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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
2章 錬金術師の夢
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2章:錬金術師の夢 その6 シスタークラーラ

 Amazing grace! (how sweet the sound)

 That saved a wretch like me!

 I once was lost but now I am found

 Was blind, but now I see.

 'Twas grace that taught my heart to fear.

 And grace my fears relieved;

 How precious did that grace appear,

 The hour I first believed.

 Through many dangers, toils and snares.

 I have already come;

 'Tis grace has brought me safe thus far,

 And grace will lead me home.

 When we've been there ten thousand years,

 Bright shining as the sun,

 We've no less days to sing God's praise

 Than when we've first begun.


「シスタークラーラ。聞きなれない歌ですが、それは異国の歌ですか?」

「神にささげる歌ということです。私も言葉の意味は分かりませんが、なにか心が温まるような、切なくなるような。私の…友人がよく口ずさんでいたので覚えてしまいました。」

「たしかに何か懐かしい感じのする旋律ですね。大天主様は異国の神々にも寛大でございます。神にささげる歌ならばお許しになられるでしょう。」


 その夜、シスタークラーラは姿を消したのだった。




 アルベルトは雨が降りしきる夜のシュラブベルグの街を急ぎ足で歩いていた。

「ちっきしょう、まさかドーリスまで…。」

 アルベルトの呟きは激しい雨にかき消され誰にもと届くことはなかった。もっともこの街の夜に出歩いている者は誰もいなかったが。


「アルベルト!ドーリスさんは?」

 アルベルトが駆け込んだ古い民家の中から若い魔術師が現れて尋ねた。

「エリーザ…だめだ。貴族街に入ったあたりまでは足取りがつかめたんだが、そこから先が全く分からない。」

「ドーリスさんまで行方不明になってしまうなんて…。」

「アルベルト、ヘルツォーゲンに出した手紙はそろそろ着いたことじゃろう。わし達は今はドーリスが直前まで何を調べていたのかをもう一度洗いなおそう。」

 ドワーフのバルドルは顎髭をしごきながらそう提案した。


 魔女の銀時計の4人はシュライブベルグで頻発する婦女行方不明事件の捜査をしていたが想像以上に難航していた。そもそも治安の悪化しているこの街においては、婦女暴行事件など日常茶飯事と化しており、4人の捜査も全く関係のない事件ばかりがヒットし教会の依頼である人物にはなかなかたどり着けなかった。危うく娼館に売られそうになっていた街娘を救出したり、または誘拐の現場そのものを抑えたりと街の人たちからは非常に感謝されていたのだが、彼らはそんなことは全く気が付いていなかった。

 そもそも教会の依頼にあった人物は5名。いずれも敬虔な大天主教信徒でありそれなりに裕福な家の者たちも多かった。裕福な家のものということはこの街においては決して善良な家のものというわけではない。実際行方不明の娘の中には悪所といわれる歓楽街の顔役の娘も含まれていたのである。

 そして何より、彼らがこの依頼を受けたのには理由があった。行方不明の女性の中にパーティのレンジャーであるドーリスの妹が含まれていたのである。ドーリスの妹クラーラは大天主教のシスターであり、もちろん敬虔な教徒であった。クラーラは治癒術師でもあり、教会に怪我や病気で訪れる市民に治療を施していた。しかし、民衆にとっては聖女というべき彼女も教会にとってはいささか問題児でもあった。なぜなら貧民街などで寄付金をとらずに勝手に治療をしてしまうのである。

 寄付金をとらずに治療をするという行為は一見慈善にあふれた尊い行為に思えるが、実際そうとは言い切れない面も存在する。それが社会秩序であるからだ。医療行為には対価が必要であるというのはこの世界においては常識であり、だからこそ無茶な冒険や労働を控え、怪我をしないように努めることができるのである。

 また、神の奇跡を安売りすることで人々から神に対する畏敬の念を失わせてしまうことは、いずれ神の奇跡そのものを失わせてしまうことにつながると考えられている。だから教会は治療行為には必ず寄付金を要求するのである。

 クラーラも当然そんなことはシスターである以上いやというほど知っている。しかし、目の前で死にかけている子供がいれば見捨てることができないというのも人情であろう。

 大天主教は孤児院も運営している。実のところドーリスとクラーラはこの孤児院で育ったのである。

 孤児院の実態は決して愛にあふれた慈悲の家などではなかったが、それでも雨露をしのぎ寝る場所と一日一食でもパンを与えられるだけでも子供たちにとっては神の施しであり、生きていく糧を与えてくれる頼りになる存在といえた。

 クラーラはそんな生活を姉であるドーリスと必死で生きてきた。決して体が強いほうではなかったクラーラは教会の手伝いをすることで給金を得ることができるようになっていき、治癒術師の才能が発見されたためシスターとしてそのまま教会に住み込むようになっていった。

 対して姉のドーリスはクラーラとは正反対で子供のころからお転婆のはねっ返りで、まさに女ながらにガキ大将といった存在であった。身のこなしも素早く、スリや万引きで育ち盛りの子供たちの胃袋を満たしていたのである。クラーラはそんな姉をたしなめたりもしたが、空腹には勝てず姉の差し出す食べものについ手が伸びてしまったものであった。


 もともとこの世界には一つの大きな宗教が存在した。それは原始宗教というべき多神教で、いわゆる万物に神が宿るという考え方である。月には月の女神がおり、太陽神は正義を司る。火の神は戦と鍛冶を司り、水の女神は治癒と清浄を司った。

 各神の神殿には巫女や神官が神を祀り、また民衆に神の奇跡をあたえ、治療などを施していた。このころから治療には対価として寄付金である浄財を収めることが必要とされていた。

 万物に神が宿るという考えはそれそのものが宗教という枠ではなく決まった名前の○○教といった呼ばれ方はしていなかった。ただ単に「神々」と呼ばれていた。


 そこに宗教界の偉人が現れる。法王バルナバスである。バルナバスはある日天啓を受け、神々の頂点に大天主という存在がいるということを知る。大天主はこの世のすべてを作り、太陽や月でさえ大天主の創造であると知ったのである。月や太陽に神は存在するが、すべての神の上位神としての大天主は「愛」を司るとバルナバスは説いたのである。

 この考えは民衆にすぐに受け入れられた。なぜならバルナバスはそれを納得させるに足りるだけの奇跡を起こして見せたからである。

 ある時は片腕を失った戦士の腕を元通りにして見せた。

 またある時は瘦せた土地を祈りの力で豊穣の地に変えた。

 そして、なにより竜退治の英雄の一人でもあった。

 おとぎ話にも語られる竜退治に出てくる大神官は壮年期のバルナバスである。この英雄譚により、バルナバスの名は広く知られるようになり、同時に彼の大天主教も広く信仰されていくこととなった。

 そして大天主教を不動の地位に押し上げたのは彼が最後に行った奇跡である。

 彼は自らの死後1年の後、王都大天主教会において復活するであろうと予言し座したままその命を終えたのである。彼の遺体は王都大天主教会に安置され、予言が行われるのを信徒により見守られることになった。果たして一年後、約束通りバルナバスは大天主の使いとして復活し、人々に「愛」を説いたとされる。

 それが500年前、まさにカタリナが生きた時代の出来事であった。



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