い止める二人の冒険者があったのだ。

「すぐに皆を呼んでくるのです!」

 年長と思われる神官が年若い神官に告げた。若い神官はまさに転がるように奥に駆け込んでいった。

「このような大量のアンデッド初めて見ましたぞ…。『不浄なる彷徨いでし不死の者よその魂を大天主様のもとに返したまえ、ターニングアンデッド!』」

 神官の唱えた不死者を地に返す呪文で10体近いアンデッドが崩れ落ちた。

 そこに待望の朝日が差し込んできた。

「朝日だ!」

 アルベルトは今日の朝日ほど待ちわびたものはなかった。山間から現れた太陽は死者の時間から生者の時間への切り替わりの合図である。これでアンデッドが姿を消してくれれば!

 しかし悪い予感とは当たるものである。

「そんな予感はしてたんだよっ!」

 予想通り夜明けが訪れてもアンデッドは姿を消す気配がなかった。それどころか夜が明けたことで周りがよく見えるようになり、自分たちが想像していたよりはるかに多くのアンデッドが集まっていることに愕然とした。

「いよいよやばいぞこれは!」

 アルベルトの気力もそろそろ限界だった。エリーザが武器にエンチャントをかけていてくれたからこそここまで持ちこたえられたようなものである。

「アルベルト!あきらめるんじゃないぞい!神官がすぐに集まってくるわい!」

 バルドルにしても傷だらけである。いかに頑丈なドワーフとはいえ度重なるゾンビとスケルトンの爪と噛みつきにプレートメイルはへこみ、頭からは血を流していた。

 そこにようやく5人の神官が大慌てで駆け込んできた。

「ターニングアンデッド!!」

 神官たちは血相を変えながらターニングアンデッドを唱えが、先ほどの年長の神官ほどの効果はなかった。何体かのスケルトンやゾンビが後退をしたが、土に返すほどの力はないようだった。神官たちはそのままメイスを振るい白兵戦に加わる。今まで実戦の経験などなかった神官ではあるが、生者の絶対的敵対者に対して怯んでいる場合ではなかった。もちろんアルベルトたちのように鎧を着ているわけでもないので彼らもまたすぐに傷だらけになっていった。もはや信仰だけが彼らの心の支えだった。

 3人の冒険者と5人の神官がまさに死にに物狂いでアンデットを抑えてどれくらい時間がたっただろうか、ようやくアンデッドの姿が見えなくなった。朝日が強くなってきたことで勝手に土に帰っていたのだと思われた。


「ふいー。生きた心地がしなかったな。」

「いや全くじゃわい。今日ばかりは大天主とやらを信じる気になったわい。」

「ふぇー。二人とも無事でよかったー。」

 3人ともその場に座り込み、一歩も動けないようなありさまであった。

「いや皆さんご苦労様でした。私たち神官もあれほどのアンデッドの大軍を見たのは初めてでございます。」

 神官たち全員血まみれである。白兵戦の経験のない若い神官たちはよく戦ったといえる。彼らは一様に青い顔をしながらお互いに治療の呪文を使い始めた。彼らにしてみれば自分たちが弔った墓地でこれほど大量のアンデッドが出現したことが信じられなかった。もし、この場にこの冒険者がおらずに夜中に街にアンデッドが溢れ出たらと思うと体の震えが止まらなかった。


「皆さんかなり酷いお怪我をなされているようですが、治療をお望みですか?」

 ようやくショックから立ち直った年長の神官が冒険者たちのひどい状態を見てそういった。

「しかし、治療費はとるんだろう?」

 アルベルトは少し皮肉を込めてそういった。教会はいかなる場合でも治療費を請求する。これはこの世界の常識である。

「ええ、もちろんです。今治療を施した神官からも戴きます。あなた方はたいそうなお怪我をなさっている。私がお見積もりいたしますに…」

「ちょっと!私たち街にアンデッドが流れ込むのを必死に抑えたのよ?それなのに治療費って何よ!」

 エリーザは神官に食って掛かった。それをアルベルトが諫める。

「エリーザ、やめるんだ。そういう規則なんだ。」

 アルベルトはちょっと渋い顔をしたが、このまま治療を受けられないことのほうが問題である。

「たいそうひどいお怪我の様ですので…そうですね、お一人当たり銅貨1枚といったところでしょうか。」

「へ?」

 エリーザだけではなく、アルベルトとバルドルも呆気にとられた。

「だから治療費はいただきますよ。ですがお支払いの前にまずは治療が先ですな。」

 一番酷い怪我をしているアルベルトにその年長の神官が治療魔法をかけてくれた。

「ヒール・シリアスウーンズ」

 アルベルトは吃驚した。こんな上位呪文を使ってくれるとは!こんな呪文を使ってもらおうと思ったら金貨を要求されてもおかしくない。それをたった銅貨1枚で使ってくれたのだ。

 周りを見るとバルドルとエリーザの怪我もほかの神官が治療してくれていた。さすがに上位呪文を使える神官はほかにいないようであり何人かで二人の傷を癒してくれていた。

「我らとて規律がすべてで生きているわけではございません。この街を救った英雄から大金をせしめたなどとなったら大天主様もお許しにならないでしょう。ですが、規則は規則ですので一応治療費はいただきます。」

 教会に何となく良い印象を持っていなかったアルベルトやエリーザ、そもそも大天主教を信じていないバルドルも教会に対する印象が一変してしまった。

「なんか、教会っていけ好かない守銭奴の集まりって思ってたけど、案外いい人たちなのね?」

 拠点に帰った後エリーザはそう漏らした。


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