2章:錬金術師の夢 その4 初仕事は日雇労働
スキンヘッドの言う通り林業組合の前にはむさい男どもが20人集まっていた。ここから伐採場まで連れて行ってくれるのだろう。人足運搬用と思われる荷馬車が2台用意されている。
うわーこりゃマジで日雇い労働者だな。冒険者ってなんだっけ。
しばらくすると会館の扉が開きがっしりした40代と思しき角刈りの男性が現れて、ぐるりと男たちを見渡しよく通る声で話し出した。
「よく集まってくれた。俺が今回の現場監督のラルフだ。お前たちの仕事は伐採場から切り出した丸太を荷車に運ぶことだ。働き次第によっちゃ追加報酬を出してやるが、役に立たないやつはその場で解雇する。せいぜい頑張ってくれ。」
聞いていた通りの単純肉体労働だな。それよりも周りの連中が興味深げな眼でこちらを見ているのが気になる。こちらというより、キャロットだな。女の細腕で役に立つのか?と思っているのがはっきりとわかるぞ。当のキャロットは全く気にした風もなくすまし顔であるが。
「では野郎ども、馬車に乗り込め!」
監督の言葉で「うえーい」的な返事をしながら男たちが馬車に乗っていく。俺たちも乗り込むことにした。
馬車に全員乗るとすぐに出発となった。最初は全員無言だったが、そのうち緊張がほぐれてきたのかおしゃべりが始まった。当然目立つ俺達に話しかけてくるものも多い。
「私たちは昨日冒険者登録をしたばかりなんですよ。これでも剣で身を立てようと思っていますので二人とも体力には自信ありますよ。」
「ああ?そっちの嬢ちゃんもかい?そんな細腕で大丈夫なんかよ。そんだけ見目良けりゃもっと稼げる仕事があるだろうに。」
そう言って髭もじゃの大男は、がははははと豪快に笑った。
基本上品ではないようだが、昨日の宿屋に来た奴らとは違い気のいい連中のようだ。
なるほど、キャロットにホステスとして夜の店で働かせて俺は遊び人で暮らすという方法もあるか…?とか考えていると、キャロットに睨まれた。
「アインフォード様?今何か邪悪なことを考えましたね?」
なぜわかった。
仕事そのものは順調に進んだ。木こりさんたちが切り倒した大木の枝を払い、そこから数人がかりで荷馬車まで丸太を運ぶ。結構な体力仕事だが自信のある者たちが集まっているだけあって、脱落するものもなくその日の労働は終了した。キャロットが普通に男たちに交じって丸太を運んでいる姿を見て監督が目を丸くしていた。
「皆頑張ってくれたので予定より多く運び出すことができた。大銅貨4枚の賃金とボーナスで銅貨5枚追加だ。受け取ってくれ。」
そう言って監督は全員に賃金を払っていく。キャロットのところに来て賃金を渡しながら話しかけてきた。
「正直、女性の君には無理なんじゃないかと思っていたが、他の者と遜色ない働きぶりに驚いたよ。ご苦労だった。」
周りの皆も今日の働きを見てキャロットを認めたような視線を送っている。どことなくキャロットも嬉しそうだ。
「さて、今回の現場は3日の予定だ。ここで引き上げるものは今から町に送り届ける。明日も朝からこの現場で働きたいものはここの山小屋に泊まってもらう。簡単だが食事も用意してある。明日の朝から働くものは大銅貨7枚の賃金を用意してあるのでこの場に残るように。」
そういうと5人が町に帰ることになった。今回は仕事場の雰囲気も良く、仕事も順調なので居残り組が多いということだ。おそらく欠員が出た分また明日の朝ギルドで追加依頼されるのだろう。俺たちは戻っても当てがあるわけでもないので明日もここで働くことにした。
その日は山小屋で食事をとり雑魚寝ということになった。まさかキャロットに不埒を働くやつはいないだろうが、そこはちゃんと守ってやらねばならない。エイブラハムもこういう時は見張りとして役に立つ。
食事は乾燥肉と固焼きパンという質素なものだったが、サービスだということでワインが一杯ずつ皆に振舞われた。一日の労働で仲良くなった者同士が集まり賑やかな食事となり、俺とキャロットのところに馬車で話しかけてきた髭もじゃがやってきた。
「おう、邪魔するぜ。今朝はすまなかったな。あんたら見た目以上にタフなんだな。感心したぜ。」
そう言って乾杯とばかりにワインのカップをぶつけてきた。
「俺はオイゲンっていうんだ。明日もよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。私はアインフォードといいます。」
「キャロットです。」
「このあたりの名前じゃないな?異国から来たのか?」
おお、するどい。
「ええ、流れの狩人をしていました。この町には昨日来たばかりなのですよ。」
「そっかそっか、事情はいろいろあるだろう。人の過去には踏み込まない、ってのが冒険者の流儀だ。俺も普段は冒険者として剣をふるっているんだが、前にちょっとした怪我をしちまってな。怪我そのものは治ったんだが、仲間が戻ってくるまでの間暇なんで宿代稼ぎってことで今回ここに来たってわけだ。」
なるほど。
「失礼ですが、ランクはいかほどなのですか?」
「ああ、これでもBだ。倒したモンスターで最も強敵だった奴といえばトロールかな。あれは厄介だった。知ってるか?トロールってのは切っても切っても再生しちまうんだ。チームに魔法使いがいないと、とてもじゃないが倒しきれない。」
Cランク以上は実力がないと上がれないと言っていたから、この髭もじゃは見た目にたがわず実力者なのだろう。それでもやはりトロールは厄介なモンスターなのか。前に会った魔女の銀時計の連中はトロールは見かけたらすぐに逃げるべきだって言ってたしな。
「トロールを倒すとはすごいですね。私達も以前魔女の銀時計というチームと共同でトロールを倒したことがありますが、あの時はみんなで切り刻んで油で燃やしました。」
「ん?魔女の銀時計とトロールを倒した…ああ、知ってるぞ。あいつらは将来有望なチームだからな。今はまだランクDだったと思うが腕のいい連中だ。そうか、あのトロールの牙を持って帰った時の事か。連中、トロールから逃げているときに戦士の二人組に助けられたとか言っていたが、それがお前さんたちの事だったのか。」
魔女の銀時計、割と有名なのかな?確かにリーダーのアルベルトはカリスマ性があったし、ドワーフのバルドルも歴戦の戦士っぽかった。レンジャーのドーリスは上級幻術を見破ったし、魔術師のエリーザは10代の若さで第二位階の魔法が使える将来有望な魔術師だと言っていた。
「魔女の銀時計をご存知でしたか。彼らには私達も世話になったんです。この町にいるなら会ってお礼を言いたいものです。」
「確かあいつらはついこの間依頼を受けてほかの町に行ったと思うぞ。まあそのうち帰ってくるだろうから、この町で冒険者やってればそのうち会えるさ。」
そうか、彼らは今この町にいないのか。彼らに会ってカタリナについて聞きたかったのだが…。そのうち会うことができるだろうから今はお金稼ぎしておこう。
その日はそのまま夜も更けていき、皆思い思いのところで雑魚寝となった。キャロットは壁際に寄せ囲うように俺が寝ることにする。それでも念のためエイブラハムと交代で夜番をすることにした。キャロットを守るというより、キャロットがキレたら手を出したやつの命が危ないというのが本音だが。
何事もなく3日の木材運びを終えることができた。三日目に木材集積所にグリズリーが現れるというハプニングもあったが、荒くれどもに「あぁ?」みたいな目で見られてグリズリーはすごすごと退散していった。熊一匹くらいこのメンバーなら瞬殺だろう。
三日間通しで働いたものにはボーナスで大銅貨1枚追加されたので今回の俺とキャロットの稼ぎは一人当たり銀貨1枚と大銅貨9枚、銅貨5枚になる。二人分なので銀貨3枚と大銅貨9枚だ。日雇労働3日で一人2万弱の稼ぎなら…現代日本ならちょっと安いぐらいか?まぁこれでもうしばらく宿代は払えそうだ。
季節はすっかり冬でずいぶんと冷え込んできた。この辺りは雪が降るのだろうか。
町に戻ってからは例の「手長おやじのブーツ亭」なら7日ほどなら泊まれるお金ができたので、そこに宿をとり一日ゆっくりすることにした。ちょうど雨も降ってきたので外には人通りも少なかった。
雨が降ると町中の汚物も流されて少しはきれいになるかと思ったが、そもそも町に排水設備が整っているわけでなく、溝もゴミで詰まっているので衛生面の状況は全く改善される気配がなかった。古代ローマって偉大だったんだなぁとつくづく思う。
じっとしているのも暇だったので、ギルドに行ってみることにした。時間も昼過ぎだったこともありギルドは閑散としたもので、例のスキンヘッドが受付で暇そうにしていた。
スキンヘッドに話しかけようかと思ったが、なぜかこっちくんなオーラを発していたので、空いているテーブルに腰かけて飲み物でも注文することにした。
ギルドにはパーティ間の相談や打ち合わせができるようにいくつものテーブルがホールに置かれており、大した食事はできないが軽食や飲み物くらいなら取ることができるようになっていた。あまりここで飲み食いして大騒ぎしているとスキンヘッドに叩きだされるのだろう。
キャロットと今後の予定について話していると、髭もじゃオイゲンがギルドに入ってきて受付のスキンヘッドと話し始めた。ずいぶんと仲が良いようで話は盛り上がっている。そのうち、スキンヘッドがこちら側を指さし俺達をオイゲンに示した。オイゲンは「おお!」といった感じで手を上げて挨拶を送ってきた。こちらも手を上げて挨拶を返しておく。
さすがBランク冒険者だけあってギルドでも顔が知られているのだろうと思っていると、オイゲンはスキンヘッドを伴ってこちらにやってきた。スキンヘッド、仕事はいいのかよ。
「今こいつから聞いたんだが、お前さんたちが魔女の銀時計を助けた二人組らしいじゃねぇか。そうならそう言いやがれ。もうちっと実入りの良い仕事見繕ってやったのによ。」
そう言ってスキンヘッドはがははと笑った。
「俺とウドは昔馴染みでな。かつては同じパーティで戦ったこともあるんだ。」
スキンヘッドはウドという名前だったのか。同じパーティにいたといわれるとあまりにもはまりすぎて思わず顔がほころんだ。きっと肉弾系脳筋パーティだったのだろうな。
本日もう一回更新します。




