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魔法戦士と聖戦士と魔女  作者: 慶天
1章 盗賊と騎士またはアインフォードとキャロット
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1章:サイドA 盗賊団と騎士その1

そろそろ秋に差し掛り麦の収穫が終わった頃、その日村長トーマスの家では村の主だったものが集められ、重要な会合が行われていた。夕方ものすごい勢いで村長宅に駆け込んできた村の若者ハンスの話が非常に問題であったためである。

 トーマスは綺麗に刈揃えた口ひげをなぞりながら集まったメンバーを見渡す。どのメンバーも思案の海に沈んでいるようだ。右隣には齢80を超えようかという老婆ビルギット、左隣には自警団の団長アーベンと副団長のカミルが黙ってハンスの話を聞いていた。

 アーベンとカミルは3年前に帝国と王国の戦争が停戦したとき傭兵稼業から引退し、この村に移住してきた。年齢は二人とも50を超えるが朗らかな人柄と働き者だったため、すぐに村に馴染んだ。そして傭兵時代の戦闘経験を買われ自警団長と副団長を任されるまでに至ったのである。

 ハンスは隣の村に借りていた馬を返しに行っていた。馬は貴重であり、村々で貸し借りが行われている。騎士でもなければ自分の馬などというものは持てない。隊商などでも大きな商会は馬を所有しているがもっぱら個人で所有するのはロバである。

 ハンスは返すあてのなくなった馬を引き連れ、通常馬で半日の距離をその半分で帰ってきた。

 

 「ハンス、実際のところキッシェの村に生き残りはいそうだったのか?」

 重苦しい雰囲気の中、代表してトーマスが聞く。

 「いや、あの状態じゃ…いないんじゃないかな…。」

 その言葉に居合わせたメンバーは沈痛な面持ちになる。

 「すぐに戦士団がやってきて見つかったらいろいろ聞かれてめんどうくさそうだったのでさっさと逃げてきちまったが、だいたい襲われて2,3日といったところだと思う。隠れているものがいたのならわからんが、見たところではいなかった。」

 ハンスの話にこの場にいる5名は考え込んだ。通常の盗賊団は広範囲の土地を周り隊商を襲ったり、村々から略奪を行うが村を壊滅させることはめったにない。自分の収入源を自ら潰すようなことはしない。

 しかし今回のキッシェの様子は完全に破壊され略奪され尽くしていたように思われる。新たにできた過激な盗賊団だろうか。たしかに3年前に戦争が停戦され多くの傭兵が職を失ったとも聞く。平時の傭兵団が盗賊に早変わりするのはよくある話だ。

 「とりあえず兵士団が動いているんじゃろう?領主様に村の警護をお願いしてはいかがじゃ?」

 長老格のババ様が言う。もっともな意見である。盗賊の取締は領主の役目である。リーベルト伯爵は盗賊に容赦がないと聞く。

 「それはすぐに手配しよう。村長の印を押した親書を書くことにする。誰か壮健な若者に行かせてやってくれ。それと、同時に冒険者ギルドにも依頼できないか相談してくれ。依頼料が出せる金額に査定されれば良いが、盗賊の討伐となれば領主から補助金が出るやもしれん。」

 早速若者が一人選ばれ、親書を持った上でヘルツォーゲンに旅立っていった。ヘルツォーゲンまでは馬で2日かかる。すでに領主の方で何らかの手を打ってくれていると良いがと思いながらトーマスは使者を見送った。

 アーベンとカミルもまたすぐに動き始めた。村の自警団ではそのような凶悪な盗賊団に対抗できるわけもない。だからといって危機が迫っているのに何もせずにいるのは精神衛生上も宜しくない。村人たちと協力し新たな柵を村の外に設置した。弓を扱えるものや兵役の経験者などは武器になりそうなものを練習し始めた。

 「カミル、今回の盗賊団の話どう思う?普通村を滅ぼすようなことはしないよな?」

 「俺もそれは気になるところなんだが、最初から略奪ではなく壊滅が目的だったんじゃないだろうかっていう気がしてな。」

 「馬鹿な。それじゃ戦争行為だ。」

 「そうなんだよなぁ。だが、今俺達にできることは村人にできるだけ武器の扱い方を教えて柵を作り、できるなら堀を掘ることくらいだがな。」


 「そんちょうさん、どうしましたか?」

 少々アクセントがおかしいがちゃんと会話ができるようになってきたアインフォードが獲物である鹿を背負って村にやってきた。キャロットも一緒である。アインフォードは定期的に鹿や猪、雉鳩などを持ち込んで塩や衣類などと交換していた。いつもと同じような革のベストに革のズボンといういでたちでこの村で獲物と交換して持っていった白いシャツを着ている。キャロットの方も同じような格好だ。いつも通りまるで従者のように控えめに後ろに立っている。相変わらず肩の上には小さなドラゴンがいる。

 「おお、アイン君たちか。君たちも村に獲物を持って来る時は気をつけるんだよ。隣村が盗賊団に襲われ壊滅したらしい。」

 「とうぞくだん…です、か?…わかりました。きを、つけます」

 そう言うとアインフォードはキャロットと彼らの言葉でなにか相談を始めた。残念ながら彼らの言葉はわからない。しばらくしてアインフォードは村長に提案した。

 「すこし、くらいなら、おやく、たてます。」

 アインフォードは腕の良い狩人である。今までの獲物の持ち込み具合からトーマスはそう判断していた。人と獣では勝手が違うのではないだろうかと思うがしかし、現状どうしようもないのは確かである。村に関係のない彼らが被害を受けるのは申し訳ないが、そう言ってくれるのであればすがってしまいたくなるのも無理はなかった。

 「そうか、それはありがたい。しかし、くれぐれも無理のない範囲でな?」

 トーマスはありがたく受け入れたが彼らを気遣うのも忘れなかった。

 「それでは、いったんかえります。」

 そう言ってアインフォードたちは帰っていった。

 

 アインフォードが村から去って3日後、ヴァルト村に24名の戦士と一人の老騎士そしてその騎士の従士が一人やってきた。領主も今回の一件を重く見ているようで、戦士団による巡回を強化するということである。

 

 騎士クンツ・ヴァルト・フランツ。実はこのヴァルト村出身である。先の戦争で約30年前、王子の危機を救ったという勲功で騎士に取り立てられた。もちろん村長トーマスとは顔見知りでありトーマスにとっては憧れの人といえる存在である。クンツが勲功を立てたときは25歳、トーマスはまだ10歳ほどであった。クンツが騎士に取り立てられたときは村をあげて祝宴が開かれたものである。

 「おお!フランツ様!お久しぶりでございます。」

 村の英雄とも言うべき老騎士にトーマスは愛好を崩した。

 「故郷の危機と聞き、いてもたってもいられず団長より守護の許可を頂いてきた。皆で団結してこの危機を乗り越えよう。」

 「フランツ様に来ていただければ百人力でございます!皆のやる気も増しましょう!」

 ハンスは老騎士が差し出した手を力強く握り締めた。

 

 騎士は騎士団に所属し、騎士団長の許可を得れば探索、討伐などの自由を与えられる。通常騎士は1人から10人の従士を従えており、従士の給与は騎士の俸禄から支払われる。

 戦争で手柄を立てたり大きな勲功があった場合、支配者(国王、領主)から騎士号を与えられる。文化的に大きな貢献があった場合も同様に騎士号が与えられる。また従士が成人したとき騎士の立会いのもと新たな騎士として取り立てることもある。

 リーベルト伯爵領においては領主リーベルト自身が騎士団長を兼ねている。これは初代リーベルト伯爵から続く伝統であった。今代の領主も武人として知られた人物であり特に盗賊に対して苛烈なまでに取締りを行うことで有名である。

 現在リーベルト伯爵は三〇人の騎士を抱えている。騎士の育成は領主の勤めでもあり、大きな戦争等では騎士団は最高戦力として軍の中核を担うのである。

 

 騎士フランツと従士エーゴンが村に常駐し、戦士団は領内を巡回し盗賊団の拠点を捜索するらしい。戦士団が村に残ってくれないのは残念であったが、戦闘経験のない村人からすれば騎士フランツはたいそう頼もしい存在である。常駐期間は冬が開けるまでである。盗賊団が村を襲うなら収穫が終わった今が一番危険であり冬の食糧難の時期が過ぎればとりあえずは凌げるという判断であった。もちろんその間に盗賊団の搜索が戦士団と冒険者があたることになっている。

 騎士フランツがこの村の警護に現れたのは彼自身の思いからである。騎士には騎士団長の許可があれば自由に探索、討伐を行う自由がある。騎士道精神に恥じないことであればむしろそれは推奨される。ヴァルト村出身のフランツにとっては今回の事件は決して他人事ではなかったのである。そしてこの件が片付いたらそろそろ引退を考えていた。


 ところでこの世界には魔法が存在する。大魔法使いは一人で一軍に匹敵し、それなりに腕の立つ魔法使いは冒険者の中では引っ張りだこである。魔法使いをパーティに加えているチームは通常よりも高難度の依頼をこなすことができる。戦闘のみならず、情報の収集にも魔術は非常に役に立つ。例えば探し物一つにしても人海戦術で3日かかっても見つからなかったものが魔術師の「ロケート・オブジェクト」の魔法一つで発見されてしまったという話もある。

 魔術師は第三位階までの魔法が使えれば一流と言われる。第三位階の魔法でメジャーなものは攻撃魔法「火球」「電撃」などであり、「飛行」や「透視」などの冒険では極めて重宝するものが多い。逆に第0位階と言える魔法も存在する。木切れに火をつける、コップ一杯の水を作るなどといった生活魔法と言われる存在である。生活魔法が使えるのは50人に一人ほどであろうか。火を起こせるだけでも重宝されるのである。

 

 第三位階まで使えれば一流ではあるが第四位階以上の使い手となるとその数は極端に減る。第四位階が操れれば宮廷魔術師も狙えると言って良い。さらに上の位階が操れる魔法使いなど名前が知られている者以外では存在しないと言われている。現在最高峰魔法使いといえばシャルフェン王国王都シャルフェンベルクの宮廷魔術師ハルトムート・メルヒオール・ホリガーである。彼こそが王国の切り札であり、先の戦争を停戦に持ち込んだ功労者であった。得意魔法、第六位階の「アース・ムーブ」は敵一大隊に大打撃を与え、戦いの趨勢を決定づけた。

 しかしそのハルトムートも高齢であり後継者が彼の域にたどり着けないため王国としても頭の痛い問題であった。王国では魔術師養成の学校を開き国に仕える優秀な魔術師を育成している。しかし学校に通えるほど裕福な家庭といえば貴族以外に無い。平民の家庭であれば子供も重要な労働力である。大商人の子供などは読み書き計算を習得するため初等の教育を受けることがあるが、その場合でも大抵が家庭教師や身内の者が教育を担当するのが常である。結果的に魔術師育成のカリキュラムは組まれているが学園は社交界にデビュー前の貴族子弟の人脈づくりの場と化していた。

 

 領都ヘルツォーゲン。人口15万人を超える大都市である。領主はゲーアハルト・エーヴァルト・フォン・リーベルト伯爵。王国の北方にありリーベルト伯爵領は広さや都市の数などでは公爵家に劣るものの、王国最大の穀倉地帯を持つ。この一帯の豊作、不作によって王国全体の物価に影響が出るほどである。そのため領の政策は農業中心であり、農村を荒らす盗賊はなんとしても取り締まらねばならなかった。

 このリーベルト伯爵領より東は大森林と呼ばれ人類の生息圏ではない。巨大な野獣やモンスターが闊歩する魔物の生息域である。

 ヘルツォーゲンには冒険者ギルドやハンター組合など大森林を探査する任務を帯びたものも集う。モンスターの部位にかけられた懸賞金を狙った賞金稼ぎも少なくない。

 冒険者は身一つで危険な地域にロマンを求めて飛び込んでいくような無法者の集団ではない。ギルドには日々様々な依頼が張り出される。薬草の採取から隊商の護衛まで様々である。モンスターの討伐などを専門に行うチームも存在するが、多くはモンスターと戦うのはあくまで防衛の時のみであり、戦闘に特化した集団というわけでもなかった。 しかし中にはロマンを求め古代の遺跡を探し、人跡未踏の地にまだ見ぬ世界を探しに行く本当の意味での冒険者も少ないながら存在するのである。

  

 ゲーアハルト・エーヴァルト・フォン・リーベルト伯爵の執務室ではその部屋の主がいらだちを隠せずにいた。ゲーアハルトは現在51歳、王国に大いに影響力のある貴族のひとりである。

 「それで?連中の正体と拠点は分かったのかね?」

 伯爵は神経質そうな細面で細い目をさらに細め、眉間にシワを寄せ報告を持ってきた衛士に問いかけた。

 「はっ!残念ながら拠点の発見にはいたっておりませんが、生き残りの住人から重要な証言が得られました!」

 衛士は脂汗を流しながら報告の任務を自分に押し付けた上官に心の中で罵詈雑言を投げつけるのだった。

 王国において騎士と衛士は明確に身分差がある。騎士は国家、もしくは都市を守護するもので王、もしくは領主から任命されたものであり、貴族として扱われる。変わって衛士は警察機構に相当する治安維持団、軍隊に相当する戦士団に分かれる。盗賊やモンスターの討伐などは戦士団の管轄である。もっとも騎士が名乗りを上げ出撃することも珍しくはない。

 「…重要な証言とは?」

 「こちらに認めておりますので、どうか御目を通していただきたく!」

 どうやら口にするのが憚られるらしい。伯爵は書状に目を通す。次第に表情がみるみる険しくなりまさに悪鬼といった様相を呈してきた。

 …ああ、あの上官、呪われればいいのに…。衛士は遠くを見るのだった。

 「なんということだ…。ようやく停戦にこぎつけたというのに…。」

 伯爵のつぶやきは衛士の耳にも届かないほど小さなものだった。

 こうしてはおれない、これは王都にも報告の必要が出てきた。伯爵は急いで祐筆を呼び出そうとし、思い直した。そうだ、この衛士はわざわざ書状にし、口に出さなかったのだ。この屋敷の中に間者がいる可能性があるというのか…。

 「報告は受け取った。引き続き拠点の搜索と情報の収集を行うように。」

 「はっ!」

 衛士は退出し伯爵は執務机に向かうのだった。

 書状にはこう書かれていた。

 

 『帝国の偽装工作の可能性あり。』

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