1章:サイドB アインフォードとキャロット その8
「とうぞくがくるぞ!すぐにむらにかえれ!」
「とうぞくがきます!すぐにむらのきしさまに、つたえてください!」
農地で落穂ひろいをしている子供達に伝えながら村のほうに急ぐ。あたりはもう暗くなってきている。子供達もこんな時間まで熱心に働くものだ。よく落ち穂を拾えるな。この暗さでは狼煙も遠くまでは見えないだろう。
すぐに村の村長、自警団と騎士フランツと従士エーゴンらが村の正面門に集まってきた。もうあたりはすっかり暗い。アルベルトたちが明るいうちにどこかの村にたどり着き、狼煙を上げるのが間に合っていればいいのだが。村長たちにもアルベルトたちのことは伝えておく。一応こちらでも狼煙を上げたようだが、おそらく遠くからは確認できないだろう。かがり火がたかれ、せめてもの抵抗とばかりに村人が作った逆茂木が前方に展開されている。騎士フランツにオーガの存在を教えるとかなり深刻な表情になった。やはりここは俺たちが前面に出るしかないようだ。
「キャロット、少しいいか。」
「何でございましょう、アインフォード様。」
しかしこの世界に来てから4か月ほどになるが、正直キャロットについては謎だらけである。いったいどういった思考しているのか、どういう行動基準を持っているのか。自分の存在をどう理解しているのか。ただ俺の命令には絶対服従であり、意見を述べることはあっても絶対的主君に対する臣下のごとき態度を貫いている…というわけでもないこともあったか…。体重のことを言って殴られたことを思い出す。間違いなく自我はあるようなのだが。同じ意味でエイブラハムはもっと謎である。そもそもなぜエイブラハムはここにいるのだ?こちらの言うことは理解しているようだがエイブラハムはしゃべらない。ある意味ゲーム時代の従者NPCに近いといえる。
今まで考えないようにしていたが、やはりカタリナがこちらに来ている可能性も考えないといけない。いや、カタリナだけじゃない。俺と同じようにこの世界に飛ばされたプレイヤーがいると考えたほうが自然ではないだろうか。友好的な関係を築けるとよいが。
「アインフォード様?」
思考の海に沈みかけた時にキャロットに声をかけられ現実に戻る。
「いやすまない。考え込んでしまった。」
「あまり心配しなくともあの程度の盗賊団、私一人でもぬっころですわよ?」
キャロットは俺の沈黙を勘違いしてくれたようだ。確かにキャロット一人でも壊滅できるだろうな。うん、ぬっころせるよ。
「いや、俺が心配しているのは村人に被害を出さないようにすることだ。俺たちが前面に出ても相手の数が多い。村人を含めた乱戦になることは避けたい。」
「では魔法をお使いになられますか?アインフォード様の魔法を使えば奴らなど骨も残さず始末できると思いますが。」
「確かにメテオを落とせば一瞬で終わるだろうが、その後のことを考えると絶対にやめたほうがいい。第九位階の魔法など使った日にはどんなうわさが流れるか。」
下手したら魔王が世界征服を企んでいるとか言われかねない。
「なので、今回はスキルを使用する。キャロットもラッシュとヘイトコントロールのスキルを使ってくれ。」
キャロットには弓を教えると同時に戦士のスキルも少しずつ教えていた。特にラッシュとヘイトコントロールは戦士の基本スキルである。ラッシュは多数の敵に対する攻撃スキル、ヘイトコントロールは敵の攻撃の注意を自分に向けさせ、後衛職に直接攻撃が向かないようにするスキルである。
魔法対策も必要だな。
「あと、おそらく相手に魔術師がいると思われる。ファイアボールが来ると思うので、その時はプロテクションフロムマジックをエリア化で展開してくれ。」
もうあたりも暗くなってきている。もう武器は本来のものを使おう。
「キャロット、聖剣を使え。エイブラハムは今回も上空で監視を頼む。」
武装を嵐の大剣に交換し、弓もお手製のものから上弦月弓に切り替える。謎のマジックアイテムと化したバックパックは形がどんなものでも収納できる。便利すぎる。その分人に見られるとまずいので小用に行くふりをしてこっそり交換する。
初めてこの大剣を見せた時は村長さんや騎士様に驚かれたが護身用だと言ってごまかした。うん、無理のある言い訳だとは自分でも思っているよ。
およそ一時間後、月明かりで見通せるようになってきた頃、盗賊団が現れた。今夜は二つの月が両方とも満月のようで意外なほど明るい。
盗賊団はこちらの弓が届かない距離でいったん集結を待っているようだ。律儀に待ってやる必要もない。騎士フランツが弓で射るように言ってきたので、伝説級の弓である上弦月弓を引き絞る。本気で魔力を込め、専用の矢を使用するとジャイアントですら一撃で倒すことも可能な能力を秘めている。もちろん矢はもったいないので通常の自作の矢である。
およそ矢を放つ音とは思えない音を発し矢を発射する。狙いたがわず正面で挑発していた盗賊の首に命中し、そのまま首を跳ね飛ばした。もはや良心の呵責も何も感じない。もうこの世界に染まってしまったのかもしれない。
その矢が合図となって盗賊団が怒声を上げ突進してくる。先頭はオーガだ。村人たちはオーガの姿に明らかに動揺している。それでも村人は弓矢で応戦するが、もとは傭兵が多くいるのか盾をうまく使って矢を防いでいる。これでは弓矢はあまり効果でないかもしれない。俺は注意深く魔術師の存在を探した。
いた。あの小男だろう。ほかの盗賊たちとは明らかに雰囲気が違う。月明りでは顔まではわからないが何やら呪文を味方にかけているようなそぶりだ。おそらく矢除けか防御力アップといったところか。
「こんなところに火球が来たら…。」
騎士フランツの声が聞こえた。魔術師の存在を知っているのか?
「まじゅつし、いるですか?」
一応聞いてみる。彼は頷いて肯定した。あまり悪い情報を与えて村人の士気を下げたくなかったのだろうか、村人には隠していたようだ。
「キャロット、プロテクションを。」
「了解いたしました。」
すぐに魔法障壁の防御魔法が展開される。これで第五位階までの魔法なら無効化できるだろう。
それではこちらの出番だな。背中の大剣を引き抜き、前に出る。村長や騎士クンツが止めるが、ここは任せてほしい。バリケード目指して駆け出すと盗賊はまさに逆茂木を乗り越えようとしていた。オーガはその怪力でバリケードなどものともせず突っ込んでくる。
あまり村人たちに近づけることはしたくない。
「スキル、ヘイトコントロール」
大剣を振り回し、雄叫び上げ盗賊の注目を集める。オーガが汚らしい涎をまき散らしながら巨大な棍棒をふるってくる。
その時魔術師がファイアボールを使用したようだった。村人に向かって火球が飛んでいく。しかしどうやら無事無力化ができたようだ。炸裂音は聞こえない。オーガを袈裟懸けに斬り下ろし、魔法が発動しなかったことに驚く魔術師を視界にとらえる。
考えてみればこのオーガも哀れなものである。もう少し知能があればこんな魔法使いに使役などされなかったものを。
できればあの魔術師は捕縛したい。おそらく何らかの事情を知っているはずだ。
「ラッシュ!」
キャロットの声が聞こえた。キャロットのラッシュは美しい。使っている武器が聖剣デュランダーナということもあるのだろうか、剣の軌跡が月明りに反射してまるで流れるようにいくつもの斬撃が繰り出される。こんな戦いの最中ではあるが思わず見とれてしまいそうになる。しかし、その美しさとは裏腹にその剣が振り下ろされるたびに無慈悲な死が撒き散らされていた。
魔術師はどこだ?そう思って目を向けた時、魔術師は何やら呪文を唱え姿を消した。
「インヴィジビリティか!」
魔術師がいたあたりの盗賊たちの動きが急に早くなる。ヘイストでも使っていたのか。
「ラッシュ!」
邪魔な盗賊どもをラッシュで吹き飛ばしながら逆茂木を超え魔術師がいたあたりに迫る。
「このくそ野郎!ぶっ殺してやる!」
巨大なバトルアクスを振り回しながらひげ面の盗賊が迫ってくる。こいつが頭目だろうか。しかしこの頭目よりもあの魔術師を何とかしなければ根本は解決しないような気がする。
「邪魔だ!どけ!」
大剣をバトルアクスに叩きつけるとバトルアクスの刃が切り裂かれる。神器級の武器は伊達ではないのだ。そのまま頭目の首をはねる。抵抗らしい抵抗をさせることなく頭目を討ち取りディテクトマジックを使用する。
…いない。この辺りには魔法で隠蔽された者はいない。っく!フライかもしくは転移系の魔法を使って離脱したのか。おそらくファイアボールがレジストされたのを見た瞬間逃げ出したものと思われる。この盗賊どもは捨て石なのだろう。
結局魔術師は発見できなかった。頭目を斬り伏せた辺りで村人が乱入し、混戦となったがすでに士気が衰えた盗賊どもは逃げ惑うもの、降伏するものなど戦闘は一方的なものに変わりつつあった。
抵抗する盗賊がいなくなったところで騎士フランツが勝鬨を上げる。村人たちは熱狂し、夜空に歓声がいつまでも上がった。
捕らえられた盗賊は15人ほどでおそらく10人程度は逃げられたと思われる。50人のうち半数が死亡したわけか。これはちょっとやりすぎたかもしれない。もちろん、騎士フランツや自警団の面々も戦闘に参加していたので彼らが斬り捨てた者もいるだろうが、捕縛を行ったのも主に彼らである。俺たちが戦ったあとに残された盗賊は生きていても体の一部がどこか欠損していた。生きてはいても致命傷を負ったものが多く慈悲の一撃を与えられるものが多かったのである。
戦闘が終了後死体を一か所に集め、けが人の治療を行っていると夜が明けてきた。村人には軽傷者はいても、死亡者や重傷を負った者はいなかった。
夜明けと同時に兵士の一団が村に駆け込んできた。夜を徹して駆けてきてくれたのか。この国の警備組織は優秀なのかもしれない。
村に戻るとまさに蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。まもなく避難していた女性や子供達も戻ってきて全員徹夜だというのに祝勝会を開こうかという勢いになった。
がしかし、まだ早い。盗賊の拠点をつぶしてからだ。
「きしさま、ちょっと。」
そう言って騎士フランツに盗賊の拠点の話をする。今なら拠点を襲撃すれば残りの盗賊も一網打尽にできるだろう。戦士団は馬に乗っているので起動力もある。アルベルトとドーリスの手柄にもなるだろう。彼らにはできるだけ報いてあげたい。
騎士フランツはすぐに戦士団に相談したところ、戦士団も決断は早かった。みんな疲れていたがこのチャンスを逃すことはできないということですぐに出発となった。祝勝会は明日に持ち越しだ。
当然のように俺とキャロットでアジトへ案内することになった。全員騎馬であるのでこの分だと昼前には到着しそうだ。気がかりはあの魔術師のことである。奴が抵抗した場合、こちらにも犠牲者が出る可能性がある。そのことだけはきちんと戦士団に話しておいた。
アジトには予定通り昼前についた。幻術が展開されていた茂みはすでに魔力が失われており、馬がたやすく通り抜けられるほどの道になっていた。おそらく、敗残盗賊団が通るときに解除したのだろう。
その茂みからまっすぐ進んでいるとまるで裂け目のような断崖に出た。馬の蹄の後をたどっていくとその裂け目を降りることができ、裂け目の底は川になっていた。どうやら地下河川の上の地面が陥没し、川に沿って洞窟ができたような感じになっていた。なるほどこれは水も近くにありアジトとしては理想的だ。妙に感心してしまった。
川に沿って洞窟の入り口にたどり着くと盗賊の残党が待ち構えていた。しかしその数は12,3人ほど。こちらは騎士フランツを筆頭に戦士団24人と俺とキャロット。
「貴様たちの狼藉もここまでだ。おとなしく降伏するがよい。」
騎士フランツが盗賊団に降伏を促す。彼らもリーベルト伯爵が盗賊に容赦ないことは知っているのだろう。降伏しても縛り首は免れないならここでせめて一人でも道連れにしようとするかもしれない。
案の定二人が飛び出して斬りかかってきた。
「愚かな。」
あっという間に戦士たちに斬り伏せられてしまった。
それを見て残りのものは武器を落とし降伏した。
降伏した盗賊たちを縛り上げると同時に洞窟の探索を行う。まだ潜んでいる者がいるかもしれない。魔術師も見つかっていない。
俺とキャロットは洞窟の探索は兵士団に任せて洞窟の外で警戒に当たっていた。ここの捜索が終わればとりあえず今回の騒動はひと段落だろう。しかしどう考えても腑に落ちないことが多い。
「キャロット。今回のこの盗賊団、これで終わりだと思うか?」
「アインフォード様もお考えのことと思いますが、わたしが思うに…今回のこの騒動、単なる盗賊が村を襲って回ったような、そんな単純なものではないのではないかと考えます。第一に略奪の仕方が容赦なさすぎます。あそこまで徹底して略奪するとただでさえ盗賊には厳しいといわれるこの地です。厳しい追及があることは容易に予想されます。第二に、にもかかわらず二回目の略奪を計画していたこと。アインフォード様がいらしたため完全に失敗に終わらすことができましたが、彼らが向かう村によっては戦士団と鉢合わせする可能性もありました。そうなった場合双方に大きな被害を出して、どちらにせよ盗賊団はおしまいになっていたと思われます。第三にオーガや魔術師など只の盗賊団にだとすると戦力が優秀すぎます。確かにリーダーが優秀でそういった者たちが集まったという可能性もありますが、襲撃にひねりもなくそれほど優れたリーダーであったとは思えません。」
え、あ、ちょ。キャロットさん、そんな喋る娘だったの?というか、そこまで考えていたんだ?
「以上のことから今回のこの盗賊団の黒幕はあの魔術師ではないかと考えます。あの魔術師がどのような組織に属しているのか、またそういった組織があるにしても村を襲うことにどういった利益があるのか、それはわかりませんがなにやら大きな陰謀の気配がするのですよ。」
お、おう。それは俺も考えていたぞ。ホントだぞ。ってか、その辺にメガネの小学生探偵潜んでないか?
キャロットって謎すぎる。…ちがうな。もともとプレイヤーでないNPCだと思うからそういう発想になるんだ。彼女はれっきとした一人の人間なんだ。そう思いながらキャロットを見ると肩に乗っているエイブラハムが「うむうむ」といった風情で頷いている。こいつも考えているのだろうか。
俺とキャロットが洞窟の外でそのような話をしていると、どうやら前の村からさらわれてきたと思われる女性が三人保護されたと情報が入った。怪我とかは大丈夫なのだろうか。
しばらくすると毛布にくるまれた女性が三人こちらに歩いてきた。みんな憔悴した表情をしている。無理もない。何のために生かされていたのかを考えると心が痛む。順に顔を見ていく。
・・・・・・っえ?
「カタリナ!!」
ばかな?カタリナ?
俺の言葉にキャロットも振り返ってその女性を見つめる。
「え?あ、私はその、カタリナという名前ではありません。」
そ、そうだよな。黒髪のハーフエルフについ反応してしまった。
「アインフォード様、気になさっているのはわかりますが、落ち着きましょう。」
いかんなぁ。よく見るとそんなに似ているわけでもなかった。…カタリナ、お前はこんな世界に来ていないといいのだが。
「でも、伝説の魔女カタリナ様に間違われるなんて光栄です。」
「「え?」」
1章 盗賊と騎士 完




