2章:錬金術師の夢 その3 冒険者ギルド
次の日は予定通りギルドに向かうことにした。朝早くにチェックアウトをすまし、ギルドに入ると冒険者がごった返している。受付も忙しそうだったのでテーブルに腰かけてしばらくあたりを観察することにした。
冒険者は依頼の張り出された掲示板に群がって、あれやこれやと相談し、依頼書を引っぺがして受付にもっていく。受付ではスタンプのようなものをその依頼書に押して、依頼の受注が成立する、といった流れのようだ。ってことは少なくとも依頼書が読めないと受注できないってことだよな。困ったな、まだ字は読めないぞ。いちいちリードランゲージとかしていたら怪しいことこの上ない。
しかし、よく見ていると職員と思われる人が順に依頼書を読み上げていることが分かった。あまり識字率が高くないのだろうからそういったサービスがあるのかもしれない。
字が読めるものは職員が読み上げる前に好みの依頼書を持っていくようだ。つまり字が読めるものほど良い依頼を受けることができるということか。冒険者も学歴がものをいう世界なんだなと、なんとなく感心してしまった。一時間ほど眺めていたら冒険者も減っていき、依頼書もずいぶん少なくなってきた。
「そろそろ職員も相手してくれるかな。」
そう言って受付に向かう。
美人のおねぇさん受付とかいるといいなとか思っていたけど、現実は甘くない。どう考えても元冒険者だろっていう感じのスキンヘッドが無愛想に迎えてくれた。
「で、さっきからお前ら何やってんだ?登録か?」
あ、はい。登録です。
「昨日この町に着いたばかりなんですけど、冒険者登録をお願いできますでしょうか。」
普通に用件を切り出す。
「ふん、まぁそうだろうと思った。お前ら昨晩宿屋街で大立ち回りしたっていう二人組だろう?字は書けるのか?」
うわー。もう噂広まっているのか。早すぎだろ。
「いえ、書けませんし読めません。」
「なら、代筆代をもらうが構わないか?登録料が一人銀貨1枚、代筆代が一人銅貨5枚だ。」
しかたがない。ここでゴネたところで始まらない。
「はい、構いません。」
「ふん、じゃ登録はお前さんら二人でいいんだな?銀貨2枚と銅貨10枚だ。名前は?」
ちゃんと計算通りの金額を言ってくれる。さすがに公的機関か。昨日の宿のようにお釣りをごまかしたりはしないようだ。言われた通り名前を名乗る。
「オッケーだ。これでお前たちも冒険者だ。まぁせいぜい死なないように頑張んな。」
スキンヘッドはそう言って名前を書いた紙を奥の職員に回す。
へ?終わり?名前しか名乗ってないぞ?ってか代筆って名前書いただけじゃん。それで銅貨5枚とるのか?前言撤回。ぼったくりもいいとこじゃねーか。
「で、そいつはペットか?子供のドラゴンか?それともそういう種なのか?」
ん、エイブラハムの事だな。
「エイブラハムといいます。こういう種なのでこれ以上大きくなりません。」
「ほう、初めて見たな。どうする?一応魔獣登録しておくことをお勧めするが。」
魔獣登録?そりゃなんだ?
「魔獣登録とは何でしょう。」
「凄腕の冒険者なんかが魔獣を捕らえてきて騎乗用に飼いならすことがあるんだ。そういったときにはちゃんと登録しとかないと討伐されても文句言えねぇからな。嬢ちゃんのそのドラゴンも勝手に誰かに殺されちゃかなわんだろ?使い魔ってところで登録しとくのをお勧めするぜ。」
「そんな凄腕の冒険者がいるのですか。」
「ああ、ごく少数だがな。王都にはグリフォンを乗りこなす奴がいるって話だぜ。で、どうするんだ?」
エイブラハムを簡単に殺せる人間がそうそういるとは思えないが、興味本位で襲ってくる奴がいるかもしれないということか。それにしてもグリフォンライダーか。一度会ってみたいものだ。
「わかりました。使い魔ということで登録お願いします。」
「そうしとけ、じゃ大銅貨5枚だ。」
むむむ、微妙に高いぞ。まぁ仕方ないか。
「んじゃ、こっからはギルドの取り決めを話してやるからよく聞いときな。面倒だから一回だけしか言わねーぞ。後で聞いてないとか言わせないからな。」
おお、これはちゃんと聞いとこう。
「冒険者ってのは一応ランク付けされている。駆け出しがランクFだ。最高はAの上のSってことになってる。今はいないがな。ギルドに対する貢献が一定に達したとこっちが判断したらランクを上げてやる。もっとも、別にFランクだろうがどんな依頼を受けてもらって構わない。自信がありゃドラゴン退治だって勝手に行ってくれ。もっとも死ぬだけだがな。」
かなりアバウトなシステムだな。それじゃ依頼主が困るんじゃないのかと思うが、冒険者も命大事だから無茶はしないものなのかもしれない。
「結構いるんだよな、駆け出しのくせに妙に自信もってて無謀な討伐依頼受けて勝手に死んじまう奴らが。ギルドも依頼主も困るからやめてほしいもんだぜ。」
うおい!困ってんなら対策しろよ。冒険者ランクと依頼ランクを合わせるとかそれだけでいいじゃん。
「依頼にランク付けして同じランクでないと受けられないとかしてはどうなのでしょう?」
とりあえず言ってみる。
「馬鹿野郎。依頼のランクとかどうやってつけるっていうんだ。ドラゴンが出たって言って大人数で出かけてみれば単に蝙蝠が群れただけってこともあるんだ。調べようがないんだよ。それで依頼主が約束した金払ってくれるんならそれでいいんだよ!」
なるほどー。依頼するほうも受けるほうも自己責任ってとこですかー。
「ま、自分の実力はちゃんと知っとけよ。お前さんがどこでくたばろうが知ったこっちゃないが、こっちが困るんでな。」
冒険者って全然保護されてないんだなぁ。そりゃそうだろうけどもうちょっと改善すれば依頼の成功率も上がり、冒険者の生存率も上がってウィンウィンな関係になると思うんだけど。
「ランクが上がると何かメリットがあるのですか?」
ランク関係なく依頼受けられるならランクが上がることによるメリットって何だろう。
「ああ?特にねーよ。あえて言うなら箔がつくってくらいだ。」
ないんかよ!
「箔がつくと名指しの依頼の時依頼料を高くとれるぞ。」
ああ、なるほど。それは確かだ。
「だいたい、ランクあげる条件ってのは『ギルドに貢献した』ってことだから、ぶっちゃけギルドに大金寄付とかすりゃランクは上がるぞ。」
うわーなんじゃそら。そういや日本の私大も合格基準が「当校にふさわしいと思われる人材」ということになっているのを聞いたことがある。つまり学力が秀でているのも「当校にふさわしい」し、大金を寄付してくれるのも「当校にふさわしい」となるのだとか。
これはランクが高いからといっても必ずしも強いというわけじゃないということか。
「そんな目で見るな。言いたいことはわかるぞ。」
そう言ってスキンヘッドは凶悪な笑顔を見せた。いやきっとこの笑顔は茶目っ気のつもりなんだろう。怖いわ!
「心配しなくてもCランク以上はそれなりの実力がないとこっちも上げたりしねーよ。少なくともこの街ではな。」
ちょっとほっとした。
「あと、報酬は依頼書に書いてあるからわかると思うが、依頼を失敗したら違約金をもらう。相場は達成報酬の5割だ。」
違約金に半値もとるのか。あ、なるほどこれが無茶な依頼を受けないための抑止力になっているのか。考えてないわけじゃないのかもしれない。
話していると奥から別の職員がドッグタグを3つもって現れた。スキンヘッドはそれを受け取り、書いてある文字をチェックしている。そしておもむろに俺たちに差し出した。
「ほらよ。これがお前さんたちのタグだ。身分証明になるから無くすんじゃねーぞ。」
ああ、これは見たことあるな。以前馬車の護衛と思われる彼らが身に着けていたあれだ。
「これは町に入るときなんかでも身分証明として通用するのですか?」
これは重要な点だ。今回みたいに不法侵入しているとばれた時犯罪者になってしまう。
「ああ、大丈夫だ。冒険者ってのは依頼でほかの町に行ったりすることも多い。だから身分証としてもちゃんと通用するぜ。」
なるほど納得。
「ほかに聞きたいことはないか?」
他に…あ、そうだ。
「ギルドおすすめの宿とかないのかな?」
お釣りごまかすような宿じゃなくてギルド推奨の安くて質の良い宿をとりたいところだ。
「あー、なら【手長おやじのブーツ亭】ってとこがいいだろ。安いしそれなりに飯もうまい。タコ部屋なら銅貨10枚で泊まれるぞ。個人的に俺のツレでもあるしな。」
なんかめっちゃ公私混同だな。ってか、その宿俺たちが昨日から泊まっている宿じゃん。あれでもギルドのおすすめっていうのだから、他はもっとひどいのかもしれない。仕方がない。今日もあそこに泊まるか…。
「あとは、先立つものが心もとないんで、今残っている依頼ですぐにできそうなもの教えてくれると嬉しいです。字が読めないものですから。」
「ち、今回だけだぜ。ちょっとこっち来な。」
そう言って依頼板の前まで連れてこられた。
「大体依頼ってのは朝、開店前にこの依頼板に貼り出す。だから良い依頼が受けたければ朝早くにギルドに来るんだな。この時間になるともう碌なものは残っちゃいない。もっとも字を覚えるか、読み書きのできる仲間を見つけることが先決だがな。」
もっともだ。うかうかしているとまともに仕事もできないとかなってしまうわけだ。字の勉強しよう。
「そうだなぁ…今残っている依頼で駆け出し向けといえば…これとかどうだ?」
・木材運搬 依頼主 林業組合 報酬1日大銅貨4枚 ※体力に自信ある者
・城壁の補修 依頼主 城壁管理部 報酬1日大銅貨3枚 ※建築技術あるもの優遇
・革鎧職人の手伝い 依頼主 ヘンリック防具店 報酬1日大銅貨3枚
3つ依頼が出てきた。なるほど…こりゃ冒険者向けというより日雇い労働者向けじゃないのか。でもまぁ宿代稼がなくちゃいけないし、木材運搬大銅貨4枚とか魅力だ。日本円で4,000円…魅力的か?微妙に安い気がする。
「キャロット木材運搬とかでも大丈夫か?」
「か弱き女性に木材運搬をさせるおつもりですか。アインフォード様はひどいお人でございます。全く問題ないですが。」
問題ないのかよ。いや、さすがに俺もそれは考えた。問題なくできるとは思うが、女性をこのような肉体労働に従事させていいものかどうか悩んだのだ。だからと言ってほかの依頼も似たり寄ったりだと思われる。革鎧職人の手伝いってのが一番肉体系じゃないかもしれないが、これは技術いりそうだしなぁ。キャロットも問題ないって言っているし、木材運搬やっときますか。考えてみりゃ冒険者って立派な肉体労働者ではないだろうか。
「それではこの木材運搬ていうのを二人でお願いします。」
「おいおい、そちらの嬢ちゃんもこれやるのかい?言って悪いが結構な重労働だぞ?」
まぁ普通の反応だよね。
「大丈夫と本人も言っているのでこれでお願いします。それにキャロットも戦士ですので、普通の女性とは違いますよ。」
「そうか、じゃ受け付けてやるよ。役に立たなかったらその場で解雇されるからせいぜい頑張んな。」
そういってスキンヘッドはスタンプを押してくれた。最初の印象は無愛想でいかついイメージだったが、この人なんだかんだで面倒見好い人だ。これもある種のツンデレってやつかもしれない。
「おっと、これ受付までもうあまり時間ないぞ。林業組合の場所はここから大道通りを西に行ってしばらく歩いたところだ。でっかい丸太の絵の描いた看板が上がっているからすぐわかるだろ。たぶん同じ依頼を受けた連中が20人ほど集まっているはずだ。」
ホント親切だな。俺たちは言われた通り、林業組合に向かうことにした。




