1章:サイドB アインフォードとキャロット その7
彼らと別れて盗賊対策を考えることにした。話に聞くとかなり大きな盗賊団ということである。なにせ村一つを皆殺しにしたというのだからどこの世紀末だよ。まさか巨大なバイクに乗ってヒャッハーしたりしてないよな。
「まぁ今回でトロールの強さもわかった。盗賊がどれほど強い戦士を抱えていてもトロールより強いということはないと思う。念のため武器は本来のものを使用するとして、防具は必要ないだろう。」
「私たちも村の周囲の警戒に当たったほうが良いのではないでしょうか。」
「もっともな意見だ。村の食糧の調達を兼ねてあたりを探ってみるとしよう。3日後に村に行くことにする。」
俺たちは狩りをしながらこの付近で盗賊の塒になりそうなところがないか捜索してみることにした。相当の人数がいると思われる盗賊団である。絶対に目立つはずだと思うのだが。こういう盗賊団が根城にするのって大体洞窟とかなんだよな。そうすると限られると思うのだが…。
村で写し取らせてもらったこのあたりの地図を広げる。が、正直言ってあまり役に立たない。ヴァルト村は大森林に近く、大森林は人の領域ではないためその内部の地図は全く書かれていないのだ。その中に拠点を作られていた場合、しらみつぶしに当たるしかなくなってしまう。逆に言うと大森林に塒があるのは間違いないのではないかと思うのだが。
3日間捜索をしたが、大森林でゴブリンと遭遇した以外は何も発見できず、仕方がないので獲物をいくつか抱えて村に戻ることにした。
村に戻ると人が増えていた。おお、これが騎士か。銀色のフルプレートアーマーに長剣を腰につるし、従士が弓と槍を持っている。なかなか風格があるじゃないか。
村長が騎士フランツを紹介してくれた。なんでもこの村の出身でかつての戦争で武勲を上げ、騎士に取り立てられた村の英雄だという。平民が貴族になるには武勲を上げ騎士に取り立ててもらうのが唯一の手段だということだ。日本でも農民が戦で武勲を上げ出世していったという話があるな。逆に言うと戦がないと平民の出世はほぼないのかもしれない。江戸時代になり平和になると厳しい身分制度で農民が武士になるなんてことはあり得なかったみたいだし。
「アインフォードともうします。ながれものですが、このむらで、せわになっています。」
「村長より話は聞いている。大層良い腕の狩人だとか。もし盗賊がこの村に来るようなことがあれば、是非にその腕を活かせていただきたい。」
騎士フランツは穏やかな人格者のように思えた。結構高齢であるだろうが、体力の衰えを全く感じさせないほど鍛えられているようだった。この人の強さはどんなものなのだろう。この世界の騎士の強さが気になるところだ。
話しているうちに情報を集める目的で馬を貸してもらえることとなった。乗馬戦闘のスキルがあると話すとたいそう驚かれた。こういった世界では乗馬は必須スキルだと思うのだが、そうでもないのだろうか。キャロットまで乗馬スキルがあることを話すと、さらに驚愕された。騎士フランツの目が一瞬厳しくなったような気がするが、すぐに何事もなかったような顔で偵察を依頼してきたのだ。ひょっとして、乗馬戦闘は騎士のみが訓練するとか、そんな特殊スキルだったのだろうか。ちょっと迂闊だったかもしれない。
次の日からキャロットと村の周辺から大森林の偵察を行うことにした。
「しかしアイン君は馬の扱いまでできるとは、いや全く底が知れないなぁ。」
村長が声をかけてくる。
「村の奥様方はアイン君はきっと亡国の王子様だったのではないかと噂しておるよ。」
王子さまってそりゃどういう発想だ。どこの世界も奥様方というのは噂話が好きなようだ。村長さんは笑ってはいるが、正体不明な俺たちである、色々聞きたいこともあるのだろう。はぐらかしているのが心苦しいが、だからと言って
「いやぁ、異世界から来ました。」
などといえるはずがない。
馬で以前の続きを探索する。大森林の中は馬での移動が難しい。となるとそれほど奥地に拠点を作っているとは思えないのだが。
捜索を始めて3日目の正午くらいに思いがけない人と再会した。トロールに追われていた冒険者達である。
「おお!アインさんじゃないですか!」
そういってこちらに走ってきたのは「魔女の銀時計」リーダーのアルベルトとレンジャーのドーリスだった。彼らは律儀に盗賊団の捜索をしてくれていた。あとの二人は以前の依頼の薬草を納品に一度町に戻ったということだ。
「きょうりょく、かんしゃします。」・
「いやいや、何言ってんだよ!あたしたちの仲じゃないか。別にあんたのためにやってんじゃないから!ほら!盗賊団の取り締まりに協力したら領主から報酬が出るかもしれないだろ?だからな?」」
「おいドーリス、言ってることがむちゃくちゃだぞ。」
アルベルトが突っ込む。
何このツンデレ。俺たちの仲でありながら俺たちのためじゃないのか?ドーリスってこんなキャラだったっけ?
「って、馬鹿言ってる場合じゃなかった。ちょっと話したいことがあるんだ。」
そう言ってアルベルトとドーリスは話し出した。
「君たちと別れてから盗賊団なら何らかの痕跡がないかと大森林付近を調べてたんだ。俺は戦士なんで気が付かなかったが、ドーリスがちょっとおかしい一帯があるって言いだしてな。」
「ああ、あたしはレンジャーだ。森や木々のことはそれなりに詳しい。最初通った時は気が付かなった、というか意識できなかったといったほうが正しいか。たまたま同じところを通ったとき、少しだけ違和感を感じたんだ。なんていうかな、その場所を注意することができない、というか。」
「エリーザがいれば魔法的なものなのかどうかわかったかもしれないが、俺たちだけでは確かめられなかったんだ。」
これは…認識阻害の魔法でもかけられているところに気が付いたということだろうか?認識阻害の魔法はそれほど高位の魔術でない。一般的には幻影の魔術をさらに認識されないように上にかけて使うことが多い。
「つれていって、いただけますか。」
彼らにその場所に案内してもらうことにした。ここは俺もキャロットと一度と通ったことがあるような気がする。言われてみればこれは何か魔法がかかっているような気がしないでもない。
「ディテクトマジック」
魔法感知の魔法を使ってみる。
「あ」
しまった。つい癖で何も考えずに魔法使っちゃったぞ。案の定アルベルトとドーリスが固まっている。まずったか。
「ア、 アインさん?あなた魔法が?」
「あ、いや、このあいてむの、こうかです。」
とっさにそう言って「ソウル・ワールド」の金貨を取り出した。
「見たことのない金貨ですね。その金貨がマジックアイテムだと?」
「ええ、まほうを、かんちすることができます。」
「ほう。素晴らしいアイテムをお持ちですね。それで、どうでしょう。魔法はかかっていますか?」
アルベルト君は素直な良い青年だなぁ。ドーリスはちょっと胡散臭げな眼で見ているぞ。
しかし、きっちり魔法はかかっていた。予想通り上級幻影と認識阻害が展開されている。上級幻影だとすると第三位階の魔法になる。確か第三位階が使えれば一流なんだったっけ?確かに第三位階となれば火球や電撃などの強力な攻撃魔法もある。俺たちならほぼレジストできるだろうが、村人にとって致命的な攻撃になることは必至だ。
上級幻影は見た目だけでなく、触った感じや匂いまで再現して幻影を作り出す。幻影であることを見破った場合でもそれだけで幻影が消滅するわけではなく、うすぼんやりと見えるようになる。もちろんそうなると幻影の効果は意味がないので、無視してその場所に侵入することもできる。
これは確定だろう。この奥にアジトがあるぞ。
「ちょっと偵察してくるよ。半刻ばかり待っていてくれないかい?」
「あ、ちょっと、まってください。」
もう魔法が使えることを隠す必要もないか。
「しょきゅうの、まほうをじつはつかえます。」
やっぱり、といった顔でドーリスはうなずいた。アルベルトは素直に驚いていたが。
「インヴィジビリティ」
透明化の魔法をドーリスにかける。
「おお、これはいいね。エリーザもこの魔法は使ってたよ。んじゃ、ちょっと様子見てくるわ。」
そういってドーリスは森の中に音もたてずに入り込んでいった。これは俺達にはできないスキルだな。レンジャーは伊達じゃない。
「アインさんはやはり冒険者か…ひょっとして騎士様なのですか?あのトロールを倒した剣技と魔法まで使えるとは冒険者だとしても一流ですよ。」
冒険者といえば確かに「ソウル・ワールド」では冒険者ということになるが。
「すこしじじょうがございまして。」
いつものようにごまかしておく。いつまでもこれは通用しないよなぁ。
「俺たちはまだ中堅に差し掛かったくらいの実力だけど、いずれはもっと誰も行ったことのない土地や古代の遺跡なんかを冒険したいと思ってるんだ。この世の知られていないことを知りに行きたいって、まぁロマンだよな。俺たち魔女の銀時計はそういった思いをみんな持っているんだ。いずれは伝説の魔女の遺産なんかを発見したいと思っている。そういった冒険にアインさんたちが興味を持ってくれるなら、ぜひ一緒に行ってもらえればうれしい。」
アルベルトの言葉に俺はとても共感した。感動したといってもよい。そうだよな。冒険者ってそういうものだよ。モンスターを倒して経験値を得るだけのゲームは冒険じゃない。かつてはそういった仲間たちと新しいダンジョンや未発見の遺跡などを求めて荒野を彷徨ったものだ。そういえばカタリナは特にそういう気質があった。なにせ出会ったのが一人で未発見のダンジョンを見つけてアタックし、死にかけていたところにたまたま近くを通りがかった俺たちが発見したという出会いだったからだ。
ふとそんなことを思い出しているとドーリスがあわてて茂みから飛び出してきた。
「やばい、奴らまさに出かけるところだ。まだどこの村に向かうのかわからないけど、拠点の場所は大体つかんだ。もしヴァルト村に向かうとすると今日の夜頃になるかな。」
この段階ではどこに向かうのか判別できないか。
「それと…ここの見張りと思しき盗賊が3人、矢で射殺されてた。ひょっとしたら私らより早くここを発見したものがいるかもしれない。」
それなら通報が早くに行っているかもしれない。期待したいところだが。
「とおくから、どこにむかうか、かんししましょう。」
俺たちはこの場から離れ、盗賊団の監視をすることにした。どこに向かうかわかれば先回りして警告をすることもできるだろう。
盗賊団は馬に乗ったものがおよそ10人、徒歩が50人ほどか。ってあれはオーガじゃないのか?どうにもただの盗賊団には思えない。なにか裏を感じる。
「おいおい、あれはオーガじゃないか?盗賊がオーガを使役するなんて初めて聞いたぞ。」
なるほど、やはりモンスターを使役する盗賊なんていないのだろう。チャームパーソンの魔法を熟練した魔術師ならオーガにかけることは「ソウル・ワールド」では可能だった。特に知能の低い個体ほどかかりやすく長期間持続した。ということは最低でも魔術師が同行していると思われる。おそらく先の上級幻術をかけたものだろう。となると、最低でも第三位階を使えるということか。
しばらく盗賊団を監視しながら遠くから尾行していたが、もうこれはヴァルト村確定だわ。この先の村はヴァルト村しかない。盗賊団を迂回して先に村に向かえば一時間ほど前に着くことができるだろうか。だがしかし、その頃には日も落ちているだろうから狼煙で応援は呼べない。おそらく俺とキャロット、エイブラハムが本気でやれば問題なく撃退できるだろうが…。事後の処理などを考えると兵士団をどうにか呼んでおきたい。アルベルトとドーリスに馬を一頭貸し出して近隣の村に陽のあるうちにたどり着てもらい、狼煙を上げ連絡を取ってもらうのがベストか。
「あるべるとさん、たのみがあります。」
今のアイデアをアルベルトに話すと即座に了解してくれた。やはりこの男は頭が良い上に決断も早い。良いリーダーになるだろう。




